勇者部面々と朝飯の雑煮を食べた。その7人分の皿を全て片付けた後、夏凜と俺以外は帰宅していく。いつも思うけど元気だよなぁ...
「ねぇ、昇。あんた疲れてるでしょ。」
一瞬■■■に気付かれたと思ってヒヤヒヤした。自力で気付くならまだ大丈夫だが、俺が変に口を滑らすと...それだけはいけない。
「はは、バレたか。寝れてねぇんだ。ここだけの話、年末年始仕事漬けでさ。」
「はぁ...どうせそんなことだろうと思ったわよ。はいこれビタミンC。これ飲んで寝なさい。」
「そうしたいのはやまやまだけど...これから仕事。ありがたく頂いて頑張ってくるよ...」
「ほどほどにしなさいよ、全く...」
「へいへい、いってきまーす。」
緋月昇が眠れてない理由、それは■■■による痛みと精神への影響に他ならない。
前者は物理的な痛みをもって眠りを妨げ、後者は非物理的な苦しみでもって眠りを妨げる。
霊札を操れる俺は起きている時ならば霊札に宿った神樹様の霊力を使うことで■■■をある程度軽減できているのだが、普通の人間ならそうしたとしてももって三日だそうだ。やっぱり俺が生きてる理由はわからない。
「はぁ...痛てぇなぁ...」
大赦本庁へ向かう車の中で刻一刻と強くなる痛みをこらえる。腹やら背中やら、もう胴体全体に蝕みが回ってるんじゃないかと思いながら、ただただこらえる。それしかできない。
意識が飛びそうだ。だが飛んでもそれは繋ぎ止まる。眠ろうにも、油断すれば死が待っているのだ。おちおち寝てはいられない。
「友奈は、眠れてるのかな...」
言葉になったかわからない声でつぶやく。御姿...いわば神樹様が造った人間となった友奈には神樹様の霊力が俺と違って何十倍も働いている。それでもじわじわと命は削れているが...
「もう約20日くらい...か。」
そこから先はもう思考ができないほどまどろんでいた。今度こそ眠れるのだろうか。痛い。眠れたとして、起きれるのだろうか。痛い。
あーあ、怖いなぁ...
「あれ、ここは...」
霊札らしきものが四方の壁と天井一面中に貼られ、さらにその上にまた何か杭みたいなものが刺さっている。見たところ呪術部のようだが...それに身体の痛みも少し引いている。寝てる間に何かが起こったようだ。
じゃあ何が起きたのだろうか。本庁に着いたまでは覚えてる。そこから先はもうダメだ。わかるのは久々にぐっすり眠れたという感覚。頭痛も無ければ視界に靄もないすっきりした感覚だ。
「お目覚めですね。」
その声で思考が停止する。声の主はいつもの女性神官であった。
「えぇ...ここは...?」
「神樹様の御膝元と呼ぶにふさわしい神域です。ここには神樹様の霊力が溢れています。」
「なるほど...だから、身体の調子がいいのか...でもそれだけじゃなさそうだな...」
「はい。貴方が生きながらえていることの理由は貴方の体質に由来します。」
「え...?」
体質...?どういうことだ?免疫みたいなものか?だとしてもなんで?
ハテナが頭を支配する。
「緋月昇。貴方には天の神に由来する因子が体内に存在しています。」
「え...?それはどういう...?」
「言葉通りの意味です。」
まじかよ。だとしたら全部納得がいく。何故神具《叢雲》が使えるのか。霊札が使えるのか。天の神由来の因子、いわば天の神の力があるからだ。だから■■■を受けても進行が遅いし、樹海の中で活動ができたことにも納得が行く。霊札の場合は神の力のチャンネルを天から地にスイッチすればいいだけだ。大赦は知ってて俺を記録者にした説はこれで確定か。
...とまぁここまで脳内で考えて、音として発せられた言葉は皆無である。
これはあまりにも衝撃が強すぎる。
「しかし貴方の体質をもってしても■■■はそれを上回った。そして我々は貴方を失うわけにはいきません。よって、貴方には今日より3日に1回、ここで休んでいただきます。いずれ期間は短くなると思われますが...」
「そう、ですか...わかりました。では帰ります。御役目も果たさないとですし。」
「わかりました。帰りの車は手配しております。お気をつけて。」
手際がいい...まぁここは長居していい場所ではなさそうだしな...とっととお暇しよう。
「参ったなぁ、まじで。」
一月はじめの夜の風。
それは心まで震える寒さを感じるものだった。
次回、第51話「友奈と昇と勇者部と」
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