魔王っ子様の教育方針   作:秋宮 のん

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 色々なトラブル続きですっかり更新がストップしてしまっていたので、生きてます報告を兼ねて新作を投稿してみました。
 連載する気もない約10話完結物(内容的には未完成)ではありますが、良ければ見てやってください。


序章

 

「見つけた、標的三体」

 戦闘に立つリーダー役の男の声を聞き、集団に緊張が走る。

 生い茂る森の中、物陰から覗き見ると、リーダーの言葉通り、俺達が狙う標的、見た目アルマジロな『アルマローラー』なる魔物が三体、池のほとりで水を飲んだりしながら休んでいた。俺達の目的は、奴等を倒し、核である魔石や鱗なんかを剥ぎ取り、ギルドに素材として売りつける事だ。

「予定通り散開、合図を出したら一斉に出て周囲を囲むんだ」

 リーダー役の男、氷室(ひむろ)弘一(こういち)が片手で合図を出しながら指示を出す。一言で説明のしやすいイケメンな彼だが、一つだけ言わせてもらう。癖でつい出しちゃってるんだろうけど、その片手指示、俺たち誰も解んないから。

 まあ、事前の説明があったおかげで迷わないけどな。

 リーダーで剣士の弘一に続き、盾持ちタンクと槍使いの男子が二人、物陰に隠れながら接近。支援役の魔導師と道具使いの女子、そして狩人の俺は、それぞれさん方向に分かれ、離れた位置に陣取る。

 目標が良く見えて、仲間が突撃しても射線に入らない位置を割り出し、準備する。ちょっともたついてしまったが、足を引っ張る程遅くはなっていない様で何よりだ。

 さて後は弘一の合図を待つだけだと弓に矢を番える。アルマローラーに動きはなく、俺達に気付かず暢気に水を飲んだりじゃれあったりしている。こうやってみると普通の動物と変わりないけど、アレでも人間を見ると好戦的に襲ってくる魔物の類なんだよな。人間を殺す為に、魔族側から送られてきた先兵。そう思うとなんだか冷たい物が背中を滑り降りて行く様な怖気(おぞけ)を感じた。

 額を伝う汗を拭い、弘一に視線を向ける。遠くで全員の動きを把握していた弘一が小さく片手を上げた。それに合わせ、皆が臨戦態勢に入る。俺も弓を引き、いつでも射れる準備を整える。

 頃合いを見計らい、弘一の手が前方に向けて払われ―――、

「どわあああぁぁぁ~~~~~! 中止中止っ! 皆逃げろ~~~っ!」

 いきなり上げられた槍使いの声に、俺は危うく弦から指を放しかけてしまった。慌てて矢を取り外し、声のした方を見やる。槍使いの男は、相当慌てた様子で走り、獲物が逃げて行くのも構わず俺達を先導する。

「逃げろ逃げろっ! マジやばいって!」

 意味が解らないまでも、危機迫る表情からただ事ではないと判断し、皆一目散逃げ出す。弘一が槍使いの男に近付き問いかける。

「おいっ! 一体何があった?」

「すぐに解るって!」

 ともかく走る事を指示する男の言う事に従い、俺達はその場から逃げ出す。そして男の言った通り、その理由がすぐに解った。

 背後から来る地響き、そして木々の間から垣間見える黒い姿。それも一つや二つじゃない。三十以上はあるんじゃないかと蠢く黒が、群れをなして迫ってくる。

「『デビルアント』だとっ! くそっ! いつの間にかこの近辺で繁殖してやがったのかっ!」

 弘一が焦った様子を見せるこの魔物は、見た目は普通に黒い蟻だ。ただ大きさが半端無い。大型犬を一回り大きくしたくらいの巨体を持ち、繁殖速度が異様に高い。一体一体はそれほど強くはなく、頭を切り落とすか打ち抜けば簡単に倒せる。だが、ともかく数が多い。デカイと言うだけで厄介なのに、行動する時は群れをなすのが当たり前。とても準備なしで相手できる様な魔物じゃない。

 俺達は全力で脚を動かし、ともかくデビルアントから離れるために逃げ続ける。幸い奴等の行動範囲はそんなに広くない。ある程度距離を取れば無闇に追いかけてきたりはしない筈だ。だが、足場の悪い山の中、無事に逃げきれるかどうか……。

「あそこだっ! あの崖に掛けられている橋を渡るんだ!」

 弘一の声に気付いて彼が指さす方へ視線を向けると、そこには言葉通り高い崖の間に繋がれた古い吊り橋があった。だいぶ整備されていないのか、古さが見て取れる程の年季の良い橋だが、この際文句なんて言ってられない。デビルアントは飛び上がる事も出来ない地を這う魔物だ。崖を超えて橋を落とせば、まず追って来れない。

 皆、言葉を返す余裕も無く弘一に従い、橋を目指して走る。重量制限とか色々気になったが、考えている余裕はない。意外と幅の広い事を良い事に、皆一斉に橋を渡り、物凄く揺れる吊り橋に悲鳴を上げた。それでも脚は止めない。魔道師の女子が堪え切れずに転びそうになったが、すかさず弘一が彼女を抱き上げ救出。皆にもしっかり声を掛けて奮起させる。あまりに格好良すぎて男の俺でも惚れちまいそうだよ……。

 ズボッ!

「……ッ!」

 突然身体が傾き、一瞬何が起きたのか解らなかった。橋の上で四つん這いになって倒れたところで自分の置かれた状況をやっと理解する。足が古くなった橋を踏み抜き、右足だけがハマった状態になっていた。こんな時に、なんで俺がこんな目に遭うんだよ⁉

 叫びたい気持ちを押し殺し、涙目になりながら脚を引っ張り出し、何とか立ち上がって走り出す。皆は既に橋を渡りきり、橋を切り落とす準備をしていた。

鈴森(すずもり)君! 速くっ!」

 弘一が手を伸ばし俺を急かす。俺も手を伸ばしてその手を掴もうとする。

 ビシャアッ!

 突然の水音に何事かと思った瞬間、身体が吊り橋ごと傾いた。浮遊感を得る中、俺の頭の中の妙な冷静な部分が状況を理解した。おそらくデビルアントが放った溶解液が橋に掛って溶けたのだ。金属を解かせるほど強力な物ではなかったはずだが、ぼろい吊り橋くらいなら余裕だったらしい。次の瞬間、浮遊感が失われ落下するのを感じる。精一杯伸ばした手は空を切り、俺の目には必死な形相で手を伸ばす弘一の姿が映った。

「うわあああ―――だあぁっ!」

 落ちたと思って思いっきり叫ぼうとしたら、すぐに背中が地面にぶつかって中断させられた。一瞬、想像以上に早い死が訪れたのかと思って思考が停止した。だが、どうやらそうではないらしい。背中に感じる鈍い痛みがそれを教えてくれる。起き上って状況を確認すると、崖の途中に洞窟らしき物が存在し、俺は偶然にもこの中に入る形で斜めに落下したようだ。

「きゅ、九死に一生とはこの事だが……、こんな体験一生味わいたくなかった……」

 ほっ、と息を吐く俺は、その時になって洞窟の外、つまり崖の上から俺の名を呼ぶ声がするのに気付いた。俺は洞窟から身を乗り出し、なんとか顔だけ出すと手を振って応えた。

「大丈夫! 何とか生きてる!」

 それほど高低差はなかったので向こうもすぐに気づいてくれた。皆一様にほっとした表情をしている。だが一方で、崖の反対側からはデビルアントの群れが、ズゾゾゾ……ッ! っと言う気味の悪い音を鳴らして崖を超えて来る。頭が悪いので次々と崖の下に落ちて行っているが、崖の幅はそれほど広くない。勢いで飛び付いている内に蟻の橋でも出来そうな気配だ。悠長にはしていられそうにない。

「鈴森君! ここからじゃ君を引っ張り上げられそうもない! そこから地上にまで移動できるか?」

 俺は洞窟の奥を見る。結構長く続いているようだが、何の洞窟だか解らん以上、地上に繋がっているとはとても思えんが……。

「洞窟が続いてる! なんとか地上に出れないかやってみる!」

 っと言うしかないよな。時間もなさそうだし。

「解った! 夕暮れまで、例の分かれ道で待つ! それ以降は街で待ってるから、必ず生きて戻ってきてくれっ!」

 そう言って走り去るイケメン弘一と皆さん。正直、俺もあっち側でいたかったよ。

 などと言ってる暇も無いので、俺は腰のポシェットから『光石』を取り出し、それを灯りにして洞窟の奥へと走り出す。しかし、ちょっと進んだ程度ではあるが、この洞窟は一体何だ? 人為的に作られたとは思えないが、自然に出来た物とも思えない。一体何処に続いていると言うのだろう。

 ウゾゾ……ッ、ウゾゾ……ッ、

 背後から響く物音に本気で飛び上がってしまった。洞窟の大きさは案外大きく、俺一人が余裕で通り抜けられる。デビルアントなら二匹くらい通れそうだ。そして背後は俺が通ってきた道で、音を鳴らす様な物は何もなかった。だったらその正体は一つしかないじゃないか。

 デビルアント様御一行、よりにも寄って崖の向こう側じゃなくてこの洞窟に入り込んできやがったらしい。

「くっそおおおおおぉぉぉ~~~~~~~~っ!」

 足元が疎かになりそうな中、小さな『光石』の輝きだけを頼りに、俺はひた走る。追い付かれれば確実に命はない。

「なんで、なんでよりにもよって俺が、こんな目に遭うんだよ~~~っ!」

 偶然と言う名の理不尽に、俺は叫ばずにはいられなかった。

 まだ二ヶ月、たった二ヶ月前までは、俺は()()()()()だったのに……。

 

 

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