オーバーロード ~経済戦争ルート~   作:日ノ川

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ドワーフの国編、ゴンドが仲間に加わった後から状況説明とナーベラルの話
因みにこの話でナーベラルが書籍版以上のポンコツなのはソリュシャンに色々吹き込まれたせいでアインズ様を意識しているせいです


第23話 フェオ・ジュラの入口にて

 ドワーフの国の首都、フェオ・ジュラに繋がる地上側の砦、その前にアインズ達一行はようやく到着する。

 

「……どうやら少し遅かったようだな」

 眼下に広がる光景を前に、アインズはやれやれというように首を振った。

 元々そう急いだ訳ではないが、全滅したら困ると言うことで出来れば襲撃前に到着し、様子を窺いつつ最高のタイミングを見計らう──以前ナーベラルが思いついた作戦をそのまま使わせてもらった──つもりだったのだが、肝心の案内役、ルーン工匠のゴンドが普段地下を移動している弊害で、地上から自分達の住むフェオ・ジュラを見つけることが出来ず時間がかかってしまった。

 

 その砦からわらわらと多数のドワーフが抜け出してきているのが見える。

 既にクアゴア達が首都内に侵入し命からがら逃げ出して来たのだろう。

 ここを脱出しゴンドと出会った放棄された都市フェオ・ライゾに避難しようと言うことだろうか。

 だとするとなるほど、あの都市に別動隊として配置されていたクアゴア達の行動は確かに正しかったらしい。

 アインズ達が来なければ逃げ出した者達が襲われていたに違いない。

 

「さて、とりあえずあの逃げ出してくる者達を迎えるとするか」

 

「お、おお。早く行かんと。ルーン工匠が全滅していては困る」

 

「もちろん分かっているとも」

 慌てるゴンドを前にしてもアインズの態度は崩れない。

 チラリと後ろを窺えばそこには、コキュートス、パンドラズ・アクター、ナーベラルの姿がある。

 アインズからの命令を待っているのだ、彼らを前に慌てる姿を見せることは出来なかった。

 

 ここにいるドワーフ、ゴンドはかつてゼンベルが滞在し、現在は一時的に放棄された都市であるフェオ・ライゾにて偶然出会ったドワーフである。

 

 話を聞いたところによると彼こそがパンドラズ・アクターが調べた情報に出てきたルーン文字を武具に刻むことの出来るルーン工匠であった。

 しかしルーンは既に時代遅れで消え行く技術となっているらしく、彼ゴンドはただ一人それにあらがい、ルーン技術を残す手立てを考えるルーン技術開発家を名乗っていたが思うような成果は出ずに燻っていた。

 そんな彼にアインズは手を差し伸べた。

 自分と契約し、魔導王の宝石箱にルーン技術を独占させるのならば力を貸すという契約。

 それは必要ならば仲間のドワーフ達を裏切ることもある悪魔の契約だったが、最終的にはゴンドはそれを快諾した。

 

「うむ。では最後に流れを確認しておこうか。ゴンド、お前が前に出てフェオ・ライゾに別動隊がいたことを伝えよ。その上で我々に助けてもらったと話し、この都市に迫っているクアゴアを倒せる術があるので責任者を呼ぶように伝えるのだ」

 

「う、うむ。やってみよう」

 こちらに向かっている多くのドワーフ達は完全にパニックになっていてそこまで話を聞いて貰えるかゴンドも不安のようだが、アインズが前に出るよりは同族であるドワーフの方が適任だろう。

 

「コキュートス。済まないがお前は姿を隠しここに待機していてくれ」

 

「ハッ。アインズ様ノオ望ミノママニ」

 異形種であり体格もドワーフに比べ巨大なコキュートスが一緒では余計な混乱を招きかねない。

 

「後の者は付いてくるが良い。ゼンベルお前もだ。あの中にお前の知り合いがいれば声をかけ安心させよ」

 ドワーフの世話になっていたゼンベルはもしかしたら逃げてくる者達の中に顔見知りがいるかも知れない。

 

「了解です、陛下」

 

「よし、ではゴンド頼んだぞ」

 先ずはゴンドを一人で送り出し、アインズたちは遅れてその後に続く。

 いくらパニックに近いと言っても逃げ出す反対側から同族のドワーフが近づいてくれば多少は落ち着くだろう。

 

「おーい。止まれ! こっちはダメじゃ! フェオ・ライゾにもクアゴアが出たぞ」

 声を張り上げながら砦へと近づくゴンド、その声が聞こえたのか溢れ出るように砦から沸いて来るドワーフ達の動きが鈍る。

 その後、ざわざわと声が幾重にも重なって聞こえ出す。

 

「なんじゃと!」

「そんなバカな」

「嘘ではないのか。あれは誰じゃ?」

「ありゃ、ゴンドじゃないか? 付き合いの悪いへんてこゴンドじゃ」

「後ろにいるのは、ありゃ人間と、もう一人は? クアゴアじゃないようだが」

 

 声の中にゴンドの名前を捉えたアインズは安堵する。これなら信用されやすいだろう。

 アインズ達を人間だと思ってくれているのも幸いだ。

 ゼンベルについてはここには知り合いがいないのか特に言及はされていないようだ。

 

「待て待て、落ち着け。先ずは儂が話を聞こう」

 群衆の中から一人のドワーフが顔を見せる。

 ドワーフの顔では判別は付かないが格好から想像がつく。恐らくはドワーフの兵士だろう。ただ一人武器を持ち、防具を身に纏っている。

 恐らくはここから逃げ出す市民達を安全にフェオ・ライゾまで送るための護衛役なのだろう。

 この者ならば話が早い。

 

 早速アインズに言われた通りに説明を始めるゴンドを前にアインズは考える。

 さてここからだ。

 ここからアインズが取れる選択肢はいくつかある。

 

 一つはドワーフ達に武器を貸し出し、自分達の手でクアゴアを撃退させる。

 これはアインズ達個人の武力ではなく魔導王の宝石箱の実力を示すためであり、なおかつ多くの者にそれを目撃させることが出来る。

 しかしこの方法ではドワーフ達の武器より強い武器を貸し出すことになり、それではわざわざアインズがドワーフ達を取り込みに来た理由が薄れてしまう。

 

 もう一つはモモンとナーベによる冒険者漆黒に任せる方法。

 こちらはドワーフ達というよりは帝国にも漆黒の実力をはっきりと示す為である。

 ここでモモン達が先頭に立って行動すれば、その情報はドワーフの国と国交のある帝国にも流れるだろう。

 しかしこの方法だと二人だけでは手が足りずクアゴア退治が遅れ、多くのドワーフが犠牲になる。

 それ自体はどうでも良いがルーン工匠が居なくなられては折角の交渉が無駄になってしまう。

 となると。

 

「おーい、此奴が話を聞きたいそうじゃ」

 アインズが深く考え込んでいると、ゴンドがこちらに戻ってきた。

 一緒にいるのは先ほど見かけた鎖着(チェインシャツ)を着た兵士らしきドワーフだ。

 

「ゴンドから話は聞いた。おぬしたちにはクアゴア達を撃退する術があるのだとか?」

 

「その通り。私たちは王国で商売を行っている者だ。ドワーフの国の武具などを取り引きするためにこうしてこの地に来たが、その途中クアゴアに襲われているそちらの彼、ゴンド氏と出会い、その後この首都にもクアゴアの手が伸びていると知りこうして助けに来たわけだ」

 

「……見返りは? なにを要求するつもりじゃ」

 随分と踏み込んだ話をしに来るものだとアインズは少々驚く、しかしそれもやむなしだ。危機が迫り慌てているからといってここで安易にどんな要求でも呑むから助けてくれなどと言ってしまえば、その後どうなるか分かったものではないし、そもそもこの兵士はそれを判断出来る立場にはいないのだろう。

 

「差し当たっては特に。と言うより私は折角の商売相手が居なくなられる方が困るのでね、先ずはクアゴアを撃退してからで良いのではないかね?」

 

「しかし、それを儂が判断することは……」

 

「ではこうしよう。私が勝手に救った、君たちはそれを止めることが出来なかった。ということでどうだね? 私もわざわざこの地まで足を運んでおいて交渉も出来ずに帰るわけには行かないのでね」

 そう言うとアインズは手を持ち上げる。

 同時に後方、コキュートスが隠れている辺りから多数のゴーレムが現れた。

 今回アインズの護衛を兼ねている高位のゴーレムであり数は三十体程、魔導王の宝石箱の宣伝も兼ねており、ドワーフよりも強い武具を見せられない代わりにもう一つの目玉であるゴーレムを売り込む可能性も考慮しての選択である。

 実際に貸し出しているゴーレムより遙かに強いがドワーフ達がそれを見抜けるとも思えない。

 

「な、なんじゃ。あれは」

 

「ゴーレムだよ。君たちは知っているかな? 生物ではなく私が作り出した」

 ドワーフがゴーレムを作成出来るのかは知らないが、帝国と国交があるのであれば或いは名前くらいは知っているのかも知れない。

 

「ゴーレム! あれがか、儂の見たことがあるゴーレムはこう、鎧を着た像の……」

 どうやらドワーフの国にもゴーレムがあるか、もしくはあったらしい。

 口振りからすると当たり前に存在しているわけではなさそうなので、安心する。

 

「ゴーレムの形は様々だ。そしてゴーレムを知っているのならば分かるだろう。クアゴア達にも優位に立てるということを」

 

「あれだけおれば、確かに。しかし」

 悩み始めた兵士を無視し、アインズは傍らに立つパンドラズ・アクターこと現在はモモンに目を向けた。

 

「モモン。済まないがゴーレムを指揮しクアゴアを撃退してくれ」

 ゴーレムを使いつつ、モモンを前面に出す。

 これならドワーフの被害を最小限に押さえつつ、モモンを活躍させることが出来る。

 

「この漆黒のモモン確かに承りました。アインズ様、吉報をお待ちください」

 胸の前に手を置き、恭しく一礼するモモン、いやこれはもう完全にパンドラズ・アクターだろう。

 いろいろと言いたいことはあるが、今ここで言うことは出来ない。

 

「ナーベは、ここで私の供をせよ」

 あの程度の相手ならばナーベラルの実力でも問題は無いのだが、フェオ・ライゾで捕らえたクアゴア達の情報によると現在首都を襲っているのは先発隊であり数こそ多くはないが精鋭揃いだという話だ。

 そもそもコキュートスを隠している現在、アインズが護衛も付けず一人で残っては怪しまれるだろう。

 

「畏まりました」

 了承するナーベラルに頷きかけた後アインズはふと思いつき、未だ険しい顔をしているドワーフに尋ねた。

 

「ところで聞き忘れていたが、都市内に入ってきたクアゴアは何体ぐらいなのかな? あまり多いと我々でも市民達に被害を出さずに撃退出来る自信は無いのだが」

 乱戦の中でドワーフ達を盾に取られでもしたら厄介だ。思考能力のないゴーレムがしたことと言うのは簡単だが、遺恨は残るだろう。

 数がそれなりにいればそれも仕方ないと思って貰えるのだが。

 しかしここでアインズの予想とは異なり、ドワーフはおや? と言うように首を捻った。

 

「クアゴアは未だ都市の中には入っておらん、扉一枚でなんとか耐えておる状況じゃ。しかしそれももはや持たん。その扉の向こうには千を越えるクアゴアがいるらしい。とてもではないがそんな数は相手に出来んので、こうして儂らは皆を連れてフェオ・ライゾに避難しようと思ったのじゃが」

 兵士がこんなに簡単に状況を口にしていいのだろうか。

 と思うが、ドワーフの軍隊は人間のそれよりも規律がはっきりとしていない、どちらかと言えば蜥蜴人(リザードマン)の戦士のようなものなのかも知れない。

 

「ならば簡単だ。とりあえずそこまで彼、モモンを案内してくれ。彼の力であればその程度の数、容易に蹴散らしてくれるだろう」

 出来れば都市内に入り込まれ、ある程度被害が出ていた方が、交渉を優位に進められる為有り難かったが仕方ない。

 ゴーレムの宣伝は諦め、モモンが一人で千匹のクアゴアを撃退したと言う宣伝だけで我慢しよう。

 

「わ、わかった。ならば急いでくれ。我々の中にライディング・リザードがおる。あれに乗れば直ぐに着くはずだ」

 ツイとアインズがパンドラズ・アクターに顔を向けると最後にもう一度、恭しく礼を取り、足早にその場を離れていく。

 ライディング・リザードが何かは知らないが騎乗用の蜥蜴か何かなのだろう。

 アインズであれば乗りこなせなかったかも知れないが、パンドラズ・アクターであれば問題ない。

 

「では我々はここで彼からの吉報を待つとしようじゃないか。そこの者達も逃げる必要はない。目に付くクアゴアは討ったがフェオ・ライゾの全てを確認したわけではない。隠れている者もいたかも知れんからな」

 

「ああ、うむ。いやしかし先にこの地を脱出した者達もおる。おぬしらは会わなかったのか?」

 

「……いや、我々とは遭遇しなかったがどのくらいの数だ?」

 

「数が多いのでな、第一陣として出たのは三千人ほど、ここにおるのは第二陣じゃ」

「それほどの人数ならば気づくはずだが……」

「地下を移動したのじゃろう。儂等は地上から来たのでな」

 ゴンドの台詞にアインズは納得する。

 そう言えばゴンドは普段地下を移動しているから、地上からの道が良く分からないと言っていた。

 その為、ここへの到着が遅れてしまったのだが。

 

「地上を? では早く追いかけんと、なにも知らんままフェオ・ライゾに着かれたらまずいぞ」

 

「……そうだな。その辺りは君たちに任せよう。我々も強行軍でここまで来たのでな、とりあえず市民たちは全員外に出して、入り口付近をゴーレムで固めさせよう。何かあってもそれならば問題は無いだろう」

 

「なにからなにまでスマンのぅ。全てが解決した暁にはおぬしのことは儂から総司令官に伝えておくぞ」

 まだ解決したわけでもないのに、態度が軟化し友好的になった。

 

(総司令官とはゴンドが言っていた八人の摂政会の一人だったか。かなり上位の人物だが、このドワーフはそれなりに偉い立場の兵士なのか? 人間の貴族と平民は分かりやすいが、ドワーフでは見分けがつかんな)

 

「それは有り難い。では早々に準備を開始しよう」

 分からないことを深く突っ込んで墓穴を掘るのも嫌なのでアインズは偉そうな態度を崩さないまま頷いた。

 後はパンドラズ・アクターがクアゴアを撃退してくれるのを待つだけだ。

 クアゴアとの戦いが終わってしまうと、アインズたちの力を借りる必要がなくなり、有利な条件で契約を交わすことが出来なくなるため、全滅ではなく撃退に留めるように事前に決めていたのだが、パンドラズ・アクターならばうまくやってくれるだろう。

 しかしここからだ。

 ここからアインズは摂政会の面々を相手に有利な交渉を行わなくてはならない。

 それを考えると気が重い。

 

(えーっと。クアゴアの撃退と引き替えに、ドワーフ産の武器の仕入れに、これからナザリックで武器を造るために鉱山から金属そのものを手に入れる。後はルーン工匠を全員引き取る。その場所を確保する必要もあるな、カルネ村辺りに頼めばいいか……これ全部出来るのか? 撃退だけでは足りないな、やはり放棄したという王都奪還まで視野に入れて、あとクアゴア側にいるらしいドラゴン退治もあったか──)

 改めてやるべきことを考えてみると数が多すぎる。

 それを全て成功させなくてはならない。

 いや、アインズは実はそれほど有能ではないと皆に知らせる作戦を実行すると考えれば、そのうち半分程でいいかも知れないが。

 

「陛下、俺はどうすりゃいいですかね?」

 そんなことを考えていたアインズに、背後から声がかかる。

 声の主はゼンベルだ、とりあえず知り合いがいるかも知れないと連れてきたは良いが話が纏まってしまい、連れてきた意味が無くなった。

 

「ふむ。ではゴンドと共に市民たちのところに出向き、改めて知り合いがいないか探してくれ。そして出来れば市民たちを落ち着かせてくれると有り難い。良いかね?」

 指示を出しながら、兵士に許可を得る必要があると考え直し問いかける。

 

「あ、ああ、うむ。市民たちにも状況を説明する必要がある、ありますな、儂も同行しましょう。では……そういえばまだ名前を聞いておらなんだ。聞いても良い、ですか?」

 軟化していた兵士の態度が先ほど以上に緊張している。

 なぜだろうと首を捻りかけるがそれを無視してアインズは胸を張り堂々たる態度を作り名乗ろうとしたが、その前に。

 

「こちらの御方は魔導王の宝石箱の主にして、我ら全員の絶対的主人、アインズ・ウール・ゴウン様であらせられる。そのことをしかと他の者に伝え、失礼な態度を取ることがないようになさい」

 後ろにいたナーベラルが声を張り上げる。

 

(ええ!? 何だ突然、ナーベがモモンじゃなくてアインズを主と認めていいんだっけ? いや確かソリュシャンとか、シャルティアと似たような設定にしたんだったか? 娘同然みたいな……)

 

「う、うむ。失礼をしたゴウン殿。しかと皆に伝えましょう」

 

「いや、うむ。頼んだ」

 アインズがどこぞの貴族か王族であるかのように誤解している兵士に、アインズもまたそれに合わせた演技をし、ナーベラルと二人になったところで小声で問いかける。

 

「ナーベ」

 

「はっ! 如何されましたか、アインズ様」

 その場に膝を突く姿はもうすっかりアインズが主であると言っているようなものだ。

 つまり彼女の中ではこれが当然なのだろう。

 だとするとまっすぐ聞くのはまずい。

 

「いや、その態度だが、それはお前自身の考えか? それともパンドラ……いやモモンか、奴の意見か?」

 もしかしたらパンドラズ・アクターが何かそういう態度をとらなくてはならない理由に気がついたのかも知れない。

 

「いえ。先ほどアインズ様が私に供をせよ。と命じていただきましたので、ここは私も本来の仕事である戦闘メイドとしてお仕えするべきだと考えました」

 ハキハキとした口調で語るナーベラル。

 思わず体から力が抜けかけるが、アインズは意志の力でそれをねじ伏せた。

 

「……ナーベ。お前に自分で考え行動することの大切さを説いたのは確かだが、お前はキチンとその後の事を考えたのか? ここでの話が帝国を通じて、王国にそして冒険者たちに伝わるのかどうか、そして伝わったとしてどう思われるのかを考えた上で、問題ないと判断したのか?」

 どうやらナーベラルは深く考えずにアインズに供をせよと言われたから即メイドとして仕えるように命じられたと思ったようだ。

 その証拠にと言うべきか、自分の行為に問題があると気づいたのか、ナーベラルの顔色が一気に青ざめる。

 

「も、申し訳ございません。問題が……あるのでしょうか?」

 やはり深くは考えていない。

 しかしアインズとて、それが問題であるかよく分からない。

 問題がある気もするが、元々漆黒との繋がりは匂わせていたので問題ない気もする。

 少なくとも今直ぐには考えが及ばない。

 こういうときにデミウルゴスやアルベドなら直ぐに問題のあるなしに気づけるのだろうが、アインズにはそんな芸当は無理だ。

 

「いや、どちらにもメリット、デメリットはある。もっともどちらを選んでも挽回出来る程度の差だがな。私が言いたかったのはなぜお前がそちらを選んだのか、それにキチンとした意味があったのか問いたかっただけだ」

 多分これならいけるだろう。

 この手の話は大抵どちらを選んでも問題があるものだ。こう答えておけばナーベラルにそれらを考えさせることが出来、アインズはそれを聞いてから答えを考えることが出来る。

 

「申し訳ございません。そこまで考えが及ばず、アインズ様にプレアデスの一人として必要とされたことが嬉しく感じてしまい、深く考えていませんでした」

 

(しかしナーベラルってそこまで考えなしだったか? 以前注意してからはちゃんとしていたように思ったんだが……これは根深い問題かもしれん。キチンと対処しなくては)

 原因を突き止めなくては。ナーベラルだけに起こるとも限らない。

 

「何故そうした行動を取ったのか、自身で理解しているのか?」

 

「それは……」

 言いづらそうに口ごもるナーベラルにアインズは更に強く問う。

 

「これはお前だけの問題ではない、今回のような簡単な問題ならば良いが今後もっと重要な局面で己の行動を決めることもあるかも知れない、故に思い当たることがあるのならば話せ、これは命令だ」

 ここまで言ってなお、ナーベラルの口は重い。どうしたものかと考えていると、長い時間を開けてようやくナーベラルが口を開いた。

 

「恥ずかしながら……アインズ様より命じられたこの任務に、一切の不満などはございませんが、それでもナーベラルではなく、冒険者ナーベとして大半の時間を過ごすことに精神的な疲労を感じているのは事実です。故に短絡的にナーベラルに戻れる選択をしてしまったのではないかと」

 全身にガツンと殴られたような衝撃が走った。

 アインズは出来うる限り、NPC達には本人が望んでいない仕事を無理矢理やらせたくはないと考えていたからだ。

 

 それはその者を創り出したかつての仲間達に悪い気がするし、本人達もアインズには文句を言わないのだからストレスばかり溜まっていってしまう。

 だからこそ、色々な方法で皆に無理をしていないか、本人にも本人以外からも聞き取りをする形で調査していたが、アインズと最も長い時間を過ごしていたはずのナーベラルの思いに気づかなかったことが、アインズには大きなショックだったのだ。

 

「なるほど。そうだったか、それは私と行動を共にしている時から感じていたことなのか?」

 全身を襲うショックも僅かな時間でいつもの精神抑制で元通りになってしまう。

 そのことを今回ばかりはありがたく感じながらアインズは続けて聞く。

 素直にハイと言うとは思えないが、態度を見れば予想はつくだろう。

 

「い、いえ。そのようなことはありません。その、最近……アインズ様と行動を共にする機会が無くなってからでございます」

 顔を伏せ、言葉の終わりになるに従って声が小さくなっていく。

 耳はおろか、首を下げたことによって見えるようになった首筋まで赤くなっているのは余程言いたく無いことだったという事だろうか。

 だが、アインズにはその理由がはっきりと理解出来た。

 

(あー、そういうことか。要するにあれだな、パンドラズ・アクターと行動を共にするのがキツいという事だな! わかる、わかるぞ。俺も最初の頃ほどではないにしても、未だにキツいもんなぁ)

 だがこれはこれで最悪の展開では無さそうなので胸をなで下ろす。

 とは言えこの場で簡単に解決出来る問題でもない。

 現在冒険者漆黒の代わりを務められる者は存在しないからだ。

 

「そうか……よし。お前の考えは分かった、今後は私も気を使おう」

 

「あ、アインズ様にそのような、全ては私が未熟であり、不徳の致すところで……」

 

「よい。良く考えてみればお前には負担を掛けてばかりであったな。取りあえず……」

 ここまで口にしたところでアインズの脳裏にあることが閃いた。

 

「アインズ様?」

 不思議そうにこちらを見ているナーベラルに対しアインズは頭に浮かんだ閃きを形にしようと必死に考える。

 

「……取りあえず今回、モモンが戻った後は私と入れ替わり、私がモモンとして行動しよう。それでどうだ? ナーベラル、いやナーベ」

 思いついた言葉をそのまま口にする。

 一見するとパンドラズ・アクターとの共同作戦に疲れたナーベラルを気遣ったものであるが、同時にアインズ自身にもメリットのある作戦だ。

 

「いえ、私のような……あ、いえ。その、よろしくお願いいたします」

 途中まで口にしかけたナーベラルだったが、何かを思い出したように口に両手を重ねて強制的に言葉を切ると、それまでとは180度違った答えを出した。

 その変わりように些か戸惑うが、アインズとしては納得してくれたのならばそれでよい。

 

「ではそうしよう、久しぶりの冒険者だ。今回はドラゴン退治も視野に入れる、気を引き締めよ」

 

「はいっ! あ、いえ、はっ!」

 元気の良いナーベラルの返事に対し満足げに頷いた。

 

(これならパンドラズ・アクターに魔導王の宝石箱の主人としての振る舞いが出来るか確認も出来るし、交渉も任せられる。俺はドラゴン退治だけに集中すればいいというわけだ。パンドラズ・アクターには無茶ぶりになってしまうが、アイツならば上手くやってくれるだろう)

 うんうんと自分に言い聞かせるように一人頭の中で納得しつつ、アインズはパンドラズ・アクターが戻るのを待つことにした。




長くなったので切ります
ドワーフとの交渉は書籍版とあまり変わらないので、次はその後から
半分くらい書けているので次はいつもより早く投稿出来ると思います

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