変化魔術で体を鉄に変える特訓をする、ゴルゴーンの人間を溶かす結界に耐えるためにも、体を剣にギリギリまで変化させなければならない。
「変化の移行がスムーズになっているようですね、ほとんどノ―モーションで行えています」
隣で見ていたリリィが褒めてくれる。
「あぁ、これは俺がサーヴァントとして顕現しているおかげかな。生身と違って新陳代謝による誤差とかがないから一度構造を把握しておけば後は魔力を流し込むだけでいい。サーヴァント化による意外な恩恵だな。他にもサーヴァント化によって何か変わっているのかな?」
「ステータスを見てみてはいかがでしょうか?」
そういえば、サーヴァントは能力をステータス化して見れるのだった。
自分のステータスを見るというのは何だか複雑な気分だが、眼を瞑り自身の姿を思い浮かべる。
「…………」
クラス アヴェジャー 真名 衛宮士郎
筋力 E 耐久 E 俊敏 E
魔力 E 幸運 D 宝具 EX
クラス別能力
復讐者:E 忘却補正:A+ 自己回復(魔力):D
保有スキル
魔術:D- 投影魔術:C- 強化魔術:A
宝具
金羊の皮
目を閉じて念じればステータス表があらわれる。自分のことのためか開示されている情報が多い。
「やっぱり、スタータスは軒並み低いな。宝具と幸運以外は全部Eか」
一般人である俺がキャスターの力で無理矢理に召喚されただけなのだから仕方ないのか。正当な英雄たちと比べれば話にならないのは当然だ。
「シロウさま、落ち込むことはありませんよ。強化魔術のスキルはAランクじゃありませんか。実質的な強さはもっと上なはずですよ」
確かに俺の強化魔術は存在を昇華することができる。
表面的なステータスでは俺の強さを正確にあらわすことはできない。
「投影や普通の魔術スキルはランクが低いな。今まで強化魔術しか使ってこなかったんだから当たり前だけど」
ずっとキャスターに教わった強化魔術で戦ってきたからな。
普通の魔術はともかく、投影は鍛えればもっとランクが上がる気もする。もっとも数年はかかるだろうけど。
「アヴェジャーのクラス別保有スキルは復讐者、忘却補正、自己回復(魔力)か。なかなか良いな」
復讐者のスキル
よく分からないが、名前から察するに怨みなどの感情に関するスキルなのだろう。俺はゴルゴーンのことを倒さねばとは考えているがマキリ・ゾォルケンのせいで化物に堕ちたことも知っている。
故に彼女個人に深い怨みがあるというわけではない、ランクがEと低いのはその辺りが原因だろう。
忘却補正のスキル
名前の通りの復讐に関することを忘れないようにするスキルだろう。俺はキャスターから金羊の皮を手渡されたときに彼女のことを一生忘れないと約束した。今も目を閉じればキャスターとの思い出がありありと溢れてくる。
リリィを召喚する時にキャスターの何気ない言葉を思い出せたり複雑な魔方陣が描けたりしたのはこのスキルのおかげなのかもしれない。
自己回復(魔力)
夜通し強化と投影の特訓が行えるほどの魔力があるのは聖杯から魔力が提供されているかと思っていたが、このスキルの影響もあるのかもしれない。Dとランクは高くないが有ると無いでは大きな違いだろう。
「金羊の皮……俺の宝具扱いなんだな」
最期にサーヴァントにとって自身の象徴であり最も重要と言える宝具。
アヴェジャー衛宮士郎の宝具はキャスターからずっと持っていてほしいと託された金羊の皮だった。
「それが宝具として召喚されたという事は、シロウさまは私との約束を守り、ずっとずっと死ぬまで持っていてくださっていたということでしょうね。私がこうして召喚されているのも宝具としての能力なのでしょう。シロウさまの宝具となったことで新たに伝承として認められたのかもしれません」
ライダーは天馬を召喚する能力を持っていたという。生前にメドゥーサとしてペガサスと繋がりがあるからだろう。
それと同じように俺はキャスターと暮らし、本人から手渡された金羊の皮をずっと持ち続けていた『事実』があるからこそリリィを金羊の皮の精霊として呼び出せた。
リリィを見る、こちらの方をじっと見つめる少女の姿。
彼女は俺とキャスターの約束の証、互いの『裏切りたくない』という想いの結晶なのかもしれない。互いに傷つけず傷つけられぬようにという願いの。
「でもよく考えたら、これってキャスターから渡された金羊の皮そのものって訳では無いよな」
自覚はないが、俺がサーヴァントとして過去の時間に召喚されたのは単純な時間移動という訳では無く「英霊の座」というところを経由しているらしい。
リリィいわく、俺と存在の近い英雄に世界を誤認させて召喚したとか言っていたが詳しくは教えてくれなかった。
なににせよ俺の体と所持品は聖杯の魔力によって再構成されたものである。
ゴルゴーンとの戦いで傷ついた体と服が元に戻っていたり、一画残っていたはずの令呪が消えてしまっているのはそれが原因なのだろう。
そして、この金羊の皮もキャスターに託されたものでは無く聖杯の再現品にすぎないということになってしまう。
もちろん機能的な意味で何か相違があるわけではないのだが、そこに込められた存在の意味は大きく異なる。
キャスターとの約束を果たすためにもゴルゴーンを倒して毛皮を取り戻さないとな。