緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第32話 必要な犠牲だなんて

報告。

 

東郷美森による壁の破壊により壁外のバーテックスが流入。これを撃退すべく勇者四名が出撃、これを全て殲滅した。

 

被害は三好夏凜、及び結城友奈のほぼ全身の散華、記録者緋月昇の右腕の損失、物的被害は壁の損壊である。なお、壁外のバーテックスはほぼ全滅しているため、壁の修復には少し時間をかけてもよいと思われる。

 

「...以上で報告を終わります。わざわざ病室に来なくても報告書を送りますよ?春信さん。」

「いえ、できるだけ早急に報告が欲しいと催促されまして。それより、腕の方は?」

「えぇまぁ...霊札で義手もどきは作れるので問題ないかと。というか、春信さん...まずは夏凜の心配しましょうよ...」

「...いえ、今私が夏凜を見たら、業務に支障が出てしまいますので。」

 

沈痛な嘆きだった。見舞いに行くと耐えられないから見舞いには行かない。その気持ちは、痛いほどにわかる。痛いほどに。

 

「そう、ですね....」

「はい...それと緋月君、園子様から伝言が。」

「園子様が?」

 

果たしてどんな内容なのか。

 

「『退院したらまた会いに来てね〜』だそうです。気に入られましたね。」

「そのくせ全てお見通しなのが怖いんですけどね...わかりましたとお伝えください。」

「はい。それでは夜も遅くなってきましたので私はこれで失礼します。」

「あぁ、はい。上に報告の方、お願いします。」

 

春信さんが病室を出る。

ここは個室だ。大赦お抱えの大きな病院であるからこその技とも言える。

 

だから、何も無い空間に一人取り残されているような気分が味わえている。

 

「これを二年って...ほんと何者なんだ園子様は...一日でも気が狂いそうだ...」

 

できることは寝るだけ。それを二年。入院して初めて、園子様がとんでもない人物であることを身をもって体感できた。でも敵は一時的とはいえ殲滅した...だとするなら...

 

「奇跡の可能性も...あるよな...」

 

 

───────

 

 

翌日、俺は退院して学校に向かった。

友奈以外は検査だけで終わったらしい。

 

とはいえ今俺には霊札がないため、腕を骨折したものと偽装する必要があったけれども。

 

「うおい緋月...お前は骨折かよ...」

「その反応だと、他の状況も知ってそうだな...」

「そんなわかんねぇよ...でも友奈ちゃんがまだ入院してるっていうのは東郷さんがやつれて見えるからわかる。」

「お前、モブキャラの割によく周り見てんな...正直感心したよ。」

「モブキャラってなんだよ!?なんでそんな物語チックなんだよ!」

「悪い悪い...夏凜はどうだ?」

「まだ来てないな...なぁ緋月。勇者部で何かあったのか?依頼を受けたらそれは勇者部が邪魔な連中が仕掛けた陰謀だった!とか俺はありそうだと思うんだけど。」

「あー...ちょっと大きめの交通事故だよ。山火事の報道があったろ?あれのドタバタで巻き込まれてな...夏凜が樹を、俺が先輩を、友奈が東郷を逃がして、逃げられなかった組がこのザマだよ。」

「なるほどな...事故だったか。」

 

と、クラスメートとの会話がひと段落着いたところで、松葉杖+眼帯+包帯姿の夏凜が教室に入ってきた。

 

ザワつく教室。先のクラスメートは俺に説明を求めてきた。大丈夫なのかあれ、と。

 

「いや、夏凜じゃなきゃ死んでるレベルだっての...正直なこと言うなら俺があれぐらいの怪我してまで守ろうとしたかったが...怖かったんだよ、許してくれ...」

「馬鹿ね、全く...」

 

そのとき始業を告げるチャイムが鳴った。

 

「起立、礼、神樹様に、拝。」

 

 

───────

 

 

時が経ち放課を告げるチャイムが鳴った。

万が一の時用に箸だけは左で持てるようにしていたおかげで誰かに食事を与えられる...なんてことは起きなかったのが救いだ。

 

「昇、ちょっと階段登るの手伝いなさい。」

「のぼるだけにか...あいよ。」

 

お姫様抱っこをしようとしてその腕がない事に気づいた。おのれ、大赦に後で霊札よこせって言わないと...というわけで仕方なく肩を貸して階段を登り、家庭科準備室、もとい勇者部部室に着く。

 

「緋月昇及び三好夏凜、到着しました。」

 

「お、緋月も夏凜も来たわね。早速だけど友奈のお見舞い行くわよ。」

「了解です。」

 

 

───────

 

 

さてこれで何度目かの場面転換か。

 

「東郷〜、友奈〜、ごめん、遅くなった。」

 

ここは病院の中庭だ。病院の敷地内でそこそこ大きな声を出せるところである。

 

「友奈さん、これ、押し花...」

 

樹が押し花を友奈に渡す。そういえば友奈の趣味は押し花だったな...樹の声も戻ってる...ん?

 

「樹、声戻ったんだな...」

「夏凜が治ってるのに気づかなかったのね...」

「つまりは...東郷の脚や園子様の身体だって治る...治る、はずなんだけど...」

 

友奈を見る。

光のない目、半開きの口、微動だにしない身体...いつもの友奈のイメージが強いせいで、今の友奈がいかに抜け殻のようなものであるかが強調されている。

 

「ちくしょう...」

 

夏凜がやり場のない怒りをあらわす。

 

「私は...一番大切な友達を犠牲に...」

「言うな!」

 

東郷の自責を先輩が遮る。

 

「何も言うな東郷...言い始めたら、私だって...!樹を...緋月を...!」

「それこそ何も言わないでください。」

 

遮ったかと思えば自責の連鎖。たまったものではないから今度は俺が遮る。

 

「俺の腕が持っていかれたのは、突き詰めればそれは全てバーテックスのせい...だから先輩は悪くないし、東郷も。壁を壊したからなんだ、入ってきた奴らが悪い。」

「でも昇、報告書はどうするのよ。」

「そんな心配すんじゃねぇよ、バーテックスに食われたって報告にしておいたし。真実が嘘だっていいじゃないか。この、友奈のように。」

 

沈黙。友奈は目覚めない。

 

「信じましょう。友奈さんが戻ってくることを。」

 

 

風は樹々をそよがせ、美しい森の葉が音を鳴らす。夏の終わりの凜とした日がまた昇る。しかし、友の帰らぬことこれ奈何。

 

 

勇者部は、まだ戦いから解放されていなかった。

 




次回、第33話「おかえりなさい」

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