第××章
パタンッ。本を閉じる。彼等の物語、その第一部を読み終えた僕は、心地良い達成感の様な物を余韻として味わっていた。
『世界の書架』に閉じこもってから、一体どれだけの時間が過ぎたのだろう? 一年の物語を読み切るには一年間かかる。そう言う計算で振り返っても、もはや年数を思い出せない。何冊読んだのかも思い出せないし、仕方ないよね。
読み掛けの本を一旦脇に置き、僕は思い耽る。
嘗てはこの世界に存在するいくつかの世界に身を投じた事もあった。何度となく転生を繰り返し、世界の登場人物となり、友達を作り、憎しみに囚われ、時には諭され、王や神になった事も、恋をした事もあった……。だけど、自分はどうしてか、全ての世界に於いて短命だった。二十歳まで生き残れた試しがない。そして必ず死後、この世界に引っかかり、留まってしまう。一度自分が係わった世界には、自分の痕跡が消えない限り入れないのがルールの様だ。歴史に名が残ってしまうのはもちろん、少しでも僕の存在を残してしまうと、二度とその世界には入れない。
別にそんなのはどうでもいいんだけどね? どうせ僕はその世界では死者なんだから。
それにしてもどうして自分だけ、何度もこの世界に辿り着いてしまうのだろうか? コレばっかいはどうしても解らない。他の世界はもちろん、この『世界の書架』を探しても答えは見つからなかった。もちろん、探しきれていない可能性はあったが、それこそ見つけようがないと言われた様な物だ。
ふと、嘗て、自分が最初に生まれた世界を思い出す。完全に忘れてしまったと思った記憶を、なんの予兆も無く突然思い出すのも、この世界では良くあることだ。
それでちょっと心当たりを思い出した。そう言えば僕は―――、思考中断。
「ねえ? それって僕に対する当て付けなのかな?」
僕の目の前に、いつの間にかそれは存在する。大きなダイヤ型の胴体に、翼の様に展開する幾つものギミックが装着されている様な存在。機械的と言うよりポリゴンチックと言うのが正しいかも。見た事ある存在なのですぐに何者か解ったけど、このトラック程の巨大物体がこの世界に現れるのは、ちょっと気に食わない。
「汝、死して尚、我が成就に、牙を剝くか?」
相変わらず何処が口になっているのか疑問の音声を発する奴に、僕は呆れたように脚を組み、頬杖を付く。
「言い掛かりは
「狭間、取り込まれし、魂、余計な知恵を授ける。汝、我に対する、攻撃の意思と判断」
「それこそ言い掛かりだよ。彼等が引っかかってきたのは君のミスだろう? 偶然を利用したいならもっと上手く誘導するよ。僕は彼等に選択権がある事を教えただけだよ? 実際、僕の助言で動いたのなんて、この二人だけだったじゃない? しかも偶然が重なった結果でしかない」
「全て、汝の係わり深き存在。我が成就、妨げる事、許し難し」
突然体を小刻みに揺らし始めるその存在に、僕は嘆息してしまう。短気なのも相変わらず。人の話なんて聞く耳持ちもしない。どうしようもない存在に対し、仕方なく相手するために立ち上がり―――、次の瞬間、僕の周囲を切り裂く謎の刃が発生、空間事爆発が起きる。
煙たさを感じながら煙から飛び出し、本棚の上に着地する。
「止めときなよ。ここでやっても不毛だよ?」
僕が声をかけるが、それは言う事を聞かず、翼のギミックを展開し、ありえない様な弾幕光線を幾条にも放ってきた。本当に人の話聞かないよね。
僕は解らず屋に対して呆れながら走って、跳んで、光線を躱す。一冊の本を脳内で検索。幸いにも存在して僅かに安堵。手元に呼び出し、本を開く。その見開きに手を添え、思い出す。嘗てこの世界に居た自分の姿。
光が迸り、自分の姿が変わる。和服をモデルにした様な地球製の制服姿。ブーツを踏み締め、本棚を蹴る。背中に背負った二本の剣を左右の手で同時抜刀。迫りくる光線を叩き伏せ、弾幕の中を直進、ポリゴン体のソレに接近する。
「『読者』じゃなくて『司書』を名乗ってるんだから、このぐらいの芸はできないとね」
翼のギミックが分解し、直接攻撃してきたが関係無い。全て剣激のみで微塵に叩き伏せる。その存在が驚愕したように僅かに震え、身体を展開、変形。ポリゴン形状に人型の上半身が現れ、巨大な腕をこちらに振り降ろしてくる。構う物か、そこに飛び込むのが僕の本来の戦い方だったはずだ。
突っ込み紙一重で拳を回避。光線が殺到するが、全て二本の剣で叩き伏せる。速度を一切落とさず肉薄。床を爆発させるほどに蹴り付け、跳躍。全身を独楽の様に回転させ得た遠心力を全て二刀一撃の必殺に込める。
「破城鎚!」
二刀の斬激は敵を切り付けると同時にハンマーのような衝撃を叩き込み、ポリゴン体を遠くへと吹き飛ばした。
別に叫ばなくて良かったのだが、当時の癖でつい口にしてしまった。ちょっと恥ずかしいが、こればっかりは癖になってて抜けない。まあ、インパクトの瞬間に叫ぶと、通常より力が出るのは本当だし、恥じ入る必要性なんて無いんだけどね。ヤッパリ歳かな? 見た目若くてもやっぱり長い事ここに居ると、精神的に年齢を感じちゃうのかも?
そんな事を考えながら本棚の上に着地した僕は自分の体を元のセーラー服へと戻す。手には先程僕を変身させてくれた本がある。それを手の中で弄びながら伝える。
「ほら、不毛だろ?」
そう告げた先。まったく無傷のポリゴン体がこちらにゆっくりと近寄って来ていた。
「ここでいくら暴れても僕等は傷つける事は出来ない。本当なら最初の一撃で僕は君に殺されている。でも、僕はここでは死なないし、何も殺せない。僕等がここでやり合うのは不毛なんだよ」
もう一度告げると、ポリゴン体は憎々しげに謎の音声をヴヴヴヴヴヴヴ、と鳴らした。
「解ったらもうお帰りよ、
「それに……」っと、僕は続ける。
「ここは狭間だよ? 勝手に境界を超えて子供を連れていかれた、向こうの神様が気付けば、君を滅ぼしに来るかもしれないよ? 干渉できないのは僕だけで、異界の神様同士なら話は別だよね?」
そこまで告げてやっと諦めたのか、ポリゴン体のオセリオス神は、身体を元のダイヤ型に形状に畳むとそのまま霞みの様に消えてしまった。
やれやれ……、っと、肩を竦めて本棚を飛び降り着地点に作った脚立に着地、着席。近場に机ごと未読本を呼び出す。ついでに呼び出したコーヒーを口に含む。良く味が解らないのが難点だと思いつつ、気分だけは入れ替わるので良しとする。
たまの刺激は嫌いじゃないけど、アクション系は世界に入り込んでいる時だけにしてほしいな。こっちだと達成感が無くてつまらないから。
ぼやきつつもう一度コーヒーに口を付ける。
「さて、これでこの物語の第一部は終わりなわけだけど……、君はどうする? 続きを読むかい? それとも別の本を手に取るかい? まあ、とりあえずは、一冊の本を読み切った余韻に浸るとしようよ♪」
僕は君達に向かって微笑みかける。
こちらからは見る事の出来ない、僕等を読み説く何者かに、返答無き会話を求め、話しかける。
さあ、次の物語を読もうか?
もし、少しでも面白いと感じてくださりましたらコメントください。
この話はもう続きを書くことはないでしょうが、もしお望みの方が一人でもいらっしゃいましたら、弥生ちゃんが別の物語を読んでくれるかもしれません。