IS 彼の日記帳   作:カーテンコール

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 時系列的には7巻と8巻の間……くらい?
 8巻を未だ手に入れていないので、オリジナルの話を入れて繋ぎに。



スペインの魔女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日のアリーナ。

 普段は生徒で賑わうアリーナも、休日となれば話は別。

 恋に遊びに大忙しな少女達は、折角の日曜までせっせと勉学に励む訳もない。

 なのでアリーナはガラガラであり、集中して訓練するには持って来いの環境である。

 

 

「…………」

 

 

 隆景はアリーナ中に出現したホログラムフープを、見事な機動で通り抜ける。

 そして次のフープへ向け、一瞬で方向転換した。

 

 これは『シャッフル・リング・ゼロ』と呼ばれるIS競技のひとつであり、アリーナ内にランダマイズで出現する1~99までの数字が振られたフープを順番通りに抜け、最後に0のフープでフィニッシュするという内容のものだ。

 モンド・グロッソ機動部門公式競技のひとつとしても採用されている難易度の高いゲームで、数字が大きくなるほどに通るのが難しくなる特性を備えている。

 たとえば数字が40を超えた辺りでフープが回転しながら動き回るようになり、80以降になるとホログラムであるだけに瞬間移動を始める。

 また、フープに触れてしまうと即失格。ただでさえランダム出現の中から瞬時に次のフープを捜さなければならないのに、この仕様は正直鬼だった。

 クリアするだけでも、代表候補生並みの技量が要求される。

 

 だがこれは、機動部門競技で隆景が1番得意なものであった。

 乱回転しつつ3秒おきに居所を変える89番のフープを、再出現した瞬間に加速して通り抜ける。

 

 

「ラスト90番台……」

 

 

 ひしめくフープを巧みにかわし、彼は続く90のフープへと肉薄する。

 無事『0』を通り抜けたのは、それから30秒もしない内のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……自己ベスト更新は、難しいか」

 

 

 着地してラファールを待機させ、隆景はひとつ嘆息する。

 

 彼はノーヴァを得て以降も、訓練では1日おきにラファールを使っていた。

 それに対し一夏が「何でわざわざそんなことを?」と尋ねた際、こう答えている。

 

 

『ノーヴァだけだと、感覚が馬鹿になる』

 

 

 専用機のスペックは高い。

 だからこそ、自分の素の実力が分からなくなる。

 それを懸念した隆景は、こうして訓練機と専用機を交互に扱うことで、自分の実力を正確に測り、また向上すべき点を模索していた。

 

 ちなみに彼の言う『自己ベスト』とは、ノーヴァで立てた記録のこと。

 ラファールを繰る際には背中を見せるノーヴァを追い、逆の時はラファールを繰る自分から必死に逃げる。

 彼の高い機動技術から来る感覚の鋭さなら、それがどれくらいの差なのかは明確に分かっていた。

 

 

「…………」

 

 

 もう1回アタックするか。

 そう思い、彼が再びラファールへ乗り込もうとした瞬間。

 

 

 

 

 

「エス・トゥペンド! 凄いじゃない」

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 そんな陽気な声が、アリーナ内に響いた。

 どこかで聞いたことのあるようなその声音に、隆景は周囲を見回す。

 

 その人影は、観客席にいつの間にか在った。

 薄い紫色の髪。それと同色の瞳。

 手摺の上に立っていた女性は、隆景へと手を振る。

 

 

「ハーイ! ブエナス・タルデス! こんにちは!」

「…………」

 

 

 まさか、と彼は思う。

 映像記録で幾度も見た姿。

 だが、IS学園(ここ)に居る筈が無い。

 

 

「っと」

 

 

 その女性は軽快に観客席から飛び降り、フィールドに着地する。

 そして、隆景へと歩み寄ってきた。

 

 間近で姿を見遣り、間違いないと彼は確信した。

 

 

「スペイン、代表……ミー」

「あら? 私のこと知ってるのかしら?」

 

 

 こくりと、隆景は頷く。

 無論だった。彼女の公式戦闘記録を彼は全て網羅しているし、第2回モンド・グロッソ総合部門の準々決勝で、惜しくも千冬に敗れた名試合だけでも10回は観た。

 その技量は、単純にIS操縦者として尊敬と憧憬に値する。

 

 

「へぇ……ね、貴方が藤堂隆景よね?」

 

 

 名を尋ねられ、またひとつこくりと頷く。

 するとミーはくすくす笑い、辺りを見回した。

 

 

「ひとりで訓練してるの?」

「……休日は」

「そうなの。見てたわ、シャッフル・リング・ゼロ。デチューンされた訓練機であれだけのタイムを弾き出せるなんて、流石はロシアの秘蔵っ子ね」

「…………」

 

 

 今度は隆景が、彼女に問うた。

 何故スペインに居る筈の貴方がここに、と。

 ミーは楽しげな調子で、トントンと手に持っていた鞄を指で叩く。

 

 

「勧誘よ、代表候補生の。でも今日は留守だったから、こうして学校内見学」

「……案内の人、は」

「居たけど途中で撒いたわ、好きに見られないもの」

 

 

 映像記録の印象からも多少感じたが、どうやらかなりの自由人らしい。

 そう思っていると、アリーナに昼のチャイムが鳴り響いた。

 

 

「あら、もうこんな時間。良かったら食堂まで連れて行ってくれる? 一緒にランチでも食べましょう」

「…………」

 

 

 こくり。

 再三頷いた隆景に、ミーが笑いかける。

 

 ラファールの返納に向かった彼の後姿を見遣りつつ。

 彼女は小さく、呟いた。

 

 

「フフ……可愛い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 学園内では真耶と千冬が、ミーを探し回っていた。

 

 

「少し目を離した隙にこれだ……だから許可など出したくなかったと言うのに……」

「あうぅ、私が見失ったばっかりに~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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