Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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2月 6日 朝 特訓、セイバー先生

 結局、昨日は敵サーヴァントを見つけることはできなかった。

 

 それでも事件が起こらなかったのを見るに、敵もこちらの存在に気づき身を潜めているのだろう。

 今までの事件はすべて夜に起こっていたので、これからは夜に見回ろうということになった。

 朝の間にキャスターは集めた魔力で結界や使い魔を造り、その間に俺はセイバーに剣術を教えてもらうこととなった。

 

 

「ハァッ」

 

 もう何度目か分からない特攻をセイバーに仕掛ける、だが俺の渾身の一撃はあっさりと見切られた。

 竹刀は空を切り、がら空きとなった顔面にカウンターをもらってしまう。

 

「シロウの剣は愚直すぎます。太刀筋は良いですがそれではすぐに見切られるでしょう」

 

 へたり込んでしまった俺にセイバーが冷静な分析を下す。すでに1時間近く続けているが、俺の攻撃は掠りすらしなかった。

 

「強いってのは分かってたけど、ここまで実力差がハッキリすると結構ショックだな」

 筋トレや剣道も割とやってきたつもりだったのだが、まるで赤子の手を捻る様にやられてしまった。

 強化魔術を扱えるようになって少しは自信もついていたが、防御するので精いっぱいだ。

 

「それは当然です。私たちはサーヴァント、戦場を駆け巡った戦士です。負けたからといって気に病む必要はありません」

 セイバーの真名は知らないが、きっと戦いが日常として存在していた時代から来たのだろう。

 俺なんかが勝負になるかもと考えること自体がおこがましいかのかもしれない。

 

「それに、これは剣技だけでなく精神を鍛えるためのモノです」

 精神……か、セイバーの言いたいことは何となく分かる。つまりこれは絶対に勝てない相手との戦いを想定したものなのだろう。

 絶望的な状況を前にして、冷静になるためのシュミレーションというわけだ。

 

「先のバーサーカー戦の様に素手で特攻などという無謀な行為は二度としないでください。強化魔術を習得したとはいえあくまで付け焼刃、私たちが守護するまでの時間稼ぎにしかなりません。あなたは自分の身を守ることだけを考えてください」

 

 セイバーがジロリとこちらを睨む。

 キャスターを守るためにバーサーカーの巨剣に身を晒らした俺、キャスターの強化がなければあの時に死んでいただろう。

 マスターが死ねばサーヴァントも消える、神経質になるのも当然か。

 

「……セイバーの言いたいことは分かる。俺が足手まといだってことも、でもあれが間違いだったとは思ってない」

 

 無茶な行為だったというのは自覚している。

 けど間違っていたとは思わない、キャスターを見殺しになんて出来るはずがない。例えそれで俺が死ぬことになってもだ。

「……はぁ、まあ、あの状況では仕方がない面もありますか。それにあの戦いにおいてはシロウよりもキャスターの方が気にかかります」

 そう言って、隅で見物していたキャスターを見る。

 

「えっ、私?私はちゃんと戦っていたじゃない」

「えぇ、確かにあなたの魔術の腕は認めます。シロウへの加護、バーサーカーへの妨害、一連の魔術は確かに見事でした。ですが私が言っているのは精神的な話です」

 恐らくセイバーが言っているのはバーサーカーに追い詰められた時のことだろう。

 キャスターはあの時、死を受け入れて動くことすらしなかった。

 

「シロウの様に無策で突っ込むのも考えものですが、戦場で思考を放棄するなど言語道断です。何か逆転の手はないか最後まで考え抜くべきだ」

「そうは言っても相手はあのバーサーカー……ヘラクレスよ、あの状況で逆転なんて……」

「問答無用、キャスターあなたも鍛えてあげましょう。さぁ竹刀を持ちなさい」

 

 言い訳を始めたキャスターにセイバーが喝を入れる。そういえばキャスターは剣を使えるのか?

 

「ワタシは魔術師だから、剣なんていらないのに……」

 不満そうに文句を漏らしながら竹刀を持つ。

 握りしめるように竹刀を持ち、内股気味に構える。

 持ち方や立ち振る舞いは明らかに素人のそれだ。

 

「私は対魔力を持っているので魔術を無効化することが可能です、対バーサーカー用のシュミレートになるでしょう」

 バーサーカーの宝具は一定ランク以下の攻撃を無効化することができる。

 セイバーの宝具ならダメージを与えられるが相手も警戒しているだろう。

 キャスターが冷静にサポートできるかが重要となってくる。

 近接戦の想定をしておいて無駄にはならないだろう。

 

「えい〜」

 キャスターがつんのめったような動きで竹刀を振る。

 当然、セイバーはあっさりと避ける。

 

「剣を握ったことがない様ですが……まあいいでしょう。そのままかかってきなさい」

 その後も何度かキャスターが竹刀を振るが全て避けられている。

 

「……次はこちらから行きます」

 セイバーが仕掛ける、さすがに本気というわけではないがかなりの速度だ。

 何とかキャスターも受けているが完全に萎縮してしまっている。

 

「どうしましたキャスター、防御だけでは勝利はありませんよ」

 

 挑発じみた言葉を受けてもキャスターは反撃しない。

 こんなんで訓練になるのか? 

 結局、セイバーの猛攻を受けてもキャスターは縮こまっているだけだった。

 

「……ふうっ、こんな所でしょう。有効打こそ与えられませんでしたがバーサーカーに対する心構えはできたはずです」

 そうかなあ?

 キャスターちょっと涙目になってるぞ、ほとんど一方的に打たれてただけだし、恐怖心こそ育てど精神が鍛えられたとは思えない。

 

「……終わったのならちょっと、結界の様子を見てくるわ」

 

 あ、さっそく逃げた。この特訓に効果はあったのか?

 

「……彼女は案外、優しい性格をしているのですね」

 

 キャスターの姿が消えたのを見て、セイバーかポツリと呟く。

 

「えっ、なんだよイキナリ、なんでそう思ったんだ?」

 

今のやり取りでそう判断する要素があったか?

 

「はい、戦い方にはその者の性格が現れます。特に追い詰められた時はより顕著に」

 達人は剣の握り方を見ただけで相手の力量を測れるらしいが、それと似た感じだろうか?

「彼女は剣の素人ですが、私に当てられなかったのはそれだけが理由ではありません。彼女は攻撃を避けられて僅かに安堵していました」

 

 言われてみれば……セイバーに攻撃を避けられた後は深追いせずに仕切り直していた。あれはセイバーを攻撃したくなかったということか。

 

「また、私から攻撃した時も受身に回るだけで反撃しようとしませんでした。彼女は本来、他者を害することが好きではないのでしょう」

 淡々と分析するセイバー。

 もしかして昨日の夜に仲良くしろと言ったのを気にかけていてくれたのか。

 特訓という名目で彼女なりにキャスターを知ろうと思ったのかもしれない。

 ……セイバーの分析はほとんど当たっているだろう。

 キャスターは平和主義というわけではないが、無闇に害を広げるようなタイプでもない。

 それはこれまでの会話からなんとなく分かっていた。

 でも……セイバーはたぶん、気がついてない。

 

 キャスターの目には単純な善悪とは違う、どこか昏く深い光が宿っていることを。

 


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