何事はあったが翌日の昼には退院し、帰宅し、夕飯を作っていた頃学校から夏凜が帰ってきた。昨日の顛末を聞くと、勇者部はやはり全員東郷美森に関する全てを忘れてたらしい。
「友奈と園子のショック具合がすごくて...私も、ショックは受けてるけど...」
なるほど夏凜もか。
「そう、か。じゃあ俺は書史部で東郷の記録がないか確認してくる。」
「待ちなさい、昇。そこにはないわ。」
「...根拠は?」
「勇者部みんなで撮った写真に、東郷が写ってないのよ。確かにこの写真を撮ったとき、私の隣に東郷はいたのに。」
文化祭の時の写真だ。確かに人一人分の不自然な空間がある。
「つまり手詰まりか。」
「今のところはね...」
打開策は...あるにはあるが必要なのか。
そもそも存在を消さないといけないようなところに東郷は行ったのか。それとも、連れていかれたのか。前者なら周到すぎる。というか、奇跡ないし神様クラスの力でないと......
「神樹様...もしもこの東郷の失踪に神樹様が一枚噛んでいるとしたら...東郷は既に...いや待て、だとしたら...そもそもの理由はどこだ、何故人っ子一人の所在に神樹様が関与する...それほどまでの...」
「昇!」
「Φ!?」
「いや、そんなよくわからない声出さない。いきなりぶつぶつ考え込むから驚いたわよ...何回呼んでも気が付かないし...」
「おおう、それはすまん...」
だがしかし考えついた結論が1つある。
東郷美森は、もう...
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「のぼるんの考えはもっともなんよ〜、でもね。わっしーは生きてるよ、絶対。」
「思いのほか、怒ったりしないんですね。」
夕食を食べ終えた後で園子様に大赦回線で連絡する。仕事モード用の番号だ。
「わざわざお仕事用の電話でかけてきてるからね、それに私も1回はそう考えちゃったし。」
脳裏に名もなき墓標が思い浮かぶ。
あれはもしかしたら東郷美森と刻まれていたのではないか。いや、それは違う。だとしたら。ありえない可能性はない発想がよぎる。
「わっしーはね、壁の外にいるんじゃないかな。のぼるんもそう思うんじゃない?」
「お見通しですか。あの東郷がコロリと逝くはずないですよね。」
壁外。もしかしたら、東郷はどこぞの舞台少女みたく勇者部全員で担うべきバーテックスの殲滅を1人でやってるのではないか。または自分1人の自己犠牲で何かよからぬ事を鎮めようとしてるのか。前者も後者も同じようなものだがともかくその可能性はなくはない。
「俺は運動禁止なので壁外にはいけませんよ...というか行く手段あるんですか。あるとしても勇者システムでしょうけど。」
「...あるよ。ちょっと朝一で取ってくるんよ。」
「なるほどわかりました。あ、園子。」
「...ん、なぁに、のぼるん。」
「夏凜を頼みます。敵がたくさんいるからって、突っ込まないように。」
「...わかった。おやすみのぼるん。」
「おやすみなさい、園子様。」
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翌日夕方、勇者部は東郷美森を壁外から救出してきたらしい。らしい、というのは他でもない伝聞であり、それを聞いたのは本庁でのことだからだ。そして俺は1つの勅命というか、極秘の仕事が与えられることになった。その内容を聞いた時は思わず、
「...冗談じゃない...」
なんて愚痴が零れた。仕事は仕事だ。わかってる。だとしてもこれは、俺はどうしろととしかいいようがないものであった。
「緋月昇、貴方には...結城友奈様の容態をこと細やかに記録していただきます。」
それこそ東郷にやらせろよと心から思ったよ。
次回、第46話「それは鉛より重く」
勇者の章3話へゴー。
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