「...7時間眠ってた俺が言うのもあれなんだろうけどさ、今どんな状況なの?」
「ご覧の通りよ。しずくの隠されていた人格...山伏シズクよ。」
はー、二重人格と来ましたか。
「で、今はその人格のまま訓練してる...って、なるほどあれが防人番号9番の所以か...」
「けどあれは私の隊では不要よ。」
「そうかい...結構あれは戦力になると思うけどな。御しがたいだけであって。」
「聞こえてっぞ!不要だと...?」
シズクと芽吹の目線がぶつかり合って火花を散らしている。血気盛んだこと。
「えぇ。防人には集団で戦う力が求められる。その力を持たず、逆に私たちの連携を掻き乱しかねない貴方は。」
「...俺は俺より弱いやつの指図は受けるなんてこと、納得出来ねぇんだが。」
「じゃあ、解らせてあげるわ。」
───────
「で、勝負には芽吹が勝ったと。」
「そういうことになるわね。」
「俺の言うことは聞かないんだろうな。」
「私が聞けと言えば聞くんじゃないかしら。」
「力が真理とな...わかりやすくていい...」
現在俺は芽吹の部屋で報告書を書いている。寝てた分の仕事はしないと。
「わかりやすい、と言えば。芽吹、俺は防人番号でいうとどのぐらいの位置にいるんだ?」
「...まずシズクには勝てないわね。」
「うんそれぐらいはわかるさ。」
ナチュラルに私にも勝てないと言ってるようなものだが...まぁいい。わかりきってることだ。問題はその先にある。
「そうね...弥勒さんあたりと模擬戦でもしてみるっていうのはどう?」
「2mより広い範囲で霊札広げていいかだけ確認させてくれ。」
「駄目よ。」
「やはりか。」
報告書を書き進める。
「休憩...というかほぼ完成。署名だけしてくれ...ちょっとココアシガレット買ってくる...」
「またおつなものを...だったら署名したから提出してきなさい。二度手間でしょ?」
「さっすが隊長、読みきっているな。」
芽吹から報告書を受け取って部屋を出る。神官に提出するだけだからまぁ、ものの数分で終わるわけでありまして。ココアシガレットを購買で買って(冗談のつもりがまさかほんとにあったとは)タワーをうろうろしている。
「...仕事終わるとやることなくなるのが俺の悪いとこなんだよなぁ...趣味と言える趣味もそんなにないし...やれやれ...」
とりあえず展望台に来た。日が沈んだ後の赤い空と黒い空が共存している時間帯であった。
「あれ、しずくか?」
その展望台には、山伏しずくがひとりぼーっと空を見ていた。
───────
「...三ノ輪を、知ってる?」
開口一番それだった。
三ノ輪銀。先代の勇者。
俺と夏凜を足して2で割ったような少女。
「直接会ったことはないけどな...でも似ているって何回か言われたことがある。しずくも、そう思うのか?」
「そう、かもしれない。」
「...そっか。」
風が吹く。
頬を撫でる風はもう冷たい。
「なぁ、しずく。」
「...なに、緋月。」
「いるか?ココアシガレット。」
「...もらう。」
記録者の目...と言えるほど大層なものではないけど、この山伏しずくという少女にはどこか闇がある。きっとそれがもう一人のしずく、山伏シズクを形成させた所以だろう。
「何があったかは聞かないさ。だから話さなくていい。忘れろとも言わないけどな...」
「え...?」
「気にすんなこっちの話だ...冷えないうちに風呂って寝ろよ。風邪ひかないようにな。」
「待って、緋月。」
「ん?」
呼び止められるのは予想外だった。
「その...ありがと。」
「何もしてねぇよ...あーでもそうだ。よかったらもう一人のしずくに伝えてくれ。『これからもしずくのそばにいてやってくれ』ってな。」
「はっ、てめぇに言われなくてもずっと俺はしずくと一緒だっての。」
「おおう、予想より早い変わり身。じゃ、そういう事だ。」
展望台をあとにして部屋に向かう。
最後に一言シズクは言った。
「なんだあいつ...おせっかいなのかなんなのかわかんねぇやつだな...」
次回、第41話「壁外調査再び」
感想、評価等、お待ちしてます。