美波の奇妙なアイドル生活   作:ろーるしゃっは

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初めまして。
冒頭からジョジョ6部のネタバレあるので、未読の方はご注意を。



ACT-1 HEART OF GOLD
001/ 継がれしは黄金の意思


 ────お前のことは、いつだって大切に思っていた。

 

 

 時に、西暦2012年。アメリカ合衆国フロリダ州は辺境、ケープカナベラルの地にて。

 若かりし頃、己が高祖父の代より続いた100年にも渡る因縁を断ち切ってみせた男は、「加速」していく世界の中、傍らに引き寄せた愛娘・徐倫へと告げた言葉を脳内で反芻する。

 

 喉を切りつけられて尚、怯む事なく超常の敵と対峙し、発生した千載一遇のチャンス。しかしその好機は、我が子の命と引き換えにしなければ活かせぬものだった。

 際限なく加速する力。そんな化け物じみた能力を駆使し、自分達の命脈を狩らんと迫る獰悪(どうあく)な表情の神父を倒せるだろう、唯一の機会。然してその選択は、彼の中に流れる誇り高きジョースターの血で以って放棄される。

 

 受け継がれた黄金の精神からすれば、土壇場で「敵を屠る」か「娘を護るか」の二者択一を迫られた時、どちらを優先するかなど必然であるから。

 …………だが無常にも、その選択がもたらす結果は。

 

「『二手』、遅れたようだな………………」

 

 ……彼の背後で呟かれた、神父のそんな言葉と共に。

 ピッ。と、かつて『最強の幽波紋(スタンド)使い』とまで謳われた男の頭頂部から顎下にかけ、無惨にも一本の亀裂が入った。

 数えきれぬ程の死線を潜り抜けた男の、あまりと言えばあまりに呆気ない最後。享年、僅かに42歳。代々短命が多いとされる彼の血族の、ソレは果たして宿業だったのだろうか。

 

 ────そして世界は、衰えぬ加速でもって「一巡」し、生きて終焉に到達した者達は新たな自分へ、既に死した者達は別のナニカに成り替わる。時を経て絡み(もつ)れた因果の糸は「世界の壁」すら超越し、神すら知り得ぬ(ことわり)の外へ弾かれる。

 

 これより綴られるのは、本来あり得ぬイフでありイレギュラー。成る程、確かによく似てはいる。しかし明確に()()()異なった並行世界で紡がれる、新たなる星の瞬き。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「……受かっちゃったけど、どうしよう」

 

 時は流れる。世界は移ろう。空条親子が死した世界とよく似た、別の世界。時節にして、2014年3月冒頭。東京都は目黒区のとある純和風邸宅にある、八畳一間の一室にて。

 

「シンデレラプロジェクト第2期生・第1次選考通過通知」。そう書かれた書類をどこか茫洋とした様子で黙読しながら、独り言を呟く少女がいた。

 年の頃は18、19といったところだろうか。栗色の艶やかなロングヘアに、垂れ目だがその内に秘めた鋭さも感じさせる琥珀色(アンバー)の瞳。端正な顔立ちと長い手脚、均整の取れた肢体に清楚な雰囲気も相まって、街を歩けばスカウトが飛んで来そうな──というか実際された──容姿の美少女である。

 

 が、現在は癖のない長髪をアップにして括り、白のショーパンに広島カープの真っ赤なユニフォームシャツを着込んでのんべんだらり。裸足の上にもちろんすっぴん、という格好で畳の上の長座布団に寝っ転がってる姿は詰まる所、完全なオフモード。

 まかり間違ってもこのまま大学のキャンパスは歩けない。高校時代密かにあったファンクラブの面々が見たら、これはこれでイイ、と狂喜するかも知れないが。

 

 さて、()()()似たのか普段から即断即決が多い彼女だが、今日ばかりは結構逡巡しているようだ。

 この春から都内の大学に通うため地元・広島を出て父の実家──現在進行形で思い切り寛いでいる──にとりあえず4年間住み込むことにした彼女のそんな煩悶(はんもん)を紐解くには、今より時を1月程遡らなければならない。

 事の発端は今年、2014年の2月頭。高校の友達との卒業旅行で赴いた神戸の街を散策している時、やたら恰幅の良い黒スーツ姿の男性から「アイドルとしてスカウトしたい」などと声をかけられ、その時は断ったが一応、名刺だけ受け取っておいたのが始まりだった。

 

 引っ越しを終えて少々暇だったことも相俟って、何の気なしに書類請求。ついでに貰った名刺に書いてあった氏名も添えてみた。すると御丁寧に刺繍模様の施された封筒が速達で送られ今に至る、というわけだ。

 ……武内とか名乗ったあの厳ついスカウトマン、とんでもない裁量権か何かを社内で持ってるのだろうか。

 

 さて「アイドル」。今やメディアやネットでその存在を見ぬ日はない程に有名だが、彼女自身、それらを饒舌に語れる程詳しくはない。が、それでも今をときめく765プロオールスターズくらいは流石に知っている。煌びやかに歌って踊って笑顔を振りまく姿に元気づけられたこともあったし、憧れがないかと言えば嘘になる。でも。

 

(…………やっていけるかな?もし、入ったとして)

 

 どうせ志すなら──「トップアイドル」まで登りつめたい。

 可憐な容貌こそ母親そっくりなものの、父親似ゆえ中身は相当な負けず嫌いである彼女、仮にアイドルを始めても鳴かず飛ばずのFランクでキャリアを終えるなど、その()()()精神が許さない。

 がしかし、昨年行われた件の765プロ・アリーナライブなどにも象徴されるように、現在のアイドル業界は競争率激化の一途を辿っている。俗に「生き馬の目を抜く」と評される芸能界の中でもかなり過酷な部類であることは、外からみても容易に想像できる。

 

 気持ちとしては挑戦したい。でも、出来るか?そもそも万が一、この勧誘自体が詐欺か何かで、いざ行ってみて違法薬物を打たれそうになったり、枕営業やらAV撮影やらを強要されたりしたら……どうする?

 

(─── いや、()()()()()()()()か、そんな連中)

 

 とすれば、あとは腹を括るだけ。必要なのは周りへの報告・連絡・相談だ。少々悩んだ末、彼女が出した結論は。

 

(……よし、こういう時はパパに相談してみよう)

 

 思い立つなり机上のスマートフォンを素早くタップ。同時に食べ終わったアイスの棒を2m後方のゴミ箱へ、振り向きもせず投げ入れる。まるで、背中に眼でも付いているかのように。

 そうして「少女」こと本名・()()美波は程なく、自身が全幅の信頼を寄せる父へ連絡を入れた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ────美波。その答えは気付いてないだけで、既に自分の中にあるハズだ。俺が可否を決めるコトじゃあない。何故なら『道』とは────

 

「……ま、待ってパパ。確か、えっと────『道とは、自分で切り開くもの』、だったよね?」

 

 広島県は某所、某大学の某研究室にて。上京中の愛娘からの電話を受けた部屋の主は、「アイドルをやりたい」というその思い切った電話内容に対し、常と変わらぬ声色のまま間髪入れず返答する。

 受話器の向こうの娘の声は、迷いと歓喜と不安と展望、どれもが入り混じっているように聞こえたから。マーブル柄の思考を変えるには、明確なメッセージこそ肝要と考えて。

 

「ああ。自分自身で考え抜いた末の選択なら、俺は何時でもお前の背中を押すぜ。ただし────」

 

 ────学業には支障が出ないように。出来るな?……問いかける父の、期待の篭った発破を受けて。

 

「────勿論ッ!」

 

 心に生じた僅かな迷いは、たちどころに霧散する。

 

「応。……腹括ったなら、頑張れよ」

 

「うん!ありがと、パパ!」

 

 それじゃね!また電話する!との声を残して切れた端末を静かにデスクに置いたのは、黒髪翠眼の偉丈夫にして電話相手の実父たる男。

 先程まで打ち込んでいた論文データを保存する彼の目下の関心事は、娘の所属先(予定)である。その名前は芸能業界でも老舗の───

 

(────346プロ、か。まああそこなら()()()の勤め先だから問題無いだろう。今度東京に寄った時、挨拶がてら会ってみるか。丁度、東京海洋大での講演会もあることだしな)

 

 今後の計画に一筆加えながらも、彼はデスク脇に置かれた愛用のバリスタマシンに、薫り立つ珈琲豆をザラザラと手早く入れる。程なくして【アントニーオ・トラサルディー謹製ブレンド】と書かれた豆の麻袋を縛った男は、先日降って湧いた東京出張に新たな目的を追加するのだった。

 

 

 

 ★

 

 

 

(……うん、少し早いけど許容範囲ね)

 

 

 2014年、4月早春。

 再開発の進む都心一等地・渋谷駅から徒歩数分。第二次選考(面接)の行われる大手芸能プロダクション・346プロのエントランスにて。この地に気合い充分といった体で足を踏み入れるのは、「私」こと空条美波。ちなみに今日の出で立ちは、薄青シャツに膝丈ニットスカート、ブラウンのローキャップにトートバッグという春仕様。

 

 なんで私がここに来ているかといえば、ここ346本社で予定されていた二次面接に参加するため。ただ希望者が非常に多いため複数回行うことになり、本日は記念すべき(?)第一回目。……なんだけど、どうにも個人的に気になることが一点。

 

(……なんだろ……背の星痣が『疼く』わね……)

 

 社内に足を踏み入れた時からちくちくと、左首筋にある星形の痣が疼く。生まれついてより有している、ジョースターの家系特有の不思議なこの痣は、今以て謎が多い。殺気や害意を感じると痣を通して悪寒が走ったり、痣の所有者同士が近くに居ると共鳴したりする。一族特有の蒙古斑染みたコレに危機を助けられた事もあるので、不満に思った事は無いんだけど。

 ただ、痣が疼くということは。

 

(……誰か……近くに血縁者がいる?)

 

 思ったところで、芸能業界大手の美城グループが都心一等地に巨費を投じて建設したらしい、最新鋭のオフィスを何となしに見渡す。

 カフェやスパまで併設しているという触れ込みの通り、単なる芸能事務所というには余りに堂々たる威容でもってこの渋谷に佇んでいた。

 かのSPW財団のお歴々もそうだけど、やはり資本主義国家に於いて持つべき人は持ってるんだな、との感心を抱いたところで。

 私の視界に、正面入口前で右往左往する1人の女子が目に留まった。

 

(わあ…………ダイヤの原石、って感じの子ね。それに頭良さそう)

 

 年嵩(としかさ)は確信出来ないけど、私と同じくらいだろうか。服装こそ今日の自身の格好に青のショールを追加した様な感じ。でも違う所も勿論ある。癖のない艶やかな長い黒髪を白のヘアバンドで留め、よく見ると眼が隠れる程伸ばされた前髪の隙間から、ちらとキレイな碧眼が覗いていた。

 おそらくその色白の肌や桜色の唇、高い鼻梁も相まって、髪を分けたらさぞかし綺麗な顔をしてるんじゃないだろうか。少々猫背気味なところも、どこか小動物的な可愛さも感じさせる。

 ただあまりマジマジと見るのも失礼か、と思ったけど。

 

(ん?……今……ちょっとこっちみた?)

 

 と思ったら直ぐそらされた。割とシャイな子なのだろうか。

 

(…………あ、もしかして)

 

「あの、すいません」

 

 話しかけてみると、少しばかりきょとんとした目でこちらを見てこう返された。

 

「……あ、はい。……私、でしょうか?」

 

 いえすいえす。おふこーす。そんな軽口を心中で叩く。

 

「はい。……えっと、貴方もオーディション受けに来た方ですか?」

 

 尋ねると、両手に白地の刺繍入り封筒を持ったまま、こちらの目を見て首を縦にぶんぶんと振ってきた。なにこの子可愛い。ともあれ目的が同じなら話は早い。

 

「私もなんです。……良かったら、一緒に会場まで行きませんか?」

 

 ──始めよう、まずは友達作りから。

 

 

 

 ★

 

 

 

「へェ〜、じゃあキャンパスも一緒なんですね!」

 

「そうなります、ね。……ひょっとしたら私たち、既に校内ですれ違っているのかもしれませんね」

 

 相槌をうってくれた彼女、名を鷺沢文香と言った。趣味は読書。奇しくも今年春から大学生になる18歳。ここに来たきっかけは神保町にある叔父が経営する書店でバイトしていたところ、例によって武内さんなる人にスカウトされたからだそう。

 ……あの人、ホントに神出鬼没ですね、といったらツボに入ったのか結構笑っていた。ちなみに名前で呼んでといったらじゃあ私も名前で結構ですよ、と返されたので、会って数分でお互い名前呼びである。

 我ながら二流のナンパ師くらいにはなれるんじゃないだろうか。やらないけど。しかし初っ端から知り合った人が実は同年、というのは幸先が良いと思う。

 

 更に聞いてみるとなんと大学まで一緒だった。3年次の進振りで本郷に移動がかかるまでは、なるべく一緒に講義を取ろうと意気投合したところ。嗚呼、楽しみかな華のキャンパスライフ。学祭学業サークル活動、やりたいことが目白押しだ。待っていて赤門、今行くわ──「あの、美波さん」──なあに、文香ちゃん?

 

「……その……少々言い辛いのですが…………」

 

 …………ああ、うん。だよね。

 

「……何処なんでしょうね、ここの入り口」

 

「それね……」

 

 一応、エントランスにいた案内と思わしき社員さんに場所を伺ったんだけど、結局二人して分からなかった。「内匠」なる社員証を提げたその人、厳つい面貌に金髪オールバック、豹柄シャツという格好だったので、その筋の人かとちょっと疑ったくらいだ。

 

 ただ、それはさて置き、現実逃避している場合じゃない。

 

 言い訳させてもらえるならこのプロダクション、廊下やら飾り付けのアンティークに至るまで何もかも大きいのだ。見取り図はそこかしこにあるにしろ、まるで新宿駅のルート案内みたいな複雑なものばかり。

 慣れていれば分かるだろうけど、広島出の田舎者と地方(本人曰く長野の田舎)出身の文香ちゃんというダンジョン攻略初心者二人でイキナリこれを読み解くのは、些かハードルが高すぎたようだ。

 こんなことならもっと道のりの易しい事務所を選ぶべきだったかもしれない。

 

「社員さんにでも声をかけて……もしくは一旦、二手に分かれて探しませんか……?」

 

 文香ちゃんからのそんなナイス提案によし乗った、と同時。何の前触れもなく不意に、己の()()()()がドクン、と一際強く脈打った。

 

「!?」

 

「…………どうか、されました?」

 

 いきなり左の首筋を抑えた私を、文香ちゃんが心配も交えた不思議そうな眼で訊ねた。ごめんなさい、なんでもないわとだけ返し、くるりと向きを翻す。

 

「大丈夫よ。それじゃ私はコッチ探してみるわね─ってキャッ!?」

 

 彼女の提案に賛同し、すぐ後ろの曲がり角に向け踵を返したところで、角の向こうから歩いてきた男の人とぶつかった。

 

「──おおッ!?っとすまねえな嬢ちゃ……ん……?」

 

「こちらこそすみませ……って、えッ!?」

 

「……アレ、もしかして美波ちゃんじゃあねェーか?」

 

 ぶつかった時眼前近くを掠めたのは、見覚えのあるハート形のタイピンを付けたスーツ姿。

 高身長且つ筋骨隆々な体躯、加えて彫りの深い端正なルックスが特徴的なその人は、既に十年来の仲である我が「先達」の一人にして、私と同じく共鳴する「星痣を持つ」人でもあり、そして私の────大叔父に当たる人だった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「なぁ〜るホド、んじゃあ二人して武内のヤツにスカウト受けたと。まったく手が早いねェアイツも」

 

「……その、熱意に押されて、しまいまして…………」

 

「あ、あはは……」

 

 俯きがちに、けれどもしっかりそう返した文香さんと、苦笑いの私。

「二次面接用に空けた会議室ならコッチだぜ」、と手招きした彼に着いて行くこと数分、私達は初対面と再会とを繰り広げ、お互いがココに来た経緯やら近況を三人で話しつつ目的の部屋へ向かっていた。

 ……にしても彼、地元の杜王(もりおう)町を出て東京で就職したと聞いてはいたが、まさか346プロで働いてたとは知らなかった。こんなことならもっとしっかりパパから話を聞いておくんだった。

 

「──ま、美人にコナかけんのも仕事(スカウト)の内ってな。……っと、その突き当り曲がって次が会場な。んでもって俺は面接官の一人も兼ねてっから、一旦ココでお別れだ」

 

 そう言って彼が親指でクイ、と指し示した大部屋の一室からは、成る程面接予定者のソレだろう喧騒が、隙間から漏れ聞こえてきた。

 時間を見れば開始時刻までもう間も無く。そろそろ入室しなければ、面接開始に間に合わない。

 

 ……そう、意識した途端。不意に、浮き足立っていたのだろう気分に、冷や水を浴びせかけられたような心持ちになってきた。

 例えるなら足元が覚束なくなるような、胃が沁みるように痛くなってくるような、そんなテンション。

 

(……もしも、だけど……)

 

 仮定の話、ではあるんだけど。

 

(……もし、この振り分けで落とされたら、スタートラインにすら立てないのか……)

 

 いざ会場のドアを前にすると、人生初の機会を控えてどこか夢見心地だったメンタルが、急に現実に引き戻されたみたいで。そう考えると。

 

(……柄にもなく、緊張してきた)

 

 ゴクリ、と今更ながら喉が鳴る。聞けば社内どころか今回の面接官に実は私の初こ……コホン。故あってパパより年若い大叔父までいるのだ。知った上ではこうなるのも、無理ないのかもしれなかった。

 ふと思い立って横を見れば、私と同じ考えに嵌ったのか、どこか「逡巡」といった面持ちの文香さんと目が合った。……受かるかな、私達。

 勿論、ここまで来て引き返す、なんてみっともないマネはしたくない。でもやっぱり、拭えぬ不安があるのも事実で──。

 

「あ〜ッと、ちょい待ち。ふたりとも」

 

 固まっていた私達に声をかけてくれたのは、誰あろう今の今まで別の部屋に向かおうとしていた大叔父だった。

 

 …………ホントは贔屓してるみたくなってあんま良くねーんだが、と前置きしつつも。

 

「俺から言えんのは少なくとも、武内(アイツ)のヒト見る目は確かだッつーコトと、二人とも十分テッペン狙えるだろ、ってこった。なァ〜に、素の自分出しゃ受かるだろうから心配すんな。堂々としてりゃあいい。それと────」

 

 そこで一旦言葉を置き、背広の内ポケットから左手だけで器用に彼が取り出したのは二枚の名刺。

 淀みない手つきでソレを私達へさっと渡しながら、我が大叔父は幾ばくかの茶目っ気も込めた風に語りを続ける。

 

「────改めて自己紹介といこーか。346プロダクション芸能部門統括P(プロデューサー)東方(ひがしかた)仗助(じょうすけ)だ。次はウチの()()()()として会おーぜ、お二人サン?」

 

 焦らず気負わず、行ってきな。

 

 最後に此方へ向かってそこまで言い切ると、今度こそ彼は別室へと去って行った。思わず礼を返すのも忘れるくらいの、颯爽とした所作。普通なら気障ったらしい真似なのに、彼がやると様になるのはどうしてだろうか。

 ただ、今慮ることはソレじゃあない。私たちが今この時、一番言うべきだろうことは。

 

「……有難う、仗助さん」

 

「……私からも、礼を。…………それにしても、此処は何か、佳き大人(ひと)が多いように感じられます」

 

 二人してそう呟くと、ふと隣の彼女と目が合った。まるで不安も期待も分け合うかのようにどちらからともなく手を握り、自然と出て来た言葉を紡ぐ。

 

「……それじゃ行こっか、文香ちゃん」

 

「……ええ、美波さん」

 

 いける。私達なら、たぶん、きっと。根拠はないけど、でも確信に近い。

 そんな意志を込めてその日、私達は非日常への扉を開けた──。

 

 




・空条(新田)美波
主人公。新田は母親の旧姓。

・空条承太郎
パッパ。海洋学者。とてもつよい。

・空条有栖
オリキャラの美波マッマ。

・鷺沢文香
今作だと美波と同窓。メカクレビブリオマニアJD。

・東方仗助
四部主人公P。チャームポイントは髪型。

・東方良平
このssだと存命のお爺ちゃん。年金生活満喫中。

・武内P
(アニデレPを)便宜上こう呼称。仗助と同期。


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