──俺は知りたい。
それは探究心から来るものではなく、真実をありのまま受け入れたいという、どちらかといえば自己満足に等しい望みだ。故に、園子様が口を開くまでの数秒でさえ俺にはもどかしく感じられた。
「...そっか...そこまで来ちゃったんだね。」
答えが帰って来る前の間は、過ぎてしまえば一瞬だった。だけれども、それは答えというよりかは問いの反芻のように思えた。そしてそれだけで俺は、この人は全てを知っていると理解出来た。
「ねぇ、のぼるん。咲き誇った花は、その後どうなると思う?」
「花、ですか。植物における花は、やがて散って果実や種子を残しますね。」
うんうん。と園子様は頷いた。
「そう。勇者システムに満開という名の力があるのはね...やがて花は散るという意味の、散華というシステム...身体の機能を、神樹様に供物として捧げるシステムが隠されているからなんだよ。」
全身に鳥肌が立った。こんなに太陽が降り注ぎ(園子様には日除け雨よけがちゃんとあるが)、地形上風もそんなに吹かないから寒くなる要素なんてどこにもないのに、今俺はとてつもない寒気に襲われている。
「だと、するなら...園子様...あなたもまた、散華の影響でそんなお姿に...?」
「うん。」
戦慄、とでも言うべきなのだろうか。俺は言葉を発することすらできなかった。それだけ、衝撃が強すぎた。事実をありのまま受け入れたい、己の望みの招いた結果だ。だが、後悔しか、残らなかった。
「のぼるん、残念だけど、それが真実なんだよ。」
───────
「私はしばらくここにいるからね。今度は普通におしゃべりできれば嬉しいかな。」
去り際に園子様はそう言い残した。
俺は一礼して、来た時に乗ってきた車に乗る。春信さんも乗って、元いたビーチまで戻ることになった。
「...緋月君。」
今度は静寂を春信さんが打ち破った。
「...なんですか、春信さん...」
「このこと...勇者様には内密にお願いします。」
「口が裂けても言えないですよ...園子様が直接あいつらに話さない限りは、あいつらは知る由もないです。」
「そうですね...ですが勇者様と園子様の接触はブロックしております。その心配は恐らくないかと。」
そうですか。そう返して話は止まる。
「残酷すぎませんか...あまりにも...」
───────
ビーチに戻った時はもう既に日が傾きかけていた。片道一時間はやはり身体にくる。
「では、園子様にもう一度会う時は一報を下さい。迎えの車を送ります。もっとも、園子様が君を呼ぶ時も同じくですが。」
「わかりました...今日はありがとうございました。そのときはまたお願いします。」
来た時と同じように一礼して春信さんは車に乗り去っていった。俺は一人立っていた。
「...これを抱えて生きるのか...はは、笑えない...笑えないぜ...まったく...」
砂浜を見ると勇者部がまだいた。
散華の影響なんて考えもせず、年頃の女の子よろしくはしゃいでいた。楽しそうに笑っていて、嬉しそうに遊んでる。その姿と、あの包帯が印象に強く残る園子様が同い年だと思うと、自然と涙が出ていた。わかってる。これではただの不審者だ。涙を抑えないと、ここから移動しないと...それでも俺は動けなかった。荒れ狂う感情の渦潮が理性の堤防を越えてきた。目の前が潤む。ぼやける。嗚咽を抑えるので精一杯だ。ガードレールにもたれかかる。人目がないのは幸いだ。
「...こんな痛みを、苦しみを...!一人で、抱えて...!誰に、話すことも、できずに!ずっと...!」
──それが真実なんだよ──
頭に園子様の言葉が蘇る。
もう、止められない。
でもダメだ。
今ここで喚けば絶対あいつらに聞こえるだろう。だからだめだ。抑えないと。
「真実を望んだツケがこれか...魅了された結果がこれか...!あまりにも残酷だ...けど、現実にそれを教えることなんてできやしない...!」
だったらどうする。
「決まってるさ...黙ってればいい...嘘をつき続ければいい...あいつらの目を、見なければいい...」
それでいいのか。
「いいわけねぇよ...気取られたら終わり...でも話すわけには行かない...真実の苦しみは俺が知るだけでいい...何故なら俺は記録者だ。真実をありのままに記録する...今回は脳内に記録したまでのことだ...仕事だよ、仕事...」
気づけば涙は止まっていた。
夕日とさざなみの砂浜を見やり俺は、伸びゆく影を踏みしめながら砂浜の近くの旅館に向かったのであった。