緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第40話 シズクかしずく

「...7時間眠ってた俺が言うのもあれなんだろうけどさ、今どんな状況なの?」

「ご覧の通りよ。しずくの隠されていた人格...山伏シズクよ。」

 

はー、二重人格と来ましたか。

 

「で、今はその人格のまま訓練してる...って、なるほどあれが防人番号9番の所以か...」

「けどあれは私の隊では不要よ。」

「そうかい...結構あれは戦力になると思うけどな。御しがたいだけであって。」

 

「聞こえてっぞ!不要だと...?」

 

シズクと芽吹の目線がぶつかり合って火花を散らしている。血気盛んだこと。

 

「えぇ。防人には集団で戦う力が求められる。その力を持たず、逆に私たちの連携を掻き乱しかねない貴方は。」

「...俺は俺より弱いやつの指図は受けるなんてこと、納得出来ねぇんだが。」

「じゃあ、解らせてあげるわ。」

 

 

───────

 

 

「で、勝負には芽吹が勝ったと。」

「そういうことになるわね。」

「俺の言うことは聞かないんだろうな。」

「私が聞けと言えば聞くんじゃないかしら。」

「力が真理とな...わかりやすくていい...」

 

現在俺は芽吹の部屋で報告書を書いている。寝てた分の仕事はしないと。

 

「わかりやすい、と言えば。芽吹、俺は防人番号でいうとどのぐらいの位置にいるんだ?」

「...まずシズクには勝てないわね。」

「うんそれぐらいはわかるさ。」

 

ナチュラルに私にも勝てないと言ってるようなものだが...まぁいい。わかりきってることだ。問題はその先にある。

 

「そうね...弥勒さんあたりと模擬戦でもしてみるっていうのはどう?」

「2mより広い範囲で霊札広げていいかだけ確認させてくれ。」

「駄目よ。」

「やはりか。」

 

報告書を書き進める。

 

「休憩...というかほぼ完成。署名だけしてくれ...ちょっとココアシガレット買ってくる...」

「またおつなものを...だったら署名したから提出してきなさい。二度手間でしょ?」

「さっすが隊長、読みきっているな。」

 

芽吹から報告書を受け取って部屋を出る。神官に提出するだけだからまぁ、ものの数分で終わるわけでありまして。ココアシガレットを購買で買って(冗談のつもりがまさかほんとにあったとは)タワーをうろうろしている。

 

「...仕事終わるとやることなくなるのが俺の悪いとこなんだよなぁ...趣味と言える趣味もそんなにないし...やれやれ...」

 

とりあえず展望台に来た。日が沈んだ後の赤い空と黒い空が共存している時間帯であった。

 

「あれ、しずくか?」

 

その展望台には、山伏しずくがひとりぼーっと空を見ていた。

 

 

───────

 

 

「...三ノ輪を、知ってる?」

 

開口一番それだった。

三ノ輪銀。先代の勇者。

俺と夏凜を足して2で割ったような少女。

 

「直接会ったことはないけどな...でも似ているって何回か言われたことがある。しずくも、そう思うのか?」

「そう、かもしれない。」

「...そっか。」

 

風が吹く。

頬を撫でる風はもう冷たい。

 

「なぁ、しずく。」

「...なに、緋月。」

「いるか?ココアシガレット。」

「...もらう。」

 

記録者の目...と言えるほど大層なものではないけど、この山伏しずくという少女にはどこか闇がある。きっとそれがもう一人のしずく、山伏シズクを形成させた所以だろう。

 

「何があったかは聞かないさ。だから話さなくていい。忘れろとも言わないけどな...」

「え...?」

「気にすんなこっちの話だ...冷えないうちに風呂って寝ろよ。風邪ひかないようにな。」

 

「待って、緋月。」

「ん?」

 

呼び止められるのは予想外だった。

 

「その...ありがと。」

「何もしてねぇよ...あーでもそうだ。よかったらもう一人のしずくに伝えてくれ。『これからもしずくのそばにいてやってくれ』ってな。」

 

「はっ、てめぇに言われなくてもずっと俺はしずくと一緒だっての。」

「おおう、予想より早い変わり身。じゃ、そういう事だ。」

 

展望台をあとにして部屋に向かう。

最後に一言シズクは言った。

 

「なんだあいつ...おせっかいなのかなんなのかわかんねぇやつだな...」

 

 

 




次回、第41話「壁外調査再び」

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