こちら異世界になります。   作:魔妬

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(՞ةڼ◔)


第2話「この世界の勇者」

日が真上にまで昇り、正午を迎えようとしている頃

まとは、さっきよりも一層騒がしくなっている商店街を1人で歩いている

手持ちは今、起きた時なぜか持っていた勇者ライセンス、というものと、1握りのお金

お金は鍛冶屋のおじさんが一応持っておけとくれたもの

一見ガラ悪そうなおじさんだが、色々教えて貰っていた

 

まず、この世界の勇者というもの

勇者は誰もがなれる、というわけではないらしい

 

ー王に選ばれし数少ない者達だけが勇者になることができる

 

…ようは勝手に選ばれて無理矢理勇者させられるってわけだ

勇者を選ぶ基準というのは公開されてないらしい。だが、これだけははっきり言えるというものがあるという

 

ー産まれながらに特異な力を持つものは、勇者になることを避けてはならない

 

…らしい。大分理不尽なのだが

まぁ能力を持つ者など、1年単位で見ても、1人いるかいないからしい。とんでもない確率だこと

因みに自分が誰1人に能力を教えずに隠し通そうと、勇者を"決める側"には問答無用で分かるらしい

本人さえ知ってなかったのにライセンスに書かれてたのがその証拠かな

 

とまぁ、そんな風に色々聞いたのだが、鍛冶屋と別れてしばらく歩いた後に、重要な事を聞くのを忘れていた

 

(勇者って何すんの…)

 

今現在、まとは勇者ってことになっている。それも能力持ちの

一応、そこら辺を歩いてる人に、「すいません、勇者なんですけど、勇者って何するんですか?」って聞くのもありだが、昨日まで普通の学生生活を送っていたまとに、急に道歩く人に勇者ですというのは勇気が必要だった

とりあえず、情報屋とかがあればいいのだが。と考えながら歩いてる時、1人の男性の大きな声が響く

 

「おい!勇者様が通るぞ!」

 

一瞬体がビクッと跳ねたが、周りを見ると、皆まとには視線を向けていない

勇者ライセンスを隠せと言われたから、こんなすぐにバレるわけにはいかないのだ。隠す理由は知らないけど

騒がしかった商店街は一気に静寂に包まれ、歩いていた人たちは皆なにかを避けるかのように道の真ん中を空ける

そして、その空けた道を堂々と歩く男が1人いた

 

「にっへっへぇ。邪魔だ!ゴミ共が!この勇者バジ様が通るんだ!頭を下げな!」

 

もう…なんだ。勇者というよりは悪党な絶対絡みたくないランキングトップに入りそうな男が足を一々大きくあげながら歩いていた

ぼさぼさしている黒髪で茶色の肌。そこらで売ってるのより高そうな武具を着けており、勇者ライセンスを名札のように付けている。痩せていて、身長が高い

 

(あの勇者ライセンスどうやって付けてんだろ…)

 

と勇者ライセンスを見ながら考えていると、ライセンスの一番下の欄が空欄なのに気づいた

おそらく、能力の欄だろう。まぁ実際持ってる方がおかしいのだから当然なはずだが

バジという男がどんどん歩いているのを立ったままじっと眺めていたら、バジの鋭い視線がこちらを睨みつけている

 

「おいそこのお兄ちゃん!早く頭を下げなされ!」

 

後ろの方でそう言う声が聞こえ、振り返ると、まと以外の人達全てが、バジに向かって土下座をしていた

これはやべぇと思いながら頭を下げようとしたが、勇者様はツカツカとまとの方に歩いてきた

そして、目の前で止まると、まとの体と顔を視姦のように眺め始める。正直、鳥肌ものである

 

「…見ない顔だな。お前」

 

近い

少し動いたら肌が触れ合いそうな程に近い

そして臭い

なんて言ったらいいか表現できない刺激臭がする

 

「いいかぁ?分からないようだから教えてやる。ここでは勇者は"絶対"なんだよ!歯向かうことは俺が許さねぇ。例え王族だろうとな!逆らうやつは皆首を飛ばすのがここでの決まりなんだよ…」

 

冷や汗が、頬を伝っていくのが鮮明に分かる

まとは黙って、息を呑んだ

 

「そしてお前は俺様が頭を下げなと言ったのに今下げていない!これは死に値する罪だ…」

 

まとは不思議に思った

ここ男は勇者と言えど、人間

王に選ばれただけで、そこらの成人男性と変わらない

なのに、なぜ皆勇者ってだけでこれほど恐れているのか

 

「お前はここのルールを分かっていなかったらしいなぁ…?だが俺様は心が広い男だからな…」

 

そう言い、ほんの少しだけ、バジが下がると、お腹に重い衝撃が伝わる

 

「がっ…!?」

 

「たったこんだけで!」

 

バジの膝蹴りをもろにくらったんだと遅れて理解したあと、お腹を抱え込んで少し下がった自分の頭頂部にかかと落としが振り下ろされ、地面に叩きつけられる

頭とお腹に激しい痛みをもたらし、うずくまっているところに、抑えていたお腹に腕もろとももう一発蹴りがくる

 

「許してやんよぉ!」

 

「ご…ふ…ぁ…!」

 

すざましい蹴りの威力

蹴っただけで後方に5mくらいは飛ばされた

飛ばされた勢いのまま壁に背中をぶつけ、嘔吐感に襲われる

 

「い…つぁ…」

 

かろうじて意識は保てるが、思わずうめき声が出てしまう

その声を聞いた勇者は舌打ちをする

 

「まだ生きてんのかよ…?」

 

腰にかけてある剣の柄に手をかけながらこちらにゆっくり近づいてくる

完全に、殺す気でいる

心臓がバクバクなっているのが分かる

何とかして逃げなくてはならない。が、今の状態じゃ逃げたとしてもすぐに追いつかれる

追いつかれたら、死

それでも、ただ動かずに殺されるよりはマシだと、そう思い立ち上がろうとした瞬間

 

 

 

 

 

 

「バジ殿!おやめください!」

 

 

横からそういう叫び声が聞こえると、老人がまとを庇うような体制に入る

 

「あぁ!?」

 

頭に血が完全に上っているのか、短気な勇者は剣の柄にヒビが入るくらいに強く握っている

老人の足は小刻みに震えていた

 

「無礼を承知で申し上げますが、今バジ殿は許してやると仰っていました。それにこの者はこれもまた先程バジ殿が仰っていたようにルールを知らなかったのです。お望みならばバジ殿が決めたルールを1からこの者に教えますのでどうか今回はお見逃しいただけないでしょうか…」

 

「…」

 

バジは黙る

顔からも、怒りの表情が消えているように見える

老人の足の震えが少しずつ収まっていく

まだ心臓が大きく鳴っているが、呼吸を整え、落ち着いていく

助かる。と確信したか。続けて老人は説得しようとする

 

「もしルールを知らない旅の者を殺したと辺りに知れ渡れば、勇者バジ殿の名も汚れてしまいます。ですのでこれ以上はお辞めになった方…が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーさっきまで目の前に立っていた老人の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー首が、飛ぶ

 

 

 

 

「…ッ!??」

 

飛んだ首が、数秒血を撒き散らしながら宙に舞い、手を伸ばせば届くぐらいの距離に、ぐしゃりという音と共に地面に落ちる

残された老人の体は、首が"あった"場所から血を噴水のように吹き出しながら、崩れるように倒れる

剣についた血を舐めながら、バジは笑う

 

「にっへっへぇ!言ったろうがよぉ!俺様に逆らったら首を飛ばすってよぉ!ルールを知らないのはお前じゃねぇかぁ!?」

 

周りの人達が一気にざわつき始める。中には悲鳴を、泣き喚くものもいる

バジは、まとの方を見て、また笑う

 

「にへへ…"お前のせいで"尊い命が犠牲になったなぁ?」

 

その言葉を聞いた瞬間。まとの思考は停止する

 

 

ー頭の中で、何かが切れる音がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!??」

 

 

ガキィィィィン!

 

 

金属がぶつかり合う音が辺りに響く

まとが振りかざした剣を、バジが剣で受け止めた音

嫌な音をたてながら2人は剣を交えたまま睨み合う

バジから言えばまとはただの子供

いくつもの戦場を乗り越えてきたバジといつものほほんと暮らしていたまとが力比べをすれば結果は目に見えてるはずだった

 

(なんだ…この餓鬼…!?)

 

バジが力で押し返せない。相手は自分より圧倒的に格下のはずの子供、しかも負傷している状態

バジは舌打ちをし、まとの剣を受け流す。勢いで転けそうになったまとの胸元にパンチを一発入れる

 

「…ッ」

 

悲鳴すらもあげない

骨は何本かやられてるはずなのに、1歩も引かない

まとは軽く咳き込むように血反吐を吐くが、顔は笑っていた

 

 

 

 

バジはゾッとした。立っているのも辛いはずなのに、まだ笑う余裕があるのだ

恐怖に駆られたような気がし、その男からバジは素早く、大きく引いてしまう

男は体を下に向け今にも倒れそうな態勢になるが、足はしっかりと体を抑えている

そして、ゆらゆらと揺れながら、血を垂らしながら、一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる

バジの身体能力は常人よりもかなり高い。それは、その身体能力だけで勇者になれるほどに

そんなバジの思い切ったパンチや蹴りをいくらかくらって、立ってること自体がおかしいのだ

このガキは何かが違うと、そう察したバジ

 

(だがそれがどうした?もう相手はボロボロの餓鬼だ。あと一二発喰らわせれば、剣を軽く振り下ろせば、殺せる。あんなふらふらな状態じゃ当てるのも簡単だ。何を怯える必要がある?)

 

1歩、また1歩と、倒れそうになりながらも確実に近づいてくる

バジは、持っている剣を強く握りしめる

いつも通りに殺せばいいのだ。何も考えずに

 

そして、男がバジの間合いに入った瞬間

 

 

男をしっかりと目で捉え

 

 

目にも止まらぬ速さで剣を振る

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、男は態勢を崩し

 

首を狙っていたバジの剣は、空振る

 

 

 

 

「なっ…」

 

大きく振ったため、次の攻撃に移るまでに時間がかかってしまう

たかだか数秒だが、間合いに入ってるならば十分な隙

男は態勢が崩れ倒れそうになったが、片方の足で踏みとどまる

そして、男の剣がバジの目の前まで勢いよく襲いかかる

 

「避けれな…!」

 

 

 

だが、剣の向きが大きく逸れる

 

シュッ…

 

 

バジの頬に、傷を付けた。それと共に、男はバジの横で倒れた

男は倒れたまま、動く様子がない。流石に意識がもたなかったらしい

息はおそらくまだある。バジはトドメを刺そうとした。だが

 

 

「…」

 

もし

もしもあと1秒でも意識が残っていたら

どうなっていただろうか

絶対に、今の怪我みたいにはならなかったであろう

バジは、こんな子供に

敗北感のようなものを抱いてしまった

負けるはずがないのに

負けてるはずがないのに

 

「…くだらねぇ」

 

そう言い、バジはその場から離れていく

途端に、倒れた名も知れぬ男の元に人々は駆け寄る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの場を見ていた人々

その中の、複数人。倒れた男に対して、同じ疑問を持つ者達がいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"どこから武器を出したのか"




許してやんよぉ!(大嘘)
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