Fate/Rainy Moon   作:ふりかけ@木三中

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RE2月4日 夜 特訓、アーチャー先生

「それじゃ、強化魔術に特訓を始めようか」

 

 夜になり、遠坂から空き部屋を借りて特訓の準備をする。

 

「といっても、今まで通りの練習をしてもゴルゴーンには勝てないよな」

 

 アイツに勝つにはもっと飛躍的なパワーアップをしなくてはならない、どうするものかとリリィに尋ねる。

 

「そのことですがシロウさま……魔術の指導は私ではなくアーチャーさまに任せようと思います」

 

 そう言うと、アーチャーが部屋に入ってくる。

 

「なんで、アーチャーなんだ?魔術のことならリリィの方が詳しいだろう」

「はい、正道の魔術ならば私が教えます。しかしシロウさまの魔術は特殊なのです。実際に大人の私は強化魔術を護身用程度にしか考えていませんでしたが、シロウさまはそれ以上に使いこなしています。私ではシロウさまの魔術の真価を理解しきれないのです」

 

 確かに、キャスターが想定していた強化魔術の運用は道具を固くすることによる防御が主だった。

 俺がやった体そのものを鉄に変えたり脚でセイバーの宝具を再現したりということは考えていなかっただろう。

 

「でも、それがなんでアーチャーに指導してもらうことになるんだ?」

「それはシロウさまとアーチャーさまが…………、お二人の魔術系統がよく似ているからです」

 

 リリィはなにか言葉を選びながらそう説明する。

 俺とアーチャーは魔術系統が近いのか、ランサーとアーチャーの戦闘を見ても特にそう感じなかったがリリィが言うならそうなのだろう。

 魔術系統が近ければ扱うコツなども教えてもらえるかもしれない、強くなるにはアーチャーに指導を受けるのが効率がいいのだろう。

 

「…………」

 

 仏頂面で立つアーチャーを見る。

 俺はなんとなく、アーチャーのことが苦手なんだよな。

 

「えーと、アーチャー、よろしく頼む」

 

 苦手とはいえ、指導を受けることになる相手に礼儀は必要だ。ぺこりと頭を下げる。

 

「ふん……無駄口をたたいている暇があったらとっとと始めるぞ」

 

 ……やっぱり、コイツのことは苦手だ。

 

 

「それではまず、この包丁を強化してみろ」

 

 差し出された包丁を前に神経を集中させる。強化魔術も何度も使いだいぶ慣れてきた、

 包丁の構造を解析し隙間に魔力を流し込む。

 

「強化――開始」

 

 俺の中から魔力が溢れ出し包丁へと流れ込む。そしてそれが材質すらも変化させ包丁を『硬く』強化する。

 今のはかなり上手くできた。包丁はダイヤモンド並みの硬さになっているはずだ。

 

「………なるほどな」

 

 アーチャーが包丁を見分する、その顔は少し険しい。

 

「キャスターの指導で基礎はできているようだが……やはり違うな。こんな表面上の強化ではゴルゴーンは倒せまい」

「表面上の強化?」

 

 どういうことだろうか?

 俺の強化は普通の魔術師が使用する対象に魔力を包み込むという方法ではなく、内側に魔力を注ぎ込み補強するという方法を取っている。それによる強化の上昇率はかなり高いはずだが……

 

「まだお前は『剣』に、『自分』に向き合いきれていない。衛宮士郎の使うべき強化魔術とは自身の存在を流し込むことで対象の『存在』を『昇華』させる魔術だ……こんな風にな」

 

 アーチャーが包丁に魔力を、自身の存在を流し込む。

 

「なるほど……固有結界を限定的に流し込んでいるのですね、剣属性付与といったところですか。剣以外のものに使えば剣のように、そして剣に使えばそのまま性能が上がると……」

 

 リリィが何か呟くが、俺の意識は強化されていく包丁に夢中で聞き取れなかった。

 

「ふむ、こんなものか。どう変わったか分かるか?」

 

 コトリと包丁が置かれる、リリィがそれをコンコンと叩いて怪訝そうな顔をする。

 

「別に硬くなったり切れ味が上がっているようには感じませんが……」

 

 リリィにはアーチャーが何を強化したか分からないようだ。

 

「存在の強化……包丁の存在意義ってのは『料理を作ること』だ。つまりこの包丁で料理を作ればさぞかし美味しい料理が作れるんだろ」

 

 メチャクチャ便利だな強化魔術!

 この包丁で料理を使えば水物を切ったときのベタつきや硬いものを切るのに苦労することはないだろう。『硬さ』や『切れ味』を強化すれば切る対象によって硬度を調節しなければならないが、『料理を作る』という存在意義を強化すればそんなことを一々考えずとも自然に切れる。

 存在の昇華とはそういうことだ。

 

「あぁ、包丁に強化魔術を使えば便利だぞ、大型の魚なんかもスパっと切れるし刃こぼれもしないからな。これで刺身なんか作れば新鮮さを殺すことなく……いや、今はそんなことはどうでもいい。とにかくこの方法で『攻撃する』という存在意義を持った剣を強化すれば飛躍的な威力の向上が見込める。オマエにはこの強化方法を身に着けてもらう」

 

 なるほど確かにこの方法なら単純な『硬さ』や『切れ味』を強化するよりも効率がよさそうだ。

 

「お前が今まで使ってきた強化魔術……厳密には変化魔術なのだが、それにも有用な場面はある。体を鉄に変えたり、足をセイバーの剣に変えたりといったのがそれだ。だがソレの特訓は後回しでもいいだろう。やることに大差はないのだ」

 

 なんと、俺が今まで強化魔術だと思って使ってきたのは変化魔術だったらしい。

 だがアーチャーの言う通り、俺のやることに変わりはない、考えることはただ一つ『剣であれ』という事だけだ。

 

「さて、それでは今夜はこの包丁の強化と解除を300回行え、まずは数をこなさねば話にならない、常に剣のイメージを保つことと包丁の存在意義を意識しすることを忘れるな」

 

 ……サーヴァントの指導方法は皆スパルタ方式なようだ。

 


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