自らの首を掻き切った俺の意識は朦朧としだす。立っていることも儘ならず膝をつき、なんとか意識を繋ぎとめていると自分の中で何かが変わった感覚があった。今までに感じたことのない全能感を感じる。そして、何より一度も使ったことのないはずのないあるものの使い方がわかってしまう。ああ、これが才能を引き出すって事か…。
意識がはっきりとしだした俺は立ち上がり左手を前に突き出す、するとその手にはいつのまにか一つの和弓が握られていた。そして、背中には矢筒が背負われていた。
『弓?』
「…あぁ、これが俺の引き出した才能だ……」
俺は少女と男が今だ、斬りあっているほうを見た。今までとは違い両者の動きがはっきりと見える。才能を引き出す上で動体視力も底上げされたらしい。俺は両者を見据えたまま背中の矢筒から一本の征矢(普通の矢)を取り出した。矢を弓に番えきりきりと引き絞る。そして、矢は放たれた。
「ガッ」
俺の放った矢は空気を裂き寸分違わず男の持っていたメスに当たり、甲高い金属音を発し男のメスを霧の中へと弾き飛ばした。男はメスが弾き飛ばされた瞬間に霧の中に即座に隠れた。正直、外れる気がしなかった。
今までになかった才能を引き出し俺自身、多少なり高揚感がある。なんでもできるようになったとさえ錯覚する。たとえ殺人の才だとしても新たに才が手に入ればきっと人はその才能を振るわずにはいれないだろう。
「やっぱり、花弁が咲いた」
「ふら付いてるくせに、なんでそんなに楽しそうなんだよ……」
「そりゃぁ、楽しいからだろ?」
「はぁ、そうか…」
少女は血を流しふらつきながらも楽しそうにしていた。こいつは、俺が輪廻の枝を使う事が分かっていたのか?俺は何故霧の中に入る事を薦めたのか聞いてみることにした。
「なぁ、なんで俺にこの霧に入る事を薦めたんだ?」
「ん?そのほうが楽しそうだろ?」
「……それだけ?」
「?」
どうやらこの少女は特に何も考えてなかったらしい…。
「あぁ、でも……こんな目をしてるやつが才能を引き出したらどんな顔するのかなってのは思った」
「…で、その顔を見た感想は?」
「あんまり変わんなかったかな?」
殺人鬼が近くにいるのにあからさまに喜びまくる奴なんていないだろ。いや、材木座なんかは大はしゃぎしそう。そして技名とか考えだしそう。
「というか、まだ名前聞いて無かったっけ?」
「相手に名を尋ねる時はまず自分からって教わらなかったか?」
「?言ってなかったっけ?あたしは
「…俺は比企谷八幡だ」
ここにきてようやくお互いの名前が分かった。なんか初めてあった時からかなりの時間がたった気がする。まぁ、本当に気のせいだけど。実際は2時間もたってないだろうし。それだけ濃い時間だったって事か。
「八幡の引き出した才能って誰の才能なんだ?」
いきなり名前呼びですか?ボッチの俺には辛いんですよ?勘違いしないようにとか
「…その事は後でな」
「え~、いいじゃん!教えろよ~」
「いや、まだ、あの男が近くにいるかもだろ?聞かれたらまずいじゃねーか…主に俺の安全が」
「え~」
彼女、灰都は今だ、納得してないようだ。不満ありありというのが顔を見れば分かる。そんな顔しても教えませんよ!
『灰都、彼の言う通り今は戦闘に集中しろ!まだ奴は近くにいるぞ!』
「うぃ~」
灰都達の会話を聞きながら辺りを見渡せば違和感を感じた。
「霧……濃くなってきてないか?」
『おそらく、奴も本気になったということだろう…気を引き締めろ』
そう、ただでさえ悪かった視界がさらに悪くなってきていた。数十メートル先まで見えていたのが、今はせいぜい二十メートルほどしか見えない。今もなお霧は濃くなり続けている。
あの男はまだ、諦めていない。今も俺たちの事を霧の中から狙っているんだろう。執念深いな、殺人鬼よりストーカーとかの方が向いてるんじゃね?
そして、とうとう霧は十メートルほどしか見えないほどになっていた。
『霧の濃さはどうやらこれで限界らしいな』
端末の声から霧がこれ以上濃くなる事はもうないだろうというのは分かった。しかし、こうも視界が悪いと今の俺はともかく、傷ついている彼女では急な奇襲には対応できないかもしれない。なら、
「灰都…少し耳をかせ」
「ん?あぁ」
周囲を警戒しながら彼女に近づきある事をつたえる。その時女の子特有の匂いがしたが緊急時なので無心で耐える。決して堪能なんてしてません!
「灰都、お互いが向かい合うようにして構えてあの男を迎え撃つぞ」
「向かい合う?なんで?」
「今のお前じゃ、この霧の中からの奇襲に対応できないかもしれねぇだろ?」
「でも、それじゃぁ八幡が危ないだろ?」
「あの男はまず弱ってるお前の方から仕留めにくる可能性が高い、だからこれでいいんだよ…まぁ、俺のほうに来たら何かしらの合図を出してくれ全力で前に跳ぶから」
「りょーかい」
伝えたい事は伝えたので灰都から離れる。これで灰都の安全は確保できるだろ。
そしてお互いに少し距離を取り向かい合って俺は弓を灰都は二刀の太刀を構えた。
『奴もこれだけの霧を出し続けるのにも限界があるはずだ、そろそろ動くぞ』
端末の声が俺たちに忠告する。そして、灰都のほうを注意深く見ていると、背後の霧が揺らめいた。
「外すなよ」
「……ああ」
俺の返事と共に男が灰都に向かってメスを振り下ろした。それに対して俺は再び番えていた矢を男に向け放った。
「クソッ」
再び響く金属音。そして、また、男は霧のなかに入ろうとする。
「逃がすかよッ」
しかし、今回は男が霧に紛れる間もなく、灰都が振り向き様に太刀を振るい男を斬った。男の体から大量の血が流れついにその男は地面に倒れ伏した。
「……終わったのか?」
『ああ、これで終わりだ』
「…そうか」
そう言った瞬間、途轍もない疲労感と命の危険が去った安堵感から俺はそっと意識を手放した。その時に自身を何かが抱き留める感触と声が聞こえたきがするが俺の気のせいだったのかもしれない。
八幡はまだ人を射る覚悟が決まっていないということでお願いします。
次かそのまた次あたりに八幡の引き出した才能の説明が入ると思います。
それでは、次回もよろしくお願いします。