『ゲーム化』
「……なんだこれ」
ある日のこと。
買い物から戻った隆景は、福引で貰った景品であるゲームソフトを手にそう呟いた。
パソコンで『打鉄弐式』の調整作業をしていた簪が、振り返って彼の持つパッケージを見る。
「あ……それ、『インフィニット・フォーチュン2』……?」
「知ってる……のか?」
こくりと頷き、隆景へと歩み寄る簪。
「これ、性別は逆だが……織斑達、だよな」
「うん……前作から、引き続きの主人公……折野壱佳ちゃん……」
「……前作」
続編なのかこれ。
そう言えばタイトルに『2』って入ってるし。
いろいろと突っ込みたいことの多い隆景であったが、真に気がかりなのはそこではない。
彼はパッケージの中央で『折野壱佳』とやらと背中合わせで立っている、もう1人の女子キャラを指差した。
「…………簪」
「……今作から追加された、もう1人の主人公。名前は『
黒髪をミディアムカットにした、青い色眼鏡をかけた表情に欠ける少女。
どこからどう見ても、隆景がモデルである。
隆景から気まずそうに目を逸らした簪が、説明を続けた。
「選択した主人公によって、攻略キャラが違うの。貴恵ちゃんの場合は、IF学園生徒会長の『
「もう……いい……頭が、痛くなってきた……」
知らぬ間にゲーム化していた事実に、頭痛を感じる隆景。
ソフトは簪が欲しいと言うので、あげた。
ちなみに。
「どうしてバッドエンドになるのよ!? 何で剣也君こんなにガード固いの、私だったら隆景君に擦り寄ってこられたら8秒で堕ちる自信あるのに!!」
コントローラー片手にどうにか自分の分身キャラと主人公をくっつけようと苦心する、楯無の姿があったとか。
どうでもいい攻略情報として、鷹島剣也は弟の櫛人と平行してイベントを進めなければ、攻略できなかったりする。
まだ、隆景と楯無が思いを通じ合わせる前の話であった。
『兎の事情』
篠ノ之束は、不愉快であった。
自分が意図的にそうした織斑一夏以外、決して男性には動かせない筈のIS。
それを操るばかりか、瞬く間に国家代表候補生となり世の脚光を浴び始めた男の存在が。
「む~、なんなのかなコイツ! 束さんの知らないところでナマイキな!」
気に入らないからクシャッてしまおう。
そう考えた彼女は、早速その男……藤堂隆景についてデータを集め始める。
だが。とある項目を見て。
世に天災と称されたその科学者は、目を見開いた。
「……あ……あ……アミエーラ、社……!?」
彼女の背に冷や汗が走る。
そして恐る恐ると言った仕草で、更に数度キーボードを叩く。
ディスプレイに映ったのは、彼の専用機を作成している技術者の名前と顔写真。
その顔を見た瞬間、束はいよいよ顔色が蒼白となった。
「殺生院……キアラ……!!」
自分など及びもつかない本物の狂人。
かつて1度だけ出会ったその時、篠ノ之束はひとつの決意をしている。
どのような形であれ、絶対に彼女には関わらないと。
すぐさま藤堂隆景に関するデータを全て閉じ、彼を害することを諦めた。
そして、膝を抱えて小さく震え始める。
かくして、本人にも全く関わり無いところで、首の皮1枚繋がっていた隆景であった。
『メロンパン』
炎髪印のメロンパン。
それは某炎髪灼眼の討ち手監修の下、世界に誇れる日本人の日本人による日本人の為のパン『ジャぱん』を作ることを夢見る少年が作り上げた、至高のメロンパンである。
商品化はされているものの一切の市販はされておらず、入手には独自のルートが必要だった。
「あげるのであります」
「……ありが、とう」
1日に僅か9つしか作られない、世界最強のメロンパン。
内ひとつは、ある少女がある少年の滅多に見られない微笑みを見る為に用いられているとか。
「…………(もっふもっふ、かりかり)」
「おいしいでありますか?」
「(こく、こくこくっ)」
「……それは、よかったのであります」
無口で偏食家の野良猫にも大好評な、炎髪印のメロンパン。
定価3000円。
『ゲーム化』のネタは、ISの4コマ漫画『あいえすっ!』より。