ここがどこなのか
どういう経緯で来たのか
まとは辺りを見回すが、何も無い。何も
しかし、脳の中に、脳内に、小さく、本当に小さく
何言ってるか分からないくらいに小さな声がぶつぶつと聞こえる
それはとても聞き覚えのある声。だがはっきりとは思い出せない
ー目の前に、見覚えのある黒人がいた。そう、バジ
バジは素早く、まるで何かと戦っているのではないかと思うほどに舞っている
そして唐突に辺りが輝き出す。まるで何もかもを包み込むかのようにー
「おちんちんランド開閉!!」ガバッ
…はいすいません
「…」
地面に倒れ伏せたまま、動けないまと
バジは立ち去っていった。死んだとでも思ったのだろうか
追いかけようとしたが、体が思うように動かない。バジが見えなくなるまで、指1本動かすことができなかった
自分が思っている以上に、ダメージが大きかったのか
いや、もしかしたら怖かったのかもしれない
戦って分かる、隠しきれない実力差
相手は肉体だけで意識をほぼ奪う程の怪我を負わせ、こっちは剣を使って頬にかすり傷を与えただけ
周りの人々が、まとの元に駆け寄ってくる
「おいあんさん!大丈夫か!」
「まだ生きてる!誰か薬草持ってこい!」
そんな声が聞こえる
しかし、中には少し違う声も聞いた
泣き声
喉が潰れる勢いで泣き叫んでいる声が聞こえる
見ると、まとを庇った老人の周りに数名いた
体を抱きしめたり、首を大切そうに抱えている人もいる
おそらく、家族やら友人方々だろう
ーお前のせいで
「…」
さっきまで動かなかった体は、辛うじて動けるようになっている。やはり、さっきはバジに対しての恐怖心が酷かったのだろう
攻撃を喰らった箇所が、激しく痛む。痛感だけで、意識を失いそうな程に
「お、おい…大丈夫かよ…?」
周りは心配こそするが、止めようとはしなかった
心配を無視し、そのままおぼつかないおぼつかない足つきで歩く
…ここの人達には能力を見せてしまった
いち早く、ここから逃げたい。と心の中で思っているのだろう
バジが進んでいった方とは逆の方向に歩いていく
何かから逃げるように、なるべく足早に人目のつかない路地裏のような場所に行く
周りは薄暗く、ゴミが散らばっている。人影は一切見えない
少し匂いがきついのを我慢しながら、誰もいないことを確認すると、足の力が一気に抜ける
冷たい地面に倒れるように横になり、ゆっくり休もうとしていた
途端に、目の前に、さっきまでいなかったはずの人影に気づく
「随分怪我してるじゃないの…どうしたんだい?」
男の声だった
ずらりと並ぶゴミ箱の上に座っていた
声だけで聞くとまだ若い青年のような声
見た目は、周りが薄暗く、黒いフードのようなものをかぶっている事であまり見えない
「いつの間にそこに…?誰だ?」
男は呆れるように肩をすくめる
「俺の質問には答えてくれないのかよぉ?まぁいいけどさ」
まとは横になってしまったため、臨戦態勢に移ることができない
この男がもし敵ならば、まとの命を狙っているのならば、絶体絶命である
だが、男は襲う素振りは見せない
「いつの間にって言われると…まぁ君が周りを確認終えて横になろうとした時からかな。誰だ、って言われたら…それは少し答えられないや」
周りを確認している時から
まとが周りを確認している時は、視界に入る限り誰もいなかったはず
一瞬目を離した隙にこんな近くに来ているのはおかしい
「俺になんのよう…?」
起き上がることはできないが、警戒を怠らずに質問する
だが、男は軽く答える
「なにって、怪我してる人が目の前にいたんだもの。ほれ」
そういい男は箱状のものを取り出し、まとの目の前に投げる
それは白く、真ん中に赤い十字架の紋様…
まぁ、救急箱だった
打撲等の怪我はあまり処置できないと思うが、血を止められるだけマシだろう
大雑把に、血が出てる部分に包帯を巻いていく
「ところでまとクン…君は自分の体に異常を感じないかい?あ、怪我とかの意味じゃないよ」
「…なんで俺の名前を?」
またしても質問を質問で返すが、相手は答えようとしなかった
「さっき1つ俺の質問答えてくれなかったからね。俺も1つ答えないよ」
男は軽く笑いながらそう言う
名前を名乗った覚えはないが…どういうことだろうか
…
体に異常を感じるところ
まとは、少しだけ自分の体に違和感を感じることはあった。特に、あの勇者の攻撃を食らった時
人が軽く吹っ飛ぶような蹴りやパンチ
それを何発も食らって、少し動けなくなるだけ。意識だって飛んでいない
鎧を着けていたため、金属の塊を生身でもろに食らっていると言うことになる
当たりどころが良かったっていう可能性もあるが
「まぁ言っちゃうと、君は今前の君よりも体が頑強になっている。身体能力が上がってるのさ」
前の君
こいつは一体何者なんだろうか
俺の何を知っているのだろうか
「あのバジって勇者のパンチ。あれほんとは1発で生きれるか怪しいほどの威力だから。周りの人も君が生きてたのにはびっくりしたろうね」
全てを見据えてるかのように話す男
男は自分のかぶっているフードを更に深くかぶる
「なぜ君が耐えられたか…それは君が勇者だから」
そういい、どこから取り出したのか、見覚えのあるカードを持っていた
まとはとっさに自分のポケットを調べるが、カードはどこにも無かった
(いつ取った…?)
「今」
考えてる事がバレているのか。そう思うくらいに早く、男はそう言う
だが、男が出した答えに、まとは理解することができなかった
「そんな困惑しないでくれよ…っと。時間が無いんだった」
男は何かを思い出したのか。立ち上がり、口早に話す
「とりあえず、君はこの世界に来たばかり。何も知らないだろうし、行く宛が無いならお城にでも行くと良いよ」
「お城…?」
「そこら辺の道で辺りを見渡せば一目で分かるよ」
男は持っていたカードを適当にこちらに投げる
重さは全くないはずなのに、勢いよくこちらに飛んでくる
キャッチするが、やはり重みは無い
「君が思っている以上にこの世界での勇者の権力は高い。異様な程にね。ライセンスさえ見せればほとんど自由にできるだろうさ」
そう言いながら辺りを見渡す男。まとは男に質問する
「さっきこの世界の人にライセンスはなるべく他人に見せないようにって言われたんだけど…」
「え?あー…そっか」
男は一瞬不思議そうな感じを出しながら、すぐに納得する
「まぁあれだ。すぐに分かるよ、うん」
そう言い残し、男は目の前から一瞬で消える
まとは固まってしまった
瞬間移動なるものか。現実では普通見れない事が目の前で起こったのだから、理解が追いつかないのは当然だろう
「…なんだったんだあいつ」
ただ1つ、そう思うまと
あいつは一体どこからどこまで知っていたのだろうか
だが、もう考えていても仕方が無い。こういうのは思考の切り替えが大事なのだよ
ふと、手元にある勇者ライセンスに目を落とす
渡されたライセンスは、しっかりと自分のだった。だと思う。文字読めないから分からないけど
鍛冶屋はこれを隠せと言っていた。だがあの男は見せても大丈夫ってような口ぶりだった
どっちなんだろうな…しばらく悩むが、ここは隠すのをやめることにした
おそらく…なのだが、ここの人達は"勇者"自体に畏怖している気がした。気がするだけだが
怖がらせるのは気が引けるではあるが、それで大きな権力を得られるのだ
これで寝床と食料等に困ることは無いだろう。きっと
体はまだ痛むところはあるが、不思議なことにさっきみたいに意識が飛びそうになるほどではない
この包帯のおかげだったりするのだろうか…?
異世界だからそういうのがあってもいいんじゃないかとまとは思う
そこにあった救急箱はとりあえず放置し、再び立ち上がる
5分程度しか休んでいないと思うが、体感では丸1日休んだような感覚
(とりあえず言われた通り城に行ってみるか…)
さっきの騒ぎが見られた人に見つかると、少しめんどくさいかもしれない
とりあえずなるべく足早に、人気の無い道を通りつつ向かおう
そう思い、一旦城の場所を把握するために道に出る
「13,24秒」
女は唐突に目の前に現れた男を見てもびくともせずに、時計を見ながらそう言う
「急いだ方だよ…てか10分しか話す時間くれないって酷くない?」
「時間決めないとあなた話すの長いじゃないですか…しかも時間余っていたでしょう?なんで寄り道するんですか?」
女は半分呆れ気味にそう言う。男は、団子を咥えながら少し無理矢理に笑う
女はもういいですと言い、男に質問する
「それで?どうでした?」
「うん?あー…どうって言われるとまぁ、なかなか面白いと思うよ」
「ふーん…」
女から聞いたにも関わらず、興味無さそうに右から左に流していた
そして、ため息をしながら男に聞く
「…因みにあの子能力持ちってこと忘れてませんよね?」
「…あ」
と、まぁ軽く十数分。そこら辺を歩き、誰が見ても「あ、あれ城だわ」って思うくらいに存在感を出す建物に来た
大分違うが、一目見て連想されたのはどこぞのゲームの桃姫の城である
全体的な色合いで見れば赤と白。見た目は本当に、洋風なお城って言われたらまずこういうのが頭に出てくるような見た目
(とりあえず訪問したいわけだが…正面から普通に入っていいのかな)
こんな大きな建物の前に来ると、なんというか圧がすごい
どこにでもいる学生がこんな洋風な城の前に立つと、自分でも分かるほどの違和感を感じる
「まぁそんなこと思っても仕方ないか…」
城の正門を歩み進める
普通こんな場所には、見張りの兵とかがいるのだろうと思ったが、誰もいなかった
「おい!そこで止まれ!」
と思ったらいた。城を囲っている塀の上に
rpgとかのモブにいそうな格好をしている兵士
見張りの兵士は重そうな鎧を着けており、弓を持っていた。多分、怪しい者ならこっからぺちぺち撃って撃退しようって寸法だろう
しかし、見張りの兵は1人しかいない上、弓も見た感じ単なる普通の弓
急に大勢で押し寄せられたらどう対処するんだろ
「貴様、何の用でここに来た?」
大きな声でそう言いながら、兵士はゆっくりとこちらに弓の照準を合わせてきた
まとはポケットに手を突っ込む。一瞬迷ったが、こうしなきゃ何言ってもすぐ帰されるか撃たれるかだろう
鍛冶屋のおじさんには心の中で謝っとくとして
ポケットからライセンスを取り出し、兵士に見せながら大きな声で喋る
「王様と少し話したいんですけど開けてもらえませんかね?扉」
ライセンスを見た途端に、兵士はキョドりだした
頭が混乱でもしているのか、何をすればいいのか分からない状態のようだった
そして、しばらくすると深呼吸をし始め、なにか手で合図のようなものをどこかにする
「勇者様とは知らずに失礼しました。今扉を開けます」
さっきよりはちょっと小さな声でそう言う兵士
こんなに態度が変わるか…勇者ってなんなんだ。そう思うまと
と、お城の扉がギギギと音をたてながら開いていく
ちらりと見張りの兵士の方を見ると、兵士はぷるぷるしながら敬礼をしている
苦笑いをしながら、まとは城の中に入っていく
中は、まぁ予想通りと言うか外見通り。めちゃくちゃ広かった。床はレッドカーペット的なやつで敷き詰められている。壁は真っ白で、上側に少し金色の模様のようなものがある
中に入って一番最初に目に入ったのは、目の前にあった何かの像
顎に長い髭を生やし、頭に王冠を乗せている男の像
王様の像とかかな?と思ったりする。そしてその像の両端に上に続く階段がある
2階には玄関の扉ばりに大きな扉があった
「客人さんですか」
と、ふいに女の人の声が聞こえた
声は2階の方から聞こえていた。声の聞こえた方向を見ると、さっきの見張りの兵士よりは堅牢な鎧を着けている
ピンク髪で、長さは腰まである。すらりとしている、結構な高身長。見る限りでは、外を歩けば男数名は釣れそうなほど美人ではあった
「…」
しかし男の子まと
視点はすぐに顔よりも少し下の方へずらされる
そこには無駄に膨らんだ塊が二つあった
正確には、その形をした鎧なのだが
まとはそれを見るなり、たちまちため息をつく。特に深い意味は無い
女は、階段を降りながらゆっくりとこちらに歩いてくる
「初めまして。私はここの騎士達をまとめている騎士団長、ミスリと申します」
階段を降りきり、近くまで来ると、律儀に頭を下げながら自己紹介をする騎士団長様
まとも自己紹介しなくてはと、口を開こうとするが、ミスリに止められる
「結構です。わたくしめごときに勇者様が名乗る必要はございません」
…なんだかいよいよ勇者ってのが怖くなってきた
「王様にお会いしたいんでしたよね?謁見の間はすぐそちらになられます。こちらへ」
そういい、さっき降りた階段をまた上り始めるミスリ
…まぁ2階にすぐある扉の先が謁見の間だと思うのだが
とりあえず、ミスりの後ろを付いて行く
歩きながらライセンスを見る
これさえあれば、なんだかなんでもできるような気がした
この国で一番偉いであろうとこの騎士団長さんでもこれだ
こんなものを持ってるだけで、だ
なんだかそのまま持っていると手放す事ができなくなっていくかもしれないな
「さぁ、どうぞ」
と、前を見るとさっきの2階の扉の前におり、扉はいつの間にかミスリが開けていた
入ると、部屋は当たり前のように広く、十数人の兵士が道を空けるように並んでいる
その道の先には、背もたれの部分が無駄に縦長い玉座に座っている、小さい男の子がいた
「おぉ勇者どの!よくぞいらっしゃいました!」
甲高い声
男の子は玉座から立ち、後ろの腰に手を当て、胸を張る
それとともに、周りの兵士は皆1歩引く
「あの方がこの国を治める王様です…」
耳元で、ミスリは小声でそう言う
「は!?」
思わずそんな声が出てしまう
さっきの像は思いっきり渋いおじさんが建てられていたのに、王様はこんなちっちゃな男の子
頭をほぼ覆っている王冠に、それから少しはみ出る赤髪
服には宝石がボタンのように付いている
まぁ見た目があれと言えど、王様であることは間違いなさそうだ
「さぁどうぞこちらへ…」
そういい、王様はまとの手を取り、玉座に座らせようとする
「いやいやいや!流石に玉座には王様が座ってください!?」
「む…勇者様からの命令であれば…」
「命令っていうか…」
なんかもう疲れた
王様はジャンプして玉座にぽふんと座る
「さてと、なにか御用でしょうか?」
王様はそれでも律儀な口調で話す
もうほんと勇者ってなんだよ
「えと…この国に来たばかりで行く宛が無いもので…」
正直、鍛冶屋からもらったお金があれば宿泊まったりできるし、ワンチャン野宿もありなのだが
「なるほど…では、こちらが手配します」
王様はまとに対して、そう優しく微笑む
そして、手に持ってる何かを見せびらかしながら表情が変わる
ちょっとしたデジャヴを感じた
おそらく、まとの手を取った時に奪ったのだろう
王様の手には、ライセンスがあった
ライセンスを見せびらかし瞬間、周りの兵士がまとを取り囲むように武器を構える
「あなたのような人にピッタリな部屋を、ね」
最後らへん(てか全体的に)内容が薄いのと前書きは気にしてはいけない