美波の奇妙なアイドル生活   作:ろーるしゃっは

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014/ ミステリアス・アイズ

 時に、太陽が中天に差し掛かろうとする時分。雲ひとつない青空に真夏並みの暑さが照りつける、7月の東京都渋谷区、青山霊園にて。

 まばらに人影が見受けられるも静謐な空気を保つ早朝の墓地。そこを長身に黒タイとスラックス、真白いシャツを半袖にして捲り、片手に花を携えた男の姿がふらりと現れた。どうやら知人の墓参り、といった用向きらしい。

 純日本人ではおよそ有り得ない、ベリルにも似た緑眼を持つ男が見つめるは、少しばかり珍しい名字が彫られた御影石の墓。故人の好物だった桜桃(チェリー)も仏花のついでに供え、磨き込まれた墓石の前で手を合わせる。厳かに佇むその心中を、文字におこせば。

 

(……あれからもう、25年か。……早えもんだな、年月ってのは)

 

 持ってきた線香に火を点けつつ、暫し男は過去への回想に耽る。そう、「彼」を、いや正確には「彼等」を喪ったのは忘れもしない、自分が高校生の時だった。

 ……しかし思えば、時の流れとはいやはや実に残酷である。まったく老いることなき脳裏の戦友に対し、気づけば自分は既に年の頃四十路を数えた二児の父。今や己の娘ですら、死した友より長い年を生きている。

 

(アヴドゥルとイギーもそうだが……つくづく、失くしたモンも多い旅だった、な……)

 

 危機に瀕した母の命は確かに救った。凡そ一世紀に渡る因縁も、自らの怒りを込めた拳で以って引導を渡した。しかし死した命を取り戻すことは、自身の強大なスタンド能力を以ってしても不可能だ。そして…………若くして落命した()もまた同じ。その肉声を直に聞けることはもう、二度とない。

 今更ながらのしかかる、不可逆的な「死」の重み。万象全ては土に還る。それは自分も例外ではない。

 

 困難に満ちたあの旅の仲間で、もう自分以外に闘える者は居ない。自分と対等に話せるスタンド使いは、既にポルナレフしか存在しない。そして今後現れるだろう「敵」の正体は、DIOにも増して全くの未知数。

 こんな時かつて一緒に旅をした、例えば目の前の墓に眠る旧友が生きていたら、一体何と言うだろうか。

 無限に湧き上がる郷愁にキリのなさを感じた男は、墓石へと再び意識を戻す事にした。

 

(……悪いな、中々来れなくなっちまって)

 

 現在、海洋学界の世界的権威として、またSPW財団名誉会員としても公的・私的を問わず重責を担う地位にある翠眼の男。生まれ故郷とテキサスに墓標のあるアヴドゥルとイギーは兎も角、此処は立ち寄り易い国内。かつては彼の月命日の度、こうして手を合わせに来ていたものだったが、社会人となってからは広島に生活の軸足を置いていることも影響してか、実は墓参自体も久しぶりであった。

 特に五月の出張以降はとみに忙しい日々が続いているのだが、それでも多忙の合間を縫ってやってきたのだ。

 

「……なあ、花京院」

 

 ……一度くらい、お前と酒が飲んでみたかったよ。

 

 それきり唇を引き結んだ墓参者、空条承太郎が放った言葉は、七月のうだるような暑さの中、雲ひとつない初夏の青空へと溶けていく。親族がこまめに手を入れているのだろうか、掃除が行き届いた眼前の墓石には「花京院典明」と、確かにそう記されていた。

 

 暫く後、無言で手を合わせていた承太郎は回想と、そして暫しの黙祷を終える。再び見開かれたその目に宿るのは、新たな闘いへと身を投じる凄烈な「覚悟」だった。

 ややあって、音も無く立ち上がった彼は墓地に背を向け、それきり背後を一瞥する事も無く立ち去った。

 残されたのは、何時もと変わらぬ静謐な霊園の一風景。早世した花京院の月命日たる十六日。時折大気に掻き回されたぬるい風が大都会の墓地に吹く中、カナカナカナカナと、どこかでひぐらしが鳴いていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 場所を変えつつ暮れて夕刻、逢魔が時より一刻程過ぎた時のこと。

 兵庫県神戸市某所の小高い丘に、この道50年を優に超える老舗、かつ優良店として近隣の住民に広く愛され続けているとある洋菓子店がある。

 今でこそ珍しくもないバレンタインチョコレート。これを恐らく日本で最初に売り始めた店舗であるというばかりか、北海道直輸入の厳選食材を用いたカスタードプリンやクリームチーズケーキ、バタークッキーに至るまで売れ線のラインナップが豊富に取り揃えられている。

 

 無論売りは歴史だけでなく勿論味の方も一級品。それら評判の洋菓子は毎朝早くから丁寧に仕込まれ、店舗付近に仄かに漂う芳醇なバターと生クリーム、蜂蜜の香りは人々の鼻腔へと侵入、思わず生唾を飲み込むほど根源的な食欲を掻き立てる魔力を秘める。

 巷では皇室御用達との噂もあるこのお店。その三代目の主人であるアラフィフ男性ことモロゾフは、今日も今日とて引きも切らないお客様に恵まれたことを感謝しつつ、今しがた商品を売り尽くしてしまったため看板をCLOSEDにしてシャッターを下ろそうか、と厨房で皿を拭きつつ考えていた時だった。

 

 カランカラン、と入り口から鳴る鐘の音。どうやらドアノブにくくり付けたベルが、予期せぬ来客を知らせたようだ。厨房の奥で作業をしていた彼は、今が業者の食材搬入時間ではないことを思い起こすと、駆け込みの客だろうかとアタリをつけて応対に。販売フロアに出るより一足先に、声だけが届くも……

 

「すみません、品切れしてしまったので本日は…………」

 

 店長たる妙齢の男性はそう言いかけて、手に持っていた布巾で拭いていたボウルを、客の姿が目に入るなり、驚きからか思わず床に取り落す。何故なら、視線を向けたその先に居たのは。

 

「……な、姫様……!?」

 

「その呼び方は怒りますよ、モロゾフ」

 

「姫様」と呼ばれたのは、夏物の薄青シャンブレーシャツの釦をひとつ緩め、苦笑しながらも端的にそれだけ返した少女。誰あろう、我らが道産子ガールことアナスタシアであった。

 旅行帰りだろうか、手提げがわりのメッセンジャーバッグにボトムは白のホットパンツとグラディエーターサンダル、という割合にラフな格好。加えて店内に持ち運んできた収まりの良いスーツケースに腰かけた彼女は、愛用のサングラスを外して緩めた胸元に留め置いた。

 リラックスしつつも泰然とした様子の彼女をみてハッ、とした店主は、気を取り直して身体に染み込むまで習慣付いた臣下の礼を思わず執る。

 

「失礼、こればかりは性分なもので」

 

 言いながらも茶目っ気のある笑みを浮かべて彼女に微笑む事は忘れない。さながらそれは君臣の関係というより、孫が遊びに来た時の好々爺のようだ。しかも事実ダダ甘なのだから否定のしようもない。

 さて、昼時はお菓子満載だっただろうレジ前のショーケースが空になっている様子を見た彼女は、同胞の切り返しに唇を少しばかり尖らせつつも、ホッとしたように目を大きく見開く。

 

「もう。……ですが、お店は変わらず繁盛しているようで何よりです」

 

 こんなことを次期当主に言われては、全く家臣冥利に尽きるというものだ。天然で人を煽てるのが上手い姫様だ、などと不敬にあたりそうな歓喜すら覚える。

 

「いえいえ、此れも神の恩寵あらばこそ。それから姫様、紅茶を淹れて参りますので、お手数ですが奥の間でお待ち下さい」

 

 ──細やかながら、心ゆくまでごゆるりと。我らが皇女に歓待を。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 レジ横のシャッター昇降ボタン──尚本来は防犯用である──を押して本日の営業を物理的に終了したモロゾフ。勢いのまま颯爽と彼女の荷物を持って店内奥、VIPルームのある方角を指し示す。

 何故か?普段は北海道在住の彼女が、わざわざ兵庫くんだりまで菓子を買い付けに来ただけとは思えないから、だ。

 

 ここで少々長いが説明をしておこう。そもそもモロゾフの祖父家族は、ロシア革命勃発を受けて日本に逃れ、旧華族や皇室の庇護を受けつつ日本に陰日向に貢献してきた亡命貴族の出自である。

 しかし先の大戦で日本が敗北した折、戦後の混乱期のどさくさ紛れに大陸からソ連のスパイが大量流入。当時の日本人のみならず、この事態に非常に困ったのは亡命ロシア人達も同様だった。

 

 救出されたのちソビエトの工作著しいイギリスやアメリカに留め置くのは危険だ、と判断したジョースター家の手引きにより(欧米よりまだマシと判断された)、唯一の列強・日本に移住し隠遁生活を送っていた、帝政ロシアの象徴たるロマノフの遺児達。

 勿論アナスタシア皇女や血の繋がった跡取りの生存は秘中の秘であり、もし事が露見すればその命を赤軍シンパが狙ってくるのは自明の理。だが、生憎当時の日本はGHQによる占領下。彼女らを守ってくれる日本のSPも軍隊も存在しなかったのだ。

 

 よって自衛措置として彼等は王妃直属の護衛部隊を設立。さらに足らぬとばかり全国に白系ロシア人ネットワークを露西亞正教会経由でくまなく広げ、日本全域をカバーする対ソ諜報網を構築する。この諜報活動の一環として東京から引っ越し、西日本の巨大交易都市たる神戸に住み始めたのがモロゾフ一家である。

 ちなみに洋菓子店を開いたのは客商売が情報収集に便利なことと、また元々祖父が帝政ロシア時代に王室専属の菓子職人(パティシエ)をやっていたのが理由だったり。

 

 しかし。長年の仇敵だったソ連は冷戦終結で自壊。敵の親玉が吹っ飛んでしまったので、現在は正直言って明日から好きなとこに住んでもお咎め無しである。

 というわけで今はもし姫君の望みとあらば、わざわざ本人を買い付けに来させるなんてことはしない。店主自ら嬉々として北の大地へ菓子折持って馳せ参じるどころか、その気になれば店仕舞いして引っ越しすることも厭わない。無論地元のお客様も大切だが、それとこれとはまた別の話。

 

 さて、先程店内にあるものの中で一番上等な茶葉の入ったボックスの封を惜しげもなく切ったモロゾフは手ずから紅茶を淹れ、アッサムの馥郁(ふくいく)たる柔らかな香りを室内に充満させる。

 

「そういえば姫様、本日は観光で来られたので?」

 

 芳醇なフレーバー揺蕩う空間で、しかし尋ねられた筈のアナスタシアは、返事の前に貴賓室内に置かれた調度品のイースターエッグをひとつ発見、思わず見やってしまう。

 

 全部で65個あるそれは、約70年前に日本中に散らばることになった亡命ロシア人達の労苦を慮ったかつての皇女たる曽祖母が一つ一つ、いざとなったら路銀にしなさいと言付けて家毎に手ずから下賜した逸品である。オークションに出せばまず億は下らないこれらの品を、しかし売りに出した者は一人としていなかった。むしろ皇女の無償の行いは、家臣の忠誠心をより高める結果を齎したのだ。

 

 それから幾星霜。初代アナスタシア皇女が死没して尚、没落し、亡国した者の血を引くに過ぎない少女を慕う忠義者の臣下達は未だ数多い。家族にも友人にも、家臣にも恵まれた私は本当に幸せ者だ。そう改めて感じた少女は、顔を少しばかり綻ばせて答えを一言。

 

「広島帰り、と言えば分かりますか?」

 

「ああ、成る程」

 

 合点がいった、とはモロゾフ。ならば、姫殿下はかの星の一族に会いに行っていたのだろう。彼の地には我らが姫殿下の四つ歳上の親友と有力な婿候補(当人には内緒、あくまで候補)もおられる。ならば神戸へは広島から山陽新幹線にでも乗って来たというところか。

 

 思案している内に一杯を満足げな顔をして静かに飲み干した彼女に気付いたモロゾフは、次を注ごうとするもやんわりと止められた。静止に視線を上げた彼の瞳に映り込んだのは────先程より少しばかり目を細めた、うら若き姫殿下の姿。

 

「それから、わざわざ来たのは勿論、用があってのことなんデス」

 

 雰囲気を一気に変えたアナスタシアに、臣下は一度気を引き締める。これは────荒事を話す時の表情だ。察した男は今一度、己が居住まいを正して傾注。

 

「……有難う、モロゾフ。それじゃあ、今日の本題に入ろうと思うのですが……」

 

 ……始めに断っておきますが、無論参加は自由です。そう若干物騒な前置きを入れた彼女は、近々行われる「IU」なる催しに人手が必要、との話をし始めた。人数は少数精鋭のため最小限とのことである。が、……。

 

「お戯れを。主命とあらば否やは御座いません」

 

 その通り、拒否などしない。例えこの身が既にしてロートルだろうが、下された命令には従うに決まっていよう。暗君ならば願い下げだが、仕える甲斐のある方なのだ。快諾に一瞬瞠目したアナスタシアは思わず年相応の嬉しそうな顔をするも、真面目にやらなければと無理矢理引き締めてコホン、と一息、置いて続ける。

 

「期日と場所は二週間後、午前10時に東京のニコライ堂地下へ。詳しい沙汰は追って連絡します」

 

 細心に細心を期し、詳しい説明はその場で行うとのこと。続けて「今回使う秘匿回線を拾える端末が此方です」と続けた彼女から、スマートフォンらしき物体を手渡される。

 磨き上げられたアルミでコーティングされた背面の中央部に刻印されているのは、鈍く輝く「J」の一文字と、それを取り囲む五芒星の紋章(エレメント)。即ち───ジョースター家の血族が、この件に深く関わっていることを示す証拠。

 

 事ここに至りモロゾフは、何やら大きな変事が近い将来待ち構えている事実を理解した。思いがけぬ闘争の予兆に、自身の心が武者震いしていることも。

 腰掛けたソファの手すりを思わず握り締めた彼は、姫様、先に一つだけお聞かせください、と問うて続ける。

 

「……此度の任の目標は、どのようなもので?」

 

 作戦行動はあらゆる想定をしなければならない。目先の目的だけでなく、ゴールまでの道のりを俯瞰しておくことも重要だ。そこまで考えて、モロゾフと呼ばれた男は気が付いた。

 

 帝政ロシアの開闢より、先祖代々臣下の礼を執り続けてきた我らが亡国の姫君。彼女が持つ、平生なら一切の温度を感じさせぬ澄んだサファイアの眼に、烈火の如き灼熱が宿るのを。

 

「…………来るべき、『感染爆発(パンデミック)』の回避デス」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 戻して午前。東北地方に位置する奥羽の名州、宮城県。

 笹かまと牛タンが名物であり、戦国の傑物・伊達政宗や平成の大漫画家・A木H呂彦氏を輩出したことで知られる。さて、この県が有する空の足が一つ、仙台空港にてスーツ姿の美しい女性が1人、涼しげな初夏の日曜、昼の待合ベンチへと腰掛けていた。年の頃20代半ば、といったところか。

 

 変装用のウェリントン(フレーム)の眼鏡の奥にある怜悧(れいり)なアーモンド型の瞳に嵌め込まれているのは、左右で淡蒼色(ライトブルー)翡翠色(エメラルド)という、極めて珍しいタイプのオッドアイ。耳元には小ぶりなターコイズのピアスがあしらわれ、ふんわりとした髪は灰青(アッシュ)に染まっている。が、やけに自然な発色を見るに、どうやらこれで地毛の様だ。

 毛先が軽く波打った艶のあるそのボブヘアーをハーフアップで纏め、右手でタブレット端末を縦横無尽に操作しているその姿は、傍から見れば仕事の出来るキャリアウーマンそのもの。

 

 更に流麗かつしなやかで何処か豹を思わせるモデルスタイルに合わせて仕立てられた、伊・マックスマーラ製の紺色パンツスーツから伸びる足は、これまたモデルもかくやと言う程長い。

 

 さて、履いているセルジオ・ロッシのヒールも合わせれば170cmを優に越すその背丈も相まってか、実は見てくれだけみれば昨今の女性の社会進出を象徴しているようなこのOL風美人。彼女こそ、346プロ所属のシンデレラプロジェクト一期生にして今や押しも押されぬ人気アイドル、高垣(たかがき)(かえで)その人である。

 

 血管が透けて見えるのではと思う程白い肌に、仄かに白梅(はくばい)の香りを焚きしめた彼女は、その美貌に上気した色を浮かべ、本人曰く「水」の入ったタンブラーを片手に持ちながら黙考する。はたから見ればその神秘的な美しさも相まってさぞ難解な形而上学や国際情勢、或いはきっと引く手数多だろうラブロマンスの経験が脳裏を駆けているのか、と思いきや。

 

(……梅干し。アテの梅干しが欲しいわ。これは和歌山県民あるあるというやつでしょうか)

 

 どうやら、コイバナなぞ一欠片も思考になかったようだ。更に。

 

(にしても「壁の目」。なんだか不思議なところでしたね…………)

 

 続けざま彼女の頭の中にあったのは、昨日実際に見に行った、かの東北の震災以後突如として発生したという、隆起した岩盤のような異様な構造物についてだった。

 

 ──―本人たっての希望でとある知人の生まれ故郷たる所に立ち寄るついでに、昨日までロケで行っていた秘湯巡りの旅。その道中で買い込んだ東北の名酒・陸奥(むつ)八仙(はっせん)を冷酒で目一杯入れたチタン製サーモスタンブラー片手に、タブレットで開いた同期の宵乙女グループラインに物凄い勢いで書き込みをしている彼女は、何やら蠱惑的な面立ちに比してどこか能天気な事を考えながら、フライトの時間を待っていたのであった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

『15時に着くので羽田まで迎えヨロシクお願いしまーす。あとその後一杯どうですか〜?P.S. 地酒持っていきますよ!欲しい?あげる!』

 

 寝坊などと(およ)そ無縁な明るい恒星が中天に差し掛かった頃、東京都は港区虎ノ門の某高層マンションの一室にて。

 起き抜けに確認した枕元のスマートフォン。送られて来ていた適当極まりないショートメッセージを見てとった東方仗助は、自室の窓から望める東洋一のコンクリートジャングルを眺めつつ、思わず独り言を呟く。

 

「……(あいつ)、経費でタクシー乗れんのに俺の車指定かい……」

 

 こないだ貰ったのは紀州南高梅だったなあ、と思いながら、鉄面皮だった初対面の時と比べてすっかり気さくになった彼女に思いを馳せてみる。

 まあ送迎なぞ別に吝かでも何でもない。それも仕事の内だし、酒豪のー決してアル中ではないー楓が選んだ地酒、自分のようなにわか呑兵衛(のんべえ)としちゃ一献(いっこん)の価値アリだろう。

 

「あいつ」こと高垣楓からきた迎えの依頼に返信を手短に返しながら、彼はスマホをベッド横の充電ポートに置く。

 そのまま(きびす)を返して冷蔵庫に向かい、常備してあるシリアルと牛乳とを取り出し皿へ撒き、手早く掻き込みながら彼は暫し回想に耽る。

 

 一昨日案の定紛糾し、そろそろ日付が変わろうかと言う頃、結果的に仗助の意見が採用されることとなった秋口以後の方針を巡る社内会議の終了後。

 疲労からか若干船を漕いでいた者もいたが、健康優良児たる彼はそんなもの何処吹く風。意気軒昂と海鮮料理で有名な居酒屋で一杯だけ引っ掛けてサッと退散するつもりが、隣席していたリーマングループと意気投合。勢いのまま彼らと一緒に全品280円均一の焼鳥居酒屋などをハシゴしていたら、気付けば既に朝の五時。

 結局この男、若干酒臭い息を漂わせながら、始発電車で自宅までたどり着いたのだった。

 まごう事なき自律神経ボロボロ社会人予備軍だが、しかし呑み屋でポロっと口が滑って機密を漏らしたりはしていなかったのはまだ正常か。いや勿論当たり前のことなのだが。

 

(……うん、酔いはもう覚めたな)

 

 半分入った白人の血の遺伝だからか分からないが、元々酒には強い性質だ。二日酔いでもないことだし、万が一の酒気帯び運転にも引っかからないだろう。ただ、当時JS読モとして名を馳せていた城ヶ崎美嘉と並び、自身の大学時代から足掛け5年以上の付き合いとなる彼女、高垣楓の酒量は凄まじい。

 

 当初は肝機能を強化する能力でも持ってるのかと疑ったくらいだし、試しに一度サシ飲みしてみたらあろうことか自分が先に潰れたのだ。再び目が覚めた時、何故かニコニコしていた彼女を思い出す。……寝落ちしてる間に何かされた訳ではない、とは思う。

 

 しかしヘビー級の格闘家に劣らない体躯の自分より明らかに華奢な彼女だが、そこまで飲んでも痛風の気があるどころか健康診断では全くの無問題。居酒屋に入ればエイヒレとたこわさあたりをオーダーし、生大片手にお喋りするのが堂に入ったアイドルなど、少なくとも仗助は彼女以外に知らない。

 

 因みにこれらを受けて仗助が発案した番組、「高垣楓の酒場放浪紀」はコアな人気を博し、巷では某孤独に食事するテレ東ドラマと双璧を成すまでの番組になっている。尚番組スポンサーはSPW財団。何故って幹部にファンがいるから。

 ある種アイドルらしくはないかも知れないが、自制していたモデル時代より余程楽しい、とはその開けっぴろげな個性でこの業界に殴り込んだ楓本人の談である。

 尤も健康診断で異常が出たら番組は休止する取り決めだ。が、兆候は今のところ微塵もない。

 

 そしてそんな彼女との飲み会は、きっと今回も物凄いペースで盃が消化されていくのだろう。駄洒落が普段の二割り増しで飛んでくることを覚悟しつつ、電動式のカーテンのブラインドをリモコン押して開けていく。二次会で宅飲みしましょう、とか言ってまたぞろ押しかけてきそうな気もするし。フライデーされたら彼女のキャリアに障りが出るので流石に断るつもりだけれども。

 

「…………こういう時、クレイジー・Dでアルコールだけ上手いこと抜けねえかなあ」

 

 楓と飲むと楽しいけど確実に酔う。しかし流石に仕事に支障を来すのはマズイ。気分だけ酔いたい時もあんだよなァー、とぽつり。

 というかそもそもクレDは本体の仗助自体は治せない。仮に実行出来たとしても、なんだか勿体ない使い方な気もするが。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 再び場所を、戻して東京。とある海岸埠頭にて、苔むしたテトラポットを背景に、凪いだ海をぽつねんと眺める少女がひとり。

 

「…………はあ」

 

 憂鬱。今はそんな気分。黄昏に染まる夕日が静まりつつある海を照らすのを茫と眺めて、彼女──速水奏は溜息をつく。

 猛禽のソレにも似た金の眼と、色味だけで余人に遍く凛とした印象を与える濃紺(ネイビー)の髪。似合う人間は数限られるだろう、ハイグラデーションスタイルを真ん中分け(センターパート)にした髪型。それらはハイレベルかつ見目麗しい彼女の容姿に申し分なく似合っている。しかしその顔色、ひどく浮かない。そんな時だった。

 

 大気筒のエグゾーズトが響いたと思ったら、それがブォン、と止まる音。足音のようなペタペタとした音が聞こえた、次の瞬間。

 

「こんなとこで何してんの、お姉さん?」

 

 唐突に彼女の後ろから、男が声をかけて来た。今日はこれで3回目。またナンパか面倒だな、と思って渋々振り向くと。

 

(ふあ……)

 

 そこにいたのはキャラメルブラウンの髪色に、翡翠を嵌め込んだような綺麗な翠眼を持った超美形だった。どこぞのブラコンお姉様が密かに自慢するだけはあるその造形、思わずびっくりしてしまう。

 

「え?……えーっと、誰かしら」

 

「俺?ツーリングに来た旅人。あ、散歩かなんか?」

 

「……まあ、そんなとこ。少し悩み事があって。貴方は?」

 

(ナンパ……?……いやでも、女に不自由してるタイプには……見えないわね)

 

 なんたって整った面貌だし。黄色人種にしては白さの強い肌色、手脚の長さも鑑みるとハーフかクォーターだろうか。体躯の頑強さから察するに格闘技なんかも嗜んでいそうだ。喋りの軽さも相まって、同級生にいたらさぞかしモテる事だろう。

 誰何に軽薄そうな視線《いろ》は無い。純粋に興味本位の様だ。

 

「俺?実はさっきまでインターンシップに行ってきたとこで」

 

「いや嘘でしょ」

 

 何故ばれた、という面持ちの彼がどこまで素でどこまでが巫山戯ているのか判断がつかないが、呆れ顔でため息一つ。

 

「何処の世界にビーサンとショーパンにタンクトップでインターン行く人がいるのよ」

 

 ついでに言えばそんな江ノ島帰りみたいな格好でツーリングに出かけるのはおかしい。辛うじてヘルメットは被っているらしいが、もし道路上でスリップでもした場合、手脚が大根おろしのように擦れまくって見るも無惨な状態になるのは必至である。

 

「というか、そんなカッコでバイク乗るの危ないんじゃない?」

 

 一応指摘。しかし。

 

「ヘーキヘーキ。俺割と体は丈夫だし」

 

 空条丈瑠と名乗ったその男のこの発言は概ね事実。日頃鍛えてる上に波紋使いでスタンド使い。基礎体力と回復力は伊達ではない。そもそもジョースター家の男は頑健な体躯が特徴でもある。

 それはさて置き、首を傾げた彼にまたも聞かれた。

 

「えーっと、んじゃあ大学のサークル旅行の下見とか?」

 

「え?」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「高校生だったのか……」

 

 新田弟こと空条少年は、新事実を知り思わずぼやく。話しこんでみると、取っつきにくい印象の割に気軽に喋れる子だったがらまさか高校生、加えて自分と同い年とは。大人びてるのでOLか大学生、姉と同年なのかな?とも思ったくらいなのだ。

 

「ていうか、制服で分かるでしょ?」

 

「いやてっきりイメク「ちょっと?」……冗談っス」

 

 と言う割に割に悪びれた様子がない。

 

「…………まさか、私が売春(ウリ)してるとか思ってたの?」

 

「いやあまさか」

 

「目が泳いでるわよ」

 

「すまんかった」

 

 露呈。安易にそんな事言うものではない。誰だって売春してると思われたらいい気持ちはしないだろう。お姉さんゆるして、何でもしますからと続けて素直に彼は謝る。なんならさん付けで呼ぼうか。美波(姉ぇ)ならこの子と会ったら同じく歳上と勘違いしてそうしてるかも、とか思いつつ。

 しかし小さくへぇ、何でも……?と言った彼女から飛んで来たのは、斜め上の意外な返答。

 

「…………じゃあ、キスしてくれたら許してアゲる」

 

「欲しいのか、ザクロ?」

 

「いや言ってないわよ。どんな聞こえ方してるのよ貴方」

 

 一瞬浮かべた蠱惑的な笑顔を消し、思わず素で答える奏。ここで言葉をミスったのは丈瑠の方だ。際どいのが来たので難聴キャラで行こうとしたがダメだった。そもこれで誤魔化すのは無理があると最初から気付くべきである。

 なんとか方針転換を試みた少年は、先ほどの就活の話題から突破口を模索。結果として何故か初対面の彼女のなりたいお仕事について聞く、という珍妙な光景が出現した。

 がしかし、模索中との返答がくるばかりか、逆に「私、何が向いてるのかしら」と聞き返される始末。これは話の腰を立て直さねば、と丈瑠は期して言ってみる。

 

「じゃあ、アイドルとかどうだ?」

 

「へ?」

 

 アイドル?この言葉に、期せずして奏の眉間に皺が寄る。

 

「うーん、悪いけど無いわね。役者で食べてくより難しいでしょう、アイドルなんて」

 

 元々水物の、不安定極まりない商売だ。好感度やスキャンダルで売上は大きく変わる。当たればスーパースターだがそもそも供給過多過ぎて、業界で永らく残れるビジョンが浮かばない。そんなご尤もな懸念を察知したのか、対面の彼は二の矢を放つ。

 

「まあ、単に就職先の選択肢の一つとして考えてみてもいいんじゃあないか?奏美人だし」

 

「……そうね、私美人だし」

 

「うんうん」

 

 相槌打たれたので即答。すると。

 

「……ねえ、『それ自分で言う?』って流れじゃない?今の」

 

 前髪を少々弄りながら返す。思い切り肯定されると調子が崩れる。いや、密かに容姿にはそれなりに自信があるのは事実だけれど。でも恥ずかしいからそこまでは言わない。奇しくもそんな様子が如実に表れていた。意外と表に出やすいタイプなのかも知れない。証拠によく見ると耳が赤い。

 

「んー、いや、奏って美人で可愛いよ。はい」

 

「なんかごめんなさい!でも言わせた感しかないじゃない!」

 

「ダメ?」

 

 そんな純粋な目で言われても。

 

「駄目じゃないけど…………や、というか可愛いに心が篭ってないわ、やり直し」

 

「え、いいの?心籠めちゃって?」

 

 無論ここまで出任せである。

 

「あっ………………うーん…………」

 

「いやソコ溜めるの!?」

 

 優位ペースだった少年、思わず驚く。出会ったその日に流石にそりゃあないだろう。攻略お手軽あっという間に主人公に即落ち完落ちなギャルゲーヒロインじゃあるまいし。ところが。

 

「……あら、本気にしたの?今日会ったばかりの女に?」

 

「あっ」

 

 一本取られた。気付けば若干嗜虐の混じった蠱惑的な笑みで見つめてくる少女。しかもこれだけで矛を収める気がないようだ。いつのまにか距離を詰められていた上に。

 

「なら、ホントにシてみる?……キ・ス」

 

 もしかしてこの子Sの素質があるのだろうか。気付けば彼女の目が細まり、獲物を捕食せんとする蛇のようになっている。これはいけない。しかし両頬を掴まれたところで危険を察知した丈瑠、時既に遅しである。

 

「え、ちょ、待って待って」

 

「静かに」

 

「ええ!?」

 

 徐々に近づいてくる彼女の顔。よくよく見れば緊張しているのか林檎のように真っ赤なのだけど、流石にそこまでイジるのはマズイ、と彼の中で遅すぎた警鐘が鳴り響く。

 

「大丈夫よ、天井のシミでも数えてれば直ぐ終わるわ」

 

「大丈夫じゃないしここ屋外!」

 

「細かいこと気にしないの!男のコでしょ!」

 

「わかった!俺が悪かった!」

 

「ここまでしてる女に恥をかかせるんじゃあないわよ!」

 

「台詞含めて色々逆だろ!?」

 

 つい調子に乗って主導権を奪われるとは、正にその行いの悪さ故であろう。

 こんな時彼の父親なら「鬱陶しい」と斬って捨てる……いや、そもそもここまでお調子者めいた言動はしないだろう。

 しかし煽っても女性を無碍に出来ないあたり、むしろ曽祖父に似ている、とも言える。この辺り血は争えない。

 果たしてやりすぎた感もある弟の運命や、如何に。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「…………や、悪ノリしすぎだって先輩」

 

「そうね……流石にちょっと反省してるわ。あと先輩じゃなくて同い年ね」

 

 一悶着をどうにかこうにか収拾付けたのちの二人。ちなみに揃って汗だくである。無論決して事後ではない。付け加えてこうなってもツッコミを放棄しないあたり、速水奏という少女、根っこの部分で律儀なのが伺える。

 

「はー。何やってるのかしらね、私たち」

 

「んー、傷心旅行?」

 

「キミは傷心してないでしょう」

 

「たしかに小身ではないな」

 

「誰が頓知を効かせろといったのよ」

 

 むしろ長身である。同年代の女子と比べて背の高い奏と比べても、身長差は20cm以上あるのだから。

 

「そもさん」

 

「せっぱ……じゃなくて!禅問答でもないわよ!いつまでツッこませるつもりよもう!」

 

 コントやってんじゃないんだから……と続けるも。

 

「いや返しが上手くてつい。明日からでも芸の世界で食ってけんじゃね?」

 

「ありがと。でもコメディアンになる気は無いわ」

 

「そりゃあ惜しい。じゃ女優とモデルとアイドルなら?」

 

「なぜその三択なの」

 

「可愛いのに勿体ないじゃん?」

 

「段々褒め方雑になってきてるわよ」

 

 ただ実際、言葉は別としてこれだけ臆面もなく何度も言われると悪い気はしない。しかも助平心とかは篭ってないあたり質が悪い。こまめに女性扱いしながら時折翻弄しにくる、こんなタイプの男子は何気に初めてだった。会話の主導権を取りづらいことこの上ない。

 しかし振り回したい派の彼女にとって、この風来坊とのお喋りは同時にどこか新鮮でもあった。同時に、懲りない小悪魔の虫が再び疼き始める。ねえ、と呟き言ってみる。 ……我慢できそうにない。えい。ぶん投げよう。

 

「…………ねえ、外、暗くなってきちゃったわね」

 

 こう言えば、ちょっとくらいは意識したりするだろうか。そんな感情を込めての言葉。

 会ったばかりの男にここまで踏み込むこと自体が彼女にとっては異例のことであるという事実に、当の奏が気付くのはこの暫く後のことなのだが。

 

「あ、門限あるって言ってたよなそう言えば。家まで送るわ」

 

 しかしこの男、台詞がつっかえるどころか打ち返して何処吹く風という顔だ。ふと見ると態とらしく口笛まで吹いて明後日の方角を見つめている。この野郎。おちょくり返すと心に決めた。今決めた。

 

「あら、送り狼?」

 

「あのなあ!」

 

 自分の両肩を抱きつつ聞いてみたら、流石に二撃目はちょっと効いたみたいだった。

 

「……ふふ、嘘よ。ごめんなさい。ちゃんと信用してるわよ」

 

 これは誓って本心。だって彼は何か、そんな次元を飛び越えてるようにも思えるから。邪なもの一切抜きで、もっと高潔な次元に拠っているように思えた。きっとこれまでの人生でも、困難にぶつかっても正面からブチ抜いて生きてきたんだろう。なんとなくそう思えた。

 魂が、黄金色に輝いてる人。会ったばかりの人間に自分でもどうかと思う程抽象的で意味不明な例えを押し付けてるけど、女の直感でそう感じたんだから仕方ない。

 

「へえ。今日会ったばっかの男を?」

 

「ヒトを見る目はそれなりにあるつもりよ」

 

「そりゃどうも」

 

 それは速水奏がアイドルになる前の、彼女の転機となった話。そして────。そこまで言って、丈瑠は最初に交わした会話に立ち戻る。

 

「…………ああ、そういや結局『悩み』って何だったんだ?」

 

 つい思い返して、尋ねてみる。なんだってこんな、何だかんだ育ちの良さが随所に伺える(丁寧に小ボケを拾うあたりとか)少女がこんなところまで当てもなく放浪しているのかを。バックパッカーでもあるまいし。所謂家出少女でもないなら、一体何故。

 

「ああ、その事ね。…………あの、ね、…………」

 

 躊躇いがちに、一度その口は閉ざされた。

 ああ、何も無理に言う必要ないぜ、と声をかけようとした正にその時。

 

 ……最近、急に幽霊が見えるようになったって言ったら…………信じる?

 

 

 ☆

 

 

 

 時が、止まった気がした。

 

「……え?」

 

 反射的に思わず身体を硬くする。なるべく自然な動作をしようと心がけ、急拵えの鉄面皮を貼り付けた上で振り向いた先にあった彼女の面立ちは、今日一番というくらいに真剣なもので。挙句、「しかも、取り憑かれたかも知れないの」とか言い放つ。 ……でも、それが白々しくすら思えてきた。

 

(コイツ、まさか…………!)

 

 あの縞手袋の手先か!?

 慄然とする。状況証拠なら合点がいく。自分は姉と違い、あの男と一線交えた時は素顔を晒していた。面は既に敵に割れている。

 数週間後の今日の邂逅が、単なる()()ならまだ分かる。しかしその相手が()()スタンド使い?……どの程度あり得るんだ、そんな確率。

 それよりも、網張って()()()()されてたと考える方がまだ自然だ。更に彼を驚愕させるのが。

 

(……こんな至近に居るのに、全く殺気を感じない、いや感じ取れない。今に至るまで……!)

 

 古今東西、人対人の闘いには感情の()()()が発生するものである。俗に第六感とも言われる、あらゆる生物に備わった危機回避能力。その骨子は即ち、初動をいち早く嗅ぎとることに尽きるのだ。

 しかし目の前の少女は、何か武道やらをやっているようには見えなかった。敢えて言えばトークでお互いジャブを打ち合っていた、それだけなのに。

 力量の差は隠蔽術にも出る。ならば彼女は恐らく、相当の手練れなのだろうか。可能性が全くない訳ではない。

 

 でも、こんな争いとは無縁そうな少女が?どうか嘘であってくれ、と願いながらも。思わせぶりでミステリアスな金眼に見つめられ、左ポケットに入れた拳を握り締めた。掌に汗が伝い、筋肉が収縮するのを体感する。

 これは腹括んなきゃあなんねぇか、と決断を下さんとする時。無情にも更に一拍置いてから「ああ、それと……」と彼女は続け、重々しく口を開いた。

 

「もしかしたら、貴方にも見えるかしら。私の──」

 

 

 

 ────()()に居る、この子。

 

 

 

 

 




・花京院典明
ノリちゃん。

・モロゾフ
お菓子屋さん。

・高垣楓
熱燗と冷やどっちも好き。喉が酒焼けしてても歌唱力衰えない人。

・速水奏
B級映画もサメ映画も観れる。恋愛映画は苦手。

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