血塗られた古都のある一夜   作:かたまり

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まだチュートリアルなので内容はスカスカです
これからも多分スカスカです
私自身がスカスカです


0.1.目覚め

「ーーーーっ!」

 

 はっと飛び起きる。

 嫌な汗をかいた。なにか、なにかは分からないが、悪い夢を見た気がする。

 そうだ。床から獣が這い出てきて、襲われる寸前に炎が獣を包んで――

 あとは思い出したくない。薄気味悪い白く萎びた小人が、私の体を這いずり回ったところで、目が覚めた。

 

 嫌な夢だった。これから当分は見たくない。

 

 …? 悪夢が…なんだっけ?

 

 そもそもなぜ私は…私はこんな寂れた診療所に…?

 

 待て、なぜこうなった。どこからやって来たんだ? ここは何処だ?

 

 私は、誰だ?

 

 困惑が頭を占める。何一つ徴となることが無い思考の渦の中で、ある一つの言葉が浮かんだ。

 

 記憶喪失。

 

 この見知らぬ部屋で、私はどうしたら良いんだ。いや、ここはもしかすると見知った部屋なのかもしれない。

 何もわからない。何もわからないから、何もできない。古びた診療台の上でしばらく途方に暮れる私を、誰が咎めようか。

 

 と、手元に何かが触れた。

 

「『青ざめた血』を求めよ 狩りを全うするために」

 

 殴り書かれたメモ。もはや意味がわからない。

 しかし、これに従うほかはないのだ。私が頼れる、唯一の道標。とにかく、外に出なければ。

 

 診療台から身を下ろすと、厭らしいきしみが響く。どうやら床は木製のようだ。薄暗いため見えにくいが、恐らく血の染みが点々と落ちている。衛生管理はどうなっているんだ。

 部屋を見回せば、棚、棚、扉、棚。その上、床には棚から落ちたと思われる薬品やらの瓶が散乱しており、不健康な匂いはどうもそれが原因らしい。つくづく嫌になる。仮にも医療行為を行っているんだから、もっと清潔感を究めて然るべきだろうに。

 取り敢えず部屋を出る。扉は二つあったが、片方は鍵がかかっていた。つまり一択だ。被害妄想なのだろうが、誘導されているようで少し気持ち悪い。

 両開きの戸を押すと、これまた脳に響くきしみを上げる。だがもうこんな場所とはお別れだ。不気味な診療所を抜け出し、そこで私は自由になれる。

 

 おっと、残念。扉の先は下り階段だった。正面の天窓から差す日光が私を歓迎してくれる。ようこそ、くそったれクリニックへ。まだまだ帰さないぜ。ふざけるな。

 階段を下る音がいやに響く。階下に近づくにつれ生理的嫌悪を齎す悪臭が強まり、だがそれは薬品のケミカルな匂いとは違う。もっと生々しい、この場には不似合いな、そう、言うなれば獣臭さだ。

 足がつっかえる。あるはずと思い込んでいた段は床に埋まっていて、つまり一階だ。さあ、臭いの原因とご対面の時間だ。

 

「ハッ、ハッ」

 

 呼吸音。恐らく人のものではない。犬、あるいは狼だろうか。先程から感じる悪臭の持ち主だろう。耳をすませば、聞きたくはないのだが、水っぽい咀嚼音が僅かに聞こえる。どうやら私は早めのディナーにばったり出くわしてしまったようだ。

 己の生存本能が警鐘を鳴らしている。理屈では通らない、不明への恐怖が歩みを止めさせる。

 しばらくの逡巡。進むべきか、退くべきか。答えは明白だ。

 ひとまずここは、一旦引こう。焦っても成果は得られない。それに、私にはわからないことが多すぎる。

 

カラン。

 

「っ!」

 

 足元を見れば、中身のない小瓶

 なんだ、なんなんだ。

 目が覚めてからというもの碌な事がない。

 だが運命を呪うほど無益なことが無いのを私は知っている。

 

「ガァ?」

 

 まずい。「何か」に気づかれたか。

 待て、焦るな。二階に戻るんだ。急げばまだ間にーーー

 

 

「グオオオアアアアアッ!」

 

 ーーーなんだ、あいつは。

 

 何かしらの呼吸音を響かせていた「それ」は乱雑に置かれた診療台の影から、外への扉と私を区切るように姿を表した。

 人の体躯を超える巨大な体。濡れた様な黒毛。ギラギラと光る眼球。極めつけは血に塗れた牙。

 狼の特徴を極限まで高めたらああなるのだろう。あなたの考える狼はどんな形ですか。そのアンケートの結果生み出されたモンタージュがあいつだ。何もかもが大げさである。非現実感。ある意味での理想がそこにはあった。むき出しの恐怖。

 

「ぅあ、あぁ…」

 

 足が言うことを聞かない。眼球すら動かない。乾いた口の中を生臭い空気が通り抜ける。鼓動はうるさく高鳴り、モノクロームになりつつある視界はコマ送りのようだ。音を失った世界で鼓動だけがやかましい。

 今の私を例えるなら、蛇に睨まれたカエルと言ったところか。どうやら私は、猫を噛んだ鼠ほどの勇気もないようだ。

 ざっ、と私の脚が意思にそぐわぬ挙動をしたのを皮切りに、獣が動いた。

 それは児戯に等しい、単純な飛びかかりだった。しかしそれを行う相手が強大であった場合は、恐るべき攻撃となる。

 圧倒的物量だった。やけに動きが遅く見える景色で、思考のみが空回りする。

 と、それは意識的なものではなかった。人間の深層にある闘争本能のような何かの悪あがきだったが、私は確かに後ろに飛んだ。

 瞬間、間が開く。獲物を捕らえようとしていた獣の鋭い爪は空を切り、ついに肉を裂くことは叶わなかった。

 死を回避したのだ。目の前にある殺意の権化から、私は生還したのだ。

 脳内で安堵と恐怖が渦巻く。今私が何を考えているのか、何をしようとしているのかは私にすら分からなかった。ただ束の間の安息に縋ることだけが、私にできることだった。

 

「ゴァア!」

 

 獣が手を振りあげた。その爪の先にいるのは、私。距離を取ったと言っても、せいぜい人一人分。数瞬の時間稼ぎにもならない。

 重力と獣自身の膂力で腕が振り落とされる。爪が私の脇腹を突き刺したところでようやく、私の思考が働き始めた。現実がリアルになった。これはたちの悪いスプラッタ映画などではない。

 

「ーーーーーーッ!!!」

 

 束の間だった。どくどくと脈動する血液が、傷口から溢れていた。だが不思議と痛みは感じない。感じるのは異物感だけだ。体内にあるべきではない物の侵入。

 

「グォオオ!」

「っ、嘘、やめ、」

 

 獣が腕を振り切った。血、肉片が飛び散る。腹は真っ赤に染まり、ドロッとした内容物が零れ落ちている。

 

「イヤだ…駄目、戻さなきゃ、はやく」

 

 手で掬い、押し戻そうにもだめだ。押し込んだと思った次の瞬間には手の隙間から別の何かが漏れ出す。

 体から熱が逃げていく。手先が震える。訳のわからない涙が溢れる。

 いやだ。死にたくない。死にたくない。

 

 顔に生暖かい飛沫が飛んだ。目を上げれば、目一杯に狼の口内。

 

「ぁ、や、やめ」




もっと魅力的に主人公を殺したいです
一人称じゃ無理があるかな…?
まあ、練習も兼ねているので
言い訳に過ぎませんが
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