対の銀鳳   作:星高目

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明けまして桜が咲きました……。
生存報告がてら、短いですがどうぞ。

それと、蹴翠 雛兎さんよりセラのイラストを頂いております!ありがとうございます!めっちゃかわいい!
公開が遅くなって申し訳ありませんでした!

【挿絵表示】




エルとセラ

 エルネスティ・エチェバルリアにとって、セラフィーナ・エチェバルリアがどういった存在であるか。

 それは恐らく、文字通りに掛け替えのないものだろう。

 もしもの話をしよう。彼に今と同じように双子の妹が、決して転生者でない存在でいたとして。死んでも治らなかったほどに重度のロボットオタクである彼にとって、その人はただの双子の妹である以上のことはなかっただろう。

 同じ家族として、いくらかの親愛を注ぐ。それはつまり、大事ではあっても家族の範疇を越える存在ではなかったに違いない。

 しかしセラフィーナ・エチェバルリアはそれだけではないことを彼は知っている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがエルにとってのセラを特別たらしめているのだと。

 そう気付いたのは幼少のころ、この世界に転生してからそう時間が経っていない時の話だ。

 

 

 

「~♪~♪」

 

 夜、エルは子ども部屋で一人、初代ガン○ムの絵を描いて遊んでいた。あどけない声で歌いながら喜々としてお絵かきに熱中する光景は年相応で、見る人の微笑みを誘うだろう。しかしこの世界の人間がその黒一色で描かれた絵を見れば、その印象は全く覆されるに違いない。

 

 人間に似せて作られた機械の巨人。なるほどこれは幻晶騎士に違いない。しかしそれ以外は何だ?

 全身の装甲から感じる重厚感は、どうみても既存の幻晶騎士のそれとはかけ離れている。

 傷や可動部の部品一つにまでこだわるさまは、まるで完成形を目にしたことがあるかのようだ。

 しかしこんな物は見たことがない。

 だからといって子どもの妄想と笑い飛ばすには、あまりにも現実感を伴いすぎている。

 

 この後完成した絵を見たマティアスがそんな風に盛大に困惑するほどの代物、それがエルが遊びで描いているものだった。

 

 それはさておき。

 

 かちゃりと、パジャマ姿のセラがドアを開いて子ども部屋に戻ってきた。

 セラは転生して以来、勉強が終わると父の書斎で魔法に関連した本を読みあさるのが習慣になっていた。周りからすれば仮にも幼稚園児くらいの子どもが、文字を覚えてすぐ本を乱読する様は、エルとあまり変わらない程度には奇妙な物に見えただろう。

 本を夜まで熱中して読んでいたためか、眠たげに目をこすっているセラは、エルの落書きを見て思わず声を漏らした。それが、ロボットに詳しくない自分にも見覚えのある物だったからか、寝ぼけていたからかは定かではないけれど。

 

「・・・・・・がん、だむ」

 

「・・・・・・え?」

 

 その一言が、決定的だった。この世界で聞くことはないと思っていた名前を聞いて、エルは目を見開いてセラを見つめる。

 一方のセラはエルの反応を見て、自分が何を言ったのかを思いだし、口に手を当てる。

 やってしまったとでも言うように。

 

 一瞬の空白。やがて、エルの瞳が隠しきれない熱を孕んだ。

 

「これを、しっているということは・・・・・・」

「・・・・・・い、」

「がんだむだと、わかるっていうことは」

「いや・・・・・・」

「あなたも、ちきゅうからてんせいして、って。え?」

「やめてよ・・・・・・」

 

 この世界ではもうほとんど諦めていた、前世のことが分かる人間が目の前に現れた。もしかすると、ロボについて語り合える同志かもしれない・・・・・・!

 興奮のままに詰め寄ったエルは、しかし一瞬で頭を氷嚢で殴られたような気持ちになっていた。

 

 セラは泣いていた。

 

 弱々しく泣く妹の姿に、自分が地雷を踏んだことをエルは悟った。

 

「・・・・・・える、わたしとあなたは、かぞくだよね?」

 

 懇願にも近いような涙声。その意味するところを察して、エルはセラをあやすように抱きしめた。

 

「ええ。せらはぼくのかぞくです。このせかいでたったひとりの、ふたごのいもうとです」

 

 転生者同士ではなく、()()()()()()()()()()として共にあるのだと。

 

 

 

 

 

 

 エルはそんな遠い日のことに思いを馳せていた。このときはしばらく距離感がわからなかったですねというのんきな感想が思い浮かぶ。

 結局のところ、数日後にセラから前世の話題をそれとなく出されて意気投合し、その気まずさは解消されたのだけれど。

 あのときセラは前世について触れられるのを嫌がったのに、どうしてとまた新たな疑問が浮かぶのは避けられなかった。

 

 本人は言わない、というか聞かれたら多分黙るだろうけれど、恐らく彼女も時折確かめたくなるのだろうとエルは確信を抱いている。

 自分があちらのロボを想うように。セラがここにはない魔法を想うように。

 自分たちに、前世が間違いなく存在していたということを忘れたくないからだと。

 

 けれどそうして前世にこだわるような面を見せながらも、結局のところセラはエルに自身も転生者であることをはっきりと告げていない。流石に明らかではあるけれど。

 

 それを明確にしないのは、多分そうすることで家族からそれ以外の関係に変わってしまうことを恐れているからだろうとエルは思う。

 思えばセラは、家族に関係する事柄になると何かと執着することが多かったように思う。それはおそらく前世の経験から。

 深く聞くことはしない。けれどそれを察した上でも、エルにとってのセラは代わりようがない。

 自分の妹が自分と同じように転生者だった。それでも今の自分はエルであり、彼女はセラである。

 

 ならば他の何かより大切になることはあっても、家族でなくなることなどあるはずもないのだから。


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