オーバーロード ~経済戦争ルート~   作:日ノ川
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第4話 ルート確定

 ナザリック地下大墳墓。
 その最奥に位置する玉座の間にて、守護者各員が片膝をつき頭を垂れて主人の入室を待っていた。

「ナザリック地下大墳墓最高支配者アインズ・ウール・ゴウン様、および守護者統括アルベド様のご入室です」
 プレアデスの一人、ユリ・アルファの宣言の後、アインズが入室する。

 この静か過ぎる空間の緊張感は未だ慣れない。
 自室に呼べれば楽なんだが。といつも思うが、簡単な伝達だけならまだしも、これから話すのはナザリックの今後に関することだ。

 こうして玉座の間で用件を伝えると言うのも支配者として必要なことなのだろう。

 一歩一歩威厳を示すように歩を進め、玉座に腰を下ろす。
 それを確認した後、後ろに着いてきたアルベドが定位置に立つと皆に声をかけた。

「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様の御威光に触れなさい」
 室内に声が広がり、守護者各員が一斉に顔を持ち上げる。

 一糸乱れぬとはこのことだな。などと考えつつアインズは支配者に相応しい格好をと鏡を見ながら練習したポージングでその視線を受け止めた。
 やがて手前に立つアルベドがアインズに顔を向け告げた。

「アインズ様、ナザリック階層守護者各員。御身の前に揃いました。何なりとご命令を」
 うむ。と声を低くして頷くと、スタッフを床に叩きつける。大きな音が鳴り響きその音が完全に消えてからアインズは口を開いた。

「よくぞ私の前に集ってくれた。皆任せていた仕事もあっただろうが今後のナザリックの方針について一つ話しておかねばならぬことが出来た。デミウルゴス!」

「はっ!」

「特にお前には多数の仕事を任せた上、度々呼び出してしまっている。以前も言ったがその忠勤感謝している」

「おおっ! アインズ様。私は貴方様の忠実なシモベ、当然のことでございます。本来アインズ様御自ら動いていただいていると言うだけで我々の至らなさを痛感するばかりです。仕事などいくらでもお任せ下さい」
 ナザリックの者たちの社畜属性にはいつも驚かされる。

 デミウルゴスもそうだが、一般メイドに至るまで、仕事をさせないと言うことが最大の罰になっているらしい。

 出来れば少しずつでも仕事のない休みの喜びを知ってほしいのだが、それにはまだまだ時間がかかりそうだ。

(ん? それが最大の罰になるのなら)
 不意に頭の中をよぎった考えを一度棚置きにして話を再開させる。

「うむ。今回の召集もまたお前の力が必要となるだろう」

「はっ。何なりと。どのような命であれ全身全霊を尽くし、御身に最上の結果をご報告させていただきます」
 デミウルゴスの宣言とともに他の守護者たちに僅かばかりの動揺が走る。

「あ、アインズ様。恐れながらわたしにも何なりとご命令を、必ずや必ずや使命を果たしてご覧に入れます!」
 シャルティアがいつもの間違った郭言葉も忘れて声を張り上げる。
 瞬間、ピリと玉座の間に緊張感が走る。アインズとデミウルゴスの会話に割り込んだことを不敬と捕らえたのだろう。

 シャルティアもすぐにそのことに気づいたようで申し訳ございませんと頭を下げた。
 しかし彼女の気持ちも分からないでもない。

 蜥蜴人(リザードマン)の集落でシャルティアに罰を与え、彼女の罪を償わせたつもりだが、彼女からすればあれはご褒美であったらしく、その後新しい仕事も与えていない。
 そのことに不安を抱いているのだろう。

 玉座の間に漂う緊張感をアインズは笑い飛ばした。

「構わん。シャルティアお前も含めてだが今回は守護者全員の力が必要になるやもしれん。先ずは私の話を聞くが良い、その上で疑問があればその場で発言することを許す」

「はっ! 畏まりました!」
 元気の良いシャルティアの返答に満足し頷いてから、アインズは話を始める。

「先だって話しておかなくてはならないのはセバスとソリュシャンのことだ」
 特別騒ぎはしないが守護者たちに疑問の色が生じる。
 セバスたちが現在王都で潜入調査を行っていることは全員が承知のことだが、どのような調査をしているのかを知っているのはデミウルゴスを含めたごく少数だけだ。

「少々問題が生じてな。デミウルゴスお前にはセバスの調査報告を見せていたが、その中にあった八本指という組織について覚えているか?」

「はっ。王国全土の裏社会を牛耳る組織であり、王国内の貴族や王族にもコネクションを持っている組織と記憶しております」

「その通りだ。セバスがその八本指の下部組織と敵対することになった。遠からず八本指とも敵対することになるだろう」

「お待ち下さいアインズ様。それはアインズ様のご指示によるものなのでしょうか?」
 アルベドの質問にアインズは一瞬言葉に詰まった。
 それはあまり触れてほしくない部分だったが仕方がない。報連相の大切さを説いたアインズ自身が沈黙するわけにはいかない。

「いや。セバスにはなるべく目立たぬように行動し、問題が生じた場合には報告するように告げていた」

「確かに。セバスから報告書には町の噂レベルの小さなことまで書かれていました。と言うことはセバスはアインズ様の命に背き自己の判断で勝手に八本指と敵対したと?」
 デミウルゴスの言葉には険がある。
 アインズの命令に背く、それは守護者たちにとって大罪である。

 コキュートスやシャルティアは、自らの力不足や不確定要素による言ってみれば不可抗力である。もちろんそれはそれで問題であり、二人ともそのことについて深く反省していたのだが。
 しかし自分の意志でアインズの命に背いたとなれば捨ておけない、明らかな反逆行為だ。
 全員から殺気じみた気配が漂い出す。

「落ち着け。セバスは私の命に背いたわけではなくあくまでその程度のことは報告するまでもなくその場で解決したと勘違いしていただけだ。その上で私が話を聞き、既に罰は与えてある」

「僭越ながらアインズ様。よろしければセバスがどのような勘違いをし、どのような罰をお与えになったのかお聞かせ願えませんでしょうか? 今後の我らが同じような失態を犯さぬ為にも是非」
 デミウルゴスの言葉に全員がその通りとばかりに頷いた。
 確かに失敗の情報共有は必要なことだ。

 仕方ない。と心の中で前置きをして出来る限りセバスの立場が悪くならないように、ツアレを助けた際の話をすることにした。


「以上だ。結果としてセバスとソリュシャンは私に報告する義務を怠った見通しの甘さが原因と言えよう。しかしこれは以前の蜥蜴人(リザードマン)との戦闘の際にお前たちに聞かせたナザリックの利になることを自分で考え、改善策があれば私に立案せよ。と言う私の話をセバスたちに伝え損ねていたことが原因だとも言える。今更だが私がセバスたちにもそのことを伝えていれば、セバスあるいはソリュシャンが私に報告をしてきただろう」

「恐れながらアインズ様。それでもセバスの取った行動は許されるべきものではありません。セバスはそのツアレという人間を助けたいがためにわざと情報を隠していた。その時点でナザリックひいてはアインズ様に対する裏切りかと。その咎は命を以って償うべきものかと愚考いたします」
 デミウルゴスはどうにもセバスに対するあたりが強い気がする。
 これが他の守護者ならここまで言っただろうか。これも制作者であるウルベルトの性質を継いでいるためだろうか。

「それを踏まえた上で私が罰を与えたのだ。同じようなことを繰り返さなければそれでよい」

「しかし。報償を無しにするだけと言うのは罰として軽すぎるのでは」

「控えなさいデミウルゴス。アインズ様の決定に異を唱えることこそ不敬と知りなさい!」
 アルベドの一喝により、デミウルゴスは頭を下げ詫びを入れるがそこに納得の色がないのはアインズでもわかった。
 感情のコントロールが巧いデミウルゴスの意外な一面を見た気がしてアインズとしては少し愉快な気持ちになったが、その感情はすぐに収まり、アインズは手を振ってアルベドを諫めた。

「よい。言ったはずだ私の命を盲目的に聞くのではなく疑問があれば聞くようにと。さてデミウルゴスお前の疑問に答えよう。私としては報償を与えないというのはそれだけでお前たちにとっては最大の罰になると考えているぞ」
 先ほど棚上げにした考えを思い出し、アインズは殆ど出たとこ勝負で話始める。

「それはいったいどのような理由でしょうか? 至らぬ私にご教授いただければこれに勝る喜びはございません」
 案の定理由を問われ、アインズはゆっくりと間を空け勿体ぶったような態度をとりながらも更に必死になって頭を回転させる。

「う、うむ。セバス達に正確に伝えたわけではないが。報償とはつまりセバス達がこれまでの働きで得た成果への対価である。であればそれがないということはつまり、セバスたちの働きそのものがなかったことになると言うことだ。結果としてセバスたちは私が仕事を命じてから今日に至るまでの間、ナザリックの為に何もせず、ただ無為に時間を過ごしただけとなった。ナザリックに尽くすべく生み出されたお前たちにとってはこれ以上の罰はあるまい」
(おお! これは結構うまくいったんじゃないか? 普通なら大した罰にならないがNPC達には効果絶大、今後も何かあればこれを多用して)
 とそこまで考えたところでデミウルゴスを除く全員の体が一瞬震えたことに気がついた。

 セバスが命令を受けてナザリックを出立してから二ヶ月ほど経っている。その間ナザリックの、アインズの役に立つことも出来ずただ時間だけが過ぎていくそれを想像したのだろう。
 予想以上の効果にアインズの方が困惑する。

(もしかして先ほどのセバスとソリュシャンが震えていたのも、罰の重さで恐怖していたせいなのか。やはりこれは多用出来んな)

「なるほど。さすがはアインズ様。確かに我らにとってこれほどの罰はありません。私の愚かな発言を取り消させて下さい」

「よい。疑問を持ち成長すると言うのは大切なことだ。ではこの話は終わりにしてこれから先のことを話そう」
 アインズがそう言った時を見計らっていたかのように、はい! と元気の良い声が響いた。

「どうしたアウラ」

「ようするにアインズ様に逆らったその八本指? でしたか。そいつらを殺せばいいんですよね。でしたらあたしにお任せ下さい! あたしの魔獣達にかかればすぐに全員殺してご覧に入れます」
 太陽を思わせる明るい笑顔から物騒なことを口走るアウラにコキュートスとシャルティアが反応を示す。

「アインズ様。ナニトゾソノ役目、コノ私二」

「あっ、ずるいでありんす。アインズ様、わたしに。このシャルティア・ブラッドフォールンに償いの機会を与えて下さい!」
 アウラ、コキュートス、シャルティアがそれぞれ申し出るがアインズはそれを制しようとして思い立つ。
(これは兼ねてから練習していたあれを試すチャンスでは?)

 自室で鏡を前に手を振り角度を綿密に計算しながら練習したあの支配者ロールを試すいい機会だ。

「そーー」

「三人とも黙りなさい。アインズ様のお話は終わっていないわ……アインズ様。このような無様な姿をお見せしてしまい申し訳ございません」
 アインズが言う前にアルベドの一喝でその場は静まる。
 アインズは小さく咳払いして、降り上げたまま行き場のなくなった手を揺らし、構わん。と告げて改めて話をする。

「んん。とりあえず八本指に関しては滅しはしない。奴らには利用価値がある。私はこれからのナザリックの方針の一つとして王国内でセバス、ソリュシャンを中心とした商会を構えることとした」

「商会、と言うと。人間どもを相手にナザリックの物を売るのでありんすか?」

「いや。基本的にはナザリックの物を直接商品にはしない。あくまでこの世界にある物をナザリックで生産、加工し売ることとする。この世界の外貨を獲得するのが主な目的だ」
 偉そうな態度を作り宣言しながら、アインズはアルベドとデミウルゴスのナザリック内の二大頭脳の反応を伺った。

 詳しく説明するとボロが出るため、最低限の情報だけを出し、守護者から疑問が出たら後は二人に詳しい説明をせよと言ういつものやり方をするつもりだった。
 そのためにも最低限この時点で、問題がないことを確認しなくてはならなかったのだが、反応を伺った二人の内、デミウルゴスがハッと何かに気がついたように顔を上げ、一つ頷いた。

「なるほど。そういうことですか。ですから八本指を殲滅しないと」

「うむ。その通りだ。商会を運営し成功させれば必ず奴らがちょっかいを出してくる。その前に支配下においておけば邪魔される心配はない」
 これについては既に考えていた答えを口にする。
 何度もデミウルゴスに説明させていては怪しまれる。出来る限りアインズ自ら説明をするべきだ。

「な、なるほど。さ、流石はアインズ様です!」
 マーレを筆頭に他のメンツもアインズを褒め称える。

 しかしアインズはいつもであれば真っ先に称賛を口にするアルベドが黙っていることに不安を覚え、彼女に問う。
「アルベドはどう思う?」
 さりげなく聞くと彼女はいつも浮かべている微笑を少しだけ深くすると、チラとシャルティア達に目を向け、小さく息を吐いてから言った。

「全く、あなた達は本当にアインズ様のお言葉を表面的にしか受け止めないのですから。困ったものね」

「どういうことでありんすか?」

「え?」

「え?」

「ムゥ」

「……え?
(なんだよ表面的って。出来る限り考え尽くしたつもりなんだが)

「そもそも資金獲得のためならば八本指を支配下に置いた時点で目的は達成されるでしょう」


 そうか。と続けかけた言葉を飲み込む。
 その通りだ。八本指は王国全土に網を張る言わば巨大企業、それを支配下に置けばそれだけでアインズの目的だった資金不足という点は解消される。

(まったく気づかなかった。どうする? 今からでも商会運営は取り消すか?)

「恐れながら。アインズ様が守護者各員に己で考えさせようと、わざとごく浅い部分までの計画しか話さなかったことは重々承知の上ですが、申し訳ございません。皆にそれを徹底させるには今暫く時間を要するかと思われます。今回はアインズ様の真の狙いを全員に告げておくべきかと」
 アルベドの後を続けるようにデミウルゴスが言葉を紡ぐ。

 瞬間アルベドの目が細くなり、デミウルゴスを睨みつけたがデミウルゴスは特に気にした様子を見せない。
 もっともアインズにとってはそんなことを気にしている余裕もなく、デミウルゴスの言葉を頭の中で咀嚼するので精一杯だ。

「やはり二人には、気づかれていたか……」
(今後の方針って単に金を稼ぐための商会のつもりだったんだよ。俺の知らない間にそんな壮大な計画が立案されていたのか。適当なことを言って見当違いだったら困るし。ええい、仕方ない。あまり同じことを繰り返すと後で苦しくなるから嫌なんだが)

「ではデミウルゴス、そしてアルベドよ。二人で私の計画について皆に聞かせることを許そう。出来る限り詳しく、細かくだ。お前達が私の計画をどれだけ読めているかテストも兼ねることとしよう」
 デミウルゴスとアルベドの表情が僅かに強張り、二人は姿勢を正すと同時に頭を下げた。

「畏まりました。ですがアインズ様の深謀遠慮に私が及ぶとは思えません。理解出来ているのは極一部だとは思いますが全力を持って当たらせていただきます」

「では私から、いいわね。デミウルゴス」
 いいわね。の声が一段低い。デミウルゴスは無言で先を譲っているがこの二人の間でなにか目に見えない争いでも起きているのだろうか。
 シャルティアを始めとして各守護者は悔しそうな気配を漂わせているが口には出さない。
 アインズの考えを理解する方が先だと考えたのだろう。

「いい? 蜥蜴人(リザードマン)の集落でアインズ様がナザリックをどこかの国に所属させて隠れ蓑とする計画を話したのは覚えているわね?」
 アルベドの言葉に全員が――アインズは心の中だけで――頷く。

「今回の作戦でアインズ様はその相手を王国にお決めになったということなの」

(なに? そうなのか。確か王国は魅力がないと言う話になったのでは無かったか)
 そんな話をした気がする。
 その辺りは後で検討しようと言ってそのままになっていはずだ。アインズもモモンとしての活動が忙しく、棚上げになっていたのだ。

「え? でもその話は王国は魅力がないって話じゃなかった?」
 アウラの言葉にアルベドは頷く。
 同時にそうそうとアインズも心の中で頷いた。

「その通りよ、王国は毎年帝国に侵攻され徐々に国力を落としている。八本指が麻薬を蔓延させているせいでただでさえ弱い人間をさらに弱くし、その上トップは王閥派と貴族派に分かれて互いの足を引っ張りあっていてどうしようもない」
 聞けば聞くほど魅力を感じない。

 当初の予定ではどこかの国の傘下に入ったと見せかけて、今後の行動の言い訳を作るはずだったが、それが弱い国では意味がないだろう。
 だと言うのに、なぜアルベド達はアインズが王国を選んだなどと勘違いをしているのだろうかさっぱりわからない。
 わからないが、ここは乗るしかない。

「そこまでは正解だアルベド。ならばなぜそんな弱い国の傘下に入ろうとしているのか」
 ツイとデミウルゴスに視線を移すと彼は胸に手を当て、恭しく一礼すると一歩前に出た。

「では続きは私が。そんなどうしようもない国だからこそ付け入る隙があるのだよ。考えてもみたまえ。仮に帝国の傘下に入ったとして我ら、そしてアインズ様が人間ごときに命令されて良いように扱われることなど許されると思うかい?」
 その言葉にハッとした。人間の国の傘下に付くというのは例え演技でも仲間達とともに作り上げたアインズ・ウール・ゴウンを貶める行為ではないのか。

 そんなことに気づいていなかった自分の愚かしさを呪いながら、しかしアインズはデミウルゴスの言葉に一縷の望みをかける。
 彼らの頭の中にいるアインズはそれを回避する術を知っているらしい。

「それは……いやでありんす。アインズ様が例え演技だとしても人間に命令されるなんて。でもそんなのわたしたちの力を見せつければよいのでないのかぇ? たかが人間、わたしたちの力をみれば大人しくなるでありんしょう」

「傘下に入る相手が帝国の場合は恐らく、我々の力を見せつけても、表面上は大人しく従った振りをして周辺諸国に声をかけ連合を組んで敵対行動を取ろうとするでしょう。それは現在帝国に力があり成長を続けているからこそ、つまり奴らは自分達の力を過信し、知恵を絞れば我らに対抗出来ると考えるが故に、心より我々に従おうとは思わないと言うことです」
 アインズは帝国についてはあまり詳しくはしない。
 冒険者として活動している時に噂を耳にしたくらいだ。

 しかし国外で活動しているデミウルゴスはもっと詳しい情報を持っているらしい。
 いや恐らくアインズにも報告は上がっているに違いない。ただ膨大すぎる報告書の中に埋もれてしまって見落としたか、見ていても記憶から抜け落ちているのだろう。

「王国ハソウデハナイト、言ウノカ?」

「王国は先ほど言ったようにとても弱い。だからこそ我々の力を借りなくては今後存続することすら困難だ。故に少なくとも自分達だけで生きていけるほど国力が回復するまでは我々に盲目的に従う必要があるのだよ」

「でもさぁ。それだと国力が回復したら敵になるってことでしょ?」

「その通り、しかしそこがアインズ様の作戦の重要かつ素晴らしいところだ。アインズ様は先ほど王国に商会を作ると仰られた。当然のことながらナザリックが商売を始めれば人間たちの商会などとは比べ物にならないほど良い商品を提供出来、商会は瞬く間に王国トップの規模に成長するでしょう。そしてやがては王国の経済はすべて我々に依存しなくてはならなくなる。つまり今回の作戦は外貨獲得というのは表面的な物であり、将来的に王国を支配するための布石に他ならない」

「デミウルゴス。話し過ぎよ、そろそろ私に変わりなさい」

「これは失礼を。つい興が乗ってしまいまして、では続きをお願いします」
 やはり二人は何か争っているようだが、アインズとしてはどっちでもいいからさっさと教えてくれ。としか考えられない。

「ここで問題になるのがセバスが対立したという八本指、奴らは王国の裏社会を牛耳っている。例え私たちが真っ当なやり方で商会を成長させても、奴らは王国の貴族や王族を利用して私たちの邪魔をしてくるでしょう。だから先手を打って先に八本指を押さえておく。そうしておけば余計な邪魔をされることなく正道で王国を支配出来る。そうなればもう王国は私たちに逆らうことは出来ない。力でも敵わず、経済も押さえられ、八本指から情報を得て王国の貴族や王族の弱みも握れる。これなら王国はアインズ様に逆らうことも出来ず、何かあった際アインズ様の盾となり周囲から非難を浴びるだけの存在となる。人間共の使い方としてはまさに理想な使い方といえるでしょう」
 胸の前で手を組んだ後、それを大きく広げながらアルベドは語り、ゆっくりとアインズを振り返った。

「これでよろしかったでしょうか?」
 テストは合格ですか。と目が告げている。
 途中からなるほどなぁ。と感心し続けていたアインズだが、アルベドとデミウルゴス、二人に視線を向けられて慌てて支配者の態度を取り繕いアインズは手にしていたスタッフを地面に突き立て音を鳴らした。

「素晴らしい! 私の考えを全て理解するとは。流石はアルベドとデミウルゴスだ。お前達の知恵は私にすら匹敵するだろう」

「お戯れを。我々の知恵などアインズ様の足下にも及びはしないでしょう。これより先については今はまだと言うことでしょうか?」
 アインズの称賛をデミウルゴスは正面から受け止めようとしない。きっとまだこれ以上策略があるに違いないと信じているようだ。

「デミウルゴス。そうであったとしても今私たちが口にすることではないわ。アインズ様が恐れ多くも私たちを褒めて下さった。今はその栄誉をただ噛みしめなさい」
 アルベドの口調はいつもと変わらなかったが、腰から生えた羽根が押さえきれずパタパタと羽ばたいている。
 犬の尻尾のようだ。などとアインズ思っているとデミウルゴスの悪魔の尻尾もまたピクピクと動いているのが目に付いた。

 やはりあれは感覚器官の一部なのか。
 しかしこれでどうにか乗り切った。

 後のことは明日のアインズが何とかしてくれるだろう。
 そんなことを考えながら、アインズは再度スタッフを鳴らした。

「さて。それでは皆が今後の方針を理解したところで細かいところを決めるとしよう」
 改めて全員を見回す。
 アルベドとデミウルゴスが羽根と尻尾の動きを止め、表情を固め直す。

「アルベドが言ったように、先ずはセバスと対立している八本指の掌握からだ。無論正面切っての戦いならばセバスとソリュシャンだけでも問題は無かろう。しかし相手は王国全土の裏社会を牛耳る巨大組織、逃げられ地下に潜られると探すのは面倒だ。よって」
 アインズがそこまで言ったとき、頭の中に<伝言(メッセージ)>による通信が入った。
 全員に少し待て。と告げた後回線を接続する。

「ソリュシャンか。どうした」

『アインズ様。失礼いたします。早速例の娼館の者が参りました』

「そうか。予想通りだな」

『アインズ様のご推察どおりです。感服いたします』
 確かに予想はしていたがこんなに直ぐに、タイミングよく現れるとは。
 運が良いと言えなくもないが、これでまた周囲からのアインズに対する過大評価が高まりはしないかと冷や冷やする。

「世辞はよい。相手はなんと言ってきている?」

『はい。正確には娼館の者だけではなく、もう一人、スタッファンと言う巡回使を名乗る王国の役人も一緒です』
 やはり役人、つまりは表側の権力を使ってきたか。
 しかし巡回使と言うのがどれほどの地位にあるのかが分からない。

「巡回使とはどのような役人だ?」

『王都内の治安を守る役人です。都市警邏を行う衛士の上官と言う役職でしょうか』
 それを聞きアインズは相手の地位が大して高くないことを理解する。

「それで。どのような要求をしてきた? やはりあれを探しに来たのか?」

『はい。ここであの人間が生活しているのを確信しているらしく、現在はセバス様が対応し、アインズ様のご命令通りシラを切っておりますがなかなか諦めず、館内を捜索させろと言っています。あの娘はいませんが目的は金銭の要求だと思われますので、応接室を見られると多少厄介かと』
 応接室にはアインズを迎えるために用意された玉座や調度品がそのまま残されている。
 どれもナザリック内から持ち出したものであり、王国でも手に入らない物ばかりだろう。
 目撃されると確かに厄介だ。
 金目的の強請ならば尚更、例えツアレがいなくとも適当な理由を付けてあれらを奪い取ろうとするかもしれない。

(しまった。片付けるように言うのを忘れていた。こんなに早く来るとは思わないもんなぁ。どうしたら……いやもう良いか。下っ端役人一人、いなくなったところで大した問題にはならないだろう。ならないはず!)
 自分に言い聞かせるようにアインズは決断を下す。

「ナザリックの財産であるあれらを、人間ごときが触れるのは我慢ならんな。ソリュシャン。予定変更だ。そいつ等をその場で捕らえナザリックに送れ。<転移門(ゲート)>は私が開こう」

『畏まりました。即座に実行いたします』

「うむ。二十分後に先ほどの応接室に<転移門(ゲート)>を開ける。それまでに相手を無力化しておけ。出来るな?」

『はい。娼館の者はどうやら用心棒のようですが、何の問題もありません』

「では実行せよ」

『はっ!』
 <伝言(メッセージ)>を切り、アインズは守護者たちを見る。

「早速相手が接触してきた。奴らよりにもよってセバスを強請ってきた。これはつまりは我々ナザリックに牙を向いたということだ。奴らを捕らえ情報を引き出させる。その後本日中に奴らの店を潰す。そうなれば恐らく八本指が誘き出せるだろう」

「畏まりましたアインズ様。対応はセバスに任せますか?」
 アルベドの問いにアインズは少し考える。娼館一つを潰すだけならばセバスとソリュシャンがいれば問題はないだろう。
 ただ、不測の事態についても考えなくてはならない。
 ここで例のシャルティアを洗脳した者たちが現れるということはないだろうが可能性はゼロではない。
 ならばここは。

「いや、私自ら指揮を執ろう」
 守護者たちがざわめく。

「アインズ様。相手は人間のそれも八本指の下部組織。なにもアインズ様御自らがお出になることはないかと」

「今回の作戦は時間との勝負だ。いちいち私に報告を、指示を扇いでいては時間の無駄だ。それに心配ならば……そうだな」
 守護者たちを一人一人眺めた後、アインズはデミウルゴスに目を留めた。

「デミウルゴス、先ほどのテストに合格した褒美だ。今回の作戦、私の副官として同行を許そう」
 アインズの言葉にいち早く反応したのはデミウルゴスではなく、アルベドだった。

「あ、アインズ様! 何故デミウルゴスに! 合格したのは私も一緒です! 是非私もご一緒させて下さい。必ずや必ずやアインズ様をお守りいたします。下賤な人間共には指一本触れさせません!」

「落ち着けアルベド。お前とデミウルゴス二人ともいないのはナザリックに何かあった際に問題になる」

「でしたら私をお連れ下されば」

「守護者統括殿。アインズ様は私を連れていくとご命じになったのですよ。アインズ様の命に逆らうつもりですか?」
 アルベドの言葉を遮ってデミウルゴスが言う。守護者統括と言う部分にやたらと力が入っている気がする。

 褒美というのは方便で何か問題が起きた際、意見を聞ける相手が必要だと思ってのことで、デミウルゴスを選んだのも単にカルネ村の時はアルベドを連れていったので、今度はデミウルゴスをと思っただけなのだが。

「よせ二人とも。時間がない、今回はデミウルゴスを連れていく。アルベドには後ほど別の報償を与えよう。な……んん。では行ってくる」
 何か考えておけ。と言いかけて口を閉じる。アルベドに報償を考えさせようものなら、どのようなことになるか火を見るより明らかだったからだ。

拷問の悪魔(トーチャー)を準備をさせておけ。では行くぞデミウルゴス」

「はっ! 畏まりました。アインズ様の手腕、しかと学ばせて頂きます」
 玉座の間から直接ゲートで転移することは出来ないため、一度この部屋を出る必要がある。
 デミウルゴスを連れて歩きながら、アインズはどうも後ろから負のオーラが発せられているような気がして僅かばかり歩調を速めた。



この後八本指とのバトル展開。では無くその辺りはあっさり終わらせます
次でプロローグが終わって、その後商会を開店させる下準備に入ります