ナツ追って、線路を魔導四輪車で走っていると、ルーシィがあることに気付く。
「これって私たちがレンタルした奴じゃないわよね?」
「《鉄の森》の周到さには頭が下がる。ご丁寧に破壊されてやがった」
「弁償か……」
「それでほかの車盗んでちゃ世話ないよね」
カゲはそう言うと少し考えてから口を開く。
「なんで僕をつれてく?」
「なんでってケガしてるじゃない。町は誰もいなくなっちゃったし、クローバーのお医者さんに連れてってあげるんだから感謝しなさいよ」
「そうじゃない!なんで助ける!?敵だぞ!」
カゲはそう叫ぶと、あることに気付きまた口を開く。
「そうか。僕を人質にエリゴールさんと交渉するんだな。無駄だよ。あの人は冷血そのものさ。ぼくなんかの」
「なら、殺してやろうか?」
「ちょ、グレイ!?」
グレイがカゲに対してそう言う。
「生き死にだけが決着のすべてじゃねぇだろ?もう少し、前向いて生きろよ。お前ら全員さ……」
「………だったら、どうすりゃ良かったんだよ」
グレイの言葉にカゲが口を開く。
「権利を奪われ、仕事もできず……闇ギルドになった俺たちに……一体何ができるってんだよ………どうすりゃいいんだよ………」
「知るかよ」
悔しそうに言うカゲに、グレンはそう言った。
「同情してやらねぇでもねぇが、結局はお前は自分で道を選ばなかっただけだろ。ギルドに縛られず、自分で道を選んでりゃ、もっと違った道もあったんじゃねぇのか?」
グレンはそう言い、そっぽを向く。
(そうだよな………あの時、違う道を選んでりゃ俺も…………いや、過ぎたことを言ってもしょうがねぇか…………)
ナツの後を追い、もうすぐでクローバーの街に着く辺りで、グレン達はナツに追いついた。
見ると、ナツはエリゴールを倒していた。
「ナツ、エリゴールを倒したのか!」
「そんな!エリゴールさんが負けたのか!?」
全員、魔導四輪車を降りて、ナツに駆け寄る。
「こんな奴に苦戦しやがって。《妖精の尻尾》の格が下がるぜ」
「何処が苦戦だ?圧勝じゃねぇか。な、ハッピー?」
「微妙なトコです」
「何はともあれナツ、お前のお陰でマスターたちは守られた 。ついでだ……定例会場に行き、事件の報告と笛の処分についてマスターに指示を仰ごう」
「クローバーはすぐそこだもんね」
その時、カゲが魔道四輪を動かし、ララバイを自分の影の魔法で拾ってクローバーの町を向かっていく。
「油断したな
「あんのやろぉぉぉぉぉ!!」
「何なのよ!助けてあげたのに……」
「追うぞ!!」
グレン達がクローバーにある定例会の会場に着くと、そこではカゲがララバイを手に、マカロフの前に立っていた。
「いた!」
「じっちゃん!」
「マスター!」
助けに向かおうとすると、グレン達を誰かが止めた。
「今いいところなんだから、見てなさい」
「《
「あら、エルザちゃん、大きくなったわね」
止めたのはギルド《青い天馬》のマスターのボブだった。
「どうした?早く吹かんか?」
マカロフはカゲにララバイを吹くように促す。
カゲは体を震わせて、今にも笛を吹きそうだった。
「いけない!」
「黙ってなって。面白ぇトコなんだからよ」
今度はギルド《
「………何も変わらんよ」
マカロフが口を開く。
カゲはその言葉に、恐怖を感じた。
「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし、弱さの全てが悪ではない。人間は元々弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だから、ギルドがある。仲間がいる。強く生きるために寄り添いあって歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶつかる。しあkし、明日を信じて踏み出せば、自ずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける。そんな笛に頼らずともな」
その瞬間、カゲは手にしたララバイを地面に落とし、膝をついた。
「参りました」
カゲは負けを認めた。
マスターたちの命は助かったのだ。
「流石です!マスター!」
「力じゃなくて言葉で相手に負けを認めさせるとか、流石だよ」
「じっちゃん、スゲーな!」
「一件落着だな」
勝会ムードになっていく中で、カゲに捨てられたララバイから黒い煙が吐き出され、その吐き出した煙が巨大な樹木の怪物のような姿になって表れた。
『どいつもこいつも、根性の無ぇ、魔導士共だ。もう、我慢できん。ワシ自ら貴様らの魂を喰ってやろう』
「コイツはゼレフの書の悪魔だ!?」
「ゼレフって大昔の!?」
「黒魔導士ゼレフ。魔法界の歴史上もっとも凶悪だった魔導士。何百年も前の負の遺産が、こんな時代に姿を現すなんてね………」
『さぁて、どいつの魂から喰ってやろうか………決めたぞ。全員だ』
ララバイは呪歌を使おうと、口を開く。
異常事態に、他のギルドマスターが駆け付けるも反撃が間に合わない。
その瞬間、ナツとエルザ、グレイの三人が走り出す。
「換装!天輪の鎧!」
「魔法の鎧の換装だと!?なんて速さだ!」
エルザは剣を振り、ララバイの足を切り付ける。
そして、ナツはララバイの体をよじ登り、炎を纏った蹴りを顔に当てる。
『くっ!小癪な!』
ララバイは口から魔法を放つが、ナツはそれを簡単に躱す。
だが、その代わり地面にいるギルドマスターたちに攻撃が向かう。
「いかん!こっちに攻撃が!?」
「逃げろ!」
ギルドマスターたちは反撃が間に合わないと理科しい、逃げようとするが、グレイは手を合わせ魔法を使う。
「アイスメイク〝
八方に広がる花のような形状の氷の盾を造り出し、ギルドマスターを攻撃から守る。
「奴を倒すには生半可な技じゃダメだ」
その様子を見て、グレンはポッケからあるものを出す。
「マスター。アレを使う。いいな?」
「仕方ないじゃろ。構わん、やれ」
「サンキュー。………ナツ、エルザ、グレイ!そいつを消し飛ばす!動きを封じてくれ!」
「わかった!換装!黒羽の鎧!」
「任せな!右手と左手の炎を合わせて………火竜の煌炎!」
「いいぜ!アイスメイク〝
エルザは一撃の破壊力を増加させる鎧に換装し、ナツは右手と左手の炎を合わせ巨大な炎にし、叩きつけ、グレイは数の氷の槍を造り出し、ララバイに攻撃する。
それにより、ララバイはそのまま後ろ向きに倒れ、動きがとりにくくなる。
「倒せたの!?」
「いや、ゼレフの書の悪魔はこの程度じゃ死なない。もうひと押しがいるんだよ」
そう言い、グレンは赤い宝石を取り出し、構える。
「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と我は知る者―――――》」
グレンは詠唱を始めると、魔法陣が幾重にも現れ、それが砲身のように重なる。
「《―――――其は摂理と円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は解離すべし ・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ―――――》
「な、なんなのアレ?すごい魔力……!」
ルーシィは何が起こるのか分からないため、そう言うしかなかった。
「あれはグレンが作り出し、詠唱魔法の中でも、膨大な魔力を消費し放つ魔法。その威力は《妖精の尻尾》に伝わる三大魔法に匹敵する。その威力から、グレンは普段は決して使わない」
マカロフはルーシィにグレンが使おうとする魔法について説明をする。
「何かあるとは思っていたが、こんな隠し玉があったのか」
「やっぱグレンの奴スゲーわ」
エルザとグレイは、グレンの隠していた実力に思わず感服していた。
「グレンの奴とも戦ってみてー!」
ナツはグレンを戦いたいのか興奮していた。
「巨大な光の衝撃波を発生させ、対象を
「《遥かな虚無の果てに》!」
マカロフが最後の言葉を言い終わる直前に、グレンも詠唱が完了し、グレンはニヤリと笑う。
「ぶっ飛べ!《イクステンション・レイ》!」
一瞬、その場に居た者、全員の視界が真っ白になった。
視界が回復すると、そこにゼレフの書の悪魔の姿はなく、まるで空間ごとくり抜いたかのように、跡形もなく綺麗に吹き飛ばされていた。
「やっべ………今ので魔力が空になった………もう一発も魔法打てねーわ」
グレンはそう言い、その場に座り込む。
(凄い……〝愚者の世界”なんて馬鹿げた魔法の時も思ったけど、この魔法も規格外すぎる………エルザに、ナツに、グレイ……そして、グレン。これが、《妖精の尻尾》最強チーム!)
ルーシィはそう思い、四人を見つめる。
「いやー、いきさつはよく分からんが、《妖精の尻尾》には借りができちまたな」
「なんのなんのー!ふひゃひゃひゃひゃ!!」
マカロフは笑うが、次の瞬間、あることに気付き、顔を青ざめる。
他のギルドマスターたちも何事かと思い、後ろを振り向く。
そこにあったのは、ナツとエルザ、グレイが戦った後の壊れた地形と破壊された定例会の会場、そして、グレンが跡形もなく吹き飛ばした森があった。
「悪い、マスター。やり過ぎた」
「申し訳ありません……」
「いーのいーの。どうせもう呼ばれないでしょ?」
そう言い残し、グレン達は急いでその場を後にした。