グランドヒーローズ   作:四季永

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裁きの太陽

「いいか、誰も殺さずに手に入れろ! 今それはこちらが不利になる手だ」

「分かってる! ・・・つもりだけどっ」

 意識が保っていられる分、初めての「黒」の時よりは遥かにマシだ。だが、今の「赤」の状態でさえ、闘争心を煽るかのような不快な感覚が、思考を潰しに来る。

「生身の人間相手は調子が狂うな・・・隊長格がいないのもおかしな感じだが」

 戦場慣れしたであろう門矢士/仮面ライダーディケイドの戦い方は実に的確だ。武装を封じ、敢えて急所以外の部分を狙い行動不能にする。

「何であんな風に戦えんだよ・・!?」

 帝宮斗真/仮面ライダークウガはがむしゃらに目標へと進む。前進しているのか後退しているのか分からないが、頭には導かんとする声が響いている。

 

 

「――――っ」

「生きてるか? 上出来だ、退くぞ」

 

グランドヒーローズ

第2話

『裁きの太陽』

 

「俺の情報が正しければ、そのアマダムという霊石は適合した存在の経験を記憶する事が出来る。そして・・・意思にも似た考えを持ち適合者に対して導きを与える。どうやら『この世界のクウガ』もこれに乗ってた事があるみたいだな、読み通りだ」

 こっちは息が荒いのに、悠々と語りやがる。

「疲れてる所悪いが少し急ぐぞ。次は接触すべき組織だが・・・」

「オイ!! ガキだからって使い潰すなよ!! 少しは状態ってのも察しろ!!」

 士は呆れたように、小さく溜息を吐く。

「子供として丁重に扱って欲しいか? それとも重要人物だから優遇して欲しいか? 生憎礼儀や優しさとは縁が無いモンでな。許せとは言わんが疲れたからって止まってる訳にもいかない、今はな」

 返す言葉は思いつかなかったが、それでも大声不満を言った分、少しは頭が冷えた。

「だが気を失わない分はマシな根性だ。それにその眼、追い求めている者の眼だ。虚無でも無ければ純粋でも無い、だがそのハングリーさがここで生きるには重要だ、長生きするぞ」

「・・・褒めてんのかよ。で、次はどこに向かうんだ?」

 

「そこの悩める少年! 何とか石について調べるなら―――」

「うってつけの場所がありますよ!!」

 

「誰だよ、テメーら」

「見た感じただのガキ二人だな。菓子なら買ってやらんぞ」

「ってそーじゃなくて!!」

 

 その少年は竜神翔悟と名乗り、少女は立花響と名乗った。

「使いの者だって?」

「えへへ。頼り無さげに見えるかもですけど、まあそういう事です」

「それが何でその辺にいそうな高校生二人なんだよ、闇バイトか何かか?」

「失礼な! 外見で人を判断すんなよ、はい名刺」

 

「行くぞ」

 顔色を変えた士は、それだけ言って行動を起こす。名刺に書かれた『サージェス財団』という組織、それに向かうと決めたのだ。

「使者として俺達と接触したんだ、当然場所も聞かされてる筈だが」

「場所は確かに教えてもらったんですけど。実はそこの人達とは、まだ会って無いんです」

「はぁ!? 見ず知らずの連中なのかよ、信用出来るかそんなん」

「熱くなるな、全く知らなかったらこうして急いでいない。そこは確か、世界各地に存在する、らしい古代遺物を保護する口実で動いてる科学組織・・・だ。連中は保護しているブツをプレシャスと呼んでいる」

「何か色々知ってますね! 私達の所じゃ聖遺物って言うんですよ、お宝の呼び方もそれぞれなんですね」

 今の自分が何をしているのか、斗真の中に一抹の不安があった。戦う相手も自分の中の力も、何を善き行いとすべきなのか。自分の存在さえも、何か大きな流れの手中にあるのだろうか。

「心ここにあらず、って感じだなあ」

「・・・何で顔も見ずに言えんだよ」

「えっ図星!? ごめんっ! 何かいきなり黙って悶々オーラ放ってるモンだからつい・・・」

 今の状況はバイクで走行中、二人乗りの背中越しにその感性を察した。偶々なのだろうか。

「翔梧つったか」

「何か言いたげ?」

「お前見た感じオレと同じ位だろ。どうなんだよ、学校では」

「どうって・・・普通だよ。自分で言うのもアレだけど、成績は可もなく不可も無し、トラブルも起こしてないし。そこら辺の平凡な男子その物、かな」

「普通、平凡・・か」

 どうして自分と比較して思い出すのか、本当に嫌になる。

「雑談も自己嫌悪も結構だが、そこで止めておけ。回し者が来たようだ」

 

「お前達について深くは知らないんだが・・・太陽戦隊と言ったか」

 走行を止めた斗真達の前に待ち受けるかの様に立っていたのは、赤・青・黄の色、そして獣の意匠の装備を纏った三人の男だった。

「ひょひょーう。その名前が出てくる時点で、大分深い部分まで知ってるみたいだねえ」

「世界の破壊者、マークされている理由は戦闘能力だけでは無いという事か」

「単刀直入に告げる。我々は政府直属の地球平和守備隊、太陽戦隊サンバルカン。本国政府の要請により、帝宮斗真の保護の為この場に来た。交渉によっては戦闘の意思は無い」

「断る」

「即答か、門矢士」

「・・と言いたい所だが、これは俺の意思だ、あいつのでは無い。で、どうするんだ斗真。こいつらと行くか? 連中は血の気の多いタイプじゃない、猶予はあるみたいだから考えろ、自分の頭で」

 選択を迫られている。恐らく自分は元より、ここにいる者達にも関わる選択だ。

 太陽戦隊と名乗る三人の男、彼等は政府の者である。

「・・・アンタ等、オレを知っているのか」

「アマダム計画の被験者、その最初の成功例。・・本来ならこの実験は凍結された筈の計画だ」

「凍結? それじゃあ成功も何も無いじゃないか、こうして今斗真は」

「非人道的な連中に関しては、そうじゃないんだよね。奴等は経緯不明ながら技術を奪い、兵器利用の為にこの計画を推し進め、そして・・・」

「世界各地で多発した不可解な失踪事件『ヘルズ・ロード事件』、お前達も知っているだろう」

「・・・俺達の耳にも入ってたよ。警戒するのも当たり前な、おかしな事件だった」

「初耳だな、通りすがりの俺には関心が無いだけかもしれんが」

 それは翔梧や響には記憶に新しい事件だ。年齢、性別、職種問わず無作為に人が消える。それもケースの多くは攫われるといった強制的な形ではな無く、自発的な動機で姿を消した場合がほとんどだった。

「大金持ちになれる、楽な生活になる、誰にも負けない力が手に入る・・・」

「失踪した人の多くは、いなくなる前にそう言い残していたり、手紙に書き留めていたそうです。私達も何度か捜索に駆り出されたりもしました」

 周囲の者達の言葉一つ一つに、得体の知れない寒気を斗真は感じる。まるでそれは、崩れてぐちゃぐちゃになった積み木が、一つの「何か」に組み上がっていく様で――――

「ほーお、読めたな。要はこの帝宮斗真少年は大事な大事な成功例様、確かに棚ボタで強大兵器が出来れば上様は欲しがるだろうな」

「・・・オレが兵器・・!?」

「非人道的な扱い方はしたくない。これは俺達の本音だ」

「だが官僚共はそうは思っちゃいない。前線の軍人たった三人が穏健を唱えた所で」

「オイ」

 

「どした、そんなドスの効いた声で。結論は出たか?」

「ああ。オレはこいつらとサージェスに行く」

 

「真っ直ぐで眩しい目をしているな・・・太陽、か」

「あんたらが語ってる事は本当かもしれねえ・・・けどオレを連れ出しに来た士、コイツがどんな形であれオレを助け出した恩がある、切り捨ててあんたらについて行くのは違う気がする」

 滅茶苦茶だな、だがガキらしいじゃないか。士の口元が少し笑みに緩んだ。

「それが応えか。・・・・ならば我々は壁だ。突き破るに相応しい力が備わっているか、試させてもらう!!」

 

「おい、お前等は戦力ぐらいあるんだろうな」

「何の為にここ迄来たと思ってんだよ!」

「戦いなんて、覚悟以前です!」

 

「変身!」

「着装っ!!」

「Balwisyall nescell gungnir tron・・・」

 

 竜神翔悟は竜を模した白い鎧を纏い、立花響は明るき天使の如き戦衣を纏った。

「仮面ライダーが二人、ボーンファイターにシンフォギア装者か・・・」

「子供だらけだけど油断は出来ないねえ。戦績があるんだから」

「そうでなければ壁である意味が無い、行くぞ!!」

 

「あんたの相手は俺だ! 理由は簡単、鮫相手なら経験あるから!」

「成程な、だがその発想だけで俺と渡り合えると思うな!」

 翔梧/ドラゴンボーンが戦うは、サンバルカン海の戦士、バルシャーク。両者共にその名を冠した生物の力を宿している。

「・・・っく! 届かない、経験の違い!?」

「基礎と経験は積んでいるな、それは分かる。だが防戦を重視し過ぎている、それでは拳は届かない!」

 

「女の子相手だけどそれはそれ! 手加減はしない!」

「逆に安心しましたッ、全力で行きます!!」

 響に立ちはだかるは、サンバルカン陸の戦士、バルパンサー。彼の俊敏な動きは、響の格闘術を上回る。

「掠りもしない程の速さだなんてッ!?」

(だけど大したもんだ、この娘を戦士たらしめてるのは装備の力だけじゃない、明確な戦う意思と修練がある・・・もっともそれがまだ成長途中にあるんだけど)

 

「二対一か」

「悪いが武の心得とか正々堂々とかいうのは持ってないんでな。急いでるからこれでやらせてもらう。・・・で斗真」

「何だよ!?」

「考えなかったのか? 俺達が抑えてる間に先に行く事も」

「言ったろ、お前達と行くって。これ以上言わせんな。それにそれを許す程抜けてる連中とも思わねぇし」

「・・大体分かった」

 クウガとディケイドが挑むは、サンバルカンのリーダーたる空の戦士、バルイーグル。

「なるほど剣術か。確かに俺より出来るな」

 バルイーグルの装備である刀、それを用いた剣術が彼を象徴する戦法だ。その剣圧と剣速はディケイドを早くも押し始める。

「加勢のしようがねえっ・・・! あの戦いに割り込むにはパワーよりもスピード、今のオレにはそれが」

 青の力。長きモノ。

 斗真の頭にそんな言葉が流れ込んでくる。

「またナビ機能か!? 武器の情報までご丁寧に・・・っても長いモン? つったら・・」

 今の周囲の戦場を見渡す。ここは人気の少ない車道、長い物体を見つけるには容易い事では―――

 あった。

「これで良いんだよな!?」

 クウガが道路のガードパイプを手に取った瞬間、装甲の色が青く変わると同時に、手に握られたそれも、棒状の武器へと変化した。

「身体が、軽い・・・! これならッ!!」

*

「接触に関しては先手を取られたか・・・」

「良いのかよ、加勢しなくて」

「それをしてしまったら意味が無い。少なくともこの程度の苦難は序の口に過ぎない。あの少年にとっては」

「厳しいのか甘いのか分かんねぇ奴だなお前。あれが危険物だとしたらやるべき手段は保護や管理よりも破壊だろーが」

「それの可能性を探り信じるのも僕等の役目さ。そうだろう?」

「ああ、それもまた冒険だ」

*

「力の一片を引き出したか・・・!」

「あまり見下すなよ、一応はアレが見込んで・・この俺が目を掛けてやってるヤツだ、俺には遠く及ばんがな!」

「そこまで貶すな!!」

 

 強い。

 斗真は感じる。

 それは身に着けた装備の性能でも、生まれつき手に入れた突出した才能に頼ったものでは無い。

 日々の過酷な鍛錬、冷静かつ的確な思考、幾多の戦いを経た経験―――

 今戦っている目の前の男は、自分自身の強さを確かに持っている者だ。

(食らいつくつもりで行かないと捉えられないっ、気を抜いちまったら斬り飛ばされる・・・っ)

「成程凄まじい剣術だ、こっちも特化しないと並べすらしないな!」

『KAMEN RIDE BLADE』

 一瞬の隙を見抜いたディケイドは銀の騎士の如き姿へと変わる。

「口だけの男では無いようだな。まだ戦いを続ける余裕があるか」

「当たり前だ、お前程度の強敵なんぞ何度やり合ったと思ってる!!」

 

「結果的にはタイマンよりも二対二か・・・まぁそうなるよね」

「だってあんたらとはサシじゃあ勝てなさそうだから!」

「不本意ですけどッ! 出来るかも分からないけどチームプレイですッ!!」

 交わされる戦法はほぼ格闘戦。響とドラゴンボーンが目指す作戦は各個撃破。一人に集中して戦わなければ明らかに押されるのが身をもって解ったからだ。

「二人がかりなのはその為か・・・」

「お見通し! でも中々やるねっ」

 徐々にだが響の攻撃はバルパンサーに届きつつある。正々堂々の戦法でないのは承知だが、その手で勝って進まなければならないのだ。

 

「受けてかわさなくなったな!」

「その剣捌きで解る。受けさせようとしているとな!」

 剣技に特化した姿になったつもりだが、差はそうそう埋まらない。こちらの策も見抜いていると来た。

「まるで勝てねえじゃねぇか・・・!」

「そうでも無いさ、そのビビりを捨てさえすればな」

 そう思われているのか。

 この力を手に入れれば、そんな事は無いと思っていた。だが思い直せば、オレはどこか一歩引いて戦っている、それに気づいてしまった。

 今まで殴り合ってきたヤツらより強く、怖い。だから勝てないのか。

 

 気がつけば、みっともない位叫んでいた。策を講じた訳でも、勝利の光明を見つけた訳でも無い。

 頭の中に渦巻いている物。

 

 コイツに、食らわす。

「無謀な戦い方だな・・・!!」

「それが良いんじゃねぇか!!」

 

 それは策と言うには余りにも幼稚な物だ。だが恐らく、様々な負の激情を剥き出した一人の少年の姿に気を取られた・・・・のだろう。

「これで一本取ったな。お前の危惧通り、この剣には電流が流れていた。そりゃあ受け止めようとはしないだろうな、感電すれば隙が出来る」

「情が勝ってしまった・・・な。あんな気迫で向かって来る子供はそうそういない」

「情があってこそのヒーローだろうが。むしろそこは誇れ」

 リーダーの危機を察したシャークとパンサーも戦いの構えを解く。

「さて、このまま追って来られないレベルに深手を負わせる事も可能な訳だが・・・」

「そこまでする必要無いんじゃないのか」

「解ってる、そう噛みつくな。・・とまあ件の主役がこう言ってる、下手に曇らす訳にもいかん。ので今回はさっさとご退場願おうか」

「・・騙し討ちの可能性は考慮しないのか」

「そんな卑怯者が栄誉ある太陽戦隊様のリーダーになれると思うか?」

 ディケイドとバルイーグルは互いに苦笑いを浮かべる。それは仮面越しで目を通して判りはしないのだが、二人にはそれが伝わっている様子だった。

「だがこれだけは心に留めておけ。今その少年に宿る力を狙う者は多い。手遅れになる前に、その力とどう向き合うかはしっかりと決めておけ、力に飲み込まれないように」

 

「ホントに去ってったよ、あの人達」

「何か安心しました、上手く言葉に出来ないけど」

「クソ真面目な戦士というのは敵でも味方でも面倒だな・・・ん、どうした斗真」

 当面の危機は去ったにも拘らず、斗真の表情は浮かない。それどころか曇り具合は戦いの前よりも深くなったようにも見える。

「解んねえ、望んで手に入れた力だぞ、何で狙われるんだよ・・・オレは生きたい為にこの力を望んだ、なのに何で」

「それはこれから判る事だ、今迷ってもどうにかはならん。・・・で、そろそろ見物は止めてもらおーか」

 

「どの時点から気付いていた、門矢士」

 太陽戦隊とは別の、三人の男が別々の茂みから姿を現した。

「気付いたのは一本取ったあたりだな、何分相手が面倒だった。だがそこから少し考えれば・・・観戦してたろ、あの一部始終を」

「危険物を見極めるのは基本だぜ。本部に連れてった時に暴れると大迷惑だからな」

 オレは違う・・・とは確信を持って口には出来なかった。自分ですら得体の知れないモノが中にある、その認識を思い返すと遅ればせながら恐怖にも似た感覚が生まれてくる。

「顔が曇っているね。でもそれは適合者になった人間ならば抱き得る反応、君のような子供なら尚更だ」

「その顔にむしろ、俺は希望を見た。予定通り、お前達をサージェスに招待しよう」

*

「『sheath project』だと・・? あれは国際会議において放棄された筈だが」

「僕がその計画を受け継いだ。無論独断に近いが、幸いな事に同志達もいる」

「・・・そのようだな」

 この人気の無い場所に立っているのは、地球平和守備隊管轄・太陽戦隊サンバルカン隊長、飛羽高之。会話の相手はスティーブ・ロジャース。お互いの背後には、彼等が「同志」と呼ぶ者達が構えている。

「確かに器となった彼は人間の少年、抹殺するのは我々としても本意ではない。だが中途半端に黙認すれば多くの犠牲者が出るかもしれない」

「相容れない・・のか。上から命令されている、だけではないのか」

「政府の犬をしているつもりは無い。だが向こう見ずに保護する事だけが彼を救うとは思えない」

 静かな交渉決裂。だが互いに背を向けて別れる彼等には、敵意を示す言葉は無かった。

 

続く

 

 

 

 

 


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