「う~ん」
ある日のこと、この間《妖精の尻尾》のメンバーになったルーシィがリクエストボードの前で、依頼書を見ながら唸っていた。
「ルーシィ、何やってんだ?」
「あ、グレン!依頼って色んなのがあるんだなって思ってて」
「そうだな。盗賊退治から探し物、警護や子守りなんかもあるしな」
「やりたい仕事があったら私の処に持ってきてね。今はマスターがいないから」
カウンターからミラがそう言い、ルーシィはマスターがいないことに気づく。
「マスターはどうしたんですか?」
「ああ、定例会だろ」
「定例会?」
「地方のギルドマスターが集まって定期報告会をするのよ」
そう言ってミラはルーシィに魔法界の組織図について説明をする。
一歩、グレンはと言うとさほど興味がないのか、カウンターに座り、コーヒーを飲んでいた。
「ギルド同士の繋がりがあったなんて知らなかったなぁー」
「ギルド同士の連携は大切なのよ、これをおそまつにするとね」
「黒い奴らが来るぞォォォォ!」
「ひいいい!!?」
突然、ナツが現れルーシィを驚かす。
「うひゃひゃひゃ!なーに、ビビってんだよ!」
「驚かさないでよぉ!」
「でも、黒い奴らは本当に居るのよ。闇ギルドって言って連盟に属さないギルドがね」
「あいつら法律無視だからおっかねーんだ」
そんな話をしていると、突然ハッピーはあることを思い出す。
「そう言えば闇ギルドっていえば、黒い悪魔って噂があったよね」
その内容に、グレンは思わず反応する。
「黒い悪魔?なにそれ?」
「闇ギルドばっか潰して回ってる黒いコートを着た魔導士のことだよ、なんでも
一人で多くの闇ギルドを潰してきたんだって」
「一人でギルドを!?」
一人の魔導士で一つのギルドを潰したという話にルーシィは驚く。
「でも、かなり残虐って噂を聞くわ。その闇ギルドの魔導士、一人残らず殺したそうだし」
「殺したんですか!?」
「でも、あくまで噂だし、そこまで気に留めなくていいと思うわよ」
「そんなことよりルーシィ、早く次の仕事選べよ」
「今度はルーシィの番だよ」
「冗談言わないで!チームなんて解散よ!」
ルーシィはナツとハッピーの二人とチームを組んだらしいが、前回のクエストの一件でルーシィはナツたちとのチームを解消することを決めたらしかった。
「なんで?」
「金髪だったら誰でもよかったんでしょ!」
なんでも、クエスト内容がエルバーって言う侯爵の家から本を盗んでくると言うもので、そのエルバーが金髪の女好きだったらしい。
「そうだけど?でも、ルーシィを選んだのはいい奴だからだ」
笑顔でそう言うナツにルーシィは怒る気が起きないのか、何も言わなくなる。
「別にチームなんて無理して組む必要ねぇだろ」
そう言ったのはグレイだった。
「傭兵ギルドの《南の狼》の二人と、ゴリラみてぇな女を倒したんだって?実際スゲェーや」
「それ、全部ナツ」
「てめぇか、コノヤロー!」
「文句あっか、ああんん!?」
喧嘩をし始めるナツとグレイを他所に、サングラスをかけた男、ロキがルーシィに話しかけていた。
「君って本当にキレイだよね。サングラスを通してその美しさだ。き肉眼で見たらきっと目が潰れるね」
「潰れれば」
辛らつな言葉を放つルーシィに対して、ロキは笑顔を崩さなかった。
しかし、ルーシィの腰の鍵の束に気づき、急に慌てて離れだす。
「き、君は精霊魔導士なのかい!?なんたる運命のイタズラ!ごめん、僕たちはここまでにしよう!」
そう言い残し、ロキは去っていく。
「何あれ?」
「ロキは精霊魔導士が苦手なの。きっと昔の女の子がらみよ」
ギルドを出て行ったロキだが、ものの数秒で戻ってきた。
「大変だぞ、ナツ、グレイ!エルザが帰ってきた!」
「「なっ!?」」
エルザという名に、ナツとグレイだけでなくギルド全体に緊張が走る。
グレンも飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになり、慌てだす。
同時に、力強い足音ともに、鎧を着た女性がギルド内に入ってくる。
巨大な角を片手に。
「今戻った。マスターはおられるか?」
「お帰り、エルザ。マスターなら定例会よ」
「そうか」
「あの、エルザさん。このデカい角は一体……」
仲間の一人が、恐る恐るエルザの持ってきた角について聞く。
「ああ、討伐した魔物の角だ。地元の者が飾りつけをしてくれてな。綺麗だったのでここへの土産にしようと思ってな。迷惑だったか?」
「いえ!滅相もない!」
その角は成人男性の身長の二倍以上の高さで、本体を考えたらとてつもなくデカい魔物なのは誰でもわかる。
「それにしても、お前たち。また問題ばかり起こしているようだな。マスターが許しても私は許さんぞ。カナ、なんという格好で酒を飲んでいる。座って飲め。ビジター、踊りなら外でやれ。ワカバ、吸い殻落ちてるぞ。ナブ、相変わらずリクエストボードの前をウロウロしてるのか?仕事をしろ。まったく世話の焼ける。今日の処は何も言わずにおいてやろう」
(随分といろいろ言ってたような……)
エルザに対し、心の中で突っ込むルーシィだった。
「ところで、ナツとグレイ、それにグレンはいるか?」
「あい」
エルザに言われ、ハッピーがナツとグレイを指さす。
「や…やあ、エルザ。お…オレ達今日も仲良……良くや……やってるぜい……」
「あ゛い……」
ナツとグレイは肩を組んで体を震えさせていた。
その光景にルーシィは驚いていた。
「そうか。親友なら時には喧嘩することもあるだろう。しかし、私はそうやって仲良くしてるところを見るのが好きだぞ」
「いや、いつも言ってるけど……親友って訳じゃ……」
「あい……」
(こんなナツ見たことない!)
「うん?グレンはどこだ?」
「あれ?さっきまでそこにいたんだけど………」
「ああ、グレンならさっき裏から出て行ったぜ」
そう言って近くにいたマカオが裏口の方を指さす。
「グレンの野郎!逃げやがったな!」
ナツはグレンが逃げたことに怒りを露わにする。
「そうか」
するとエルザは突然、拳を握り、マカオに殴り掛かる。
「うおっ!?」
「エルザ!何を!?」
「茶番はそこまでにしろ、グレン」
「……ちっ!バレちまったか」
すると、マカオの姿が消え、代わりにグレンが現れる。
《セルフ・イリュージョン》。
光を操り、自身の姿を変える魔法で、変えるものは使用者のイメージによって何にでも変えることができる。
グレンはそれを使い、マカオに化けてエルザをやり過ごそうとしていたが、エルザには効かなかったようだ。
「実は三人に頼みたいことがあるんだ。仕事先で厄介な話を耳にしてしまった。本来ならマスターの判断を仰ぐとこなんだが、早期解決が望ましいと思って私は判断した。三人の力を貸してほしい。ついてきてくれるな」
エルザの言葉に全員が驚いた。
巨大生物を一人で倒せる魔導士であるエルザが人を誘うことなど滅多にないからだ。
「出発は明日だ。準備しておけ。詳しくは移動中話す」
エルザはそう言い残し、ギルドを後にする。
「エルザとナツとグレイ、それにグレン。今まで想像したこともなかったけど、これって《妖精の尻尾》最強チームかも」
ミラがそう呟く中、グレンはエルザの後を追った。
「おい、エルザ」
「なんだグレン?」
「どう言うわけかきっちり説明してもらおうか」
「詳しくは移動中に話すといっただろ」
「いや、納得できねぇ。お前ほどの魔導士が人手を欲しがる程だ。それもナツとグレイ。ウチの中でも伸びしろが高く、戦闘向けの魔導士をだ。事情を説明してもらわねぇと、こっちも動いてやることができねぇんだよ」
グレンの言葉に、エルザは少し考えて息を吐く。
「そうだな。貴様にだけは先に話しておこう。エリゴールは知ってるだろ」
「エリゴールだって!?魔導士ギルド《
「ああ。そいつらの仲間と思しき連中がオニバスの酒場で集まっていて偶然話を聞いたんだ。どうやらララバイと言う魔法を探してるらしくてな」
「ララバイ?なんだそりゃ?」
「私もわからない。だが、封印されてるらしく、かなり強力な魔法らしい。もし奴らの手に渡ったら確実に危険なことが起きる」
「そのための俺か」
グレンの
それに相手が魔導士ならグレンの得意分野でもある。
そして、ギルド一つが相手となればいくらエルザでも荷が重い。
そこで、戦闘向けのナツとグレイが呼ばれた。
グレンは納得し、そして、あることを思い出した。
(《鉄の森》………まさか、こんなところで再開するとはな………)
グレンは思案顔し、エルザの方を向く。
「分かった。そういう事情なら手を貸す」
「ああ、助かる。では、明日は頼むぞ」
そう言って、エルザは去っていき、グレンは一人空を仰いだ。
「くそっ……よりにもよってエリゴールか……あの時、始末しておくべきだったか……」