美波の奇妙なアイドル生活 作:ろーるしゃっは
※オリスタンドと云う特大地雷要素があります。
(うう……なんか妙な気配感じるし……やっぱり朝早くに来れば良かったかな……)
ラクロス親善試合が終わってすぐの6月3日。結局Pさんオススメの店に招待されたRoundS結成パーティから、約一週間ほど過ぎた火曜日のこと。
日もとうに落ちた時間帯、華の女子大生ーこらそこ笑わないーであるはずの私・空条美波は、なぜか単身夜の集合墓地に赴いていた。
東京都渋谷区渋谷駅近くにある某寺の集合墓地たるその場所。真下には青山霊園と並ぶ23区内屈指の心霊スポットであるSヶ谷トンネルが位置していることもあってか、何やら冷ややかな空気が辺り一帯を覆っているようにも感じられる。夜9時を回っていることもあり、都心にも関わらず人気の少ないそこは、まるで別世界の様相を呈しているようにも思えた。
普段なら好きこのんでは行かない所……なんだけど、実は明日提出期限のフィールドワークレポートの題材にこの場所を選んでいたため、あえなく一人でふらつくハメになったのだ。
あ、ちなみに今の私の格好、フルレングスの
……え、服装に女子力がない?探せ、そんなものは事務所に置いてきた。
さて。前日に課題を慌ててやる不手際を言い訳するなら、本来はもっと早くに終わってただろう課題なのだ。しかし最近はラクロスの練習とアルバイトにボーカル&ダンスレッスン、書斎の蔵書漁りに加え波紋の修練に励んでいたらこのザマ、というわけ。
……多忙により正直睡眠不足なのは否めないけども、元々学業に支障を来すなとパパと約束してアイドルやってるのだから、こればかりは絶対守らねばならない。
因みにレポートのテーマは「都内の歴史的建造物の変遷について」。幕末に至るまで隆盛を誇った古刹が、明治になると途端に寂れてしまってるあたり時代の変遷を象徴してて面白い、と力説して文香ちゃんも誘い、彼女も途中までは乗り気だった。ものの……すぐ真下に心霊スポットがあると知ると頑なに拒否られた。大の苦手らしい。
尚、件の文香ちゃんはなんと下宿先の古書店をテーマに一本書いていた。現当主のインタビューも載せた10000字詰めレポートをサラッと見せてくれた時は驚愕を覚えました。
私も見習わなきゃなあ、とその時感じたことを思い出しつつ、スマホの懐中電灯機能で足元を照らしながら人気の無い寺院を歩く。
俗に墓地などは怪奇現象がよく起こる、などと言われて怖いものみたさに来る人がいたりする……のだが、廃屋やお墓で本当に怖いものは実は霊ではない。……ごめんなさい嘘です、結構強がりです。
ただ、こういった場所で確実に警戒すべきは心霊の類よりは有毒ガスや毒虫、野生動物、そして何より不審な人間──
「……ぞ!!…………連……込め!!!」
──その時唐突に真下から聞こえてきた剣呑な声に、ふわふわしていた私の思考は寸断された。
☆
瞬時に頭のスイッチが、「有事」のソレへと切り替わる。
声色から只事ではない荒さを察知、走り出しながらも音源にアタリをつける。……大体トンネル真ん中あたりか。
この古びた名刹の地下、即ち今の私の真下にある建造物は言わずもがなSヶ谷トンネル。厄介の種はどうやらその内部にあるようだ。
……寺を抜けて回り込み、普通に降りるか?──いや、早い方がいいだろう。
思うが早いが、蔦の生い茂ったトンネル出口まで一息で走り抜け、辿り着いたトンネル際へと足を掛ける。近づくにつれ鮮明に聞こえてくる声と、
思うが早いが利き足で蔦ごとコンクリを蹴りつけた、その勢いのまま空中で前方に一回転。トン、と軽く音を立て片側2車線道路に右膝と右手を添えつつ着地する。
直ぐさま振り返って視界に捉えたトンネル内部に居たのは、右眼を覆う前髪が特徴的な、金髪の小柄な少女。
──そして、その少女の腕を掴んで乗用車に押し込めようとする五人ばかりの、ガラの悪そうな輩だった。
しかも。微かに漂うこの錆びた鉄みたいな匂い、そして男の一人が持っている金属バットについているのは……血?
……まさか、この連中……!
「…………手ェ離しなさい、その子から」
吐き気を催す面構えの男達に、ゆっくりと滲み寄る。
「んだテメェは?」
私の姿を認めるなり、卑屈な笑みを浮かべつつぞろぞろと此方に向かってくる男達。……標的接近、全部で4人。
「また1人増えたのかァ?しゃーねェ、ソイツも連れてけ。遊んだら山ン中にでも真っ
雑音を全て無視し、トンネル内部に進んでいくと濃くなってきた血の匂い。その大元は、歩道傍にあった年季の入った段ボールと毛布の塊から滴っていた。
…………誘拐未遂と強姦企図、更に
……人数訂正、止まっていた黒のハイエースの中にもう一人。全部で6人。
「つ〜かよォ、よく見りゃ上玉じゃね〜かネェちゃん。こんなところにこんな時間にくるとか、ひょっとして誘ってんのかァ?」
ダガーナイフを舐めながらニヤついてやって来る、プリン頭の下衆が騒ぐ。脅威度低、放置。
最優先対象はもう1つ、残り1人が抑えてる金髪の女の子。取り敢えず、あの子は解放しなければ。ならばこの状況の最適解は──!
「──
近づく輩を無視しつつ、震脚に似た動作で左足をアスファルトに叩きつけ、私から見て一番遠くにいる男、即ちあの子を縛る枷に向かって遠当ての要領で動きを止める。
手足を通して対象へ直接触れずに波紋を流せるこの便利技、習得に2年近くの修行を要した地味な努力の賜物だ。
それでもってこの隙に……
「……逃げて!!」
……意は伝わったか、突然の呼びかけにそれまで茫洋としていた彼女はコクリ、と頷くと、いきなり動けなくなって当惑している男を尻目に緩まった拘束から逃れ、逆方向へと駆け出した。
当座はコレで一安心、そして1人の無力化に成功。残りは5人。しかし────
「ナ〜二やってんだバカ野郎!」
「い、いやそれが急に体が……」
「ハッ、ココまで来てビビってるたあ使えねー。……つーかよ、余計なコトほざいてんじゃねーぞテメェ!?」
「だから言ったろ、先にクスリ打っとかねーからだよ。……まあイイ、ソイツマワして憂さでも晴らすか。シメるぞ」
今しがた運転席からバールを持って降りてきた汚いドレッドヘアの男も含めると、総勢5人が獲物を取り逃がした事を認識したのか、興奮気味に何やら捲し立ててきた。
よく見ると皆腕やら顔にカラフルな刺青。落書きを誇示して虚勢を張るとは恐れ入る、こうはなりたくないものだ。
……ああ、ついでに薬物乱用も罪状に追加しておこう。
さて、近くに他の通行人、なし。監視カメラは──割られてる。まあ、逆に好都合とも言える。
尤も、私が間も無く起こす事象は、まず
段取りを考えていると、後ろ手に此方に歩いてきた二人の男が、ゴルフクラブと鉄パイプとを目立つように翳してくる。バット男とナイフ男も含めれば、コレで全員武装要員、と。
……ハナからそんなつもりは無いけど、娑婆に出しちゃあいけない奴らね。手慣れた持ち方から見るに、どうも初犯じゃあないみたいだし。
が、ペースを落とさず歩き続けるも凶器を見て険しくなった私の目つきをどう捉えたか、馬鹿共が俄かに勢いづく。
「お、もしかして今更ビビっちゃったア?なら今すぐ全裸で土下座すりゃあ許してヤんねェでもねーぜ!?」
「まぁもう遅セーけどな!!」
「ギャハハハハハ!!!」
……哄笑、黙殺。状況、近距離4対1。その距離、既に
対象を、ただ迅速に無力化すべし。討つべきは、まごう事無き『悪』そのもの。
これらにつける
「なァクソアマ、今なら殺さ「
出てこい、
「────
──怒りを込めた掛け声と共に、私の背後に
☆
額までを覆い隠す、
顕現させたその
「なッ!?……んだよ急にデケー声出して、くだらねーハッタリかッッ!!?!?」
猿声を上げんとしたナイフ男が、弾かれたように吹き飛んだ。真後ろにいた鉄パイプの男も巻き込み、勢いよくトンネル内を転がっていく。私から見て、ざっと2mほど前方。
……幽波紋の見えない拳を一瞬で、
「な、何だよお前……何なんだよコレェ!!」
お仲間2人が吹き飛んで、腰が引けてるバットの男。たじろぎながら喚き出す。──不愉快この上ないわね全く。
心に呼応するかのように、振り抜かれるは不可視の裏拳。……クリティカル。バール男はトンネル壁へとゴールイン。 少なくとも顎関節は折れてるだろう。さてさてこれで3人目。
「ば、化けモンだ……」
「オイオイ何チキッてんだ!!2人で行きゃあボコれんだろォ!??!?!」
残ったのは失禁しているゴルフクラブと、薬物臭い金属バット。……後者にすかさず、左拳でアッパーブロウ。一瞬宙に浮き上がり、勢いのまま顔から落ちる。地面とキスとは奇特な趣味だ、お気に召すまで続けなさい。
「……うわ、うわああア嗚呼アアア!!!」
恐慌状態にでもなったのか、苦し紛れに残った男が振りかぶったクラブが目前に──
(……遅い)
────迫らない。
幽波紋のマフラーと左襟元に添えられた一筋の細い鎖をなびかせながら、顔面へと膝蹴り一発。
グシャ、と林檎が潰れたような音と共に、クラブを手放した男が膝をついて崩折れる。ヤニで黄色くなったのか、汚い前歯が辺りに散らばる。
……さて、これで5人は片付けた。
残るは一人、先程足止めした男に向かい、拳を握って走り寄る。この世の終わりを見たような顔で此方を見上げる男までの距離、凡そ七メートル。……即ち、たっぷり1秒かからない。
腰に据えた伸縮自在の
握り込んだ助走付きの正拳突きの行き先は、まごう事無く目標の顔。…………うん、ジャストミート。
動作こそ精確で速さにも優れるが、
それじゃあ、目的は瞬く間に完遂されたとみな──「……隙見せたなァこのビチグソがぁァァ!!!」──!!
……訂正、まだ一人残ってた。
「死ねやゴラァ!!て……あ……え……?」
揉みくちゃになって転がった後復活したのか、唯一残ったその武器を振りかざしてきた男の狙いは。
「……後ろから鉄パイプで闇討ちとは、よっぽどブチのめされたいみたいね……」
私に凶器を当てるなぞ、この程度の輩では土台不可能。
ギチギチと音を立てるパイプを不可視の腕で引っ張って男の手から引き剥がし、目の前で叩き折って廃材へと作り変え、傍に投げ飛ばす。打ち捨てられた屑鉄を見て腰が抜けたらしい男は、卑屈な笑みを此方に浮かべて何やら許しを乞うてくる。
「……や、やだなァ、ほんの冗談だよ冗談、クソアマとか言ったのは謝るからさあ……ちょっとした出来心だったんだって……!だから此処は見逃してくれよぉ……ね?」
この期に及んで命乞いとは。……やれやれだわ、ホント。
「────駄目よ」
胸倉掴んで意思表示。握り締めるは真白い拳。叩き込むのは────我が拳打ッッ!!!
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「ゲペええええええええええええッッ!??!?!?!」
──虚空に響くは、心の雄叫び。
☆
「……よかった、なんとか間に合った……」
出来の悪い現代アートみたいになった男を放置して私が取り組んでいたのは、応急の人命救助だった。
スタンドに段ボールやらを持たせつつ覗いた、比較的新しい毛布やらビニール袋やらとごっちゃになった塊の中身。
そこには果たして手酷くやられたのだろう、血塗れになって突っ伏していた青年の男性がいたのだ。
即座に波紋を使うこと数十秒、怪我が治癒して呼吸が落ち着いてきたのを確認。……見た所寝込みを襲われたと見た。
まあ本来、こういう事は医療機関に任せるべきなのだけど、しかし目の前で助けられる命を見捨てるというのも寝覚めが悪い。
……さて、当座の治療も終わったことだし。
(……ここはさっさと、立ち去りましょう)
青年の手元に、炊き出しをやってる近くの教会の住所を添えた紙を置いて立ち上がる。人と関われば社会へ戻る道も見えるだろうし、その後は自らが決めることだ。
帰るついでに「トンネルで柄の悪そうな男達が倒れている、どうも只事ではないようだ」という旨の通報を実施しようと思ったけど、パトカーと救急車のサイレンが既に近付いてきていた。誰かが通報したのかな?……まあいい、さっさとトンネルを抜けよう。
近隣は音楽スタジオとかなので気付かれてはいないと思うけれど、長居するのは得策ではない。
連中は暫く目覚めないだろうし、日本の警察は仕事が早い。あとの裁きはお上と司法に任せよう。にしても──
(……トンネルに近づくにつれ強く感じた奇妙な気配が、外に出たのにまた濃くなってる……)
てっきりあの第六感に引っかかる感覚、絶対
真上の墓地を歩いている時から感じた奇妙な感覚は一体何だったのかしら?……と、歩きながら考えた時。
「……あ、あの……さっきのお姉さん、だよね……?」
「……え?」
一路駅に向かう途中の私に横合いから声を掛けてきたのは、先程下衆の魔の手から逃れた筈の、金髪の少女だった。
☆
「えっ!?じゃあ私達、同期採用の候補生だったってこと?……あ、そうだこれよかったらひと切れどうぞ」
「あ、ありがとう…………うん……言われてみれば私も、美波さんぽい女の子、遠くからなら事務所で見たことあったかも……」
Sヶ谷トンネルから徒歩10分、Sヶ谷駅最寄りの喫茶店ル・ノワールの一角にて。
夜十時という時間にも関わらずフレンチトーストとガトーショコラにカフェオレ、という糖尿一直線の夜食を嗜んでいる私の前に、どうも先程まで私を探してくれていたらしい女の子改め、白坂小梅ちゃんの姿があった。
現在中学一年らしいけど、その割にしっかりピアスもしているしメイクもバッチリ。がしかし萌袖というのだったか、袖の長い黒パーカー越しに掴んだガムシロップをコーヒーに入れる仕草と低めの背丈も相まって、大人びたところもあるが一方でどこか庇護欲を掻き立てる、といった相反する要素を併せ持つ女の子だった。
今さっき手渡したフレンチトーストを食べている彼女、聞けば巻き込まれた私が心配でトンネルを出るなり警察と消防に連絡、その後も入り口付近に隠れて深夜労働を強いられるだろう公務員の皆様に状況説明でもしようかと思ってたら、一仕事終えたような顔且つ無傷の私が出てきた、ということらしい。
ワンチャンさっきの状況を見られているだろうけど「見たの?」とは聞き辛いなあ、と私が一瞬固まってた中、彼女の方から話しかけて来てくれて今に至る、というわけだ。にしても──。
「そうだったの。……あ、ていうかその、小梅ちゃん、さっきのことなんだけどね……ホントに、大丈夫なの?とりあえず今日は私が寮まで送ってくけど、もしその……」
そう。意識の埒外から殴られ失神しただろう浮浪者の人と異なり、自分を未遂と雖も物のように扱おうとした連中をしっかり見聞きしてしまっている。後でPTSDなりが出て来てもおかしくないだろう。でも──
(にしては平然、いや超然とし過ぎてない?この子……)
それに
「……怖かったけど、大丈夫。そもそも
「自分の意志?と、あの、子……?」
「うん。……私、心霊スポット巡りが趣味なの。それで、今回は偶々こんな……夢中になってて、それで、『あの子』の注意に気付かなくて……」
「そうだったの……ごめんなさい、来るのが遅くなって。……えっと、それでね、その『あの子』って?あ、言いづらいなら無理には……」
「ううん、大丈夫。……『あの子』は、……なんと言うか、美波さんが……」
「……わたし?」
あの子?……見た限り、彼女は一人で行動していた。友達?家族?恋人?……それとも、目に見えない何か?
未だ絶えない「妙な気配」の発生源を探りつつ、『あの子』なるものを考える。というか、先程から何かに『見られてる』気がするのだけど…………
………………まさか。
『……ミナミ。この少女、恐らく……』
「うん。────今までなんなのかよく分かってなかったけど、さっき美波さんが出してた『女の子』と、たぶん同じなんだ、と思う。……それがきっと、『あの子』の正体」
……本日コレにてハイ解散とは、どうにもあり得ないようだ。
☆
二日後、6月5日の午前中。346プロ二九階にあるプロジェクトRoundSルームの隣室、東方プロデューサー専用オフィスにて。
一昨日衝撃の告白を受けた私は、スタンドじみたモノが発現している以上、彼女に対しすっとぼけや隠蔽などは間違ってもすべきでないと判断。吉良だのDIOだの話は取り除き、スタンドに関する知識を正しく伝達するべきか、と仗助さんに相談。
賛同してくれた序でに社員の話なら俺も混ぜろい、此れも福利厚生の内だと彼も参加の意を示し。
日程調整の結果、ユニットリーダーの私とのミーティングと称して事務仕事を切り上げてきた彼と、急遽31階から(ユニットのプロジェクトルームがそこにあるらしい)来てもらった小梅ちゃんとの三人で、まあ言ってみればスタンド講座のようなものを開いていた。
尚飛鳥ちゃんもそうなのだけど、小梅ちゃんもアイドルを始めるにあたり寮程近くの美城財閥経営の私立校に転校したので、平日授業を欠席しても通信授業を受ければ大丈夫、とのこと。よって水曜午前からでもモーマンタイ。
ちなみに私と文香ちゃん、今日は全休の日です。いぇい。
……え?志希ちゃん?彼女は登校義務免除されてます。修士どころか既に博士号持ちだし。まあ気が向いたら高校も行ってるらしい。この前はウチの大学に遊びに来てたけど。
……ていうか、今更だけど小梅ちゃん、2階上にいたのね。……なんでこんな近くにいたのにお互い碌に顔見た覚えがないんだろう。
閑話休題。
「んじゃあ〜生まれながらのスタンド保持者、ってことか。……ただ見たトコおかしなことにはなってねーし、聞けば意思疎通も図れてる。まだ『覚醒』って段階までにはないみてェ〜だけどな……」
小梅ちゃんとその背後を見ながら、情報を纏めていく仗助さん。
昨日喫茶店で彼女がいきなり「顕現させて」きた時は吃驚したが、聞けばそもそも「スタンド」なる名称も聞いたことがない子であり、「同類」を見たのは彼女の人生で私が初めてだったらしい。
本人は心霊やら何やらが見える・触れる・話せる・時折憑かれる、という霊媒師みたいな体質だそうなのだが、今まで「みえるひと」が周りにいなかった事もあってか、自分の言動に周囲の理解が得られず苦労したこともあったようだ。
年嵩の割に大人びた印象を受けたのは、彼女が人と軋轢を生まんが為、自ら被ったペルソナによるものだったのかも知れない。私達の
ただ未だ不定形でふわふわとした塊のような形をした彼女のスタンド。まだ発声は出来ないが何がしたいかは伝わるとのこと。意外とイタズラ好きな思考らしい。
さて、とりあえず連絡先は交換したので困ったら私かウチのPさんになんでも聞いて、と言ったところで丁度正午。
同じユニットメンバーの子3人と一緒に午後からレッスンの打ち合わせをしつつ昼食予定とのことで、小梅ちゃんは礼を言いつつ上の階へと戻っていった。
……今更だけど、彼女は昨日のヴァイオレンスシーンをノーカットで観ていたらしいのに、全く動じている様子がないのが凄い。そういう系の映画とかが好きと言ってたから耐性があるのだろうか。
「……そういやぁ〜よ、美波ちゃん」
「はい?」
徐ろから、Pさんに話しかけられる。
「事務所の登録名なんだが、名字は『新田』でいいんだな?」
……ああ、そのことなら。
「はい。……
幽波紋使いと
……まあ、ただの芸名じゃんと言われればその通りでもあるのだけど。
「グレートだ。……ああそうだ、もう聞いてっとおもうけど、『矢』に──」
──ぐ〜〜〜〜。
その時何かを言いかけた仗助さんの声を遮ったのは、誰あろう目の前にいた私の────お腹の音だった。
突如訪れた沈黙が痛い。というか滅茶滅茶恥ずかしい。今間違いなく顔赤い。ていうか、前触れもなく鳴る!?今までこんな事一度も無かったのに!よりによって!
「……あ~、飯でもいこーぜ?な?」
大叔父のフォローが突き刺さる。いっそ笑ってくださ……いや、仗助さんにそれやられたら立ち直れないかも。なんたって実は初こ……なんでもない。
「…………みなみ、もうお嫁にいけません……」
両手で顔を抑えて突っ伏す。責任取って貰ってくださ……いや何考えてるんだ私は、落ち着け。ああでもやっぱり無理……うあああああ……。
「重いっての!あ〜もォ話は後だ、取り敢えずメシ行くぞメシ!ほら着いてきな!」
と言われても顔を上げられなかったので、結局その日は入店する迄、紅潮した顔のまま彼のスーツの裾を掴んで後ろを歩いて着いていった。
…………ご迷惑、おかけしました……。
・不良さん達
再起不能。
・白坂小梅
『あの子』実はスタンド説を採用。
・同じユニットの子たち3人
ヒントはデレアニの先輩方。
・《ヴィーナスシンドローム》
一応人型。同系統のスタンドの中では比較的パワーに劣るがスピードは随一。得物の槍を用いれば射程は遠距離まで広がる。非力さを手数と波紋で補って闘うタイプ。