血塗られた古都のある一夜   作:かたまり

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遅れてすみません
申し開きはございません
どんどん文がブレていく


2.0.聖堂街

「…ふう、なんとかなった。やっぱりヨセフカの輸血液は格別だね」

 

「ありがとう、礼を言うよ。あんたがいなけりゃ、あたしはここにいなかった」

 

「しかし、なんだいその顔は? まるで…まるで、取り返しのつかない何かをやらかしちゃったような顔だ」

 

「あたしはあんたよりは生きている。話ぐらいなら聞けるよ」

 

「……そうか。まあ、無理にとは言わないさ。でもあんまり、自分を責めるんじゃないよ」

 

「あんたはあたしの命の恩人だ。それは紛れもない事実なんだからね」

 

――

 

 女医の輸血液で、アイリーンは一命を取り留めた。さすがは手製といったところか。胡散臭いことこの上無かったが、腐っても医療者らしい。

 あんなろくでなしでも、人命を救うことはできるのだ。それに比べて私は、誰よりも彼女の近くにいたはずなのに、私は…。

 …ともかく、先へ進む。後ろを振り返っても進展は無い。ならば、さっさと次へ目を向けたほうがいい。

 …それでいいのか。ヴィオラは私が殺したわけではないにしろ、いち家族を崩壊させた張本人がのうのうと生きていて、それでいいのか。

 だが私を裁ける唯一の人は死んだ。ただの獣の、満たされない食欲のためだけに殺された。

 防げなかったのは私だ。しかし彼女は自ら外へ出て、そして死んだ。全ては彼女の堪え性の無さに依り、私の過失はほぼ無いに等しいのではないか?

 いや違う。そもそも最初に出会ったとき、彼女を教会へ連れて行っていれば――ダメだ。あの時はまだ教会へ辿り着いていない。

 結局、私はどうすればよかったのか。正解など、本当にあったのか。

 

 女の子に約束しちゃだめ。出来ない約束はね。

 

 不意にそんなフレーズが頭に浮かんだが、一体なんだろう。部分的に記憶が蘇ったとすれば、私が読んでいた本か何かの一節だろうか。

 しかし恨めしいほどに傷を抉る。あの時私は分かっていたじゃないか。彼女の願いは叶うことはない。正に私のこの手で、彼女の希望は潰えるのだと。

 

 どうあがいても、絶望か。

 案外、私の未来をも暗示しているのかもしれないな。

 

 すまない、名も知らぬ少女よ。私は生きる。貴女の分まで、などと洒落たことを言えたのならばいいが、実際の理由はそんな格好いいものではない。

 ただ他人(ひと)のためだけ(、、)に死にたくないという、ひたすらに浅ましい本能ゆえだ。

 その上、仮に喉を掻っ切ったとしても、私は夢でまた目覚めるのだろう。償うことすら許されないとは、これも彼女の呪いなのだろうか。

 

 ギルバートは聖堂街の先へ進めと言っていた。聖堂街の根源、大聖堂にこそ手がかりはあると。

 とはいえだだっ広い街を、ガイドもつけずに目的地に到れと言われてもどうしようもない。ただでさえ排他的なヤーナムなのだ、異邦人が我が物顔で闊歩などできるものか。

 だが、幸いにも私よりはこの街に詳しい狩人と会うことができた。

 

「…それで、私に大聖堂まで案内してほしいと」

 

 金髪碧眼の好青年、アルフレートである。

 

「構いませんが、大聖堂の何が目的ですか?」

 

 青ざめた血についての手がかりだ。血に詳しい教会なら、なにか関係があるんじゃないかと思ってな。

 

「なるほど、そうでしたか。私も青ざめた血というのは耳にしたことがないので、興味はありますね」

 

 かなり強力な、心強い助っ人だ。しかし、アルフレートは何処から来たのだろうか。

 

「私がここへ来た道ですか? 大橋があったでしょう。あの奥の、扉からです」

 

 …確かそこには獣が、とびっきりデカいのがいたはずだが。

 

「ああ、多少手こずりましたが、なんとか狩りましたよ。処…狩人たるもの、アレを狩れないようでは先が思いやられますから」

 

 …憂鬱だ。

 

 アルフレートと聖堂街を進む。ヤーナム市街よりも不気味だ。あそこより宗教観が強いのか、街自身に薄っすらと強迫観念が漂っている。自ら求めた神の偶像は救いになるが、押し付けられたそれは全く逆の効果をもたらす。この街はどちらかといえば後者だろう。

 その、半ば狂気とも取れるそれの表出のように、この街には石像が多い。ヤーナム市街でも思ったことだったが、それを軽く凌駕する量だ。

 石畳、石造りの家屋、石像。石に埋め尽くされ、この街からは色が失われている。だが受ける印象は決してのっぺりしたものではなく、痛々しいほど尖った人の倒錯そのものだった。

 

「…静かに」

 

 またか。

 

「あれは人間に見えますが、正気ではありません。人を見かければ、あの手に持った杖で襲いかかります」

 

 恐ろしいな。誰も信用できないじゃないか。

 

「狩人などそんなものです。私も、貴方も、それは変わらない」

 

 世知辛いものだ。

 

「そもそも狩人とは孤独と共にありました。終わりなき獣との対峙の中で、正気を保てるほうが稀ですよ。…もうやり過ごしましたね。進みましょう」

 

 

 なんてこった。ここはどこなんだ。

 

「…すみません、実は私も、あまりこの街に明るくなくて」

 

 それならそうと言えばいいのものを。

 …まあ、仕方ない。またギルバートのような、親切な案内人に出会えないものか。

 

「そうですね…ん? あの家、明かりがついていませんか」

 

 だがまともに取り合ってくれる可能性は限りなく低い。

 

「ダメでもともとです。――夜分遅くに申し訳ありません。大聖堂までの道のりを教えていただけませんか」

「…お前、よそ者だろう。よそ者が獣狩りなど、どうせ碌なことではあるまい」

 

 返ってきたのは、いかにも偏屈そうな男の声だった。

 

「それとも、あの女に会いにでも来たか?」

「女?」

「向かいの、あの店の女だよ。よそ者には売女がお似合いだ」

「いえ、決してそんな訳では…」

「どうだか。敬虔な教徒を気取ってるやつこそ、汚れきっていると相場が決まっている」

「…私が、穢れていると?」

「他に誰が居る。お前らのせいでヤーナムはこんな陰気な街になっちまった。獣を狩るためとかいう大義名分を引っさげて、お前らこそ獣なんじゃないのか?」

 

 ちょっと待ってくれ。もう少し穏便にことを済ませようじゃないか。

 

「…そうですね。もとよりまともな会話ができるとは思っていません」

「ハッ、そうやってレッテルを貼ってりゃいいさ。いつか誰にも相手にされなくなる日が来るよ」

「ええ、それでは」

 

 しかし、ヤーナムの市民はどこもこうなのか。どうしてなかなか、上手くいかないものだ。

 

「向かいの女性に賭けるしか無いでしょう。この辺で他に明かりをつけている家も見当たりませんし」

 

 そうだな。今度は私が話そう。女同士なら多少警戒心も薄れるだろうし。

 

「…あら、あなた、おかしな香り」

 

 想像以上に若々しく、それでいて妖艶さを纏った声が返ってきた。なんというか、住んでいる世界が違うような印象を受ける。だがそれよりも、なんなんだ、そんなに私は臭うのか? どうなんだ、アルフレート。

 

「ふむ…すみません、狩人を長くやっているとどうも…鈍感になるようで」

 

 クソ、どうしようもないな。

 

「…でも、良かったわ。獣も血の匂いも、もううんざりなの。で、何の用? 狩りの夜は店じまい。それに、ここは男が来る所。あんまり近づくと…穢れちゃうわよ?」

 

 汚れ、ねえ。これ以上何処をどう汚せというのか。…汚れる価値があるか、それすら怪しいというのに。

 じゃない、大聖堂までの道のりを教えてくれないか。知らんもんとうろ覚えの二人がかりではどうにも到れず、まあ有り体に言えば迷子なのだ。

 

「ああ、そういうこと。確かに、こんな夜のお客さんが、まともな要求をするわけないもの」

 

 まともな人間がそもそも存在していない気もするがな。

 

「しかし、大聖堂なんて、何をしに行く気? 神様に祈りでも捧げる?」

 

 残念ながら、私は無宗教…というか、何を祀っていたのかさえ覚えていない。だが少なくとも、道標としての偶像なら「血」を崇拝していることになるか。

 

「『血』、なるほどね。それなら、一つ提案があるわ。大聖堂までの道のりを教えるのと引き換えに、安全な場所を教えてくれない?」

 

 安全な場所。…それは、その店じゃ不足なのか。

 

「はじめは籠もっているつもりだったのだけれど…今夜は長すぎるわ。獣避けの香も、もう切れそうなの」

『私は見殺しにしたくせに、この人は助けるの?』

 

 っ!?

 

「それに、一人だと段々心細くなってきて…ね? 分かるでしょう?」

『私をひとりぼっちにしたままのあなたに分かるわけないよね』

 

 少女は死んだ。

 幻聴だ。幻聴なんだ。

 落ち着け。深呼吸をしろ。

 

「…あなた、大丈夫?」

 

 …大丈夫だ。安全な場所、だったな。残念だが、教えることは出来ない。

 

「……そう、わかったわ。よそ者を入れたくないのは、ヤーナムも同じだもの」

 

 だからついてこい。場所だけ教えて、途中で野垂れ死なれたら笑い話にもならん。

 

「! ありがとう、通りすがりの狩人さん」

『優しいんだね』

 

 …止めてくれ。

 

 店から出てきた彼女は、金の髪を肩まで靡かせた美人だった。少し派手すぎるように思える真紅のドレスも、彼女が着れば不自然さを感じさせない。

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私はアリアンナ。それじゃあ、よろしくお願いね」 




GWとは一体…うごご
おばあちゃんと絡ませていないことに気づいてしまった
どうしよう
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