とある小さな村での出来事。
王様が、この村で古くから作られているパイをいたく気に入り、できる限り多くの人と、その喜びを分かち合いたいらしく、500個のパイを作らなくてはならない。
村長を頭を悩ませていた。期日までに、王様が望むだけの質のものを作るには、どうしても人手が不足していたのだった。
そんな折、村でも有名な怠け者が、村長の元へとやってきた。
この男の怠けぶりは徹底している。寝る事以外は全てやったりやらなかったり、やったとしても適当極まりない。
「何の用じゃ。」
「いや、ひどく困っていると聞いてやって来たんだが、その様子じゃ俺の出番はなさそうだな。」
男が去ろうとすると。
「待ってください。ねぇ、お父さん、この人に相談してみましょう。わざわざここまでやって来てくれたのよ。」
「なんじゃと、このろくでなしに何ができると言うんだ。ここに来たのもどうせお前目当てじゃろう。」
「ありがとう、俺を信じてくれて、だが、村長の言った言葉は、間違いじゃない。だから、やはり、俺の出る出番は無いと思う。それでは。」
「待ってください、私目当てでも構いません。お願いします、お父さんを助けてあげてください。村のみんなはお父さんを見捨てたんです。」
「すまない、俺では力になれそうもない。」
「そうだ、そうだ、そんな奴に頼むのはやめて、俺たちに頼んだ方がいい。」
村一番の賢さと、勇気と、優しさを持つものがそこにいた。
「ふざけないでください。お父さんがどんなに頭を下げても、けんもほろろに断ったくせに。」
「俺達も反省したんだよ。それにそんな奴に頼って、村長とあんたが不幸せになるのも嫌だと思ったんだ。」
「なるほど、それは素晴らしい心だ。」
「お前みたいなろくでなしに褒められてもちっとも嬉しくない。」
「あぁ、そうだったな、すまない。」
「ふざけないでください。あなた達の身勝手な振る舞いにもかかわらず、この人はあなた達の全てを賞賛したんです。しかも、自分を全否定されているにもかかわらず。」
「そんなの、あんたの前でいい格好がしたいからだけだろ。」
「あぁ、その通りだ。」
「私のため、それもあるでしょうけど、お父さんが困っているのを聞いて何とかしたいと思ってここまで来てくれたのでしょう。」
「いや、そうじゃない、君と親密な仲になれるかもしれない、そんな邪心ゆえだ。」
「邪心だなんて、そんな事ありませんよ。だって私はとても嬉しいですから。」
「ダメだ、村長にもこの人達にも伝わらないし届かないのが、邪心である何よりの証だ。」
「そんな事無いわ。お父さんとこの人達が間違っているのよ。だって。」
「そんな事は無い、あなたを守りたいと思う気持ちゆえだと思うから。そんな事を言ってはいけない。」
「どうして、私はあなたのために言っているのに。」
「気持ちは嬉しい。だけど、結びつくべき思いが結びつかないというのが俺には何より耐え難いんだ。」
「ならば、娘のわしを助けたいという思いが結びつかないのも耐え難いのではないのか。」
「くそっ、たしかにその通りだ、一体どうすれば、俺がもっとちゃんと真面目に頑張っていればこんな事はならなかったはずなのに。せっかく、ようやく、自分にも正しくできる事を見つけられたと思ったのに。」
賢い男が言う。
「あなたは、人として生きる事全ての放棄と引き換えに、
とても素晴らしいものを得たようですね。」
勇敢な男が言う。
「師匠の言葉を思い出したぜ、優しさの無い勇気は真の勇気じゃないとその言葉がようやく理解できた気がするぜ。」
優しい男が言う。
「全ての真実は、自らを省みない事により明らかになる、
その言葉をあなたは体現しているのだと思います。」
「ふむ、そうじゃな。あんたなら、きっと不可能も可能にできるじゃろう。改めてお願いできないか。ろくな謝礼もできないが。娘との結婚と引き換えでも構わないから。」
「お父さん、それだけはやめてください。」
「あぁ、わかっている、わかっているとも、決して勘違いしたりはしない、安心してくれ。」
「いいえ、違います、私が嫌うのは形だけです。本質は別に嫌じゃないというか、むしろ望むところです。」
「たまたまうまくいった立ち居振る舞いをもとに人生を見限るのはやめてほしい。」
「あなたの心が私を動かし、そしてお互いに心を動かし合った結果、お父さんとこの人達の頑な心を正す事ができた。あなたとだったら何だってできる気がします。あなたもそう思いませんか。もし、そうなら、それが生涯を共にするにあたってもっとも大事な事です。」
「それはよく分かる、だけど、気持ちとそれ以外は必ずずれるものだ。冷静に見えて、冷静じゃない、そんな時はたくさんある。君の一生懸命さを否定したくは無いが、それでももっと慎重に考えなくてはいけない。君と、君の子供達の未来のために。」
「そこまで考える人めったにいませんよ。」
「俺は生粋のエゴイストだ。気が向いた時だけ動き、それ以外は適当に動くか、全く動かないかのいずれかだ。」
「大丈夫です。私があなたをちゃんと動かしますから。
それならどうですか。」
「君に動かされるのか、悪くはない、悪くはない、だが。」
「難しく考えすぎです、いいんですよ、1人で抱え込まなくても。友達だって良いことも悪いことも全て分かち合いたいと思うものです。友達以上ならなおさらのはずです。」
「しかし、良い事が悪い事より多くなるようちゃんと頑張る必要はあるはずだ。」
「あなたに足りないものを全部私が補います。心配しなくても、あなたはいつだって私に足りないものを全て補える人です。」
「ううむ。」
「だから、難しく考えすぎなんです。それがあなたの良さなんでしょうけど。」
「話は全て聞かせてもらった。」
「王様、あなたがなぜここに。」
「私のわがままのせいであなたに多大な迷惑をかけてしまったから、その詫びに来たのだ。本当にすまなかった。」
「王様、そんな、頭を上げてください。こんな小さな村でも幸せに暮らしていけるのは全てあなたのおかげなのですから。たしかに苦しかったですが、恨む気持ちも憎む気持ちもありません。」
「そうであったな、あなたにだけ謝ってもそれでは不十分だった。皆の者すまなかった。私のせいでたくさんの迷惑をかけてしまった。」
「王様、どうか、顔を上げてください。あなたは、良いものをより多くの民と分かち合おうとしただけです。やり方は不適切かもしれませんが。すみません。無礼をお許しください。その気持ちこそ為政者にとってもっとも大事なもの。どうか決して否定はしないでください。」
「ありがとう。私は君に2度も救われた、君の姿は、言葉は私に正しい勇気を与えてくれた。感謝してもしきれないほどだ。」
「本当にありがたい事です。僕の心があなたのような立派な人の心をも動かしたと言うなら。」
「私は決して立派ではない。私には為政者としてあるまじきおごりがある、私はそれを君に学んだのだから。」
「王様、あなたも人です。気持ちは間違っていないんです。だから、どうか、そのような悲しい事をおっしゃらないでください。」
「ありがとう、本当にありがとう。」
「王様が招きたい方の元へ同行するのをお許しください。
作るのを手伝ってもらうために。微力ですが、王様の気持ちがあればどうにかできるはずです。」
「私もついていかせてください。」
「そうでした。此度の出来事は全て、彼女の存在ゆえです、どうかお許しを。」
「俺達もついていかせてくれ。」
男は考えていた。この3人と力を合わせれば、とても素晴らしい事が起こるだろうと。しかし、彼女を連れて行くというわがままを許してもらっているのに、これ以上のわがままを言うのはさすがにやり過ぎだろうと。
「君の考えを聞かせてもらえないだろうか。念を押させてもらう、どうか君の正直な気持ちを教えてほしい。」
「正直な気持ちですか。僕には知恵も優しさも勇気も足りません。ゆえにこの方達が来てくださるのはとても心強いです。」
「ふむ、なるほど、しばし猶予を与えよう。君と彼らが真に魂の絆で結ばれた姿を私は見てみたい。しかる後に、当初の計画を実行しようと思う。」
「分かりました。では、今日1日、2日いただけますか。この方達とじっくり話をしてみますから。」
「分かった、では、2日後にまた会おう。」
まだ続きはありますが、ここで一旦終わります。
全てとって世界で一番優しい物語を目指していますが、まだまだ色々と力不足のようなので、色々と勉強してから、また書こうと思います。
続きは未定です、ごめんなさい。