奇しくもゲヘナと同じ組み合わせとなりましたが、この話では突発的なものではなく事前に練られた作戦のため、細部が異なっています
アルシェの実家を出てエルフ達が立て籠もっている館に向かう振りをしながらある程度進み、周囲に人がいないことを確認する。
「よし。マーレ、私はデミウルゴスに<
「は、はい! 畏まりましたアインズ様」
ギュッと力強く杖を握り、やる気に満ちた声で返事するマーレにアインズは一つ頷き、心の中で自らに喝を入れながらデミウルゴスに<
本当は自分が直接ではなく、マーレに頼んで聞いてもらいたかったのだが、上手い言い訳が思いつかなかったのだ。
エルフの蜂起がデミウルゴスの策ではなく、アインズがこれまでに行った対応のせいで起こってしまった、あるいは本当に偶然だったらどうしよう。と思いながら恐る恐る<
「デミウルゴスか?」
『左様です。アインズ様』
デミウルゴスの声に焦りや変化は無い。
やはりこれはデミウルゴスの作戦によるものなのだろうか。
「うむ。私が連絡した意図は分かるな?」
『計画の変更点の確認と、現在までの情報のすり合わせ、かと』
(流石デミウルゴス! 俺の言いたいことをピタリと当てた……普段からもその洞察力を発揮して俺が大したこと無いと気づいてくれないもんかな)
『アインズ様?』
思わず心の中で愚痴をこぼしてしまい返答が遅れ、それによりデミウルゴスが初めて反応を乱す。
何か問題があったのか。と言外に心配しているのが分かった。
デミウルゴスにしては珍しいがこれもデミウルゴスの中でアインズの虚像が大きくなった弊害だろう。
自分が気付いていないミスがあったのか心配したのだろう。
「いや、問題はない。流石はデミウルゴス、私の考えなどお見通しか」
無駄だろうなと思いつつ、とりあえずデミウルゴスを持ち上げてみる。
『何を仰います。私などアインズ様の足下にも及びません。全てはアインズ様のお考えがあってこそ』
(やっぱりそうなるよなぁ。はぁ、悪気が一切無いから辛い。仕方ない、今回も頑張ろう)
「そうか。まあいい。ではこれから合流しよう、今何処にいる?」
内心の憔悴を隠しながら問う。
デミウルゴスは現在悪魔達の指揮を執るため帝都に残っているはずだ。
誰かに見られる可能性を考えると一度ナザリックに戻った方が安全なのだが、低級の悪魔達は難しい指示が出しにくく、単純な命令しか実行出来ないらしいので、デミウルゴスをここから離すのは心配だ。
アインズがデミウルゴスに会いに行った方が良いだろう。
『アインズ様にご足労頂くなど、シモベとして無礼なこととは承知しておりますが、こちらに場所を準備しております。よろしければ──』
「良い。そのような些事、いちいち気にすることはない。お前は私の、そしてナザリックのための作戦を実行している最中だ。そのためであれば私がお前の元に出向くことなど大したことではない。場所を教えよ」
<
それを見ながら、デミウルゴスが説明した場所を確認する。
この場所からそう離れてはいない高級住宅街の一角だ。
場所は分かったが地図だけでは<
わざわざ他の魔法で位置を確認してから移動するのも無駄だ。
あまり時間は無いのだが、まだ完全に頭の中でデミウルゴスとの作戦会議におけるシミュレーションも済んでいない、時間を稼ぐ意味で歩きで行こうと考え直す。
「分かった。では今からそちらに向かう。少々時間がかかるかもしれんが待っていてくれ」
『畏まりました。ご到着、お待ちしております』
その言葉を確認後、<
「もういいぞ。ありがとうマーレ」
「あ、はい! えっと、それで、あの。これからどちらに」
「うむ。今からデミウルゴスと合流する。場所はここだ。大した距離ではない、歩いて行くとしよう……案内を頼めるか」
別にアインズが地図を広げながら歩いてもいいのだが、ナザリックの者達はとにかく何でも良いからアインズの役に立つのが好きらしく、アインズが自分でやろうとすると皆ショックを受けるらしい。
これも常日頃からメイド達を側に付けているからこそ、身に付いた部下に対する気遣いである。
(自分に出来ることでも敢えて仕事を振る……フフフ、俺も少しは絶対者としての振る舞いを身につけて来たな)
「は、はい! ぼ、僕頑張ります!」
マーレは瞳を潤ませ、同時に今はアインズが渡した防御探知の指輪を填めた左手薬指をさすりながら、喜色満面の笑みを浮かべる。
思えばここまで、常に誰かしらが側におり、マーレと二人きりということは無かったからそれが嬉しいのかも知れない、と思いたいのだが、アルベドやシャルティアのようなハッキリとした好意も困りものだが、マーレから寄せられる好意の種類がいまいち分かりづらくアインズとしてもどのような態度で接すればいいのか対応を計りかねていた。
(アウラと同じように父性への欲求的なものだとは思うんだが、時々それだけでは無いような態度も見せているし、うーん)
申し訳ないが確証がない以上知らない振りをしておくことにしよう。
そんな風に決めて意気揚々と歩き出すマーレの案内に従ってアインズも歩き始めた。
「お待ちしておりました。アインズ様」
破壊された玄関を通って中を進み、たどり着いた先にある扉を開くと頭を下げたデミウルゴスがアインズとマーレを出迎えた。
「待たせてすまないな。作戦も佳境で忙しいだろうに」
アインズの労いにもデミウルゴスは大きく首を振る。
「いえ、そのようなことは。今回は私の作戦にアインズ様自ら手を加えて頂ける幸運に恵まれ言葉もございません。私としても出来うる限りお手を煩わせることの無いように勤めさせていただいたつもりでしたが、如何でしょうか?」
この言葉からすると、やはりエルフに関してはアインズが思いついたと勘違いしたデミウルゴスの差し金。ということらしい。
「うむ。全て私の想定通りだ。先ほども言ったが流石はデミウルゴス、私の考えを正確に読み実行に移すその手腕、見事だ」
何故アインズがそれを思いついたなどと勘違いをしているのかは知らないが、重要なのはそれをどう利用すればナザリックの利益に繋がるのかだ。
単純にエルフを救えばいいのか、それとももっと大がかりなことになるのか。
正直言ってこれ以上やることが増えるのは避けたいのだが、ナザリックの利益に繋がるのならば頑張るしかない。まずはここでその真意を見抜きたい。
「ありがとうございますアインズ様。このデミウルゴス。そのお言葉が何よりの褒美にございます」
深々と頭を下げるデミウルゴスを制し、改めて部屋の中を見回す。
玄関からここまでは如何にもといった貴族の館らしい雰囲気だったが、この部屋だけは印象が大きく異なる。
落ち着いた暗色をメインとして飾られた部屋は何処となくナザリックの第七階層を思わせるおどろおどろしさを感じさせ、その中でもっとも目立つ位置に人目を引く一脚の椅子が飾られている。
アインズがその椅子を視界に捉えたことを確認し、デミウルゴスが口を開く。
「簡素ですが玉座を用意させていただきましたので、そちらに」
いつかも聞いたことのある言葉で指し示された椅子は
以前より更に背もたれ部分が長く伸び、バランスを取るように幅も広がり、余計に威圧感が増している。
見かけは間違いなく芸術品として映える出来映えだが、放たれる生臭さは相変わらずだ。
前回はシャルティアへの罰という正当な理由で断ることが出来たが、今回この場にいるのはデミウルゴスとマーレのみ。
どちらも失敗は一度もしていない。
つまり断る理由が無い。ということだ。
仕方ない。と覚悟を決めてアインズは一歩足を踏み出し玉座へと向かう。
肘掛け部分の先端に左右一対で取り付けられた人間のものとおぼしき頭蓋骨の空っぽな眼窩がこちらを見ているような気がする。
もちろん気のせいだろうし、今はアインズもその骸骨と変わらない姿なのだから恐怖は微塵も感じないが、やはり座るのは勇気がいる。
(ええい。折角デミウルゴスが造ってくれたんだ。座らないわけにはいかない)
恐らくは現在もっともナザリックに貢献してくれているデミウルゴスがアインズの為にと造った物だ。
二度も断ってはアインズが座るのを嫌がっていると悟られかねない。
なるべく頭蓋骨に触れないようにしながら椅子に腰を下ろす。
釘などを使用しているようには見えない骨と骨の組み合わせによって造られているらしい椅子は、しかしアインズの体重がかかってもガッシリと噛み合わさったまま微動だにもしない。
まさかこれに魔法がかかって固定されているということも無いだろう。単純にデミウルゴスの製作技術が高いのだ。
そのまま肘掛けに手を乗せるではなく、肘を置き頬杖をつく。
これなら頭蓋骨には触れずに済む。
「おお! やはりこの玉座はアインズ様に座って頂いてこそ完成するもの。私からの贈り物、どうぞお受け取り下さい」
「お、お似合いですアインズ様、その、スゴくカッコいいです!」
デミウルゴスとマーレから賞賛を受ける。特にマーレにしては珍しく声に力が籠もっている。
そう言えばいつかも、アインズが椅子に座った仕草やらをカッコいいと評したことがあった。
外見はともかくマーレも男、そうした格好良さに憧れを抱いているのだろうか。
「そうか。デミウルゴス、お前からの贈り物嬉しく思う。マーレも褒めてくれて感謝するぞ」
内容はともかく、手作りの物を贈られるというのは嬉しいものだ。
しかしあまり喜びすぎると他の者たちからもそうしたプレゼントが贈られかねないのであまり喜びすぎないでおこう。
「さて。ではそろそろ話し合いをするとしよう」
頬杖を突いている方とは逆の指を弾いて、パチンと音を鳴らすと二人は同時に地面に片膝を突き頭を垂れた。
これが彼らなりの話を聞く姿勢なのだろう。
他にも椅子があれば座ってもらいたいところなのだが、ここにはそれらしいものはない。
かと言ってその姿勢のままでは話をするのも難しい。
こうした時毎回立ち上がるように言うのだが、彼らは必ず一度はそれを辞退する。アインズがもう一度言うことで、多大な感謝の言葉を述べてから立ち上がる。
もはやいつものことだが、何とも面倒くさい。だがアインズが何度言っても変わらないところを見ると、譲れない一線なのだろうと最近では極力気にしないようにしている。
「先ずは確認だが、デミウルゴス。例のエルフ達の蜂起、あれはお前の仕掛けたもので間違いないな?」
分かってるけど一応確認ね。と言わんばかりの口調で言う。
「はい。アインズ様のご指示を受けてから、とも考えましたが、そろそろ皇帝が帝城奪還に向けて動き出す頃合いかと思いましたので、今この時をおいて他に無いかと。アインズ様は常日頃から我々に話し合い情報を共有し合うことの大切さを説いていらっしゃるというのに、勝手に動いてしまったこと、お詫びいたします」
そう言ってデミウルゴスは深々と頭を下げる。
お前の優秀さは認めるけど一言断ってよ。というようなことを言うつもりだっただけに、今しか無かったと言われてしまうと何も言えない。
いちいち承認を得るために時間を費やし、折角の作戦が実行出来なくなっては困る。
何より無理にアインズに話を通すように言って、何でもかんでもアインズの指示を仰がれては堪らない。
となるとやはりある程度、現場判断という名の下に皆に判断を任せた方が良い。
「構わん。今回はお前が主催する作戦だ。臨機応変な対応こそ、現場では必要になる。もちろん、最終的な作戦目的の変更や修正ならば報告は必要だがな」
「はっ。心に刻み、他の守護者にも徹底させましょう」
「それとデミウルゴス。お前の作ってくれた例の現地のドラゴンハイドを使用して出来た
ドワーフの王都に居たフロスト・ドラゴンの死体から採れたドラゴンハイドを使用して作られた
「はっ。現地の低レベルドラゴンの皮からでも、高位の魔法を封じ込められる
「うむ。それを実際に使用してみたが問題はない。それと実験の一環として現地の
予定より多くのドラゴンを入手出来たことと、今後もこの世界のドラゴンから入手出来る可能性があることでつい、アルシェにあの
そのことにデミウルゴスはどう反応するだろうか。
「素晴らしいご判断かと。これで安心してこの世界で作られた
賞賛の声に安堵しつつアインズは同時に別の利点もあることに気がつき、そのまま口にする。
「! その通りだ。やはりユグドラシル産の
「あ! で、ですからアインズ様はあの、アインズ様に無礼を働いた者達を助けたんですね」
これまで黙って話を聞いていたマーレが、思いついたとばかりに声を上げる。
「ふむ。アインズ様、それは例のフォーサイトなるワーカー達のことでしょうか?」
「その通りだ。そちらも確認しておくが、あれの妹を残していたのもデミウルゴスの指示によるものか?」
「はっ、仰るとおりです。ユリより定時連絡の際にその者が帝都に残された妹のことを強く案じていたと報告がありましたので。他の者は全て運び出しナザリックで有効活用するつもりですが、アインズ様より命じられたとおり、ナザリックに敵対していない者は安らかな死を与えるつもりでしたので、もし何かに使用する場合を考え生かしておいたのですが、まさか奴らがアインズ様に無礼を働いたとは。ここはやはり今からでも回収し、それこそアインズ様に敵対した者として様々な実験に使用しては如何でしょうか?」
事前にデミウルゴスから計画を聞かされた時、本来はこの区画に居る者達は生きたままナザリックに運び、様々な実験に使用する筈だったが、それを聞いたアインズが内容を変更させた。アインズに残った微かな鈴木悟の残滓が幼子を殺すことに抵抗感を示したからだ。
やはりあれはデミウルゴスの指示だったのか、と納得しつつもその言葉にアインズは手を軽く振る。
「よせ。あれらにはドワーフの国から入手した武具の宣伝をして貰うつもりだ。ああ、それで思い出したが奴らが今いる位置を教えるからそこに悪魔を派遣しておけ、武具を使って貰わねば宣伝にならん」
「畏まりました。では奴らの実力では勝てず、ドワーフの武具を使用して初めて勝てた。と思わせられる程度の悪魔を派遣しましょう」
「そうしろ。くれぐれも殺さないようにな」
再度畏まりました。と頭を下げ、話が途切れる。
これでアインズから報告すべき事は終わったが続く言葉が出てこない。
この後アインズはどう行動し結果エルフ達をどう扱えばいいのか。それを聞きたいのだが真正面からは聞けない。
となれば方法は一つ。
知ったかぶりをしてデミウルゴスから語ってもらういつものやり方だ。
今回の場合はマーレに話を振るところからだ。
「ところでマーレよ。私たちはこれからエルフ達の蜂起を止めに行くわけだが実際に何をすべきか、そしてエルフ達をどう扱うべきか、分かるか?」
実に意地の悪い質問である。
マーレとユリは今回の作戦に付いて詳しくは聞いていない。アインズの指示に従うようにと言われているだけだ。
その上、突発的に起こった事態に対しどう行動すべきかなど知るはずもない。
「え、えっとすみません。アインズ様、僕よく分からなくて……」
「いや! 大丈夫だマーレ、元々これは全ての作戦を把握していないと分からないことだ。お前の責任ではない……デミウルゴス、説明を。マーレにも分かるように細かくな」
突然話を振られたせいか、いつも以上に恐縮するマーレにアインズの方が慌ててしまい、精神抑圧によって何とか平静を保ちながらデミウルゴスに話を振る。
本人は何も悪くないのにそんな態度を取らせてしまった自分に嫌悪感を抱くが今更取り消すこと出来ない。
後で何かで穴埋めをすることにしよう。
「畏まりましたアインズ様。良いかいマーレ、重要なのはエルフ達が君達
「は、はい!」
マーレの元気の良い返答にデミウルゴスは、よろしいとばかりに頷いた。
「今回アインズ様、もとい魔導王の宝石箱は皇帝に力を見せつけた。勿論すべてを見せたわけではないが現状でも帝国から見れば、店が王国に力を貸せばそれだけで現在の帝国の優位性がなくなるほどの力。今回の件が片づいた後皇帝は何とかして我々に近づこうとするだろうね。通常の交易等の正攻法だけではなく、いわゆる我々の弱みも握ろうとするはず」
「それがエルフと関係あるんですか?」
「勿論だとも。本来アインズ様達と関係ない奴隷のエルフをわざわざ助け出そうとすることにより、皇帝はそれをマーレ、君の近親種だから同情したのだと考えるだろう。その場合、皇帝はアインズ様にではなく君に近づこうとしてくるはずだよ。例えば帝国内にいる他の奴隷エルフを解放する代わりにアインズ様に内緒で、と前置きをして簡単な頼みごとをする。その後今度は後見人であるアインズ様に黙って行動したことを種にまた別の簡単な願いを頼み、そのままずるずると引きずり込む。まあこんな事を考えることだろう」
「僕が、アインズ様に黙って……ですか?」
土に水が染み込むようにジワジワと、マーレからドス黒い何かが滲み出る。
自分がそんなことをするはずない。という怒りだろう、ナザリック以外にはあまり興味を示さないマーレにしては珍しい明確な感情に、アインズは一度咳払いをしてマーレを正気に戻す。
「あ。し、失礼しました」
「構わないとも、マーレ。お前がそのような事をするとは勿論私は考えてもいない。だが人間とはそう言うものだ。それにいちいち腹を立てていては時間の無駄だ。利用してやろうぐらいに考えていればいい」
「そう。アインズ様の仰るとおりだよ。王国がアインズ様の踏み台となるべき足場を捧げる前に、皇帝が無理を押してアインズ様に接触されるのが一番面倒なのでね。マーレ。君には準備が済むまでその注意を引いていてもらいたい。皇帝が接触してきて頼み事をしてきたとしても先ずは私かアインズ様に話したまえ。どのような行動を取るべきか指示させてもらうよ」
「分かりました。その時は、よ、よろしくお願いします」
マーレがアインズとデミウルゴスの双方に頭を下げる。それを、うむ。と言うように偉そうに頷きつつも、その時はデミウルゴスに話すように誘導しようと心に決める。
「そしてもう一つ、こちらの方がより重要なのだが、今回蜂起したエルフ達は私が操り無理矢理蜂起させた。今頃そのことを後悔しながら館の中で震えていることだろう。何しろ今更投降しても、そのまま蜂起を続行しても未来は変わらないのだからね。だからこそ、そこを救ってやれば彼女たちは必ずやマーレ、君に。ひいてはアインズ様に忠誠を尽くすことだろう。王国で使っているセバスが助けた人間達のようにね」
淡々と語るデミウルゴスに、アインズもようやく何故デミウルゴスがエルフを助ける作戦を組み込んだのか理解した。
人員だ。
以前、セバスが八本指と揉めた際、娼婦達を実験に使用すべきと提案したデミウルゴスに対し、アインズはそれらを現地で働かせる店員として人材を確保するために必要だと話した。
実際はセバスがたっち・みーから受け継いだ正義を実行させる為の方便でしかなかったが、今のところ彼女たちは問題なく働いている。
今後帝国にも支店を出すなら帝国で働かせる人員が必要であり、デミウルゴスはそれにエルフ達を使用しようと考え、エルフを助けることで、命の恩人であり奴隷の立場から救い出してくれた恩義を感じさせるために、今この段階でのエルフ達を蜂起させたのだろう。
「その通り。現地に店を開くにあたってナザリックで用意するのが最も難しいモノ。それが現地で働かせる人員だ。よく覚えていたなデミウルゴス」
「アインズ様のお言葉を忘れることなどあり得ません。一言一句逃さず全て覚えております」
「そ、そうか。嬉しく思うぞ」
全てと言うところが恐ろしく、またデミウルゴスなら可能だと思わせる。
これまでアインズがノリで話した言葉も完全に暗記しているなら、これから先、もしかしたら今まで話した事と矛盾するような発言をしてしまうかも知れない。
今まで以上に発言には気をつけなくては。
「な、なるほど。じゃあ今回エルフを助けるのは、あの皇帝の人の注意を僕に引きつけることと、その人員? を確保するのが目的なんですね」
「その通りだ。あのハーフエルフが言っていた通り、マーレのその瞳を見ればエルフの懐柔も容易だろう」
「……瞳、ですか? アインズ様、それはいったい」
(そうか、デミウルゴスには話していなかったな。と言うかそもそも今回エルフのことなんて眼中になかったから、後で報告すれば良いと思ってたんだ。だがデミウルゴスの作戦を見抜いていたのならば本来は先に説明しておかなくてはならない話だ。仕方ない、やっぱりエルフの件は知りませんでしたと、正直に言うしか、いやその前に一応……)
「う、うむ。デミウルゴスには説明していなかったか。どうやらこの世界に存在するエルフ王族の特徴として左右の瞳の色が違う。というものがあるらしくてな。マーレとアウラの特徴が偶然にも一致しているようなのだ」
一度言葉を切り、デミウルゴスを窺う。
ふむ。というように口元に手を当て思案していたが、やがて何かに気づいたように顔を上げアインズを見る。
「なるほど。そう言うことですか。確かにそれならば他の手を使う必要がなくなりますね」
(やっぱり、いつもの奴だ! 今度は何を勘違いしたんだ)
内心ドキドキしながらその通りとばかりに頬杖を突いたまま頷く。
「あの、どういう事でしょう?」
更にいつも通り自分の代わりに他の者が疑問を投げかけてくれる。
これがいつもの流れになってしまっていることに危機感を覚えるが、他にやり方が思いつかないのだから仕方ない。
「うん。まだ先の話だが話しておこうか。先ほど言ったように王国がアインズ様に相応しい足場を作るまでには時間が掛かる。どの程度かは正直未知数だ。あの国の貴族連中は本物の愚者ばかりだからね、こちらの想定通りに踊ってくれるとは限らないのだよ。だからこそ先ほどマーレに頼んだ事以外にも時間を稼ぐ術を考えていたのだが、その情報を使うことで他の手を使うことなく、時間を稼げると言うことだよ。例えば帝国内にいる他の奴隷達にそれと無く情報を流せば、今度は自分達で大規模な反乱を起こさせることも可能だ。あくまで奴隷達が勝手にやったことならば皇帝も責められないだろうし内乱は時間稼ぎとしてとても有効だ。私の支配の呪言では一時的な反乱は起こせても長期的なものはやはり自分達で行動をとってもらわなければね。まあこれ以上は長期的な作戦となるのでその時になったら話すことにしよう。時間もありませんしね」
いや聞かせてくれよ。と叫びたい気持ちを抑え、アインズは頷きマーレを見る。
「わ、分かりました! 僕、頑張ります」
「その意気だとも。これも全てはアインズ様に宝石箱をお渡しするために必要な手順、共に協力していこうじゃないか」
守護者二人が向かい合い、頷き合う。
この組み合わせは珍しいが、NPC同士が仲が良いのはよいことだ。
アインズもついつい、微笑ましい気持ちを抱いてしまうが、もう一つ早急に確認しなくてはならなかった事を思い出す。
「時にデミウルゴス。エルフ達の件はそれでいいとして、その後帝城の奪還作戦についてだが、エルフそしてもう一つこちら側の戦力として貸し出すことになったデス・ナイト。この二つの要素を加えた上で、私の行動で変更すべき点はあるか? 私としての考えはあるが、先ほども言ったように今回はお前が主催する計画だ、先ずはお前の意見を聞いてから判断したい。私と同じ結論であればそれに越したことはないがな」
この後の大ざっぱな流れとしては、アインズが貸し出した戦力を使用し、突入部隊が雑魚悪魔を一掃。
もう少しで全ての悪魔を打ち倒せる段階になったところで、デミウルゴスが敵の首魁としてジルクニフの元に現れ、ピンチのところを護衛であるアインズが救い、同時にアインズの力を見せつける。
というのが今回の作戦概要だ。
勿論その際は適度に建物や道路などを破壊し帝国の国力を低下させる狙いもある。
そうなれば復興を手助けする名目で帝国に支店を進出しやすくなり、またアインズの力を皇帝に見せつけることで、武力による脅しなどが無意味であると言うことも悟らせるつもりだ。
先ほどデミウルゴスの言うジルクニフがマーレに近づくと予想しているのもそれが理由なのだろう。
真正面からは勝てないので別の手段を使ってこちらに近づこうとする。その際わざとマーレという隙を見せることで行動を読みやすくするつもりなのだ。
貸し出す戦力は特に決まっていなかったので、ここぞとばかりに初期の頃から考えていた、アンデッド貸し出し事業を進めようとデス・ナイトの貸し出しを決めたのだが、今更になってもしかしたら何か問題があるかも知れないと思い直し、こうして直接聞くことにした。
「本来アインズ様のお考えこそが、我らにとっての取るべき行動。ですが、アインズ様にそう仰って頂けるのであれば……まず、デス・ナイトは空への攻撃手段を持たないので悪魔の配置を変更し、空を飛べない者を中心に集めた部隊を編成しますので、デス・ナイトにはそちらに向かうよう指示を出して頂けますでしょうか?」
これはアインズも予測していた。
「勿論だ。面倒をかけるな」
やはりデス・ナイトではなく対空攻撃も可能なソウルイーターにした方が良かったかも知れない。と思ったがソウルイーターは範囲型の攻撃手段がメインなので帝国の兵にも損害を出しかねないと取りやめたのだ。
そんなアインズに、何を仰います。と大きく声を張った後、気を取り直すようにデミウルゴスは続ける。
「元々今回の首魁として私自らヤルダバオトと名乗り、アインズ様の引き立て役を務めさせて頂くつもりでしたが、今後私はマーレに指示を出し帝国の支店にも顔を出すつもりです。となると、幾ら姿を誤魔化そうと情報が漏れ出ないとも限りません。ここは私が魔将召喚のスキルで呼び出す魔将たちに代役を務めさせようと考えているのですが如何でしょうか?」
それもあったか。とアインズは今更ながら気がつく。
今回敵の首魁としてデミウルゴスが変装してアインズと戦う計画になっていたが、今後デミウルゴスが帝国にも出入りするとなれば、今回手に入れる予定の奴隷エルフ達から情報が漏れる危険性がある。と考えたのだ。
確かにそれはそうだ。
いつかアインズもセバスに忠告したが、やはりナザリック外の者は完全には信用出来ない。
買収されたり、脅されたり、操られたり、可能性は幾らでもある。
その可能性を潰した方が良い。と言っているのだろう。
「ヤルダバオト。という名は既に聖王国の亜人達を支配するために使用しておりますので、名はそのままに、魔将の方が真の姿ということにしようかと。とは言え悪魔は名に縛られるもの、魔将自らヤルダバオトを名乗ることは出来かねますので、側近として他の悪魔を配置しその者に名乗らせますので、それまでその悪魔には手を出さないでいただければ幸いです」
「うむ、それも問題ない。魔将はどれにする?」
デミウルゴスが五十時間に一度だけ使用出来る魔将召喚のスキルで召喚可能な魔将は数種類存在する。
どれもレベルで言えば八十台でアインズであれば本気で戦わなくても特に苦もなく倒せる程度だが、この世界基準で見れば最大級の敵と言える、以前からアインズがデミウルゴスに命じていた指令の一つとして誕生させる予定の魔王としての役割は十分に果たせることだろう。
「聖王国の亜人達は全体的に頭が悪く、魔法よりも肉体的な強さを持つものこそ強者と見る傾向にありますので、今後のことも踏まえ、アインズ様が問題なければ
魔法も使えるが基本的には物理攻撃がメインの戦士タイプで見た目も如何にも強大な悪魔と言った外見だ。
あれであれば問題ないだろう。
「構わん。どうやら私の考えは杞憂だったようだな。全てこちらの意見と一致しているようだ」
「アインズ様と同じ考えに至れましたこと。光栄に思います」
鷹揚に手を振りながら、アインズは片方だけとはいえデミウルゴスの考えと一致していた部分があっただけで少しは自分も成長しているのだろうとポジティブに考えることにした。
これで事前の準備は全て終わったので次でエルフ編を終わらせて、その後ようやく作戦の最終段階に入ることになります
思ったより長く掛かってしまいました