別作品を書いていたら、当時書きかけだったこれを見つけたのでここに供養します。
昔書きかけたまんまのやつ。
あの脳みそまで筋肉の疑いがある女は、俺の言葉を真に受けて、骸骨戦士どもの巣食う墓所の方へと足を進めていった。
曰く、『とりあえず死ぬまで殴れば倒せるんじゃないんですか?』とのことだ。
だが残念だったな、その先の地下墓所ではネクロマンサーを倒さない限り敵が復活し続ける。自分の常識が通じない時もあるってことを、身をもって知るがいいさ。
……とは言ったものの、主人公サマの装備はどうみても下級騎士のそれで、自慢の剣と直剣はデーモンにズタズタにされている。
順当に考えて地下墓地に足を踏み入れる前に祭祀場の骸骨ども殺されて戻ってくるだろう。
だが、あの辺りには特大剣と小盾が転がっている。骸骨どもから逃げつつ拾うことができればまあ当面の武器に困ることはないだろう。
嫌がらせで教えたようなものだが、巡礼から初めての生身を無駄遣いさせまいとした、俺の少しばかりの親切心もあった。
最初に得た生身の体は骸骨か、祭祀場を下りた先のの亡霊に殺されて失うのが巡礼者最初の洗礼ってもんだ。
数の不利の恐ろしさと対応の仕方は、早いうちに学んだ方がいい。あいつが本当に主人公ってのなら尚更に。
特に骸骨の連中は出血を強いるシミターと小盾によるパリィで迂闊な攻撃を許さない強敵。その上必ずツーマンセル以上で襲い掛かってくる徹底ぶりだ。
いくらトライアンドエラーを繰り返して不死院のデーモンを斃した主人公サマだろうと、あの墓地を初見で切り抜けるには無理がある。
──だというのに、聞こえてくる戦闘音が絶える気配がない。
つったってまあ、骸骨どもの骨がガシャガシャ鳴ってるだけなんだが。
まだそれがここまで聞こえるということは、地下墓地へは足を踏み入れた訳じゃあなさそうだな。
だがどうやってこれだけ長く生き延びている?
奴らは大槌を担いだ女一人追いきれないようなのろまでもない。それにあの一帯は骸骨の数も多い筈だ。いくら墓石という障害物が乱立したフィールドで逃げやすいとは言っても、こうも耐え続けられるもんか?
逃げるだけではなく何らかの形で攻撃をしているはずだ。それも、相手からの反撃を許さない方法で。
だがすばしっこい骸骨の集団を前に迂闊な隙を晒せば、袋叩きがオチだ。
大群の動きを止める方法といえば、『誘い頭蓋』のようなアイテムなんかが常套手段だが、あそこの骸骨どもには効かねぇし、そもそもあいつが持ち合わせるとも思えない。
あとはもう、手ごろな打撃武器でバラバラにするしか──
…………打撃、武器。
そういえば持ってたなあ、デーモン謹製の特別な奴。
岩の大樹が素材つったかなぁ?
そらそうだよな。剣が駄目になった以上、カンストデーモンを倒して手に入れた莫大なソウルは、今唯一ある武器を扱えるようになるために使った訳だ。
骸骨戦士は打撃攻撃を受けると、全身がバラバラになって数秒身動きが取れなくなる。
あの大槌のリーチと破壊力なら、丁寧に戦えば時間こそ掛かるが勝てない戦いにはならないだろう。
あの女は本当に脳みそまで筋肉への階段を駆け上がり始めていたわけだが、幸運にもそれは合理的だった。
「……これが、主人公補正ってやつかい?俺の時にも働いてほしかったもんだね」
本当にそんなものがあるなんて思っちゃいない。でも、ここにきてすぐに上手く立ち回れるあいつに対しての、俺の卑屈なやっかみだった。
ひょっとすると、そのまま巨大スケルトンまで仕留めてしまうかもしれない……なんて考えていると。
「たあああああすううううううけええええてええええええ!!!」
──あぁ?
おい、おいおいおいおい!?
あの馬鹿、巨人スケルトン二体を篝火の方までトレインしてきやがった!
まさしく初心者のやりそうなことだが、ここで楽しく心折れてる俺は生憎NPCじゃあない。
俺は素敵な骸骨カーニバルに巻き込まれるなんざ御免被るからな。
「無理! 無理無理無理無理! でっかいの二つは無理だから!!」
チッ、篝火の炎が消えた。こりゃ、知らんぷりはできねえなあ……。
死ぬなら勝手に死んでくれと声を大にして言ってやりたいところだが、あのデカブツ兄弟はさすがに目に余る。
ソウルから投げナイフを取り出して、巨人骸骨の一体に向けて投擲。
ダメージはハナから期待していない。ただ、巨人骸骨の気を引ければそれでいい。
「……おい、新入り。片方は俺が相手してやる。
お前の仕事はその馬鹿でかい棒きれ振り回してそいつを崖から突き落とすこと。そんくらいならできるだろ」
主人公サマは情けないアホ面をいっそうマヌケに変化させたあと、すぐに巨人骸骨へと向き直った。
おいおい随分切り替えが早いじゃあないか。将来有望ってか?
まあ、いい。
不死院脱走したての新人の、初めての生身を守ってやるくらいは先人の勤めかね。何を今更って話だがな……
──さて、剣を抜くのはおろか、立ち上がるのすら久しぶりだ。こんな調子でまともに動けるのかね。おお怖い怖い……。
がんばれ青ニート