緋月昇は記録者である   作:Feldelt

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第7話 赤い勇者

先の二戦分の報告書を大赦に提出してからだいたい一ヶ月半が経った。この間に俺は霊札の使い方の修練をしたり、勇者部の活動をしたりなどそこそこ充実した日々を送っていた。そして今、山羊型のバーテックスを迎撃する勇者たちの記録をとるために樹海にいる。少し前に聞いた話だと大赦の正式な勇者が来るとか来ないとか……そういう噂があったけど、どうもその噂は本当のような気がする。

 

「あれが五体目……」

「一ヶ月ぶりだけど、なんとかなるかな……?」

「えーと、ここを、こうこう。」

「君たち……勇者部五箇条忘れたとか言わないよな……?」

「成せば大抵なんとかなる、よ。勇者部ファイトー!」

『おー!』

「というわけで俺と東郷は後ろに行くとして……」

 

勇者が各々散開する。

さて、来るのかな、新勇者。

──そう、こういうのをフラグと言うんだった。山羊型の四本の角のそれぞれの付け根に赤い刀が刺さる。その後発光を経て刀は爆発した。

 

「ちょろい!」

「来たのか……!」

 

上空より飛来する赤い人影。俺はその影を見た時に確信した。『あいつか』、と。

 

「緋月君?知ってるの?」

 

東郷が問う。知らずのうちにつぶやいていたようだ。まぁ、答えられる情報だし、そのうち本人からも答え合わせがありそうだから話しておく。

 

「あぁ、あいつが大赦の派遣してきた勇者だ。まぁ、芽吹か夏凜だと思うけど、どちらなのか見定めさせてもらおうかな。」

「けど、そんな悠長なことは言ってられなさそうよ。」

「へ?」

 

間抜けな声が出た。

だが、状況を見ると、赤い勇者は樹海に刀を突き立て、封印の儀に移行していた。

 

「封印開始……思い知れ、私の力!」

「一人でやる気か……ありゃ夏凜だな。」

 

確信が確証に変わる。よく知ってる奴で良かったと思うか、知ってるだけに扱いに困るか、それに夏凜の性格を考えると間違いなく……

 

「これはまた賑やかになりそうだな。」

 

気付けば山羊型の御霊が出現していた。今回の抵抗は煙幕……いや、あの紫色の煙は毒ガスか。後ろに居なかったら俺は死んでた……とまではいかないでも重度の昏睡状態になってた可能性がある。勇者にはバリアがあるが。

 

「そんな目眩まし……気配で見えているのよ!」

 

夏凜ならこう言うだろうな。そしてその後はこうだ。

 

『殲滅……』

 

とまぁ見事に一人で成し遂げやがった。果たして一人でよくやったと言うべきか、一人じゃ危ないと言うべきか。ともあれ苦言の一つでも呈する為に友奈たちと合流しなければ。

 

「まぁ、面識ある俺がどうにかして仲を取り持つとするか。東郷、俺ちょっとあいつの背後取ってくる。」

「え、大丈夫なの?相手は勇者よ?」

「相手が初見なら無理だけど、夏凜ならなんとかなる。」

 

樹海内を跳躍して東郷と共に友奈たちに近づく。俺は合流せずに上を通って夏凜の背後に回る。第一段階。

 

「えーっと、誰?」

「……揃いも揃って、間抜けな顔してるのね。」

「あの~……」

「何よ、ちんちくりん。」

「ちん……っ!?」

「私は三好夏凜。大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者よ。というわけで、あなたたちはポイ、お疲れ様でしたー。」

『え、えぇー!?』

 

夏凜め、ずいぶんな自己紹介だな……やってくれるとは思っていたがいささか高圧的にも程がある……そう考えると夏凜の背後に回るのは正しい判断だった。第二段階、着地。霊札で剣っぽいものも作る。さて、どう出るか。

 

「誰!?」

 

夏凜は振り返りざまに刀を飛ばして来る。やはり気づいたか。だが気配だけで俺は捕捉出来ない。夏凜の所作をよく見ていたから、刀は避けられる。右頬をかすめて血が出るが関係ない。すぐに近づいて霊札剣を突き立ててみる。

 

「そこかな!」

「嘘、外した!?」

 

勇者部一同はどよめいて呆然とし、夏凜はこちらの霊札剣を刀で防いでいた。まぁ、こんなもんでいいだろ。

 

「忘れたか?気配に頼るなって。目で見て、耳で聞いて判断しろ。」

「それ……まさか昇!?」

「おう。久々だな。夏凜。」

『えっ!?緋月(君、先輩、ひーくん)の知り合い!?』

「あぁ、まさかとは思ってはいたんだけどな。」

「私聞いてないわよ!なんであんたがここに!?」

「記録者だからだよ。さ、樹海化が解けるぞー。」

 

というわけで、勇者が増えたのであった。もっとも、屋上に戻った時に夏凜はいなかったが。

 

「ちょっと緋月、あの子の知り合いなの?」

「えぇまぁ。勇者に関わる記録者は、勇者の人となりもそこそこ知ってないと現地で馴染めなくて大変かもしれないということで、各地の勇者候補、夏凜も含みでの情報はある程度。というか夏凜は大赦の勇者候補だったからしょっちゅう訓練に付き合わされたりして大変だった記憶が。根はいい子なんですけど、それこそ馴染むまでは大変ですよ、夏凜は。そういう奴です。」

「へぇ、ほんとによく知ってるのね。」

「なんですかその言い方は……ともあれ、俺は報告書書くのでお先します。」

「あ、またねひーくん!」

 

振り返らずに手で挨拶して帰路につく。まさか夏凜に会うことになろうとは。まぁいい。思えばなかなかどうしてあの二人の訓練には延々と付き合わされたのだろうか。しかも俺だけ。勇者としての力を手にいれる前だったからまだ良かったものの、思えばあれは記録者が俺になることが確定していたから上が俺の訓練も兼ねて俺をあの場に放り込んだのかもしれない。うん、上ならやりかねんな。

 

「って、考えてるうちに家に着いちまった……」

 

俺の家はまぁ、こじんまりとしたマンションだ。そんなマンションの前に引っ越し業者のトラックが一台。ふーん、隣に誰か来たのか。エレベーターを使って最上階に行き、自分の家の横に自分がここに引っ越した時のように、大赦のマークが入った段ボール箱がいくつか積まれていた。

 

「そう、来たか。」

 

これが偶然か必然かは不明だが、とりあえず思った事はこうだ。

 

「夏凜にはここに住んでいることは黙ってよう。」

 

その方が反応が面白そうだしな。よし、報告書書くか。

 

 




次回、第8話「夏凜と勇者部」

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