翌日。普通に学校に登校し、いつものようにクラスに入り、朝のホームルームの後に一時間目が始まる。内容は国語の文節と単語の授業。はっきりいって眠い。友奈はなんか考え事をしているな……東郷が少し気にして友奈に視線を送る。それに気づいた友奈は授業中だというのに普段のトーンで、
「あ、あぁ、なんでもない!」
と。もう一度言おう、授業中だ。
「結城さん?」
「は、はいぃ!」
「なんでもなくないですよ。」
当然、教師から注意を受ける。教室の面々からは笑い声が。まったくなにやってんだか。
「じゃあ、教科書を読んでもらおうかしら。」
と、教師が授業に戻す。ここまでが普通の日常。この瞬間、非日常の訪れを示す福音にして日常の終末を示すラッパに等しい警報がけたたましく教室に響き渡る。……俺はこの音を知っている。だが、音源たるスマホの持ち主である友奈と東郷は知らない。知る筈もない。友奈と東郷が各々のスマホを確認する。
「何、これ……」
やはり、か。やはり知らないか。
「よかった……止まっ……あれ?」
確かに音は止まった。止まったのだ。だが、警報の音が止まったのと同時に時間も止まったのだ。
「友奈、東郷……止まったのは音だけじゃない。時間もだ。時間も止まっている。」
「時間も……?どういうこと、緋月君。」
「そのうちわかる。」
刹那、空を裂く虹の雷が走る。
そして、衝撃と光と少しの振動とともに雷から別の世界への扉が開かれた。
「東郷さん!」
「友奈ちゃん!」
「伏せてろ!」
友奈が東郷に覆いかぶさりその上に俺が覆いかぶさる。耐ショック姿勢ってやつだ。何ら問題はない。そして、光の量が減ったのを頃合いに、目を開けて周りを見回す。そこは日常生活に片時の終止符を打つ、樹海であった。
「ここ、どこ……?私たち教室にいたはずだよね。また居眠りしてるのかな……」
「頬を引っ張ってみればどうだ?」
「う、うん……痛い……」
「夢、じゃないようね……緋月君、ここがどこだか、どういうところだかわかる?」
東郷が俺に問う。確かに俺は知っている。事情も何も大体全部。だが、こいつら自身が向き合わないといけないのがこの事態だ。故に、俺がとやかく言えたものではない。
「わかる。けどきっとその説明をするのは……」
草むらが揺れる。この方角からなら、おそらく出てくるのはあの二人だろう。
「風先輩、樹ちゃん!?」
「三人とも無事!?……よかった……」
「わー!風先輩!樹ちゃん!えっと、どうしてここに!?」
「それはこのアプリにある隠し機能さね。じゃあ風先輩、説明してもらえますか?主にこいつらに。」
俺は大体全部わかるし。
「そうね。それじゃあ樹、友奈、東郷、よく聞いて。」
先輩が説明を始める。
「まずここは、神樹様の作った防御結界、樹海よ。」
「神樹様が……?じゃあ悪いところじゃないんですね。」
「いや、友奈。ある意味最悪の場所だ。お前たちはここで敵と戦わないといけないんだからな。」
「こら緋月、動揺させるようなこと言うんじゃないわよ。」
そんなこと言われましても事実でしょうに。と喉元まで出かかったのをぐっとこらえ、代わりに東郷が声を出す。
「敵……?二人とも、どうしてそんなことを知っているんですか?」
そう東郷が問う。先輩は少し考えたのち、口を開いた。
「……みんな落ち着いて聞いて、私と緋月は、この事態に対応するために大赦から派遣されて来たの。」
「部署は違うけどな。」
それは神樹様を祀っている組織にして政府としての側面ももつ組織、大赦に所属しているということ。この事態に巻き込まれさえしなければ、誰にも言わないはずだったこと。
「ずっと一緒にいたのに……知らなかったよ……」
「当たらなければ、ここに来ることがなければ、ずっと黙っているつもりだったから……」
守秘義務ってやつだな。そこらへん大赦は厳しい。
「あのー、さっきからここにある大きい点は……?」
今度は友奈が問いを出す。端末に映る大きな点。大きすぎてもはや円である。しかしそれは敵の存在を認識したということに他ならない。
「来やがったか……そんなに速くないやつでよかった。説明の続きとしよう。あれは人類を滅ぼそうとする謎の生命体、バーテックス。奴らの目的は世界を守護する神樹様の破壊。その神樹様を護るのが、お前たち、神樹様の勇者だ。」
「言いたいこと大体言われた……」
説明ひと段落。が、次の問題が。
「あの……何か光っているんですが……」
「やっべ気取られた!伏せろ!」
瞬間、周囲が爆発する。俺は自分自身、友奈は東郷を、先輩は樹をそれぞれ守ったが……待て待て、こいつぁやばいな。もし直撃だったらと思うと……
「ダメ……私怖い……戦うなんて、出来ない……」
東郷の精神が折れたか……いや、この歳の少女としては当然の反応だろうな。
「東郷……友奈!東郷を連れて逃げて!」
「でも!」
「いいから行け!後ろは俺が守ってやる。」
らしくもないが、追い返すような鋭さを宿して睨み付ける。友奈はそれにおののいたのか東郷の車いすを押して下がっていく。
「樹も……それに緋月も!」
「どさくさに紛れて俺も逃がそうとしないでください。あれは一人で何とかできるもんじゃない。それに俺だって大赦の人間。勇者の力がなくたって、護身と軽い援護程度の力はありますよ。」
俺は制服のポケットの中から紋様の描かれた札を数枚取り出す。神樹様の霊力を宿した札、名前を霊札という。
「樹は逃げとけ……肝が据わってるようにみえる東郷でも心が折れたんだ、無理はするな。」
だが、樹の返答は俺の予想の逆だった。
「緋月先輩……でもそんなのできないです!お姉ちゃんを置いていけないよ!」
「樹……」
「一緒にいるよ、何があっても!」
「そう……じゃあ、樹続いて!緋月!友奈と東郷は任せた!」
そう言って犬吠埼姉妹は変身する。
「戦闘記録共々任せてもらいますよ。だって俺は、大赦から派遣された、『記録者』ですからね……!」
両足に霊札を纏う。札の効力があるうちは、ジャンプ力、が上がる。そのうえ爆風でさらに上昇、札の力でどうにか姿勢制御して、友奈たちの前に着地する。
かくして、勇者部vsバーテックスの戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
「記録開始……交戦対象、乙女型。交戦者、犬吠埼風及びその妹樹……っと。」
俺も俺で、記録者としての仕事が始まってしまったのだった。
第3話 「勇者」
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