IS 彼の日記帳   作:カーテンコール

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 一応これで本編終了です。
 合宿編とか~年後とか、そういうのがあったらリクエストでお願いします。



世界最速の男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インフィニット・ストラトス。

 

 世界最高峰の技術、その粋を結集して作られたマルチフォーム・パワードスーツ。

 かの歴史に刻まれた『白騎士事件』により、その存在が世界に認められて11年が過ぎた。

 

 そして、その年の9月。

 ISの次世代を担う少女たちが集う学び舎、『IS学園』では。

 

 生徒一同を集め、全校集会が開かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、今日って何の集まりなんだ?」

 

 

 全校生徒の集うホールの中、ただ1人の男子生徒である一夏が首を傾げて言う。

 隣に立っていた箒が、呆れたように嘆息した。

 

 

「お前は……学園祭の連絡事項だろう、去年も同じ時期にやっていたではないか」

「……あぁ、そう言えばそうだった。あんまりな記憶だから、つい忘却の彼方に行ってたぜ」

 

 

 彼が今でも各部活動を駆けずり回る原因となった、あの集会。

 水色の髪をした少女の姿が脳裏に浮かび、懐かしく思いながらも出るのは乾いた笑いばかり。

 

 

「しかし、懐かしいと言えば……セシリアには驚いたなぁ……」

「そうだな……突然学園を辞めたかと思えば、プロテニスプレイヤーに転向するとは……」

「あ、この前あたし試合見に行ったわよ? なんか荷電粒子砲みたいな威力のボール打ってたわ」

 

 

 2年に上がって同じクラスとなった鈴が、話に加わる。

 ついでに、ちゃっかり近くに居たシャルロットとラウラも。

 

 

「今度、ウィンブルドンに出るらしいよね。その時はみんなで応援に行こうよ」

「うむ。違う道に進んだとは言え、仲間の晴れ舞台だ」

 

 

 そんな調子で、和気藹々と会話する5人。

 やがて壇上の端に簪が上がり、マイクを手に集会を開始する。

 

 

『……それではこれより、全校集会を始めます……生徒会長』

 

 

 マイクを受け取って、壇上の中央に立つ今期の生徒会長、ヴィルヘルミナ・カルメル。

 51本という規格外の数のワイヤーブレードを自在に操り、『万条の仕手』の異名を取った女傑。

 『ある理由』で国家代表を引退したスペイン元代表に代わって、先日国家代表へと収まった世界有数の使い手である。

 

 その静やかな佇まいに、あちこちでため息が出る。

 そして、それは一夏も同様で。

 

 

「やっぱ綺麗だよなーカルメルさん……デートの誘い、また断られたけど」

 

 

 そう。千冬が死力を尽くして性格矯正を行った結果、なんとかの朴・念・神は人並みの甲斐性を手に入れていたのだ。

 フラグブレイカーと呼ばれた織斑一夏は死んだ。今の彼は、言うなればちょっぴりプレイボーイな一夏君であった。

 

 ちなみにそんな彼の呟きに、4人は内心で苛立ちを覚えるも。

 寛容さが重要であるとの『ラブ師匠』の言葉を遵守し、手を上げることは堪えていた。

 

 

「一夏! デートなら私が付き合ってやるぞ!」

「箒はこの前映画に行ったでしょ!? 次はあたしよ!」

「え、確か次は僕だった筈だけど」

「嫁よ、私は秋季限定のまろんパフェが食べたいぞ。連れて行ってくれ」

 

 

 文面としては大して変わっていない気もするが、暴力が排されただけ大進歩である。

 そうこう言い合いをしている内に、壇上のヴィルヘルミナが口を開いた。

 

 

『生徒皆様、おはようなのであります。今朝は今月中に行われる、学園祭についての連絡事項の通達の為に集まって貰ったのでありますが……この場を借りて、先ずは新任教師と復学生の紹介をするのであります』

 

 

 彼女の言に、生徒達が俄かにざわめく。

 

 

『では、まず新任の先生紹介を』

 

 

 ヴィルヘルミナがそう言うと、壇上の袖から1人の女性が姿を現した。

 薄い紫色の髪と瞳をした、どこか扇情的な印象のある美女。

 

 瞬間、ホール内のそこかしこで驚きの声が上がる。

 彼女はマイクを受け取ると、生徒達に向けて大きく手を振った。

 

 

『ハーイ! ブエナス・タルデス! こんにちは! 私はミー、皆よろしくね!』

 

 

 第3回モンド・グロッソ、格闘部門及び総合部門優勝者。

 即ち、世界で3人目の『ブリュンヒルデ』が、そこには居た。

 

 

「きゃぁぁああぁああぁああっ!!! ミー様よ、世界最強の斧使い!!」

「スペイン代表を突然引退したって聞いたけど、まさかこんなところでお会いできるなんて夢みたい!!」

「ミー様ぁぁぁっ!! 私をネブレイドしてぇぇぇっ!!!」

 

 

 ホール内を包むソニックブーム。

 けれどこんなこともあろうかと、窓には強化ガラスが使われているので割れることは無い。

 

 周囲の悲鳴にも似た歓声に、しかしミーは動じた風もなく手を振って応えている。

 が、よく見れば耳栓をしていた。

 

 

「フフ、楽しそうな所ね。ねえ、ヴィル?」

「引継ぎを全部私に押し付けた挙句、学園で教師をするだなんてとんだサプライズだったのであります。私がどれだけ手続きに苦労したのか、分かっているのでありますか?」

「怒らないでよ。少しは悪いと思ってるんだから」

 

 

 妖艶な笑みを向けるミーに、ヴィルヘルミナは小さく嘆息する。

 そして興奮冷めやらぬ生徒達を諌めると、言葉を続けた。

 

 

『……ミー先生には、主に2年生の授業を担当して頂くのであります。続いて、復学生を『4名』紹介するであります』

 

 

 壇上に上がる、3人の生徒。

 彼女らの顔触れもまた、ISに携わる者なら誰でも知っているそうそうたる面々だった。

 

 

『四楓院夜一じゃ』

『フェイト・テスタロッサです』

『更識楯無よ、2・3年生の皆は久し振りね』

 

 

 日本国家格闘部門代表にして、第3回モンド・グロッソ格闘部門決勝でミーに敗れ惜しくも準優勝となった、四楓院夜一。

 母国イタリアで代表候補生という過程をすっ飛ばし、直接国家機動部門代表に収まりモンド・グロッソでも3位と好成績を弾き出した天才、フェイト・テスタロッサ。

 大国ロシアの代表、準決勝でミーと互角の戦いを繰り広げ事実上の準優勝者と名高い更識楯無。

 

 そして。最後に。

 

 

「ほら、隆景! 貴方も」

「…………」

 

 

 壇上に上がることを渋っていたその男子生徒に、楯無が手を差し出す。

 やがて観念したのか、彼は深く嘆息して彼女の手を取った。

 

 世界で2番目の男性IS適性者。

 ロシア国家機動部門代表。

 大手メルマガ『隆景恋愛指南虎の巻』発行者、HN『毛利家の三男』。

 対暗部用暗部組織『更識家』現当主婚約者。

 

 そして、第3回モンド・グロッソ、機動部門『ヴァルキリー』。

 彼の名は。

 

 

 

 

 

『……藤堂、隆景』

 

 

 

 

 

 歓声で、強化ガラスが割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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