緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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旧53話 最期の記録

神樹様の所へ向かう動く木の根。

その先に友奈がいて、ただ神樹様を見ている。

俺はその動く根の根元、地面に近い部分に腰掛けて、視界の先に見える天の神と勇者部の戦いの様子を見ている。

 

「なぁ、友奈。」

「どしたの、ひーくん。」

 

この速度で動けば友奈と話せるのはせいぜいあと7分くらいか。いや、もしかしたらもう少し短いかもしれない。

 

「俺とお前は、どっちもタタリに蝕まれている。何も気にすることは無い。だから最後に言いたいこと、言ったらどうだ。」

「...ひーくん...」

 

それでも友奈は話さないと思う。結城友奈という少女はそういう子だ。だから俺から話す。

 

「正直、俺は怖い。」

「え...?」

「今にも死ぬんじゃないかって恐怖と、神婚する友奈を看取る恐怖と。どっちも怖い。それに、霊札の残り枚数も少ないから《叢雲》が制御出来なくなって友奈を助けに来るであろう勇者部を傷つけるのも、怖いよ。」

 

戦闘の様子が見えなくなってきた。結構な距離がありそうだな...

 

「でも、さ。そのまだあどけなさが残る肩に世界の全部をかけている友奈に比べたらって思うと、悲しいかな。まだ俺は弱音を吐くには早すぎるって思うのさ。曲がりなりにも男なわけだし。」

 

紅く光る輝きと花開く大輪のサツキ。

夏凜が満開したのかと思う。またか、不安でしょうがない。相手は天の神だ。本来に《叢雲》の主。もしかしたら満開でも攻撃力が足りないかもしれない。そして防御力も...

 

「あぁ...」

 

だが、駆けつけたくてももう身体が動くかどうかも怪しい。それに、友奈を独りにしてはおけない。《叢雲》の暴走の危険性もある。どのみち行ってもどうにもならない...

 

「友奈よぉ、教えてくれよ。神婚する前に、俺らの前からいなくなっちまう前に。ホントの気持ち、どうなんだよ。」

「...私は...」

 

震える声と身体。

背中越しの質問で、友奈の顔は見えない。

 

「怖いよ、死ぬのは...すごく、怖いよ!でも...っ!そんなこと言えないよ!だって私が神婚しないと、世界が無くなっちゃう!」

「...そうだな。世界を守るには、友奈が生贄にならなきゃならない。そうでなかったら滅んじまう。つまり、どちらにせよ友奈が生き残る選択肢は存在していない。大赦としてはな。」

「......」

「だから、友奈。生きろ。何がなんでも。」

「え...?」

 

言ってることは支離滅裂だという自覚はある。が。言わなきゃならない。友奈のために、勇者部のために。そして俺のために。

 

「生きろ、結城友奈!」

「でも...!」

 

振り返った友奈と目が合う。神樹様は近い。いつ最後の会話になってもおかしくない。

 

「他人に定められたあり方なんてほっとけ!他でもないお前自身の人生だ!生きるか死ぬかは自分で決めろ!」

「...っ!!」

 

たじろぐ友奈。自分を二の次にしている少女には、きっとこの言葉は刺さる。

 

「その結果が、どう転ぼうと俺は、勇者部は味方だから。任せるよ、友奈。」

 

右手で友奈の頭を撫でる。

撫でてる間に霊札が崩れる。

 

「限界、か。右腕分も生命維持に回さないと...それに、着いちまったようだな...」

 

神樹様の麓、神婚の儀がまもなく始まる。

 

「じゃあね、ひーくん。元気でね。」

「またな、友奈。元気でな。」

 

神樹様の中に友奈が取り込まれる。

友奈の装束の中に1枚仕込んだ霊札の効力が切れるのが先か、俺の命が尽きるのが先か、それとも。

 

遠目だが先輩と東郷が見える。

あの二人が、友奈を助けるのが先か。

 

記録者にはわかりえない。記録者はその結果を記録するのが仕事なのだから。

 

「まさしく、神のみぞ知る、か...」

 

緋月昇は消えそうな意識の中、たった一枚の霊札に全神経を集中させていた。

 

 




次回、第54話「全てを終わらせるために」

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