IS 彼の日記帳   作:カーテンコール

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小話集 その2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロシアにて』

 

 

 

 

 

「……あの、担当官」

『はい、なんでしょう?』

 

 

 ノーヴァを纏った隆景が、珍しく眉を顰めて困った風に呟いた。

 

 

「……これ……本当に、やらないと……?」

『音声認識による自動操作プログラムですから……こちらのデータも取らなくてはいけません』

 

 

 柔らかな笑みを画面の向こうで浮かべるキアラの姿に、彼は更に眉間へと皺を寄せた。

 そして。30メートルほど先に出現したターゲットを、胡乱気に睨み付ける。

 

 

 

 

 

「……し、『真の英雄は目で殺す』!」

 

 

 

 

 

 直後、彼の左目付近に高圧電流が集まり。

 そこを起点にした収束電撃が放たれ、ターゲットを粉々に破壊した。

 

 

『はい、コード『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』は問題なく動作しましたね。では、残りの放射放電コード『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』と、最大出力放電コード『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』もお願い致しますね?』

「…………」

 

 

 ノーヴァの特殊兵装である『雷来黒雲』は、電撃操作に意識を割けない事態でも使えるよう、音声認識により幾つかの放電パターンが使えるようになっている。

 初心者が使用する場合は、こちらの方が適切だったのだが……。

 

 

「(……恥ずかしくて死にそうだ)」

 

 

 それをしたくない一心で、彼は僅か数日の鍛錬である程度のボルト・コントロールを習得した。

 ちなみに、羞恥を堪えつつコードを叫ぶ彼の姿に、担当官キアラは身悶えていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロシアにて その2』

 

 

 

 

 

 アリサ・イリーニチナ・アミエーラは、見た。

 夜中にこっそりと試験用アリーナへと向かう、隆景の姿を。

 

 何してるのかなーと思った彼女が、そっと後をつけてみると。

 アリーナ内でノーヴァを纏い、複数のターゲットを出現させた彼が。

 

 

「並列……エレキパンチ」

 

 

 振るった拳から放たれた電撃が、いっぺんに全てのターゲットへと伸び焼き焦がす。

 更に。

 

 

「……並列エレキカッター」

 

 

 刃物のように鋭利に束ねた電撃を、刀でも扱うように放つ。

 電圧の抑えられたそれはターゲットの触れた部分だけを焦がし、結果として両断したように割れて。

 

 そこで彼が、アリサの存在に気付いた。

 

 

「ッ……!? お、お嬢、さん」

「あの……」

 

 

 少し目を見開いた隆景の姿に、なんだかいけないものを見たような気になってしまう。

 現に彼は、慌てたようにアリーナのシステムを落として。

 

 

「そ、それではお休みなさい……」

 

 

 そそくさと去って行くのだった。

 

 

「……このことはご内密に」

 

 

 と思ったら、不意に戻ってきて真剣な顔でそんなことを。

 意外と可愛い人だなーと、アリサが思った瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ノーヴァ』

 

 

 

 

 

 IS学園生徒会は、通常の学校における生徒会とは異なり、ある程度の自治権が認められている為その分必然的にやることが多い。

 なので今日も、生徒会役員でも『デキる』側は大変だった。

 

 

「じゃあ一夏君、今日は柔道部お願い」

「はい……」

 

 

 主に他部活動への貸し出しが仕事である一夏は、今日も今日とて部の助手へ。

 本来書記である本音は役に立たないため、この場に居ない。

 なので必然的に、負担は会計の虚と実質的に書記を担ってる隆景へと向く訳で。

 

 

「すみません藤堂君。こちらもお願いできますか?」

「…………(こくっ)」

 

 

 カタカタとキーボードに走らせる指を止め、書類を片付け始める隆景。

 ふとその視線が、虚へと向いた。

 

 

「…………」

「? どうかしましたか?」

「…………」

 

 

 ちょい、ちょい。

 軽く手招きされて、虚が彼の方に近寄る。

 

 そして、隆景の指が彼女の肩に触れた。

 瞬間。

 

 

 パチチッ

 

 

「ひゃぁっ!?」

 

 

 軽く流れる電撃。

 通常のマッサージでは届かない内部の筋肉をほぐされるくすぐったさに、虚は思わず声を上げた。

 

 

「……肩凝りは、良くないので。目に、来ます……先輩は視力が低いですから、特に」

 

 

 いつの間にか背後に回り、両肩へ電気治療を施す隆景。

 ISをこのように使う者など、世界広しと言えど彼ぐらいなものだろう。

 

 

「あ、ありがと……ひぅっ……で、電圧をもう少し下げて貰えませんか?」

「(こくっ)」

 

 

 酷い肩凝りで最近悩んでいた虚は、それを甘んじて受ける。

 そしてその光景を、ジト目で見る者が1人。

 

 

「…………じー」

「? 会長さんも、やりますか?」

「ッ! いいの? して貰っていいの?」

「どうせ、俺に負担は……ありませんし……」

 

 

 ちなみにノーヴァはこの程度の電気なら、待機状態からでも操作可能である。

 元々は護身のスタンガン用なのだが……応用すれば、便利な機能だった。

 

 ついでに言うと、彼が使っていたパソコンもそれにより随時充電されている。

 性能の無駄遣いと言えば、無駄遣いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『楯無と隆景 本名編』

 

 

 

 

 

「私、そろそろ元の部屋に戻るのよね」

「……ですか」

 

 

 隆景らの部屋に来ていた楯無が、彼のベッドで横になりつつ言う。

 その本人は、パソコンで本国への報告メールを打っていた。

 

 

「……となると。今度は俺が、織斑と同室に?」

「そうねー。それともいっそ、私と同じ部屋になってみる?」

「…………」

 

 

 ふいっと顔を背けた彼の姿に、寧ろ内心では楯無の方が照れる。

 最近気付いたことだが、どうも隆景は行動の節々が可愛かった。

 

 背中を抱き締めたくなる衝動を堪えつつ、彼女はころんと仰向けになって更に続けた。

 

 

「……ね、隆景君。ちょっとお願いしてもいい?」

「いいです、よ」

 

 

 内容を聞く前に了承された。

 嬉しいが、彼が将来騙されやしないか不安にもなる。

 

 

「まあいいわ。コレ、読んでみて」

「……?」

 

 

 さらさらと何かを書いたかと思うと、紙切れを渡す楯無。

 そこに書いてあったのは、ひらがなが3文字。

 

 

「……かた、な?」

「もう1回」

「……かたな」

 

 

 首を傾げつつも、言う通りにする隆景。

 

 

「ワンモア!」

「かたな」

「アンコール!」

「かたな」

 

 

 ※以降5分ほど同じことが続く。

 

 

「んふふ~♪」

「……何だったんですか」

 

 

 満足げな彼女に対し、隆景は事情が分からず首を傾げるばかり。

 けれど楯無が楽しそうだったので、まあいいかと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『楯無と隆景 名前編』

 

 

 

 

 

「会長さん、書類を――」

 

 

 生徒会での仕事中にて。

 書類を提出しようとした隆景に、楯無が言った。

 

 

「ねえ隆景君。今更だけど、私のことは楯無でいいのよ? たっちゃんでも可」

「……たっちゃんだと、俺とかぶります」

 

 

 言われてみれば、確かに彼も隆景(たっちゃん)だった。

 

 

「じゃあ楯無。楯無って呼んで」

「……名前呼びは……まだ」

 

 

 目を逸らす彼に、(いもうと)は名前で呼ぶのに、と思う。

 ただ確かに、彼が誰かを名前で呼ぶのなんて簪ぐらいのもので――

 

 違う。そう言えばもう1人居た。

 

 

「むー。私が駄目なら、簪ちゃんはともかくどうしてヴィルヘルミナちゃんまで名前で呼んでるの?」

「……覚えやすかった、から?」

 

 

 なぜ疑問系なのだろう。

 そして本当に覚えやすいだろうか。彼の交友関係の中で、多分1番名前が長い人物なのに。

 

 

「そもそも苗字、知らないんです」

「カルメルだけど……」

「……カラメル?」

「カルメル」

「キャラメル?」

 

 

 そして。

 

 

「だから、カ・ル・メ・ル!」

「キャンベル」

「カールーメールー!」

「パラレル」

 

 

 どんどん遠くなって行く。

 結局彼が、ヴィルヘルミナの呼び方を改めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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