緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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さぁ始まりましたくめゆ編。
そういや花結い23話今日ですね。


第38話 灼熱地獄

9月中旬。

予定よりも少し早く『防人』に合流することになった俺は、『防人』達の拠点であるゴールドタワー...ではなく何故か壁上に連れられた。しかもそこには既に33人の人間が。内訳は32人の制服姿の少女達と1人の巫女であった。

 

「女難の相が出てないか後で樹に占って貰わなきゃな...という冗談はさておいて...」

 

俺をここまで連れてきた女性神官を見る。俺はこの人を知っている。夏凜と芽吹の勇者選定に関わっていた神官だ。

 

「皆さん、揃っていますね。」

 

その神官が仮面の下の口を開き、声を出す。その声に反応するように少女達はこちらに振り向く。

その集団の筆頭らしき少女に俺は見覚えがあった。間違いなく、楠芽吹であった。

 

「こちらはあなた達の壁外調査の記録者です。」

 

いきなり紹介された。聞いてない。

 

「こほん。記録者、緋月昇です。同行者ということになるのかな。ひとまずよろしく。」

 

神官がこちらを向く。

 

「霊札は壁外では貴方から半径2m以内でのみ機能します。それより外では燃え尽きてしまいます。神樹様の力が届く結界の範囲ではないので。」

「そうですか...叢雲も効果は...」

「ありますが、神樹様の力による補正がない以上、力の制御はほぼ不可能に近いでしょう。」

 

つまり、壁外にある程度殲滅したはずのバーテックスがいた場合は霊札剣のみが頼りだということだ。これはお荷物まっしぐらじゃねぇのか?報告書書くまでに殉職説絶対ある間違いない。

 

「わかりました...」

 

しかし立場上承諾しなければならない。とりあえず9月末までは生きねば。

 

「それと、貴方にはこれを。壁外の炎に耐えるための外套です。素材は霊札と同質のものであるため、霊札と似たような使い方ができます。」

「炎、ですか...やれやれどうなってんのか...わかりました。緋月昇、勇者様付樹海内状況記録者より、防人付壁外状況及び活動記録者への転属、受領しました。」

 

よく噛まずに言えたよ...

 

「それでは貴方達に第一の任務を与えます。壁外におけるある地点の土壌をできうる限り採取してきてください。その際戦闘になる場合が想定されます。しかし、再三伝えましたが、戦衣で星屑以上の敵を相手にしてはいけません。」

 

星屑、あの小型か。

 

「総員、戦闘態勢に入って!」

 

防人達は変身し、俺は渡された外套を羽織る。黒いマントと思うとかっこいいなと思う。

 

「さて...記録者の久々の仕事といきますかね。」

 

幼さの残る巫女の少女が祝詞を唱える。

 

「皆さん。絶対、帰ってきてください。」

 

巫女の少女の声は辛そうだった。

 

「行くわよ!」

 

隊長のような装備を持った芽吹の号令で、防人32名と記録者1名は壁外調査へ赴いた。

 

 

───────

 

 

結界を超えると、そこは灼熱だった。

 

「うわ...」

 

絶句。肌を焼くほどの暑さ。外套ありとはいえすぐに汗が吹き出る。とても人の生きる環境ではない。なるほど東郷が壁を壊したくもなるわけだ。

 

「メモしてる余裕もないか...樹海の中を思い出す...今となってはあそこすらまだまともな領域だと理解しちまったなぁ、やれやれ。」

「...みんな、壁から降りるわよ!離れないように一ヶ所にまとまって!」

 

芽吹の指示は的確だ。その通りに動いていれば最適解であろう。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?怖いよメブ、絶対これ死ねるやつだよねぇ!?助けてメブぅぅぅ!!!」

「雀!動けないから離れて!」

 

ある一人...雀と呼ばれた盾をもつ防人の叫びが壁外に轟くが、そのせいで星屑がこちらに気づいてしまった。穏便に済ませたかったのに。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?」

 

叫びをまた上げる雀。それと対照的な声がまた一つ壁外に響き渡る。

 

「何を恐れる事があるのです!」

 

一人、陣形から離れて星屑を迎え撃たんと突出する防人がいた。

 

「ここで功をあげ、弥勒家を...!」

 

かたや過剰に臆病な者。かたや過剰に無謀な者。奇しくも俺と芽吹、全く同じ事を思っていたらしい。もっとも、発したフレーズは違ったが。

 

「うろたえるな!」

「弥勒さん、突出し過ぎです!」

 

『っ...!』

 

両者を諌めたところで星屑が襲ってくる。あーもう、これってもしかしなくても勇者部よりも面子はカオスだよなぁ!?

 

「銃剣隊構え...撃て!」

 

号令の後の一斉射撃。襲いくる星屑は風穴が空いた後に消滅していった。

が、勝利の余韻に浸るまもなく星屑は次々湧いてくるし、視界の端には動けていない三人の防人とそれを襲わんとする星屑数体がいた。

 

「ちっ...芽吹、一旦下がるほうが良さそうだ...!霊札展開、盾踏み台にするよ!」

 

本来こういうのは俺の領分ではないけれども。

 

「何もしないで死なれるのは目覚めが悪くなっちまうんだよ...それに死人が出たと記録したくないんでねぇ!」

 

霊札剣を二本作り、恐怖で動けない防人の少女達を今にも食い尽くさんと大口を開けた星屑を裂く。その数3。それでも焼け石に水にすぎない。

 

「全員集合!護盾隊は防御陣形をとって!」

 

直後に芽吹達が合流、とりあえず全員今の所は無事であった。我ながら狂気じみたことをやったよ...でもまぁ、現物を見たことなかったらああもなるか...

 

「...戦えるのね、昇君も。」

「...一応はな。だがどうする芽吹。任務が採取だからいいようなものの、この星屑の量、斬る度増えてる気がするぞ...」

「そうね...ある程度ここで耐久、採取次第撤退するわ。さっきあんだけ動いてくれたもの、昇君も戦力として数えて指示出すわよ。」

「冗談キツイぜ...」

 

「二番から八番までの防人と昇君は盾の外で星屑の殲滅、護盾隊の援護を!それ以外は採取任務にあたって!」

「ほんとに言ったな...しゃあない...いっちょやりますか!」

 

星屑の量がやはり尋常ではない。二刀流だけでなくこの外套をも霊札のように硬質化させて切断装備にも盾にもなるように目まぐるしく変化させねばならない。それに樹海のように足場もなければあの時のように後ろに樹がいない。おまけに領分から外れた事をし続けると身が持たないわけでありまして。

 

「どんだけ時間経ったんだよ...ちょっと限界近いぞ芽吹...」

「それは私達もそうだし護盾隊もそうね...採取もある程度は完了している...」

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

撤退、と口を開こうとした芽吹はその叫びに呼応するようにその方向へ跳んでいき、一人の護盾隊の少女を星屑から救出していた。

 

「総員撤退!私の隊では絶対誰も死なせない...必ず生きて帰るわよ!」

 

その号令から約10分後、なんとか星屑をかいくぐり全員で結界内の壁上に帰還できた。

負傷者は7名、そのうち数人は重傷。

防人は番号で確認できるから誰がどのくらいの怪我をしたのかは把握しやすかった。負傷者には霊札による止血処理を一応して、脳内でまず記録をまとめる。

 

「なるほどあれが壁外ねぇ...筆舌に尽くしがたいあれをどう報告書にまとめればいいのやら...」

 

そう思って帰路につこうとする。

 

「待ちなさい昇君。貴方はこっちよ。」

「え」

 

夏凜の家に帰りたかったのに。

なんてことは芽吹の前では言えるわけでもなく、ただ芽吹ら防人に連行されていった。

 

「......」

 

一人の少女の視線をじっと背に浴びながら。

 

 




次回、第39話「金の塔、銀の影」

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