申し開きはございません
どんどん文がブレていく
「…ふう、なんとかなった。やっぱりヨセフカの輸血液は格別だね」
「ありがとう、礼を言うよ。あんたがいなけりゃ、あたしはここにいなかった」
「しかし、なんだいその顔は? まるで…まるで、取り返しのつかない何かをやらかしちゃったような顔だ」
「あたしはあんたよりは生きている。話ぐらいなら聞けるよ」
「……そうか。まあ、無理にとは言わないさ。でもあんまり、自分を責めるんじゃないよ」
「あんたはあたしの命の恩人だ。それは紛れもない事実なんだからね」
――
女医の輸血液で、アイリーンは一命を取り留めた。さすがは手製といったところか。胡散臭いことこの上無かったが、腐っても医療者らしい。
あんなろくでなしでも、人命を救うことはできるのだ。それに比べて私は、誰よりも彼女の近くにいたはずなのに、私は…。
…ともかく、先へ進む。後ろを振り返っても進展は無い。ならば、さっさと次へ目を向けたほうがいい。
…それでいいのか。ヴィオラは私が殺したわけではないにしろ、いち家族を崩壊させた張本人がのうのうと生きていて、それでいいのか。
だが私を裁ける唯一の人は死んだ。ただの獣の、満たされない食欲のためだけに殺された。
防げなかったのは私だ。しかし彼女は自ら外へ出て、そして死んだ。全ては彼女の堪え性の無さに依り、私の過失はほぼ無いに等しいのではないか?
いや違う。そもそも最初に出会ったとき、彼女を教会へ連れて行っていれば――ダメだ。あの時はまだ教会へ辿り着いていない。
結局、私はどうすればよかったのか。正解など、本当にあったのか。
女の子に約束しちゃだめ。出来ない約束はね。
不意にそんなフレーズが頭に浮かんだが、一体なんだろう。部分的に記憶が蘇ったとすれば、私が読んでいた本か何かの一節だろうか。
しかし恨めしいほどに傷を抉る。あの時私は分かっていたじゃないか。彼女の願いは叶うことはない。正に私のこの手で、彼女の希望は潰えるのだと。
どうあがいても、絶望か。
案外、私の未来をも暗示しているのかもしれないな。
すまない、名も知らぬ少女よ。私は生きる。貴女の分まで、などと洒落たことを言えたのならばいいが、実際の理由はそんな格好いいものではない。
ただ
その上、仮に喉を掻っ切ったとしても、私は夢でまた目覚めるのだろう。償うことすら許されないとは、これも彼女の呪いなのだろうか。
ギルバートは聖堂街の先へ進めと言っていた。聖堂街の根源、大聖堂にこそ手がかりはあると。
とはいえだだっ広い街を、ガイドもつけずに目的地に到れと言われてもどうしようもない。ただでさえ排他的なヤーナムなのだ、異邦人が我が物顔で闊歩などできるものか。
だが、幸いにも私よりはこの街に詳しい狩人と会うことができた。
「…それで、私に大聖堂まで案内してほしいと」
金髪碧眼の好青年、アルフレートである。
「構いませんが、大聖堂の何が目的ですか?」
青ざめた血についての手がかりだ。血に詳しい教会なら、なにか関係があるんじゃないかと思ってな。
「なるほど、そうでしたか。私も青ざめた血というのは耳にしたことがないので、興味はありますね」
かなり強力な、心強い助っ人だ。しかし、アルフレートは何処から来たのだろうか。
「私がここへ来た道ですか? 大橋があったでしょう。あの奥の、扉からです」
…確かそこには獣が、とびっきりデカいのがいたはずだが。
「ああ、多少手こずりましたが、なんとか狩りましたよ。処…狩人たるもの、アレを狩れないようでは先が思いやられますから」
…憂鬱だ。
アルフレートと聖堂街を進む。ヤーナム市街よりも不気味だ。あそこより宗教観が強いのか、街自身に薄っすらと強迫観念が漂っている。自ら求めた神の偶像は救いになるが、押し付けられたそれは全く逆の効果をもたらす。この街はどちらかといえば後者だろう。
その、半ば狂気とも取れるそれの表出のように、この街には石像が多い。ヤーナム市街でも思ったことだったが、それを軽く凌駕する量だ。
石畳、石造りの家屋、石像。石に埋め尽くされ、この街からは色が失われている。だが受ける印象は決してのっぺりしたものではなく、痛々しいほど尖った人の倒錯そのものだった。
「…静かに」
またか。
「あれは人間に見えますが、正気ではありません。人を見かければ、あの手に持った杖で襲いかかります」
恐ろしいな。誰も信用できないじゃないか。
「狩人などそんなものです。私も、貴方も、それは変わらない」
世知辛いものだ。
「そもそも狩人とは孤独と共にありました。終わりなき獣との対峙の中で、正気を保てるほうが稀ですよ。…もうやり過ごしましたね。進みましょう」
なんてこった。ここはどこなんだ。
「…すみません、実は私も、あまりこの街に明るくなくて」
それならそうと言えばいいのものを。
…まあ、仕方ない。またギルバートのような、親切な案内人に出会えないものか。
「そうですね…ん? あの家、明かりがついていませんか」
だがまともに取り合ってくれる可能性は限りなく低い。
「ダメでもともとです。――夜分遅くに申し訳ありません。大聖堂までの道のりを教えていただけませんか」
「…お前、よそ者だろう。よそ者が獣狩りなど、どうせ碌なことではあるまい」
返ってきたのは、いかにも偏屈そうな男の声だった。
「それとも、あの女に会いにでも来たか?」
「女?」
「向かいの、あの店の女だよ。よそ者には売女がお似合いだ」
「いえ、決してそんな訳では…」
「どうだか。敬虔な教徒を気取ってるやつこそ、汚れきっていると相場が決まっている」
「…私が、穢れていると?」
「他に誰が居る。お前らのせいでヤーナムはこんな陰気な街になっちまった。獣を狩るためとかいう大義名分を引っさげて、お前らこそ獣なんじゃないのか?」
ちょっと待ってくれ。もう少し穏便にことを済ませようじゃないか。
「…そうですね。もとよりまともな会話ができるとは思っていません」
「ハッ、そうやってレッテルを貼ってりゃいいさ。いつか誰にも相手にされなくなる日が来るよ」
「ええ、それでは」
しかし、ヤーナムの市民はどこもこうなのか。どうしてなかなか、上手くいかないものだ。
「向かいの女性に賭けるしか無いでしょう。この辺で他に明かりをつけている家も見当たりませんし」
そうだな。今度は私が話そう。女同士なら多少警戒心も薄れるだろうし。
「…あら、あなた、おかしな香り」
想像以上に若々しく、それでいて妖艶さを纏った声が返ってきた。なんというか、住んでいる世界が違うような印象を受ける。だがそれよりも、なんなんだ、そんなに私は臭うのか? どうなんだ、アルフレート。
「ふむ…すみません、狩人を長くやっているとどうも…鈍感になるようで」
クソ、どうしようもないな。
「…でも、良かったわ。獣も血の匂いも、もううんざりなの。で、何の用? 狩りの夜は店じまい。それに、ここは男が来る所。あんまり近づくと…穢れちゃうわよ?」
汚れ、ねえ。これ以上何処をどう汚せというのか。…汚れる価値があるか、それすら怪しいというのに。
じゃない、大聖堂までの道のりを教えてくれないか。知らんもんとうろ覚えの二人がかりではどうにも到れず、まあ有り体に言えば迷子なのだ。
「ああ、そういうこと。確かに、こんな夜のお客さんが、まともな要求をするわけないもの」
まともな人間がそもそも存在していない気もするがな。
「しかし、大聖堂なんて、何をしに行く気? 神様に祈りでも捧げる?」
残念ながら、私は無宗教…というか、何を祀っていたのかさえ覚えていない。だが少なくとも、道標としての偶像なら「血」を崇拝していることになるか。
「『血』、なるほどね。それなら、一つ提案があるわ。大聖堂までの道のりを教えるのと引き換えに、安全な場所を教えてくれない?」
安全な場所。…それは、その店じゃ不足なのか。
「はじめは籠もっているつもりだったのだけれど…今夜は長すぎるわ。獣避けの香も、もう切れそうなの」
『私は見殺しにしたくせに、この人は助けるの?』
っ!?
「それに、一人だと段々心細くなってきて…ね? 分かるでしょう?」
『私をひとりぼっちにしたままのあなたに分かるわけないよね』
少女は死んだ。
幻聴だ。幻聴なんだ。
落ち着け。深呼吸をしろ。
「…あなた、大丈夫?」
…大丈夫だ。安全な場所、だったな。残念だが、教えることは出来ない。
「……そう、わかったわ。よそ者を入れたくないのは、ヤーナムも同じだもの」
だからついてこい。場所だけ教えて、途中で野垂れ死なれたら笑い話にもならん。
「! ありがとう、通りすがりの狩人さん」
『優しいんだね』
…止めてくれ。
店から出てきた彼女は、金の髪を肩まで靡かせた美人だった。少し派手すぎるように思える真紅のドレスも、彼女が着れば不自然さを感じさせない。
「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私はアリアンナ。それじゃあ、よろしくお願いね」
GWとは一体…うごご
おばあちゃんと絡ませていないことに気づいてしまった
どうしよう