緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第19話 海に来ました。

夏休みに入り、俺の骨折も治った。ちゃんと報告書も耳を揃えて提出した。現在勇者部一同は海にいる。俺も一緒に行ったけど...残念ながら彼女たちの水着姿は見れそうにない。何故かって?それはだな...仕事だからだ。

 

「とはいえ、ここに迎えにくるなんて...確かに予定は教えたけど...」

 

あの人は無駄な事はしない人のはず...そう思っていたら大赦御用達の黒い車が目の前に止まり、後部座席のドアを開け、正装の男性が降りてくる。

 

「お待たせしました、緋月君。」

 

その人は年下である俺にも敬意を払い、お辞儀をしている。すごい人だよ...

 

「こ、こちらこそご多忙の中お呼び立てして申し訳ありません、春信さん...」

 

俺もしっかりと頭を下げる。この人...三好春信さんは記録者としての訓練を受けていた時にお世話になった人で、夏凜のお兄さんであり、若くして大赦の上層部で活動している人である。

 

「さて、お話は車内で伺います。どうぞ。」

「は、はい。」

 

促されて車内に入る。うん。座席はふかふかだ。

 

「では、大橋まで。」

「かしこまりました。」

 

春信さんは運転手さんに行き先を伝える。

なるほど確かに大橋ならここからの方が近い......って大橋?え、聞いてないよ?

 

「大橋ですか!?」

「はい。君のメールと報告書を読ませて頂きました。そして、その中にあった問いに答えをくれる方に会うために、我々は大橋に向かいます。」

 

な、なるほど...ぐうの音も出ない。

ここで話すことが無くなってしまった。

 

「...あ、春信さん。」

「なんですか、緋月君。」

 

脳内を絞りに絞ること約30分。ようやく話すネタが思い浮かんだ。

 

「夏凜は元気ですよ。」

「そうですか、それは何よりです。」

 

...終わってしまった。あれ、俺こんなコミュ障だっけ?話すこと下手だったっけ?

 

「緋月君。」

 

悶々としてると春信さんから話しかけてきてくれた。心做しか、心配そうに。

 

「は、はい。なんですか、春信さん。」

 

返事をすると、少し春信さんは声のトーンを落としてこう言った。

 

「できるなら、夏凜が無茶をしようとした時に止めてあげて下さい。兄である私は側にいられませんので。それに...」

「それに?」

 

一拍の無音を春信さんは置いた。一番伝えたい事を伝えるために。

 

「あの方のように、夏凜にはなってほしくない...」

 

あの方...きっとこれから会う人なんだろう。

そんなふうにはなってほしくない...どういうことなのだろうか。無論予想は立ててるよ。けど、そうだとするならそれは■■すぎる。あまりにも...■■だ。

 

「...わかりました。記録者として、友人として、できる限り頑張ります。」

「はい。見えてきましたね。」

 

春信さんが窓を見る。つられて俺も見ると、二年前に大規模な事故が起きて崩壊した大橋が見える。ここできっと誰しもが思ったことを呟こう。

 

「一体全体どんな事故が起こったらあんなに反り返るんだろう...皆目見当もつかない...」

「いわゆる、気にしたら負けというものです。さて、着きましたよ。」

 

目的地に着いた。瀬戸内海が見える眺めのいい場所だ。綺麗な景色で、降り注いでいる太陽の光を波が反射している。眩しい。

 

「ではこれから君を乃木園子様の元へ連れて行きます。園子様は先代の勇者様であり、緋月君。君の問いに答えをくれる方です。くれぐれも粗相のないように。」

「は、はい...!」

 

乃木という苗字はそれだけで大赦の人間を震え上がらせる。なんせこの大赦という組織を上里家と共に作りあげた、大赦のツートップなのだから。その乃木家の勇者...しかも先代ともなるときっと厳格な方なんだろう。気を引き締めないと...そのうちに声が聞こえた。

 

「待ってたよ〜春信さん。」

 

その声を聞き、春信さんと共に声の主を見る。瞬間、気を引き締めていた俺は一瞬でそれどころではなくなっていた。全身に包帯を巻いている少女が、野外だというのに医療用ベッドに横たわっていたのだから。

 

「はい、園子様。お連れいたしました。」

「そう...ありがとね、春信さん。それで...あなたが、私に質問したい、えっと〜...」

「緋月です。緋月昇と言います。」

「そうそう、緋月昇君だね。う〜ん、ひーくんかなぁ...のぼるんでどうだろう...うん、そうしよう。私は乃木園子。よろしくね、のぼるん。」

 

あだ名をつけられた。個人的には友奈のひーくんのほうが好みだが、口答えするわけにも行くまい。温厚そうな方だけど、その方がかえって怒らせたほうが問題だ。

 

「よろしくお願い致します、園子様。」

「あぁ...やっぱりそうなっちゃうんだね〜...仕方ないかぁ〜...」

 

まずった...のか?だけど...きっとこの方は敬意を払われ続けて飽き飽きしてるのではないだろうか。同年代に見える俺だけでなく、歳上である春信さんにも...そうだとするなら納得がいく。

 

「ふ〜ん、さすがは記録者だね〜。」

「え...?」

 

推察を俺は音声化したのか?

 

「してないよ〜。でもね、だいたい考えてることはわかっちゃうんだ〜。すごいでしょ〜。」

 

えへへと微笑む園子様は、波から反射される太陽光とも相まって少し輝いて見えた。

 

「それじゃぁ本題に行くよ〜。のぼるん、何を聞きたいのかな〜。」

 

本題を問われた。だから答えないと。でも、その前にさっき春信さんがしたように、一拍置く。

 

「はい。私がお尋ねしたいのは、満開システムの後に露見した、勇者の身体の異常の理由です。」

 




次回、第20話「真実と現実」

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