「よっ、さっきぶりだな」
「お前は…」
そう言って俺にこの霧のことを教えた少女は話しかけてきた。
この少女はこの霧の中で何が起こるのか知っていたのだろうか。あの時の言葉からするときっと知っていて俺に言ったのだろう。では、なぜ俺に教えたのか。理由は分からないが今やらないといけない事は分かっている。
「逃げるぞ」
俺は少女の腕を掴みさっきの男とは逆の方に走りだそうとした。普段なら女子の腕を掴むなんてできないが状況が状況だ。しかし、少女は
「大丈夫、大丈夫。あたしがいるから」
「何、言って…」
少女は公園の時のように不敵な笑みを浮かべていた。この少女は何で笑っているのだろうか。この少女がこの場所で起きている事を知っているのなら何故こうも余裕でいられるのか。そんな事を考えていると、目の前の少女とは別の少女のような声が聞こえてきた。
『灰都、奴が来るぞ』
灰都とはこの少女の名前だろうか。ッそれよりも…奴が来る?奴っていうのが俺の想像道理ならッ
「キヒッ、見~ツケタ~」
そんな声とともにメスを持った血まみれの若い男がこの霧の中でも見える位置まで近づいてきていた。
「ずいぶんと楽しそうだな」
「アア、最高ダゼ~」
「ノイマン、こいつに説明しといて」
そう言い彼女はこちらに何かの端末を投げてきた。俺がそれを受け取ると彼女は自らの背負っているケースから小さなナイフのような物を取り出した。あんなナイフみたいなのでどうにかなるのか?そんな俺の思考をよそに渡された端末から声が掛かった。
『よく見ておけ、あれが…輪廻返りだ』
そんな言葉から灰都と呼ばれた少女に目を向ければ、彼女はナイフのような物を自らの首筋に当て、そして、自らの首を掻き切った。
「何ッやってんだ!」
俺は咄嗟に倒れる彼女を抱きかかえた。一体何を考えてんだ!こいつは!俺は焦りながらも少女の止血をしようとした。が、首筋からは血は出ておらず、その代りに何かの花びらが溢れてきていた。
「花弁?」
『その花弁は証だ』
「…何のだ?」
『輪廻の枝により才能を前世から引き出した者……廻り者の証だ』
そう端末の声が告げた瞬間、抱きかかえていた彼女に変化が起こり彼女の灰色だった髪が黒く染まりだした。そして、彼女が薄っすらと目を開け始め
「腹削ぎ、首狩り…来ませい」
そう彼女が呟くと彼女の両手には二本の太刀が現れた。彼女はその二本の太刀を掴むと俺の手を離れ立ち上がった。
「わざわざ、待ってたのか?」
「獲物ハ、イキガイイ奴ノホウガ楽シイダロ?」
「そうかよッ」
一瞬にして彼女の姿を見失った。そして聞こえる連続した金属音。その音の方を見ればさっきの男と彼女が目で追えはしないが、おそらく斬りあっていた。何だ、これは?現実なのか?それとも幻覚でも見てるのか?
『これは現実だぞ』
そんな俺の思考を読んだのか端末から声が聞こえた。俺は今、目の前で起きていることについて聞くことにした。
「一体何が起こってるんだ?」
『輪廻返り、前世を遡り才能を引き出すこと。そして、才能を引きだした者は廻り者と呼ばれる』
「廻り者…」
『そうだ、そして灰都の引き出した才能は……宮本武蔵玄信、歴史が生んだ剣の才能』
端末の説明を聞いても、いまだに信じ切ることができない。才能を前世から引き出す?そんな事が本当に可能なのか?
しかし、実際に目の前で非現実的な事が起こっている。あの少女は今だにあの男と目に見えない速さで斬りあっている。
「なぁ、その宮本武蔵の才能と斬りあえてるって事はあの男も廻り者って奴なのか?」
『ああ、だが灰都や私などが偉人の才能を引き出しているのに対し、奴は殺人鬼の才能を引き出している』
「殺人鬼だと?」
『ジャック・ザ・リッパー、切り裂きジャックと言えば聞いたことくらいあるだろう』
「そりゃぁ、まあ」
『1888年にイギリスで起こった連続猟奇殺人事件、女性のみを対象とし惨殺してき、最後までその正体はつかめなかった世界で最も有名な未解決事件』
「それがあの男の引き出した才能……」
もし、それが本当なら何の才能も無い奴が偉人の才能や殺人の才能を手にする事ができる。たとえ偉人の才能を引き出した者でも、その才能を悪用しないとは限らない。むしろ悪用する者の方が多くなるのではないか。人間とは楽をできるのなら大抵の者はそちらを選ぶものだ。なら、偉人ほどの才能なら悪用しない手はないだろう。完全犯罪も不可能ではないだろうし。そこで、俺は一度考えるのを止め、ふと、気になったことを聞いてみた。
「なあ、いくらジヤック・ザ・リッパーっていっても宮本武蔵とあんなに斬りあえるものなのか?」
『……妙だ』
「何が?」
俺の質問に対し端末の声は訝しんだような声を出した。
『いかに歴史に名を残したとしても所詮は殺人鬼、歴史的剣客とあそこまで斬りあえるはずがない』
「なら、何故斬りあえてるんだ?」
『灰都の動きがいつもより鈍い』
「あれで鈍いのか…」
今でさえ、俺には動きがまったく見えないのに普段はあれ以上なのかよ。
『…おそらくこの霧が原因だろう』
「霧?」
『ああ、この霧は奴が発生させている。この霧が灰都になんらかの作用をもたらしていると考えるのが妥当だろう』
「廻り者ってのはそんなこともできんのかよ…」
しかし、そうだとしたらまずくないか?いくら武蔵の才を引き出しているとはいえ、俺と同い年くらいの少女と若い男性じゃスタミナに差がありすぎるはずだ。もし、このまま斬りあいが続けば先にやられるのは少女のほうだ。そんな事を考え少女の方を見てみれば
「ぐッ!」
「ハハハッ、モウ終イカ?」
彼女は所々血を流し、少しふらついていた。このままではそう時間も掛からずに彼女はやられてしまうだろう。何か、何かないのか俺にできることは。焦りながらも俺は端末に問いかける。
「何かないのか!俺にやれることは!」
しかし、端末からの声は無情にも
『無い、君は今すぐ此処を離れろ』
「……見捨てるのか?」
『一般人では廻り者の相手は務まらない。それに今回の事は我々の不手際だ』
端末の声の言う通りだ。俺じゃあの男に勝てないし、今も恐怖で体が震えてる。このまま此処にいれば確実に死ぬことになる。それでも
『確かに腐ってるけど、そんな目してるって事は今まで辛いことがあってもそれでも頑張って生きてきたってことだろ?』
ふと、俺の視界に少女が首を切る時に使ったナイフが映った。
「なあ、あの灰都って奴が首を切るのに使ったのが輪廻の枝なのか?」
『何を……、まさか!』
これを使えば俺でも何かしらの才能が引き出せるのかも知れない。
『……引き出したのが偉人の才能ならば良い、しかし、殺人鬼などの人類の害になるものなら我々が排することになる』
「そうか…」
俺は輪廻の枝を拾い上げ震えながらも自らの首筋に当てた。自分の首を切るなんて初めてだ。怖い。もしかしたら死ぬかもしれない。それでも、俺は
『……君には何のメリットもないぞ』
「…ああ
分かってる」
自らの首を切り裂いた。
廻り者などの設定のおかしいところがあれば指摘してください!
灰都さんは、八色屍などはいつから使えるんでしょうか?
基本、深夜に書いてるので誤字などもあるかもしれません。