血塗られた古都のある一夜   作:かたまり

8 / 13
生きてます
遅れて申し訳ありません
レギュレーション1.15好きです
ぬるげぇまぁです


1.4.少女

「ゲールマン様、あの狩人様のことですが」

「気にするな」

「しかし…」

「何度手足をもがれようが、何度内蔵を抜かれようが、何度心が折れようが、それでも前に進む。それが、狩人(プレイヤー)というものではないかね」

「……」

 

 

 嫌だ。

 あのじとつく視線が、恨みと後悔が入り交じった眼がただひたすらに怖い。

 獣のただ「殺す」ことに特化したものならばまだ耐えられたのだろうか。

 ひと一人分の重みに私は耐えることが出来なかった。いや、きっとそれはひと一人分などではないのだろう。彼の背負っていた物が、彼を通して私に殺意として向けられる。

 正義感でもなく、義務感でもなく、ただの私怨による行動。原理として破綻した理性のもたらす残虐性がいま、私の目の前に堂々たる高壁としてそそり立っている。

 何ができるのだろう。狩人になって、文字通り日が浅い私ごときが、恐らく狩人として半生を全うしたであろう熟練に打つ手があるとは思えない。

 前門の虎、後門の狼ではないが、予期せぬ強敵2体によって私の行動範囲は非常に制限されたと言える。

 つまり八方塞がりであった。

 

 

「なるほど…下水橋の道も使えないとなると…すみません、私はもうお役に立てることはないようです」

 

 ギルバートが申し訳無さそうな声色で話す。

 

「こうなると他の人間に…。いや、ヤーナム民が、よそ者に親しくするとは到底思えませんね…」

 

 結局新たな手がかりはなし、か。なんとなく分かっていたことだが、この街は異邦人に対して厳しすぎる。

 そういえば、私の生き返りに言及することがなかったギルバートだが、なぜなのだろうか。

 

「…正直、申し上げますとね。もはや私はこれが現実なのか、はたまた悪い夢なのかがよくわからないのです。痛みは本物です。息苦しさも、本物ですとも。しかしそれ以上に、この街は非現実的過ぎる。どうも、色々の実感が湧きにくいというか。あなたも、もしかすると私の妄想かもしれない、などと考えることもあります」

 

 なるほど。私と同じような状況にあるということか。この街特有の空気によるのか、あるいは血がもたらす酩酊によるのか、この街はふわふわしている。掴みどころがない雲のような、と思えば非常に鋭い切り口を見せる命のやり取りだったり、緩急が激しすぎる。

 

「そういえば、近くの家で小さな女の子が一人で留守番しているという話を聞いたことがあります。なんでも、親が狩人だとか…。凝り固まった大人よりも、柔軟な幼子のほうが話を聞いてくれる確率は高いのでは?」

 

 …行ってみる価値は…いや、とにかく今は行動しなければならない。それしか方法は残されていない。

 

「あと、これも又聞きなのですが、その少女はオルゴールが好きで、いつも鳴らしているそうです。もしオルゴールの音が聞こえる家があれば、そこがその家でしょう」

 

 

 夕暮れの街に微かに響く寂しげなオルゴールの音。これが年端もいかぬ少女が好んで鳴らしているというのだから、この街の陰気臭さは相当だ。朝のヤーナム街の様相が全く想像できない。夕焼けの似合う街といえば聞こえはいいのだが。

 まぁ、無事に着けたのだ。良しとしよう。

 窓をこんこんと叩く。

 

「…あなた、だあれ? なんだか懐かしい臭い…もしかして、獣狩りの人?」

 

 …ここでも臭い、か。あの神父といい、ヤーナム民は臭いに敏感らしい。…あるいは、私がただ単に臭っているだけなのか。

 

「だったら、お願い。お母さんを探してほしいの。獣狩りの夜だから、お父さんを探すんだって…それからずっと帰ってない」

 

 獣狩りの夜に、子供を置いて親が外出。最悪の想像が脳裏をよぎる。

 

「私ずっと待って…でも寂しくて…」

 

 少女の声が潤み始めた。確かにこの年で突然、家に一人というのは心細いだろう。

 正直、関わりたくない。八方塞がりのこの状況で、背負うものが増えるとなれば負担は計り知れない。そもそも私一人で手一杯なこの状況だ。ひとの面倒を見れるほど、私は要領が良くない。…だが、それでも、私は目の前の困っている子供を放って置けるほど倫理感は捨てていない。

 母親を探してきてやろう。ただし期待はするな。

 

「本当に? ありがとう! お母さん、真っ赤な宝石のブローチをしてるの。見たらすぐにわかるくらい大っきい、綺麗なブローチ。それでね、お母さんに会ったら、このオルゴールを渡してほしいの」

 

 …いいのか? 寂しさを紛らわせる大切なものだろうに。

 

「うん。お父さんが好きな、思い出の曲なんだって。もし、私達のことを忘れちゃってても、この曲を聞けば思い出すはずって」

 

 忘れる? 仮にも親が、子供の事を忘れるのだろうか。この子の態度から察するに、親は子を忘れるほどろくでなしじゃあない気がするのだが。

 

「それなのに忘れていくなんて、おっちょこちょいなんだから」

 

 ……。本当に、忘れていったのだろうか。帰れないことを承知で、わざと家に…。

 いや、今は何も考えるまい。想像は飽くまでも想像だ。始める前から悲観的でどうする。

 一応、その母親の名前だけでも聞いておきたい。情報が少ないにもほどがある。

 

「お母さんの名前? えっとね、ヴィオラっていうんだ。あとお父さんがガスコインっていうの」

 

 ヴィオラ、聞き覚えがある。確か、あの神父が、口走っていた…。

 もしや、君の父親は、神父じゃあるまいな。

 

「ん? そうだけど、それがどうかしたの?」

 

 ……なんてこった。運命の悪戯もいいところだ。

 クソ、またあの地下墓地に行くしか…ないのか。

 どうも、この街は、私の進むべき道を提示…もとい、限定しているような気がする。偶然の産物にしては出来すぎていないか。

 ともかく、地下墓地に行く。今の私には、それしかない。

 …行きたくない。




ある日のLady Maria of the Astral Clocktower

[時計塔の鍵を使用しました]

[死体を調べる]

ガシッ
「…死体あま…まさり、あさりとは感心しないな…」
「………」

MARIA DIED

死因:恥ずか死
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。