緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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間に合って、ない...!
あ、元日にも更新します、はい。


第12話 戦い

帰宅すると玄関前に夏凜がいた。

 

「やっと帰ってきたわね昇。さ、これ書いて。」

 

渡されたのはピンクの紙。何かがまばらに書かれてるようだ。察するにこれは寄せ書き。何、転校するの?

 

「誰か転校するのか?」

「しないわよ。樹への応援メッセージよ。」

 

近づいて見てみると友奈と東郷は既に書いていた。夏凜は『気合よ』のたった三文字。

 

「なんだろう、昔話したの無駄だったかな。」

「昔話?」

「あぁ。お前や芽吹達と訓練させられていたときの話。」

「誰に話したのよ?」

「樹に。安心しろ、俺の話しかしてない。」

「そう。まぁいいわ。とっとと部屋に入ってそれをささっと書きなさい。」

「へいへい。それより、あのサプリ類はどうしたよ。」

「任務が入ったでしょ、仕方ないからまた明日にするわ。」

「そうかい。んじゃまた明日。」

 

それだけ言って俺は家に入り、さらっとペンを走らせる。

 

『克己忘周 緋月』

 

己を克服し、周囲を忘れよ。自分以外を自分の中から消し去ってしまえ。これは俺の造語だが、自分自身の持つこの目と耳への対策として編み出した心の持ちようだ。周囲の状況を考えず、自分と向き合うこと。毎回そんなうまくいくわけでもないし、やろうとするとかなり疲れるけれども、いたずらに摩耗するよりはいい。樹に置き換えると、自分の周囲の環境に馴染めずに自分の本来の実力を出せない。環境というのは流転するものだからそれは言い訳にはどうしてもできない。昨日まで健康で明日のテストに備えて早く寝たとしても、明日の自身の健康状態などわかるはずもない。たまたま体調が悪くなってうまくいかなくても具合が悪かったからという理由などはたして理由たりえるのだろうか。

 

否、断じて否である。

 

「あぁ、そうか。」

 

緋月昇の昔話。それは、『俺のようになるな』という楔であったのだ。

 

 


 

 

翌日の放課後、勇者部部室では全員が結果を今か今かと待っていた。一応心配はしているが、きっと大丈夫だろう。そわそわと動き回っている先輩が部室を四往復したところで樹が部室にやってきた。

 

「樹ちゃん、歌のテストはどうだった?」

 

友奈が心配そうに問いかける。緊張の沈黙が流れる。そして──

 

「バッチリでした!」

 

報告。それは成功の報告だった。

直後、俺以外の勇者部の面々は跳び跳ねるレベルで大喜びしていた。あの夏凜ですら自分のことのように。俺はひかえめな笑顔とサムズアップを樹に向けておいた。

 

そう、無事に終わったのだ。

しかし、無事では済まなかったこともある。

帰宅してすぐにスマホの画面が変わり、警報音が鳴り響いた。

 

「決戦、か。」

 

護身用の短剣、《叢雲》を持ち、樹海に立つ。

 

「行くわよ昇。」

「あぁ。」

 

隣には夏凜がいる。俺は一つ返事を返し、目を瞑る。ここには余計な情報がない。澄み切った世界。俺が最大限の力を発揮できる場所。平穏とはかけ離れた戦場の中。

 

「行こうか。」

 

壁の方角、現れた七体のバーテックスを見据えた。

 

 

 

 

 




次回、第13話「星vs花」
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