美波の奇妙なアイドル生活   作:ろーるしゃっは

18 / 31
150714





016/ 3人目

 不細工な寄木細工。第一印象はそれ。ヒトガタの歪なソイツは不躾に飛鳥の手首を見遣ったかと思うと、捻れた頭の向きもそのまま、適当な自己紹介をし始めた。

 

「ハジメマシテ。ボクノ名前ハワイアード」

 

 響くのは機械みたいに無機質な声。抑揚も感情も須らく削ぎ落とされた、まるで壊れかけのレコーダー。これが子供?単なる、迷子?

 

(こりゃあ、どう見ても……)

 

 いいや、聞いといてなんだけど。

 

「訳あり迷子、って感じだね……!」

 

 視界に映る周りの光景だってそう。夕刻の渋谷で、気付いたら図ったみたいに自分の周りからヒトがいなくなってるなんて、どう考えも不自然だ。何らかの()()()が働いてるとみていいだろう。

 常人なら不可能な程に首を傾斜させてるアレも違和感を助長する。加えて口内にワイヤー仕込んでるくらいだ、十中八九人間じゃあない。そこまで思った時だった。

 

「オヤゴ明察。実ハスタンド使イナンダ、僕」

 

 不躾なカミングアウトが、飛んできた。

 

「な…………!!?」

 

 驚愕。昨日の今日でホントに来るとは。偶然に鉢合わせた?それとも、奴が最初からボクを狙ってココまで尾いてきた?……まさか。

 

(ボク自身が、()()()()()()()ッ……?!)

 

 脳裏で先日夢に見た、シルクハットの男の言葉がリフレインする。曰く、『スタンド使いは引かれ合う』。

 ──どうやら、言葉は違わず正しかったらしい。奇しくも一昼夜の内に、託宣の受者は望まずして希求せぬ状況に陥ってしまったのだから。

 

「ナンダ、ソノ様子ダト知ッテルンダネ?スタンド」

 

 じり、と。気付けば後ずさりする自分がいた。立ち止まって考える時間が欲しいにも関わらず、退いたのは本能的な恐怖を感じた故か、はたまた生存本能の発露か。

 

「ナラオネーサン、早速ダケド……」

 

 此方が後退するも尚、御構い無しににじり寄る奇妙な組み木。「生ケ捕リカ、殺スカ。赤石ナラ閣下ニ渡セバ()()出来ル」。……意味不明な独り言を、ひとり呟き続けながら。そして。

 

「死ンデクレナイ?」

 

 ビシュッ、と鳴った風切り音と共に来る、硬質でマイペースな声。次の瞬間飛来したのは──鉤針付きのワイヤーだった。

 

「!!!!」

 

 咄嗟に首から上を右に傾けた。躱せたのは、疑いなく奇跡だろう。(つんざ)く余波で後ろに靡いた毛がはらりと舞い、通過した鋼線に拠り、エクステが数本ばかり地面に落ちた。

 

(本気で殺る気か、この人形……!)

 

 驚愕。突如差し向けられた、剥き出しの殺意。反応が遅かったなら頸動脈に直撃コース。瞬きをする数瞬の間に、血の気が引いていくのを感じる。もし判断を誤れば、今頃既に虫の息なのは必定だった。

 

「?……ヨケルト痛イヨ?」

 

 んなこと言われなくても理解る。伸ばされた狂気の糸が機械仕掛けの口腔内に再び格納された事に、最大限の警戒を保持したまま。

 

「……いきなり、随分な歓迎の仕方だね……!!」

 

 剥き出しの本音。付け加えれば、喋っていないと恐怖で思考がどうにかなりそうだった。言ってみれば、自衛の為の減らず口。

 

「アリガトウ?」

 

 褒めてないっての。距離を取ることに留意しながら、こんな時でも心の冷静な部分が反射で返す。

 

「ソウソウ、ツイデニネ、『遺体』ヲ知ラナイ?オ姉サン♪」

 

 ──()()ヲ持ッテルノナラ、知ッテルデショ?続け様にまた、奇怪なことをぶつぶつと。

 

(……遺体?赤石?)

 

 赤石、とはブレスレットに付いてる欠片のことだろう。律儀に答える義理もないが。でも……遺体?なんなんだ、一体。

 

「……何の事だか、サッパリだねッッ!」

 

 再び咆哮。人は死に瀕した時、或いは命の危機を感じた時に走馬燈なるものが見えるという、が。しかし極限状態に追い込まれて尚、彼女はそんなものが見えるどころか、不思議と至って冷静だった。

 

(相手が飛び道具を持ってる以上、丸腰のままじゃあココから無事には逃げ切れない……!)

 

 その為には奴をどうにか撒くか、倒すかしかない。でも、どうやって?考えながらも凡そ渋谷駅方面へと後退を続けていく。

 昨日出てきたスタンドを発現させて闘う?……無理だ、あのロクに動けもしない玉コロに何が出来るとも思えない。大体あいつ「スタンドは何かしらの能力を持つ」とか言ってたのに、自分の能力の一端さえ全くわかってなかったし。そもそも。

 

(上手く発現させる為に、じっくり集中する時間がないッ……!!)

 

 昨日偶々上手くいったのは、本人が落ち着いていたからこそ。今の飛鳥は、スタンドを使いこなしていると云うには程遠い。証拠にさっきから何度も念じているのに、一向に球体は出て来てくれない。

 

(フツーはこういう(ピンチの)時って、直ぐ様特殊能力が使えるのがお約束だってのに!)

 

 しかし、現実とはそこまで都合良く出来てはいない。力が上手く使えなければ、代替案で乗り切るしかない。

 何か、何かないのか。戦うための、武器はないのか。藁にも縋る思いで周囲を見渡す。周りにあるもの──カラーコーン、ペプシの空き缶、タバコの吸殻。壊れた自販機に赤茶けたベンチ、錆の浮いた古びたゴミ箱。無情にも、街の主だった備品は精々それくらいだった。

 

 残念ながら、銃どころかナイフも小石も周りにない。タダでさえ無謀な賭けの上、素手で闘うなら勝率などゼロどころかマイナスだろう。ここで飛鳥は戦闘という選択肢を破棄。残る手段は「撒く」以外ない。

 

(…………ああ、もうッ!)

 

 腹を括って早足中止。一目散に敵へ背を向け、逆方向へ走り出す。視界の隅に奴を置きつつ、後退するのはかなりの疲労を伴う作業。仮に武器が有ったとして上手く扱えるか分からないが、心的疲労は多少軽かっただろう。

 現状転んでないだけ及第点だが、これでは八方塞がりだ。

 

「鬼ゴッコ?イイヨ、付キアッテアゲル!」

 

 取り敢えず、角を曲がって一旦隠れてやり過ごす。よしんばそのまま隠れて逃げ切る。「宇田川町方面」と書かれた看板を横目に電柱を横切ろうとした、その時だった。

 

 風切り音と共に再び何かが放たれる音のした、直後。

 

 

(痛ッ!──ッッッ!!?)

 

 グジュ、と何やら繊維の潰れる音がしたと思ったら、左脚に抉られたような鋭い衝撃。堪らず均衡を保てず、もんどり打って前方へと転がるように崩折れる。挙措動作に明らかな異常を来した、脚を見遣ると。

 

「……ン、……なッ………………!!」

 

 

 

 ───鋼線付きの鉤針が、彼女の左脹脛(ふくらはぎ)に深々と突き刺さっていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 浅葱色のデニムを易々と貫通し、少女を地に縫い止めんとするソレ。直ちに治療を施さねば、恐らく一生消えぬ傷が残るだろう。路面のタイルの目に沿って、瞬く間に鮮血の道筋が被さっていく。

 

(………………ゔぁ、ぁッ…………)

 

 本当に痛い時って、声すら碌に出ないのか。逃走経路を何とか組み立てていた思考は、塗り潰されたかのように真っ白になりつつあった。

 

 一撃で既に満身創痍。転んだ時に擦ったのか、擦過傷も半袖から伸びる白い腕の至る所に出来ている。何よりも金属片が与える苦痛に耐えかね、途切れ途切れの呻き声が形の良い唇から漏れ出でる。

 そして、今まさに激痛に苛まれる彼女を作り出した下手人は。

 

「アア、当タッチャッタカ」

 

 甚振(いたぶ)るつもりだったのか、酷薄極まりない台詞を吐き捨てた。

 同時、着脱式なのか華奢な脚に残酷な鉤針を残したままに巻き取られた鋼線は、再び宿主の元へ戻っていく。……が、やがて第二射がくるのも時間の問題だろう。

 

 降って湧いた痛みと恐怖、次いで怒りと戸或い。心中の様々な念を攪拌器でかけたような心にしかし一番強くあったもの、それは。

 

(動け、動け、動け……………………動けッ!)

 

 意外な事に、この状況を打破出来ぬ自分への失望だった。そうだ。厨二病ならこんな想定やら妄想、これまで何回だってやってきた筈。在校中や旅行中に未知の敵に襲われて、余裕綽々で撃退する。そんなシミュレーション、脳内で空想した事は一回や二回じゃない。

 

(なのにいざなってみたら、このザマか!)

 

 真横のブロック壁に寄り掛かりながらも、なんとか自立を模索する。

 ──が。満足に動くどころか碌に立ってもいられない激痛に期せずして膝をつく。失血を僅かでも押さえるべく傷口に添えた左手は、既に真紅に染まっていた。徐々に血の気も引いていく中、それでも少女は懸命に足掻く。

 

(落ち着け、落ち着け……!血が吹き出してないから動脈は逸れてる、踵は動くから腱も切れてない筈だ……!今やるべきは敵から離れつつ、注意を怠らない事……!!)

 

 頬に冷や汗が浮いて来ている中、ギリギリと自分の口が鳴るのが聞こえる。必死で痛みを堪える歯軋りの音だった。心拍が激しく脈打っている分だけ流れる血液の鉄臭い匂いは、鼻腔から否応なく残酷な現実を叩きつける。

 絶望的な事態は既に、逃避の時間すら与えてくれない。

 

「ネエ、コレデ終ワリ?………………アーア、ツマンナイ」

 

 ……モット楽シマセテヨ、僕ヲ。まるで新しいおもちゃを買ってもらったばかりの子供のような笑顔を貼り付けた人形は、確かに笑ってそう宣った。そうこうしている間にも、出血は収まる気配がまるでない。早急な輸血が必要になりつつあることが、蒼白になっていく顔からも見てとれる。

 

(……逃げ切れる、のか?……ココ、から……)

 

 勝算がほぼないことを知りつつも。呪詛に近い勢いで身体は指令を出し続ける。動け。動け。動け動け動け動け動け動け!動けッッ!!!

 

「ぐ、ッ………………!」

 

 悲愴な思いと裏腹に、左脚には力が入らない。無理もないだろう、込めた端から血が抜けていく有様だ。精神的疲労も際限がない。

 それでも血痕を散らしてまで、無理矢理這いずって進もうとする。不自然なまでに他者のいない周囲の世界に、妙な感覚を覚えながら。

 

(諦めるな、まだッ!)

 

 まだ、希望は……。一縷の望みを込めて、不自由な足で必死に前へ踏み出す。

 

 ───しかしその先は無情にも、行き止まり。

 其処には経年劣化でヒビ割れたアスファルトと、無造作に積まれたブロック塀とが聳えるだけだった。

 

「……そん、な………………!」

 

 思わず舌打ちしそうになる。

 ───此処で、死ぬのか?ヒトガタの足音は刻一刻と近づいてくる。絞首台に登る死刑囚とは、こんな心持ちなのだろうか。気を張り詰めた視界のピントも、徐々に霞んで定まりやしない。やがて。

 

「ザーンネン、行キ止マリ♡」

 

 声と共に。左腕のバングルに据え付けられた赤石が、鋼線の強襲に因り吹き飛んだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 バチィ、と腕輪を弾いた鉤針は、ついでとばかり彼女の左手首も傷つける。呻く暇すら与えられない。更に人形は飽き足らぬとばかり、飛鳥の持っていたクラッチバッグから飛び出た手帳を───貼られたプリクラの上から、ご丁寧に目の前で踏み付けた。

 

「ネエネエ、ドンナ気持ィ!?全テヲ奪ワレテ死ヌ、ッテノハサア!!?」

 

 ギャハハハハハハ!下品な哄笑が、些かどころではない大音量で木霊する。

 しかしそれは幸か不幸か、途切れかけの彼女の意識を逆に繋ぎ止める役割を果たした。朦朧とする意識の中、歯を食い縛りブラックアウトに辛くも耐え、声の方角を辛くも睨みつける。

 

(こンのッ、木偶人形…………!)

 

 …………まるでヒトを、玩具みたいに……!

 

 どうやら相手はとことん救えぬ下衆らしい。人の大事なモノを奪うに飽き足らず、無二の思い出を踏み躙り、仲間を傷つけ否定する。私の、掛け替えのない日常すらも。全て。……全て?

 

 

『……巫山戯るなよ。ならば貴様の本体ごと、()()()にでも変えてやろうか?』

 

 怒りで頭がスパークしそうになった瞬間。聞こえぬ筈の内なる声が、聞こえた気がした。

 

(……良いのか?こんな輩に只、弄ばれたままでいて)

 

()()の如く轟く憤怒。それこそが彼女の魂に眠りし炎。己すら焼きかねない衝動に突き動かされるように、少女は無機質なアスファルトに爪を立てる。一昨日綺麗に塗ったばかりのグロスが剥がれ、指先に血が滲むのも御構い無しに。

 

「…………いいや、まだ死ぬワケにはいかないさッ……!!」

 

(ンなわけないだろッ、二宮飛鳥!!)

 

 血走った目を、更に細めて。心自体が灼けるような感覚を覚えながら、渦巻く()を濾して御す。

 

(…………そうさ、まだだ)

 

 這いずりながら一歩進む。走るのは、もう出来ない。

 

(まだ、何もまともに成してないのに……)

 

 血に塗れたまま、もう一歩。膝から先の感覚がない。

 

(何も碌に、理解ってないのに……!)

 

 筋繊維の切れる音にも構わず、更に一歩。……もう、歩けない。でも……。

 

「ボクは……未だ『証明』出来てないんだよッ……」

 

 ……まだ手を伸ばせば、僅かに届くッッ!

 

「こんな所で死ぬ為に、生まれた命じゃあないってコトをッッッ!!!!!」

 

 犬死なんぞしてやるものか。コイツは、コイツだけは絶対───ブッ壊すッッ!!!

 

 そう『覚悟』して震えながらも伸ばした指が、再び白銀の腕輪に触れた時。

 

 

『──────発動条件充足を確認。此れより───「解錠」を開始する』

 

 

 

 唐突に再臨したあのお喋りな球体が、彼女を丸く包み込んだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 直ぐさま反転。一瞬暗転。間も無く彼女は眼を開けた。

 

「ココ、は…………?」

 

 広がるのは一面の白銀。でも雪景色とかではない。強いて言うなら繭の中。例えるならそんな感じ。

 見渡す限りの銀糸に覆われた不思議な世界。さながら鏡の国に迷い込んだアリスだろうか。モノクロみたいなセピアみたいな、奇妙なセカイの中で、突如。

 

『矢張り来れたか。内側から見てて少しヒヤヒヤしたけれど……私の見立ては間違ってなかったようだ』

 

 振り向くと、いつのまにか。シルクハットを片手でクルクルと回しながらそう語る、一昨日ぶりくらいに会う紳士がいた。自称・腕輪に宿った妖精とやらは、怪しさも相変わらずだった。

 

「あの、ココは?」

 

 何処?……というか、それよりも!こんなとこにいる場合じゃあないんだ、ボクは。何たって現在進行形で、あの人形に殺されかけてるんだから!

 

 表情に分かりやすい焦燥が浮かんでいたのを悟られたのか。

 

『ああ何、心配するな。時の流れは気にしなくて良い。此処は誰しもが持つ精神世界、時間の流れは存在しない。……序でに、君の脚を観てごらん』

 

「えっ?…………あ、……なん、で……!?」

 

 言われて脚を見遣ると。あれ程の深手を負った筈だった左脚が、いつのまにか綺麗に治っていた。何時の間に?どんな原理で?ここは入るだけで全回復する部屋とかそんななのか?

 ……エリクサーでも持ってるのか、このおっさん?

 

『簡単さ。私が君の怪我を「盗んだ」。命以外は何でも盗れる。それが私の能力だからね』

 

 尤もノーリスクってワケにいかないんだが、まあそんな話は重要じゃあない。大事なのは君の話だ。

 

『さて』

 

 いきなりだけど、哲学の話でもしようか。

 唐突に脈絡のない発言をした彼は、マイペースにまた話をし始めた。……黙って聞けと、言うことだろうか。

 

『──かつて、古代希臘(ギリシャ)の哲学者パルニメデスは、「存在」を完全な球体である、とした』

 

 歩みをこちらに進めた、かと思えば。コンコン、と確認するように、飛鳥の眼前にある銀色の球体を叩く。抗議めいた声が内部から聞こえた気がするがたぶん気のせいだ。

 

『しかし、アリストテレスはソレを比喩に過ぎない、と断じた。では…………』

 

 紫紺(ヴァイオレット)を湛えた眼が、此方へ向いた。

 

『……キミは、どんな存在(カタチ)を心に描く?』

 

 つつ、と真円の球体を指でなぞって、彼は問う。

 

 神とは実在しないだろう不可視の「存在」である。神は己の内に在る、いわば不可視の概念でもある。

 ならば───見えぬ筈の神の存在を「証明」出来れば、存在論(オントロジー)とは立証され得る。

 そして神を持つ生き物は───いつの時代も人間だけだ。

 

「ボク、の……?」

 

『そうさ。猿や鼠()の持つスタンドとヒトのスタンドは其処が違う。即ち──神を宿すか否か、だ』

 

 飛鳥は其処で思わず、昨日発現させた銀の球体を見遣る。自分が「何も出来ない」と見なしたアレは、即ち存在を確立し得ず、神を宿さぬ(から)の器。

 

『そして、()に篭った雛鳥の末路は二つ。閉じ籠ったまま死に至るか、殻を自力で破るかだ』

 

(殻を、破る……)

 

 言葉がストンと腑に落ちた。思わず両の、目を閉じる。

 

 思春期の真っ只中、自己のアイデンティティの確立にもがく少女の魂。言って見ればそれは、正に真球のような、殻に篭った卵とも取れる形をしているのではないか。自らの精神世界の奥深くに入り込んだ少女は、明察の中瞑想する。

 

『……その調子だ。そのまま深く、息を吸うんだ』

 

 言われるがまま深呼吸。ブレスを整え呼気を乱さず、確たる意を込め集中する。己が魂の像を、強く描いて心に結ぶ。

 

 すると────直ぐ様、どろりと。いつの間にやら飛鳥の左手首に再び巻きついていたバングルが、まるで飴細工のように形を変えて()()()()()

 

「……!」

 

 驚いて振り落としそうになる衝動を何とか堪え、そのまま経過を見守る。先程まで確かに形状を保っていたはずの腕輪は水銀が如くに不定形となり、やがて一本の鍵へとカタチを変えて…………飛鳥の掌に鎮座した。

 

「腕輪型の形状自体が贋作(フェイク)だったのか……!?」

 

 常日頃から肌身離さず、彼女が御守り代わりにしていたアクセサリー。ソレが今、彼女が日頃より思い描く「真の(シン)セカイ」を開ける鍵そのものの形をしていた。

 古めかしい重厚なデザインの鍵は何故か、少女の手に吸い付くような、身体の一部みたいにしっくり馴染む感覚を与えてくる。そして同時に鍵を通じ、かつて()()()()()()記憶が、アタマに流れ込んで来た。

 

 怒涛のように押し寄せるそれに、思わず右手で海馬の近く辺りを押さえて膝をつく。溢れんばかりの濁流は、彼女自身の10年前の、()()()()()()()()を綺麗に晴らしていった。暗から明へ。宵から明けへ。霞が晴れてヴェールが解けた、その先に在ったのは。

 

「…………思い、出した…………!ボクは、あの時…………」

 

 あの時。10年前に腕輪の入ってた匣を開けた時、朧げながら自分の背後に、自分の知り得ぬ自分を観たのだ。既に、ボクはあの時出会っていた。球体ではない、自分が魂に描いた存在に。

 

『名を「Sept_outils_Du_Bandit」…………和訳すれば「盗賊の七つ道具」とでも言おうか?ソレを収めたあの匣を開けられるのは、私の血を引き、且つスタンドの才ある者だけ』

 

 生前悪友と一緒に、それぞれのスタンドに魂の一部をねじ込んだんだ、という彼。つまりは。

 

『もう理解るかい?匣を開けた時点で、君はスタンドを()()()()()()()()んだよ。折角だし私が覚醒を手伝ってやろうかと思ったんだが、ね』

 

 それこそ、かつての承太郎を手助けしたアヴドゥルのように。……しかし、男の当初の目論見通りにはいかなかった。何を隠そう、自分の孫やら曽孫に阻まれたのだ。

 何故か?通常そんな年齢での後天的スタンド発現は、まず間違いなく暴走を招くが必定であるから。幼少期に死にかけた仗助が良い例だろう。

 まだ幼い飛鳥の今後を心配した家族らの説得もあり、「然るべき時に解除する」という条件付きでこの男に「スタンドの才と記憶を盗まれた」のが当時の経緯。

 

 美波や仗助が飛鳥からスタンド使いの片鱗を感知出来なかったのも無理はない。今日まで根こそぎ、スタンド能力を盗まれていたのだから。

 

(尤もソレも、今日限りだがね。漸く、然るべき時が来たようだ)

 

 万感を込めて思案する彼は、思わず眼下の玄孫を見つめる。

 細身で華奢で、まだ若い。手脚の伸び切る年頃でもない。おまけに自分を見て、少しばかり緊張している。突発的な状況に戸惑ってもいる。貴方は、もしかして……いや、まさか。そんな聞くに聞けない逡巡も見て取れる。

 

(……もしかしてシャーロック(あの男)も、こんな気分を経験したのかな?)

 

 しかし───男は若き少女の眼の奥に、消して潰えぬ紅き()を視た。

 

 盗まれた記憶と才を盗り返す解除鍵(アンロックキー)は、全部で七つの心の動き。

 一つ目の鍵、正しき目標。二つ目の鍵、強大な夢。三つ目の鍵、果てなき研鑽。四つ目の鍵、確かな憧憬。五つ目の鍵、揺るがぬ精神。六つ目の鍵、火を統べる意志。そして七つ目──闘う「覚悟」。それら全てを持ち得ること。

 

(私は君が襲われる前、周囲の人の意識を盗み、わざとあの場所から背けるよう促した。いわば私は意図して君に怪我を負わせたようなもの。君が自分を盗り返せねば、怪我ごと再び記憶を盗むつもりだったが、……どうやら、杞憂だったようだ)

 

 老婆心じみた心配なぞ要らなかった。今此処に、欠けたピースは全て揃っているのだから。

 

『良い眼をする様になったね、飛鳥。あとは(ソイツ)を差し込めば、君のチカラは解き放たれる』

 

 言われた彼女は、思わず両手に鍵を抱えて握り締めた。まだ幼い。まだ未熟。然して秘めし可能性、未だ無限の烈火を宿す。

 

『行くといい、我が末裔。長らく待たせてしまったが、今こそ己が描くスタンド()を顕現せしむる好機。……ああそれとだ、今さら魂の変質なぞ気にするな』

 

 ──ヒトもモノも須らく、()()()()姿()()()()()()()()()のだから。

 

 それだけ言い残した彼は、やにわにばさり、と華麗にマントを翻す。すると彼女の目の前で、外套に溶け入るようにその長身が掻き消えた。……今のが、別れ際の挨拶だったのか?

 

(……言うだけ言って、何処行ったんだろ……)

 

 跡を濁さず証拠を残さぬ去り方は、正に神出鬼没の怪盗そのもの。でもちょっと真似したいなとか思っちゃうあたり、やっぱり飛鳥は飛鳥だった。

 

(にしても、何か唐突すぎやしないかい?ねえ?)

 

 其処で改めて、掌に収まった鍵と化した腕輪を観る。……液体金属にもなる固体、なのだろうか。兎角、確定で言えるのは。

 

(最初からタダの腕輪じゃあ、なかったんだね。そして……)

 

 自身の魂の形(スタンド)を、そこで一瞥。あいも変わらず真ん丸だ。まるで、()()()()()()()()()()()()()みたいに。

 

(キミも、いや、ボクら自身が……()()()()()()()()()()んだ)

 

 言うならばこの球体は未完成。スタンドを持たず、存在()を証明出来ぬ人の心は、きっと皆こんな形をしているのだろう。そして多くの人々が、魂の実在に気付きもせず生涯を閉じる。意志や覚悟を持てば何にでも成るだろう、可能性の塊なのに。

 

 秘されし事実を理に解し改めて眼を遣った時、──(スフィア)の中枢に、音も無く鍵穴が開いた。それも目視で確認する限り、左手に握った鍵が丁度ピッタリハマりそうなサイズの。

 

(ココに差し込め、ってことなのかい?)

 

 掌に乗る、鍵を一瞥。答えるように其奴はドクン、と脈打った。

 

 ……思えばずっと、探していた気がする。

 自分が本当の自分じゃない気がして、何時も何かに飢えていた。何処かで日常に飽いていた。その探究心に厨二だなんてレッテルを自ら貼って、心をただ誤魔化していた。

 

(…………でも、今なら理解る)

 

 幼き頃に封じられた、目覚めかけのスタンドの才。

 その封印が緩んだきっかけは、「彼女達」との邂逅だろう。鮮烈なこの三ヶ月は、二宮飛鳥の内面に間違いなく変化をもたらした。同年代の友達とはちょっと違って大人びた、気の合う友人。彼女達は皆いずれこうなりたいな、と思う憧れでもあり、同じ目標に向かって進む仲間でもある。

 

 アイドルを始めた。スタンドなどと全く関係なさそうな選択が、斜に構えた少女に友人を増やし、目標を持たせ、夢と憧れを与えた。半ば以上に揃った鍵は「彼」とのコンタクトに繋がり、やがて今日この瞬間まで漕ぎ着ける契機となった。

 

(自分のココロに、嘘はつけない)

 

 悪魔と契約する覚悟はあるかと、最初に問われた。しかし本当は、幼き頃に腕輪の入った箱を解錠した時から。既に彼女は……飛鳥は、この奇妙な世界に足を踏み入れていたのだ。

 

(この契約を、今一度結び直そう────)

 

 ホントのボクが、此処に居るから。抱いた夢を、夢で終わらせたくないから。そして、──討つべき敵が、目の前に在るから。

 

(だから、決めたよ)

 

 ──悪魔と共に、闘う『覚悟』を。

 

 そっと差込み、右に回す。ガチリ、と音がした瞬間、自分の中の欠けてた何かが、解錠される音を()た。

 時を同じくして、鍵を中核にピシリ、ピシリと球体に皹が生まれていく。孵化の先に待ち受けるのは、長らく秘されし偽りなき魂の姿。覚醒の時を言祝ぐが如く、彼女は自然と口ずさんでいた。

 

 

 

「───さあ、往こうか」

 

 

 刹那、白銀の光が弾けた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 殻が砕けたその瞬間、頭上へと急上昇し解放された光の粒子。爆散し飛び出した眩いばかりの光源は、新たな形へ再構成され成り代る。さながら蛹の、羽化の様に。

 

 進化の過程を早回ししたコンマ一秒。時経た後に果たして其処にあったのは────輝く六枚の翼をはためかせる、絢爛豪華な鳳凰の姿だった。

 

 刃物の如き鋭さを持つ紫の眼。銀地に陽炎を宿した様な赫と黄金の色使い。艶やかな極彩色の鶏冠と尾羽、そして翼。金色の両脚に、交差した一対の宝剣を背負った背。赤熱した炎を全身に纏う姿は死すらも超克しかねないだろう、度し難い生命力に溢れている。

 

 悪魔と形容するには余りに華麗で流麗な、西欧の不死鳥(フェニックス)にも近い全長15m程のそれ。舞い散る尾羽は赫赫たる火の鳥にして、()()()彼女が其処に在る証。

 

 過去、現在、未来、そして並行世界に至るまで。数多の次元に(あまね)く識られる、(いなな)くのみで其の在り様(存在)刻み付ける(証明せしめる)、鳳翼の(とり)

 かの者の名を、名付けるならば。

 

Ontologie(共鳴世界) de() résonance(存在論)。縮めて以後は……『résonance(レゾナンス)』、ってトコロかな?」

 

 やにわに嘯く、彼女の口角弧を描く。意気は軒昂、士気は上々。人影は無く気兼ねも無く、控え目になる義理も無い。

 嗚呼、御誂え向きじゃあないか。発現したのは新たな力。如何にもな悪役(ヴィラン)は目と鼻の先。

 

『ナンダイ、ソノ鳥?』

 

 ガラクタが何やら喚くが、御構い無しにまず自分を確認。ズタボロだった左脚は、傷ひとつなく綺麗に修繕されている。彼の有り難い置き土産だ。これで、晴れて振り出し。

 そうして先ずは、宣戦布告。

 

「…………本当の自分を、理解っただけさ」

 

 バサリ。差ながら其れは柳花火の火の粉が如く。不死鳥がひとつ羽撃く度、羽根を模す火が飛散する。さあて、そんじゃあ────

 

「──かかって来なよ、木偶人形……!」

 

 

 ()く消し炭に、変えてやる。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ブッ壊ス!」

 

 挑発に乗ったのか、ワイアードから飛んでくる鋼線。視界の隅にソレを収めつつ、飛鳥は冷徹に思考する。

 先程から己がスタンドの翼が動く度、炎と共に羽根が若干散っている。ということはこれ、もしかして武器になるのでは?でもたぶん羽根技なんてサブウェポンだろう。メインの火器は恐らく別にあるはず。

 

(と、すると)

 

 さあ思い出せ二宮飛鳥。火属性キャラのお約束はなんだ。ポケモンとかでよくあるやつは。

 

(…………多分出るよね?口から火とか)

 

 火の玉を出すリザードンあたりを脳内で想像する。……うん、いけるだろう。大事なのはイメージだ。

 

 往け、レゾナンス。敵に向かって口から吐いた火球をぶつけるスタンドをイメージし、そう念じた瞬間───彼女の頭上を、爆音と共に熱線が撫でていった。

 

 ギュオンッッ!!工作機械でも出せない様な鋭い炸裂音と共にスタンドの口腔から飛び出したのは火の玉ではなく───眩いばかりの極太レーザービームだった。

 

「んなっ、ゲロビィ!?」

 

 これには使い手の飛鳥の方が頭上を振り返ってびっくり。そのまま頭を戻しつつ射線の先を目で追っていく。

 

「……うわぁ」

 

 …………視線の先は、凄い事になっていた。掠っただけでめくれ上がったアスファルト、クレーターみたく円状のくり抜きが出来て溶けた自販機とベンチ。ぶすぶすと立ち昇る黒煙。まるで空襲でも受けたみたいだった。戦車砲が直撃したってこうはならないだろう。

 ただ破壊の痕は途中で止まっていたのが救い。飛鳥が驚いて集中を解いたのが原因か、レーザー自体も減衰し中途で霧散したようだ。

 

 でも電柱とかビルとか人に当たらなくて良かった。まともに当たれば人体なぞ灰も残らない気がする。

 

(……後でダイドーと自治体宛に、修繕費を匿名で寄付しとこう)

 

 しかし勿論収穫も。アレ程苦しめられた筈の鋼線は、掠っだけで呆気なくバターのように溶断されていた。そして。

 

「ア、アバババババ……」

 

 ついでとばかり、ヒトガタの右半身も根こそぎ奪い取っていた。どうみても戦闘能力はほぼ喪失。覚醒した彼女に拮抗するには、些か役者不足が過ぎたようだった。

 

(今日の課題は、出力調整と)

 

 ただこのスタンド、これが能力の全容とは思えない。大体不死鳥ならこう、癒しの力的なのとかあるんじゃないか。今後も色々調べる必要があるだろう。でも取りあえず、今日のところはもうデータ取り終了。何故って疲労が物凄いから。

 締めに入らんがため、スタンドを手掌で手繰って頭を敵に差し向ける。集めた焔を急速充填。一秒かからずチャージは完了。気持ち力を抜いてもう一発。顔色は平然なまま飛鳥は呟く。

 

「遺言ならば聞く気はないよ、冥府でどうかごゆっくり」

 

「待ッ……!」

 

 今頃になって、ガラクタの無機質な目に嘆願が宿った気がした。然して既に遅過ぎる。覚悟を決めた二宮飛鳥は、紛れも無い有言実行ガールであるのだ。

 

「──チェック・メイト」

 

 

 ギュイン。豆腐に串を通すようにあっけなく。劈く孔雀の唄の如き破壊音は、寄木細工の葬送歌として戦場に響き渡った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 そこから何処をどうやって、自室まで帰ったのかはよく覚えていない。

 

 原型も留めぬガラクタになったワイアードにレーザー照射。宣言通り消し炭を作成したのもソコソコに。

 熱に浮かされたように駆け出して電車に乗り、無我夢中で346プロの寮までダッシュ。そうして自室に戻った矢先、些か勢いよく閉めたドアにずるずるともたれかかる。

 

 張り詰めた緊張の糸が、ぷつりと切れたのを感じた。

 

「……つ」

 

 ……疲れ、た…………!

 

 小さく小さく、それだけ呟く。今気付いたが立ち上がれない。安堵で腰が抜けたらしいが、まあ無理もない、と自嘲する。経験したのはまごう事なき非日常なのだから。

 

 正直言えば、途中までは怖くてたまらなかった。色目で見られたことならともかく、剥き出しの殺意をぶつけられた経験なぞ彼女の人生で初めてだった。あんな、あんな連中がいるのか。石が欲しい?そんな浅薄な動機で簡単に人を、殺そうとしてくるのか。

 

 

(…………ざまあないね、こんな)

 

 自嘲。奇しくも彼女は自分が今まで、如何に快適な温室で育って来たのかを実感させられていた。犯罪率が世界で最も低く、所によっては女性が一人で平気で夜出歩ける国、日本。現代の地球で最も安全な地とも呼べるところで遭遇した狂気に、年端もいかない彼女の心は実は決壊寸前だった。

 

 例えばもし、もしアレが純正な人間で、自分が其奴を殺めてしまったら…………果たして自分は平静で、いられるだろうか。

 仮に殺したとしても、超常の力ゆえ証拠は残らず逮捕もされない。あるとしたら良心の呵責のみだろう。それが余計に重石になる。

 

(アレが、闘い…………)

 

 そして、自分が手に入れたのが。

 

「スタンド、か」

 

 重たい。覚悟こそ定まったものの、胃の腑にずしりと来るこの感触は、容易く慣れはしないだろう。やがて恐怖を完全に我が物に出来れば、話は変わって来るだろうが。

 

『……何やら思い詰めているようですが、そう堅苦しく捉えることはありません、マドモワゼル』

 

 不意に、背後から声がかかった。昨日今日ですっかり聞いた、スタンドの声だった。

 

「堅苦、しく……?」

 

『悪は悪。取り敢えずブチのめしてから考えましょう』

 

 …………励まそうと、してくれてるのだろうか。

 

「…………誰かの訓示かい、それ」

 

『英国のさる有名な貴族の家訓です』

 

「絶対ウソでしょ!?」

 

 ほぼ反射。実は嘘でも何でもなく、何ならその伝統を受け継いだ子孫が彼女の友人だったりするのはご愛嬌なのだけど。尚その教えを件の彼女が実践してるのもまた事実。閑話休題。

 

『いえいえ。公権力では裁けない悪を、裁くのではなく打倒するのです。言ってみれば私刑ですが、時と場合によっては必要でしょう。必要悪とも言えますね』

 

「…………」

 

 唖然。いや、理屈自体はわかるけども。

 なんたって相手は裁判じゃ裁けない手合い。証拠不十分で不起訴確定、とお白州の前に出す前から分かる。

 よって敵を放置しておけば際限なく被害が拡大するだろう。自分が司法で裁けぬ存在である事は、敵のスタンド使いも分かってるのだから。

 

「まあ、でも…………」

 

 自分が振るった拳を幾らか正当化する、一応の理屈をくれた様だった。ありがとう、と彼女の方を向いて、謝辞を述べようとすると。

 

「……えっ?」

 

『なんです?』

 

 視線の先には、フクロウくらいの大きさになった火の鳥の姿。六枚翼で極彩色なのは変わりない。けどよく見るとトサカも尾羽も短いし、鋭かった紫の眼はつぶらで大きくなっている。これじゃあまるで雛鳥だ。

 

「……なんか、ちっちゃくなってない?」

 

『仕様です』

 

「や、聞いてない聞いてない」

 

『はぁ〜〜つっかえ。これだから乳臭い中坊はダメなんです。そんくらい察しなさいよもっと忖度してホラホラホラホラ』

 

「………………」

 

『やめて!わたしに乱暴しないで!エ⚫︎同人みたいに!』

 

 無言でアイアンクローしたらわざとらしく態度を変えた。

 聞けば省エネモードなのだとか。闘うとき以外にあんな派手な姿無駄じゃね?とのこと。……確かにそうかも。理解はしたけど。

 

「省エネ?」

 

 スタンドにそんなのあるのか。と思ったが、「稀によくあります」とふざけた返答を寄越してきた。ちなみに進化ではないらしい。むしろ退化してるだろう。主に言動とか。

 

『クエックエッ、クエクエクエ?』

 

 分かった?と言いたいらしいがキョロちゃんの真似をするんじゃない。しかも似てないし。

 

「うん、だいたい理解った」

 

 もう突っ込むのに疲れてきた。今日の飛鳥の体力はいよいよ底を割っている。まじめにやりたいんだけどと言おうとした時、今度は被せるように鳥公が切り出した。

 

『……そうそう、一つだけ、覚えていてください』

 

 続けざま放たれたのは、少女の弛緩を緊張させるに足る言葉だった。

 

『もし貴方が道を違えれば、その時は……貴女が、スタンド使いに討たれることになるかもしれません』

 

 重いフレーズが胃の腑に落ちた。こくり、と彼女は首肯。そりゃあそうだろう。正義の執行人が闇落ちなんて話にならない。しかし……まてよ、とここで飛鳥は考える。

 

「……ねえ、ひとつ質問いいかい?」

 

 では既存の、スタンド使いのエスタブリッシュメントなる人々はどうしているのだろうか?互助会のようなものでも組織して、スタンド使い同士で相互に監視し合っているのだろうか。

 

「……こんな力、やろうと思えばいくらでも犯罪に利用できるのに。一体、彼らはどうやって自浄作用を保ってるんだい?」

 

 飛鳥は与り知らぬことだが、例えば後に旦那になる男をスタンド能力を用いて軟禁した過去の山岸由花子など良い例だ。より強力なスタンドの場合、所有者の倫理観がまともでなければ、国家や社会どころか世界、もしかしたら……時の流れすらも変容させられるだろう。それこそスタンド能力の真の恐ろしさである。

 

 しかしそう問うと、帰ってきたのは明快な回答であった。

 曰く現状、スタンド使いの人々はトチ狂っていない勢力が多数派であり優勢である、という。その理由は単純明快、『ある指標』が存在するから、らしい。

 

 其れは超常の力を手にして尚歪まず弛まず、且つ一世紀近くに渡り子々孫々に力を発現させ続け、人知れず闇から闇へ悪と闘ってきたとある家系の事を指す。背に星を宿すという(なにかの比喩だろうか、と飛鳥は考えた)その一族、開祖の家名を。

 

『ジョースター家、と言います』

 

 

 

 

 ────人史の秘奥に、彼女は迫る。




・ワイアード
あくまでこの並行世界のキャラ。よって正確にはワイアードっぽい何か。

・シルクハットのおじさん
一体何セーヌさんだろう。

・《盗賊の七つ道具》
↑のおっさんの道具型スタンド。戦闘力ゼロのスティール特化。普段は鳥の尾羽を模した腕輪。使うと大体何でも盗める。形状記憶合金的なナニカで出来てる。

・《共鳴世界の存在論》
飛鳥のスタンド。ざっくり鳳凰ぽいデザイン。射程長くて飛行も出来る火力の鬼。目下の課題は精密動作。戦闘パート以外は小うるさいひよこ。火属性担当。

・銀の球
球じゃなくて卵だったってオチ。飛鳥が目覚めたのでもう出てこない。たぶんスタンド持ってない人って皆こんな感じの魂の形してると思う(偏見)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。