永遠を刻む鼓動   作:神話好き

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この作品は、まだ設定と終わり方の構想しか出来ていません。
おまけに、細かい設定を思い出すためにプレイする必要があるため、更新が遅く、もしくは没作品として、続きを投稿しない可能性があります。
それでもかまわないという人だけ、先にお進みください。



前篇

とてもキレイな、二つの月を見た。それはちっぽけな、子供のころの冒険のころの続き。俺の命が、まだ俺だけのものであったころの話。なにもかもに手が届きそうで、全てが輝いて見えて―――

「……懐かしい夢を見たな」

吉良心。殺風景なアパートの一室で、目を覚ました俺の名前だ。心なんて名前の上に細身なもんで、時々性別を間違えられることもある。珠璃とキャラが若干かぶっているが、俺は断じて女装はしない。

気だるげに体を起こして携帯を覗き込む。

「げっ、もうこんな時間かよ。間に合うかな……」

ボヤキながら手にした携帯には、着信一件の文字が浮かんでいた。確認をしてみると、やはり摩樹からの電話だった。もう待ち合わせ場所に着いているのだろう。

「仕方ない。どうにか人目を避けて行くとするか」

吉良が目を閉じると、トクン、と心臓が高鳴り、人には不可能な跳躍力で屋根の上へと跳びあがった。そのまま屋根伝いに目的地へと駆けて行くと、懐かしい集団を発見した。

「やっぱり、あいつらが今日の議題の奴らか」

なんとなく分かっていた。きっとこれはあの冒険の続きなのだろう。変わってしまった俺たち三人と、今も変わらないあいつらとが、まだ無邪気に笑いあえていた、あの頃の。

「……感傷に浸るのは後にしよう」

あまり、長居してこちらの姿を見られたりしたらたまらない。珠璃曰く、俺は最期の切り札なのだから。

そのまま暫く走り続けると、堀出アストラルが見えた。この町で一番の高級ホテルだ。ここからは普通に行くとしよう。

「いつみても出鱈目だね、心のそれは」

不意に声を掛けられ振り返ってみると、見覚えのあるゴスロリがいた。件の珠璃である。

「やっぱりお前も遅刻か。摩樹も可哀相に」

「キミが言わないでくれるかな。同じ穴のムジナって言葉知ってるかい?」

「違いない」

会って早々にお互い毒を吐く。いつもの挨拶だ。最も、付き合わされる摩樹の方はたまったもんじゃないだろうが。

「そういえば来る途中、懐かしい顔を見たよ。道具らしきものもいくつか確認済みだ。効果までは分からなかったがな」

「へぇ…仕事が早いじゃないか」

本人としては感心しているのだろうが、その表情は人を小馬鹿にしているようで、大変腹立たしい。

「ここで立ち話もなんだし、早いとこ中に入ろうぜ。摩樹も待ちくたびれてるだろ」

話を切り上げ、ホテルへと入っていくと、やはりロビーには貧乏人が思い描くセレブをそのまま形にしたような摩樹がいた。腕を組みながら貧乏ゆすりをしている。

「遅いですわっ!」

「わりーわりー。さっき起きたとこでよ。一応、デフォルトでは体弱いから俺」

「ぐっ、それを言われると弱いですわね…」

「ちょろいな」

この女、偉ぶってはいるが基本的にお人よしだ。

「そんな事より、早いとこ話を始めようよ。こんな暑い中わざわざ呼び出したに答えてあげたんだからさぁ」

相変わらずにやにやとしている珠璃の一言で空気が引き締まる。

「まず、街を襲っていた怪物とについて分かりましたわ。とはいえ、あれは自分で生み出した怪物を自分で退治する。遊びにしか使えませんわ」

その言葉を聞いて、ついガクッときてしまう。なんだそりゃ。頭を悩ませてた俺が、ものすごくバカみたいじゃないか。

「そしてもう一つ、こちらの方が本題ですわ。そろそろ、心さんの道具について聞いておきたいと思いまして」

「なに……?」

予想外の言葉に驚いてしまう。いったいどういう意図だ?と思ったが、珠璃がにやにやしながらこっちを見ている。十中八九こいつの入れ知恵だろう。

「不公平とでも言いたいのか」

「私は、珠璃と違って心さんと敵対した時に、為す術もありませんから」

冷や汗を流しながら、摩樹が言う。

「そんなに緊張しなくていい。道具の破壊手段がない以上、敵対に意味はねえからな」

「ふーん。道具って壊れないんだー。良いこと聞いちゃった」

「私も、初耳ですわ。確かめたんですの?」

「ああ。もっとも、確かめたというより知ったと言った方が適切だがな」

そうでなくては、俺はもう死んでいる。今は亡き弟の心臓の鼓動が、俺の胸の中で一段と高くなる。

「……今はその話は置いときましょう。今は、心さんの道具についてです。発動中でさえ、私たちは見たことがありません。詳細はともかく、それくらいは教えていただきたいですわ」

やっぱそうくるよな、流石に珠璃の入れ知恵だけあって、的確に嫌なところを突いてくる。

俺は、深いため息をつくと、ナイフを手に取った。

「さっき、道具は壊れないって言ったろ。今から実例を見せてやる」

怪訝そうに見つめる二人の前で、俺は自分の心臓めがけて思いっきりナイフを振り下ろした。

「なっ!?」

あまりの出来事に立ち上がる二人。摩樹が止めようとして手を伸ばすが、空しく空を切る。胸に突き立ったナイフから、血が滴る。だが、

「これが俺の道具だ」

渾身の一撃は肉を裂き、抉ったがその先にある心臓を破壊することは出来なかった。

 

・・・

現在、菅野考たちは神社の境内で頭を捻っていた。考以外のメンバーは軽いコントのように盛り上がっていて、あれこれ考える気はさらさら無いようだ。そんな時、

コツン、と石段の下から足音が響いた。

「もっ、もう!なんなんですの、この石段は!?」

現れたのは、ぜいぜいと息を切らせた摩樹だった。

「…………摩樹?」

このままだと倒れそうな勢いだったため、とりあえず神社の中へと案内して飲み物を振る舞うことにした。

「それで、摩樹さんは、どういった用件でここへ?」

梨子が話を切り出すと、地獄の様に長い石段について憤慨していた摩樹が我を取り戻し、話を始める。

「そう、それですわ。わたくし、あなた方に協力して差し上げてもよろしくてよ」

自信満々にそう言い切る。

「一応確認しておくけど、プールに持ってきたステッキが、摩樹の道具だよな?」

「フン、目敏いですわね」

冷たい声色だが、別に不快という訳ではないようだ。

「ま、よろしいですわ。どうですの?わたくしの協力、在り難く受ける気はありまして?」

「…そりゃ、随分急な話だな」

予想外の展開に、考は眉をひそめる。とはいえ正直なところ、本当に在り難い申し入れであることには変わりない。そんなことを考えているうちに、麗が口を開いた。

「いーや!そこは、『下僕に加えてくださいませ~、麗サマサマサマ~』だろー!」

「なっ!?下僕ですって!?」

結局この後喧嘩になり、続きは束沙の基地で話すことになった。

「それで、明日からの予定だけど―――」

「その前に、みなさんの道具を確認しませんか?名前は聞きましたけど、それぞれの効果とかまだちゃんと見てないので」

考が話を進めようとすると、星良が口を挟んできた。意外とまともな提案だったことに驚いてしまう。

「摩樹も加わるし、いい機会だな」

「おっけーですね!では、『11の遺物』を見せて下さい!」

まずは束沙の持つ眼鏡。

「私の『エリリル』は、物の来歴、情報を読み取る。いわば、プロパティを閲覧するような機能だ」

続いて、八重のビリヤードに使う四角いチョーク。

「八重ねえさんの『エレッサール』は、鳥のヒトたちと話ができる。鳥のヒトは、あんまりもの考えてないけどね」

次は、梨子の望遠鏡。

「私の『エチオピアの目』は、覗き見ることで相手を眠らせることができます。ただし、相手が動いているとダメですけど」

その次は摩樹のステッキ。

「わたくしの『グロンド』は、相手の欲しがるものをなんでも見透かすことが出来ますわ」

最後に麗の鈴。

「そして麗さんの『リンギル』は!何かを指定しながら鳴らすと、聞いた相手に『おっけー』と思わせることが出来る!」

その後再び喧嘩になり、偶然道具が壊れないという事実が発覚する。ハンマーで叩いたり、鑢で削ってみた入りしたが、全く傷つく様子はなかった。この日はこれで解散になった。

 

・・・

摩樹の行動を監視するために、束沙の基地とやらにまでこっそり侵入したが、思いのほか収穫があった。

「まさか、ほぼ全ての道具の効果が分かるとは思いもしなかったな」

中でも、束沙と麗の道具は厄介だ。聞き出すか調べるか、違いはあれど俺の道具について知られる危険性がある。まあ、知られたところで破壊できない以上問題はないが。

「今日はもう解散みてーだな」

それぞれ、自分の住処に帰りだすなか、俺は今日最後の要件を片づけるために走り出した。

「動くな」

鼻歌混じりに歩いていた摩樹の背後を取ると、底冷えするような声でそう言った。言われなくても動けないだろう摩樹は、かすかに震えている。

「摩樹がどういう行動をとろうと、俺は文句は言わねー。だが、敵対するとなれば、俺はためらいなく潰すぞ。それだけ覚えておけ」

そう言い残すと、道具を発動してその場から退散した。そして次の日。俺は再び摩樹の監視をしていた。電話――おそらく珠璃にだろう。を掛けると、堀出アストラルの方向へと考と麗を連れて歩き出した。

「なんだと…?珠璃が会うことにしたのか、珍しいこともあるもんだ」

なんとなく、嫌な予感はするが、一応尾行は続行することにした。

堀出アストラル。煌びやかなレストランには、すでに珠璃の姿があった。俺は、ばれない程度の距離を保ち、道具を発動させる。これでこれくらいの距離でも問題なく会話を聞くことが出来る。

「久しぶりだよねえ、考クン。相変わらずキミの顔見てると、ボク、ジンマシンが出そうになっちゃう」

いつも通りの毒舌だ。嫌な予感は俺の気のせいだったか?何事もなく話が続き、無事に珠璃の協力を取り付けた時、それは訪れた。

「ボクと摩樹が協力するなら、もう一人も呼ばないとねえ」

「っ!?珠璃、それは…!」

考と麗は何を言ってるのか分からないと言ったような表情だ。俺は、一瞬で珠璃へと距離を詰める。心が冷えていくのが自分でも分かる。

「珠璃、お前まさかとは思うが、俺と敵対するつもりか?」

「まさかあ、そんなわけないじゃん。ボクは道具について話をするなら、心を除け者にするのはダメだと思っただけだよ」

依然、表情は崩れない。確かに一理あるが。

「まあいい。予定外だが考えは分かった」

「そう、なら早いとこ挨拶しなよ。二人とも固まっちゃってるじゃん」

「そうだな……」

考たちの方へと向き直ると軽く頭を下げる。

「吉良心だ。久しぶりだな考、麗。」

あまりにも予想外の名前だったのだろう、目を見開いている。言葉が返ってくるのを待つことなく、俺は珠璃の後ろへと控えた。

「もっとなんか言ってあげればいいのに。一応、久々の再会だよ」

「黙れ。俺をだしに使おうとするな」

道具を破壊すると言った考に対する抑止力のつもりで俺を呼びつけたのだろう。

「………まあ、いいよ。これ以上怒らせると本気でヤバそうだし」

そのまま不満そうな顔で考たちと向き直る。

「とにかく、ボクたちは道具を捨てる気なんかないからね」

「…それなら、お前の夢は、道具がないと叶えられないのか」

「他の人は、みんな道具なんてなしで頑張ってんだよ。やっぱり魔法みたいな力、ズリぃーよ」

考が反論し、それに麗が追従する。確かに正論だ。しかし、俺は生きるために手段を選ぶつもりは無い。それが弟の心臓を貰い受けた日に誓った俺の全て。

「昔の心を覚えてるかな?」

「珠璃」

「黙ってて。キミが言わないなら僕が言ってあげるよ」

今までにも数回しか見たことないような真剣な顔だ。俺は、話し過ぎるな、と目で諌めると再び沈黙した。

「心は体が弱くてね。もともと長くは生きられないだろうって言われてたんだよ」

「えっ……」

俺を見ながら意外そうな顔をする麗。細身ではあるが、死に掛けとには見えないだろう。

「だから、心は願ったのさ。丈夫な体が欲しいってね。だけど、キミたちはそれを奪おうとしている。この意味、分かるよね?」

摩樹も含めた三人が驚いている、俺の願いではなく、珠璃が怒っているからだ。

「そういうだ、俺は道具を破壊するというなら敵対する。肝に銘じておけ」

俺がそう言い放った瞬間、激しい破壊音が響き渡った。

「なにごとっ!?」

トクン、と鼓動が高鳴り、俺は外へと飛び出した。

「ちょっ!?」

力を知らない考と麗には、自殺行為にしか見えなかったようで、かすかに悲鳴が聞こえる。

「これは植物なのか?どういう道具か見当もつかんな」

いつもの口調に戻して、あたりの探索を始める。しかし、すでに犯人と思しき人物も、道具も見当たらなかった。

「時限式の道具?いや、遠隔操作って手もあるか。いずれにしてもすでに証拠はなさそうだな」

どちらにせよ厄介な奴だ。調べようにも、これじゃあ俺に出来る事の範疇にいない。そんなことを考えていると携帯が鳴った。摩樹からだ。

「はいはいこちら心でーす。分かってると思うけど、今忙しいから」

「……いえ。私たちは、これから他のメンバーと合流することになりました。心さんはどういたしますか?」

俺が普段の様子に戻ったのが分かって安心したようで、心なしか声が軽い。……ギャグじゃないよ。

「行かねーよ。束沙の道具は厄介だし、何より俺は捜査で忙しい」

「分かりましたわ。珠璃にはこちらから伝えておきます」

ピッと言う音がし電話が切れる。

「さて、始めますか」

視界の端を、黒猫が通ったような気がした。

 

・・・

日も暮れ、話し合いも煮詰まってしまった考たちは、現在オンザローズの前にいた。情報の溢れるここならあるいは、と思ったからだ。

「それじゃあ、いいな?」

ドアをノックするとすぐに店長が出てきてくれた。

「おや、やはり来ましたか。彼の言った通りですね」

考たちの来訪を察知していたようで、するっと奥に通してくれた。

「彼……?」

「吉良君ですよ。知り合いではないのですか?」

「確かに知り合いですけど…」

なんとも返しづらい質問だ。なにしろ敵対宣言をされたばかりなのだから。

「すでに、いくつか必要なことは聞いています。と、その前に、彼から珠璃と言う人への伝言を預かっているのでした」

「へえ、ボクが珠璃だけど。心のヤツなんて言ってたの?」

「『俺を付け回してるクソメイドがいる。そいつの持ってるネックレスはおそらく道具だ。壊れなかった』と言ってました」

クソメイド。思い当たるのは、ホテルから出てすぐに摩樹の道具を強奪しようとした女だ。思い返してみれば、剣の形をしたネックレスと首から下げていたような気がする。

「さて、伝言は以上です。ここから先は、きっとあなた方が必要としている情報について話しましょう」

店長の顔つきも引き締まり、思わず息をのんでしまう。

「駅の近くに、コンビニがありますね。あの近くの歩道橋です。あきらかに場違いな、それも奇妙なデザインの…水の溢れ続けるジョウロを持った男がいたそうです。ぶつぶつと呟きながら、座り込んだり、立ったり、あたりを見渡したり。私の情報は全て伝聞ですが、調べてみる価値はあるでしょう」

すでに吉良から話が通っていたおかげで、聞きたかった情報は、以外にもあっさりと手に入った。

「ありがとうございます」

「お礼は結構です。それよりまた、その道具…について、詳しく話を聞かせて頂きたい。私は、人の話とやらが、心底大好きなんですよ。吉良君の道具も凄かったですからね」

「吉良の道具、か…」

思い出すのは、今日の昼頃。まるで漫画のキャラクターのように、人間離れした動きでホテルを飛び出していった吉良の事。道具は願いに呼応する。ということは、やはり身体能力の強化なのだろうか。ちらり、と珠璃の方を見る。

「何かな考クンてば、物欲しそうな顔しちゃって。ボクは話さないよ。心、ホテルの一件で結構怒ってたし、これ以上は洒落にならないからさ」

「ならせめて、道具の形だけでも教えてくれないか?あの時、吉良は何も持っていなかったぞ」

「何?それは本当か、実に興味深いな…」

「あらら、それは流石の八重ねえさんも予想外だよ。道具の形状くらいは分かってると思ってたんだけど」

「でも、吉良っち確かに何も持ってなかったよ」

頭を捻らせて分かるようなものでもない。珠璃と同じく事実を知っている摩樹はこっちへと話が振られないように戦々恐々としていた。それを見て珠璃がにやりと笑う。

「無理無理。どうしてもって言うんなら摩樹に聞きなよ」

みんなの視線が摩樹へと集中する。

「………一つ質問があります。あなたたちは道具を破壊、もしくはそれに準ずる行為をしようとしていますわ。間違いありませんこと?」

「道具は危険だ。使い方次第では大きな被害を生む」

「そういう正論を聞いているのではありません。あなたたちの意思を聞いているのです」

摩樹の表情はいつになく真剣だ。本気の言葉には本気の言葉で返さなくてはならない。

「今回のようなテロが起きてしまった以上、このまま道具を野放しには出来ない。俺は道具と破壊する」

考が意思を示すと、麗が、八重が、星良が、梨子が、束沙が、貢一郎がそれに頷く。

「そう…、なら話すことは出来ません。彼の道具の存在は私たちとは比較にならないほど重いものですから。それでも知りたいのなら、本人を探し出して直接聞いて下さい」

「へえー言うじゃないか、摩樹。ボク少しだけ感心しちゃったよ。てっきり話しちゃうかと思ってたのに」

「あなたが!それを言いますか!」

話を振った全ての元凶である珠璃が、いつも通りに摩樹を煽りにかかる。

「ホテルでの時と言い今と言い、私、死ぬ思いでしたのよ!」

シリアスな空気は、いつの間にか弛緩していた。あるいは、それが珠璃の狙いだったのかもしれない。とにかく話はそこで終わり、行動を起こすことにしたのだった。

「まずは情報の多そうなメイドの方から当たろう」

翌日、件の不審者の目撃場所へと集まった考たち――珠璃は案の定来ていない、はとりあえずの方針を決めた。発見しやすそうなメイドを探しながらの情報収集だ。幸い、摩樹があのメイドの素性を知っていたため、捜索は容易だった。その後、メイドを買収し、剣の形をしたネックレスの道具『マジックベーン』を手に入れることに成功した。そして――

「これは『道具を破壊する道具』だ」

束沙が解析の結果を発表すると同時に、ホテルで聞いた破壊音にも引けを取らないほどの轟音が響き渡った。

 

・・・

「どうやら、無事に道具を手に入れたみてーだな」

束沙の基地へと戻っていく考たちを、気づかれない距離から尾行しつつ、俺は呟いた。目的は監視と、あの道具の効果を知るためだ。アレからは、なんとなく嫌な予感がする。俺を脅かす可能性、そんなものを放置しておくことは出来ない。俺は生き続けなくてはならない。それはもはや強迫観念と化した俺の誓い。ぼんやりとそんなことを考えているうちに、基地へと着いたようだ。そして――

「これは『道具を破壊する道具』だ」

その瞬間、俺は道具を発動し地面を蹴った。ブーストされた脚力に耐え切れず、地割れを起こす。しかし、今はそんなことに構っている暇はない。

「ふッ!」

一足で数百メートルの距離をなくし、扉を破壊し束沙の基地へと踏み入った。突然の出来事に、全員が唖然としているなか、俺は話し始めた。

「大人しくそいつを俺に寄越すか、全員ぶっ倒されて奪われるか、どっちか選べ」

「吉良……?どうしてここが?」

「俺の道具を使った。そんな事より、渡すのか渡さないのか、どうなんだ?」

無表情な俺とは対照的に、考は軽い笑みを浮かべている。何を考えているか、なんとなく分かる。俺と同じだ。懐かしいあの日のことを。輝かしい冒険の記録を。無邪気に笑い合っていた俺たちを思い出しているのだろう。

「それなら一つ、条件がある。俺たちは、あのテロを起こしてる道具を破壊しなくちゃならない。それを手伝ってくれ」

はたして、その問いに答える権利は自分にあるのか。分からない。

「いいのではありません?」

黙り込んだ俺に向かって摩樹が声を掛ける。

「心さんが焦る気持ちは分かりますが、考さんたちとしても譲れない一線があるのでしょう」

「………………分かった、取引に応じよう。その方がスムーズに事が運べそうだしな」

放っていた重圧を霧散させ、舞台の上まで移動する。

「新顔もいるようだし、まずは自己紹介といこうか」

一人一人、懐かしむように顔を確認してから口を開く。

「俺の名前は吉良心。懐かしいなてめーら」

ちょくちょく遭遇していた貢一郎と、一緒に行動をしていた摩樹。俺のことを知らないあ星良。そして数日前に会った考と麗以外のメンバーが仰天する。

「こっ、心ちゃんって、心君だったんですかっー!?」

中でも梨子の驚きは相当なものだった。子供時代にちょこちょこ遊んでいたが全く気が付いていなかったようだ。

「お前、ホントに俺を女だと思ってやがったのかよ……」

冗談であってほしかった。

「まあ、いい。とにかく今日は帰る。明日、珠璃も加えてから話そう」

道具を発動すると、一瞬でその場を後にした。

 

・・・

次の日、話し合いの結果テロ犯人捕獲作戦を発動することになった。手始めに、オンザローズ店長の目撃証言の場所を捜索すると、いとも簡単に見つかった。不思議なジョウロを持って歩いている男。間違いないだろう。考がみんなに目で合図を送り、それに小さな頷きで返す。万事、滞りなく上手くいくと思われたその時、男の背後にに覚えのある人影が現れた。性根の腐ったクソメイドである。

「ちっ。面戸くせえことになったな!」

クソメイドのせいでこちらの存在がばれてしまい、男が逃走を始める。

「いきなり逃げるのかよ!」

追いかけようとする考の足に、クソメイドが巻き付く。

「もらい!!」

揉み合いになり、隙をついて道具『マジックバーン』を奪われてしまう。それは許容できない。俺が出ようとすると、すでに珠璃が逃走経路に立ちはだかるようにいた。アンニュイにため息をついている。やみくもに振りかざされる『マジックバーン』を悉く躱し、クソメイドへかすかに触れると、珠璃の道具『フラキア』が発動し、『マジックバーン』は考の手の内に戻る。

「仕留めるか」

クソメイドが困惑しているうちに、俺は道具を発動させる。トクンと心臓が高鳴り、周囲の時間がゆっくりになるほどに思考を加速させる。そして、その中でも等速で動けるように身体能力もブーストし、誰もが認識できないような速さで駆ける。完全な不意打ちで顎先を揺らし、制圧を完了させる。

「考クン、まだ終わってないでしょ」

珠璃の一言にはっとした考は、逃げ出したテロ犯を追いかける。追従するのは、麗、珠璃、そして俺。捕まえてやろうか、道具を発動しようとした瞬間、男がジョウロの水を撒き始めた。事もあろうに住宅街でである。

「吉良、こっちは俺たちに任せろ!お前は巻き込まれた人たちを助けてやってくれ!」

異存はない。理不尽なものは俺も大嫌いだ。それに何より、この程度では俺は死なない。緊迫したこの場面で、それだけが俺にとって重要な事。

「任せろ」

短く言葉を切ると、俺は巻き込まれている人がいないか確かめるために、まだ無事なアパートの屋上へと飛び乗った。幸いなことに昼間の住宅街だ、そう人は多くない。数人の人影を確認すると、俺は再び跳んだ。眼下では、考が蔦をかいくぐりながら接近を試みている。成功にしろ失敗にしろ、案外と早く決着が着くかもしれない。

「――――お前の『願い』を殺してやるよ」

どうにか接近に成功した考はそう言って『マジックバーン』をジョウロめがけて振り下ろす。変化は、ほんの一瞬。歪んだ形のジョウロは、灰も残さず、塵と化して消えてしまった。その光景を見た瞬間、尋常ではない怖気がはしる。それは珠璃も一緒のようで、

「そんなもの、どこから…。許さない。絶対に許さない。例え神様にだって、ボクの永遠は壊させるものか!!」

呪いのような言葉を吐き捨てて、珠璃は鋭く踵を返す。

「激しく同感だな。忌々しい道具だ。見ているだけで反吐が出そうだ」

これは俺の命を脅かす唯一の存在と言ってもいいだろう。一刻も早く破壊してしまいたいがその手段はない。

「………俺は珠璃を追う。次会った時に、そのクソったれな道具をを引き渡してもらうぞ」

先ほどの珠璃と比べてもなお、比べ物にならないほどの殺意を『マジックバーン』へと向けながら俺はそう言った。後に残ったのは、破壊された住宅街と、倒れ伏す男、そして、やりきれない顔をしている考と麗の二人だけだった。

 

・・・

梨子の家にみんなで集まろう。摩樹を通して俺にもその連絡が伝わってきた。その当日、珠璃との打ち合わせ通り俺は近くで様子を監視していた。もしもの時のための、緊急脱出装置だ。今日、珠璃は胸の内を包み隠さず打ち明け、宣戦布告してくると言った。間違いなくそれだけでは済まないだろう。

「やってくれたな!珠璃!」

案の定、梨子の妹の願いから発生した新たな道具を使い、見事に『マジックバーン』の破壊に成功した。正直、小躍りしてしまうほどに嬉しい。そして、束沙の

『エリリル』を掴みとると投げ捨てる。外で待機していた俺は、それを見事にキャッチすると懐にしまう。

「さて、出番か……」

逃走しようとした珠璃を、貢一郎が捕まえている。ああなってしまうとほぼ無力だ。道具を使って全裸にするくらいの事しかできない。

「今度はねえ」

「そうでもない」

道具を発動させ、一瞬のうちに貢一郎から珠璃を開放すると、腕を組んで立ちはだかる。

「しまった。伏兵を用意していたのか!」

「気づくのが遅かったな。俺が来たからには武力での制圧は不可能だ。諦めろ」

「吉良!どうして!?」

「…そうだな。珠璃が話したんだし、脅威も去った。俺も心の内を語るとするか」

どうだ、と珠璃に目で尋ねると、神妙な顔をして頷いた。

「梨子、妹たちを。あまりいい話じゃない」

妹たちが部屋を出たのを確認すると、服の下からナイフを取り出す。事情を知らない摩樹と珠璃以外の全員が緊張に身を強張らせる。

「よく見ておけ―――これが俺の道具だ!」

以前、ホテルでやった時の様に、心臓めがけてナイフを振り下ろす。幾人かの悲鳴が聞こえ、しかし、目の前の現実を見て納得する。

「ご覧の通り、俺の道具は心臓だ。これでも壊すって言うのか?」

「うっ、嘘…!?そんな事って…」

「俺は、お前たちが道具を壊すって言う度に『お前を殺すぞ』って言われてる気分だったよ」

しーんと部屋が静まり返る。ぽたぽたとナイフから滴り落ちる血の音以外、すべての音が消えた。

「まあ、俺が敵対する理由はそういうこった。死ぬって分かってんのに何もしない、なんてのはよっぽどの馬鹿か、頭のおかしいやつだけだ」

憎悪とも親愛とも取れるような声音で自嘲するように言い放つ。

「………俺は、変わっちまったよ。あの頃からいろいろあった。残念だが、もう相いれないみたいだ。テロ犯捕まえた日、たった一日だけど、まあ楽しかったぜ。じゃあな」

「待っ―――」

考の呼び止めに応じることなく、俺は珠璃と共に玄関から出て行った。この世界の理不尽を知ったあの日から続く戦い。俺と珠璃の二人の協定。もし、俺たちのどちらかがどうしようもない事態に巻き込まれた時、二人でそれをぶちのめしてやろう。そんな小さいから続く他愛ない約束が、今、果たされようとしていた。

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