Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

12 / 61
2月 3日 朝 遠坂凛との同盟(破棄)

「それじゃ、どういうことか説明してもらいましょうか」

 

 目の前ににっこりと笑いながら、しかし烈火のような怒りが透けて見える少女は遠坂凛。

 単に俺のクラスメートだったはずが、こうして家に招き入れることになったのは複雑な事情がある。

 

 青い男(槍を使っていたのでランサーだろう)との戦いの後、セイバーが別のサーヴァントを察知し追うこととなった。

 そこにいたのが遠坂と赤い外套をまとった男、アーチャーだった。

 

 出会い頭にセイバーが切りかかったりキャスターがそれを止めたりと一悶着あったが、とりあえず話し合おうということになった。

 

 遠坂の横に佇むアーチャーを見る。不機嫌そうに眉を寄せて、隠すことのない殺気を放っている。

 セイバーに切られそうになったことを根にもっているのか?

 その割に、殺気はキャスターへと向けられているように見える。

 

 キャスターはアーチャーを警戒しながらも口を開く。

 

「とりあえず、情報交換と行きましょう。敵対するにせよ協力するにせよ互いにとって損にはならないはずよ」

 

 

「ふぅん、素人のくせにサーヴァントを2騎も所有できるなんてよっぽど運がいいのね」

 

 俺は今までのことを遠坂にすべて話した。

 俺の生い立ち、キャスターとの出会い、ランサーの襲撃、セイバーの召喚。

 戦争の参加者である、つまりは敵である遠坂に話してもいいのか迷ったが敵意は感じられなかったため話すことにした。

 

「しかし……どれほどサーヴァントが強力であっても、マスターが三流では意味がない。本来の力の半分も引き出せていないようだ」

 

 皮肉気な笑みを浮かべて、アーチャーが俺を見る。

 

「口を慎め、アーチャー。今の私でも貴様を切るぐらいは容易い、我がマスターを愚弄するならばここで切り捨てても構わんのだぞ」

 

 セイバーが挑発に応じるように殺気を放つ。

 確かに最初に切りかかった時にセイバーはアーチャーを押していた。

 キャスターが止めていなければセイバーが勝利しただろう。

 

「よしなさいセイバー、私たちが力を発揮しきれていないというのは事実よ。それ故にこうして交渉しているのですから」

 

 キャスターが諫めるように言う。

 そう、これは交渉だ。俺がマスターとして未熟なのは事実。遠坂と組むメリットは十分にある。

 

「確かにアーチャーの言う通り、俺はへっぽこマスターだ。できれば色々教えてほしいんだけど……」

「私としてもサーヴァント2騎と同盟を組めるなら大いに賛成……と言いたいところなんだけどね。冬木のセカンドオーナーとして聞いておかなければならないことがあるわ」

 

 なんでも遠坂はこの街を管理する魔術師の一族らしい。この聖杯戦争に参加したのもそれが理由なのだろう。

 

「衛宮君、正直に答えなさい。あなた達はこの冬木の街に何かしたかしら?」

「何か?……あぁ、地脈を少し誘導してこの家に魔力を集めようとした。でも、それで誰かが傷ついたり街に影響が出たりということは無いはずだ」

 

 正直にキャスターと建てた作戦を話す。

 地脈から魔力を吸うのはポピュラーな魔術らしい、隠すようなことでもないだろう。

 

「ここに魔力を集める……か、さすがキャスターのクラスね。じゃあ、学校のあれも衛宮君の仕業かしら?」

「?……がっこう?」

 

 なんのことだろうか、そういえばアーチャーとアンサーは学校で戦っていた。そのことだろうか?

 

「学校にあった魔術陣のことよ、心当たりないの?」

 

 魔術陣? そんなものは知らない。キャスターも首をかしげている。

 

「いや、それは俺たちじゃない。学校でなんかあったのか?魔術陣って危険な物じゃ……」

「ふむ、本当に衛宮君たちじゃないみたいね……魔術陣は私たちのほうで処理したからもう大丈夫よ」

 

 なんてことだ、聖杯戦争で一般人の被害を防ぐために参加したのに、すでに、それも俺の学校でそんなことが起こっていただなんて。

 

「どのサーヴァントの仕業か分かるかしら?アナタとしても早めに排除しておきたいでしょう」

 

 キャスターが遠坂に問いかける。

 今回は大惨事にならなかったとはいえ学校に魔術陣を描くような奴だ、放っておけば何をするか分からない。

 冬木の管理者である遠坂にとっても無視できない問題だろう。

 

「かなり杜撰な魔術陣だったわね、キャスターから教えられたマスターが描いたのかと思ったけど、その予想は外れだったわね」

「ランサーの仕業じゃないのか?キャスターのマスターはそいつに殺されたんだ。ルーン魔術も使うらしい」

「いえ。ランサーとは少し話したけど、あいつでもないらしいわ」

 

 聖杯戦争では7クラスのサーヴァントが召喚される。

 セイバー、キャスター、アーチャー、ランサーが違うとなれば、残りはライダー、アサシン、バーサーカーだ。

 

 バーサーカーやライダーに魔術を使うイメージはない。怪しいのはアサシンのサーヴァントか。

 

「エクストラクラスの可能性もあるけど怪しいのはやっぱりアサシンね。気配遮断のスキルを持つ厄介なクラスだわ」

 

 アサシンのサーヴァントはハサンと呼ばれる英雄の中から召喚されるらしい。

 彼らが持つ気配遮断のスキルはあらゆる探知をすり抜け、罠の作成などにも長けているらしい。

 

「まっ、なににせよあなた達の仕業じゃないってことはわかったわ。とりあえずここは同盟を――」

「私は反対だ。キャスターのことが信用できない」

 

 遠坂の提案をアーチャーがぴしゃりと却下した。

 遠坂がじろりと視線を向ける。

 

「信用ってどういうことよ、キャスターは人を襲ってないって言ってるわ。あんたもそれが嘘じゃないってことぐらい分かるでしょ」

「今はまだ……な。キャスターがこれから人を襲わないという保証は無い。見たところ、令呪の縛りも無い様だ。最悪の状況……例えば、魔力を十二分に集め、セイバーを従えられでもしたら私たちに止める手段はない。今のうちに手を打っておくべきだ」

 

 そう言って、アーチャーがキャスターを睨む。

 確かに俺とキャスターの契約は希薄なために令呪の効果はない。

 

「ちょっとアーチャー、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。一般人を襲ってるサーヴァントがいるのよ」

「あんな杜撰な魔術陣を書く様な輩だ、いずれ尻尾を出すだろう。それよりもキャスターのほうが危険だと言っているんだ」

「……もし仮にキャスターがそういうことをするとしても、同盟を組んで監視しておいた方が得策でしょう」

「……できるのかね、君に?」

 

 アーチャーが警告するように遠坂に問う、どういう意味だろうか?

 魔術師としてキャスターに適わないということか、人間として情が湧いてしまうということか、それともその両方だろうか。

「あるいは条件付きの協力ならば構わないがね、例えばギアスロールを使用してキャスターの行動を制限すれば同盟を組んでも私は構わない」

 

 その言葉にキャスターが身を硬くする。

 ギアスロールとやらが何かは知らないが、イイモノではなさそうだ。

 

「……なんだって、キャスターのことをそんなに警戒してんのよ」

「英雄としての経験則…というやつか、キャスターは人を襲うことに躊躇いがない。そういう女だ」

 

 アーチャーは何かを確信しているかのように語る、あまりに身勝手な言い草だ。

 

「おいあんた、いい加減にしろよ。さっきから好き勝手言いやがって、俺はキャスターよりもお前の方が信用できないように思うけどな」

「……衛宮士郎。お前からの信用などもとより欲しくはない。そもそもこんな話になっているのは貴様がキャスターと正式な契約も結んでいない三流魔術師だからだ」

 

 グッと言葉に詰まる。確かに俺が未熟であることは自覚している。だが、それをアーチャーに言われると無性に腹がたつ。

 

「ちょっと、アーチャーも士郎も落ち着きなさいよ。なんでそんな喧嘩腰なのよ」

 

 遠坂の声を聞いてもアーチャーはキャスターを睨み続けたままだ。

 

「うーん、キャスターが令呪の制約を受けていないというのは確かに見過ごせないわね。最低限の制約は受けてもらわないと」

 

 そう言って、遠坂はどこからか紙を取り出す。

 これがギアスロールとやらか。

 

「そう警戒しなくても大丈夫よ。制約内容は[一般人に危害を加えない]それだけだもの。これにサインしてくれたら同盟を受け入れるわ」

 

 ギアスロールとやらはその名の通り制約を課すためのものなのだろう。

[一般人に危害を加えない]それは当然のことだ。

 

 チラリとキャスターを見る、顔を伏していて表情は読めない。

 制約を受け入れてもこちらにデメリットはない……ならば返答は決まっている。

 

 

「ダメだ遠坂、その条件は呑めない。同盟は組めないな」

 

 

 その返答が予想外だったのか、キャスターは驚いた顔を、セイバーは怪訝な顔を、遠坂とアーチャーは警戒する様にこちらを見る。

 

「それは……一般人に危害を加えるつもりということかしら」

「いや、違う。もちろん一般人に被害は出さない。そもそも俺はそのために戦っているんだ」

「だったら良いじゃない。なんで断んのよ」

「俺はキャスターを信頼してる。そんな契約をすること自体、キャスターに対する裏切りだ!」

 そう叫んで、遠坂を睨む。

 遠坂はしばらく俺とキャスターを交互に見比べた後に、はぁ…と諦めた様にため息をついた。

 

「この条件が呑めないなら、私も同盟を組むわけにはいかないわね……キャスター、教会の場所は知ってるわよね?」

「えっ、ええっ。元マスターから場所は聞いてるわ」

「じゃあ、参加者の登録はきちっとしておきなさいよ。アーチャー行くわよ」

 

 最低限の義務は果たしたというように遠坂は立ち上がった。

 

「それじゃ、衛宮君。次会うときは敵同士だから」

 

 そう言うと遠坂はピシャッと扉を閉じて出て行ってしまった。

 




キャスターがアーチャーとセイバーの戦闘を止めたのは2騎とも利用できるかもしれないと計算してのことです。もっともアーチャーが予想以上に警戒してきたのでご破算となりましたが。
また本作ではアーチャーはルルブレを知らないと解釈しています。HFで士郎が見る展開をわざわざ入れていたことから推測しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。