神の意思が俺をTSさせて百合ハーレムを企んでいる   作:とんこつラーメン

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「その『再世』を『破界』する」







第45話 銀の福音

「それでは、現状の説明を開始する」

 

旅館の最奥に設けられた宴会用の大座敷である『風花の間』では、私を初めとした全ての専用機持ちと先生達が一堂に会していた。

照明を落としているせいか室内は仄暗く、大型の空中投影用ディスプレイの明かりだけが唯一の光源だった。

 

「今から約2時間前、アメリカ・ハワイ沖にて試験稼働中だったアメリカとイスラエルが共同開発した第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が突如として軍の制御下を離れて暴走、監視空域から離脱をしたとの連絡が入った。猶、これより対象を『福音』と呼称するものとする」

 

千冬さんのいきなりの説明に私以外の全員が驚きを隠せないでいる。

一方の私は、原作知識から今回の事を予め知っていたから、皆ほどに驚きはないが、それでも緊張は隠しきれない。

なんせ、今回の戦いは今までとは全く意味合いが違う。

『闘い』ではなく『戦い』。

失敗すれば、それは即ち『死』を意味する。

これは模擬戦でもなければ公式戦でもない。

少しのミスが全員の命運を文字通り左右する。

 

目だけを動かして他の皆の様子を窺って見ると、案の定、全員が厳しい顔つきとなっていた。

国家に所属していない一夏と箒もそれは同じ…いや、きっと代表候補生の皆以上に緊張しているに違いない。

 

「空域からの離脱後、監視衛星による追撃の結果、福音はこの場所から約2キロ先の空域を通過する事が判明した。時間にすると約50分後と言った所か。学園上層部からの通達により、目標に最も近い我々が今回の事態に対処する事になった」

 

次に千冬さんの口から出てくるセリフは、なんとなく予想がついている。

 

「学園の教員達は持ってきている訓練機を使用して周辺空域及び海域の封鎖を行う。よって、今回の作戦は主に専用機持ちであるお前達にやってもらう事になる」

 

分かっていても、こうして実際に言われると……手に汗を握ってしまうな…。

 

「それでは、これより作戦会議を開始する。何か意見がある者は挙手をするように」

 

素面の私じゃ皆の会話についていけない。

ならばここは……ラファール・ヘッドギア…オン!

シャア様モードにチェンジゲッター!!

 

「では、まずは私から」

「仲森か。なんだ?」

「まずはターゲットとなるISの詳細なスペックデータの開示を要求する。相手の事を知らなければ作戦の立てようがない」

「道理だな。山田先生」

「了解しました」

 

奥の機器の前に座っている山田先生が操作すると、目の前のディスプレイにISのデータが表示された。

 

「分かっているとは思うが、これは二ヵ国の最重要軍事機密となる。決して口外などはしないように。もしも何らかの形で情報漏洩が判明した場合、お前達には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる事となる」

「承知した」

 

流石にそこまで馬鹿じゃないですよ。

でも、情報が大事なのは本当。

敵を知り、己を知れば百戦危うからず…だからね。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃タイプ……か」

「どうやら、私のティアーズと同様にオールレンジ攻撃が可能なようですわね」

「火力と機動力に全ての性能を割り振った機体…ね。これは想像以上に厄介な奴みたい。スペック上では私の甲龍を上回っているから、正面から相対するのは自殺行為に等しい…」

「それに、この『特殊武装』ってのが気になるね。丁度向こうから僕のリヴァイヴ用の防御パッケージが届いているけど、連続での防御は厳しいと思う…」

「それに、このデータでは格闘性能が完全に未知数だ。所持しているであろうスキルも全くの不明…」

「うん。私の『打鉄弐式』と同じで、この機体は最初から単機で複数の相手と戦う事を前提としてるみたい。下手に突っ込めば一網打尽になる可能性も否定出来ない…」

 

代表候補生の面々は普段は決して見せない真剣な表情で意見交換をしている。

私も少しだけ混ざったけど。

 

「回避する事に専念すれば、なんとか懐に潜り込めなくはないと思うけど…。さっきラウラが言った通り、格闘戦の能力が分からないからね……」

「この中で最も近接戦が得意なのは一夏だ。もしもこの福音とやらに近接戦の武装が無いのであれば、一夏を主軸に作戦が立てやすいのだが……」

 

くそ~……!

私が転生してから十数年が経過しているせいか、もう原作知識も大まかな部分しか思えてないよ~!

福音って近接戦闘が出来たっけ…?

それとも、近づかれたら逃げの一手だったっけ?

う~ん……思い出せ私~!!

 

「織斑先生。福音に対して偵察行動は出来ないのですか?」

「残念だが不可能だ。福音は現在進行形で超音速飛行を継続している。恐らく、アプローチは最初の一回が限界だと思われる」

「チャンスは一度だけ…。と言う事は、ここは綿密に作戦を考えないといけませんわね……」

 

今回は原作のように一夏の一撃離脱戦法が出来ない。

一夏の白式には零落白夜が搭載されていないからだ。

総合性能が向上しても、やっぱりどこかで弊害が出てしまうか…!

 

「まず前提として、全員で向かうのは当然よね」

「その際の指揮官は……」

 

ぜ…全員がこっちを見てらっしゃる……。

 

「ちょ…ちょっと待て!もしかして私もか!?」

「当然だ。専用機を受領してまだ間もないのは分かっているが、今は箒も立派な専用機持ちだ」

「今は少しでも戦力が欲しい。かと言って積極的に前に出て戦えとは言わない」

「箒は箒に出来ることを全力でやりなさい。いざとなったらあたし達がフォローするから」

「りょ…了解した……」

 

この中で最も経験が足りてないのは箒だからな。

緊張するなと言うのは酷な話だ。

 

「仲森、織斑、篠ノ之。お前達三人は専用機を所持しているとは言え、どこにも所属していない存在だ。故に、今回の作戦に参加するしないは自分達で決めろ」

「ここで参加しない事を選んでも、誰も文句を言ったりしませんよ?無理と無謀は似て非なる物ですから」

 

千冬さんと山田先生が優しい口調で言ってくる。

けど、私の中の答えはとっくの昔から決まっている。

 

「私は行く」

「佳織……」

「これまで何回も危ない橋は渡って来た。今更ここで待っている事など、私には出来ない」

「佳織さんなら、きっとそう言うと思ってましたわ」

 

どうせ、ここで断ってもあのクソ神が無理矢理にでも福音と戦わせようとすると思うけど。

 

「私も行くよ。もう佳織の帰りを待っているのは嫌だから」

「一夏……あんた……」

「同じ『苦しみ』でも、帰りを待って心が締め付けられるような『苦しみ』を味わうよりは、佳織と一緒に困難に立ち向かって苦しんだ方が何百倍もマシ」

「全く……お前と言う奴は……」

 

なんて言いながらも、少し微笑んでますよ、千冬さん。

 

「わ…私も一緒に行く!」

「箒……」

「もう……佳織が戦っている姿を見ているだけなのは嫌なんだ…。例え足手纏いであったとしても、私は佳織と同じ『場所』に立っていたい!」

「決意は……固いようだな」

 

結局、全員参加決定…っと。

ま、こうなるって予想はしてたけど。

 

「……分かった。ならば、全員参加を踏まえた上で作戦を具体的に詰めていくことにする。現在、この中で最も最高速度が出せる機体はどれになる?」

「多分、私のブルー・ティアーズかと。丁度イギリスから強襲用高機動パッケージである『ストライク・ガンナー』が送られてきてます。それに付随して超高感度ハイパーセンサーもついています」

「あの……パッケージ換装前提なら、佳織のリヴァイヴⅡも適任だと思います」

「と言うと?」

「さっき外でも言いましたけど、僕のリヴァイヴとは別に佳織の機体専用のパッケージが幾つか送られてきていて、その中に高機動戦闘用のパッケージも含まれているんです」

 

そういや、そんなのあったっけ。

分かりやすく解説するなら、MS-06SザクⅡをMS-06R-1A高機動型ザクⅡに換装するようなもんか。

確かにあれなら機動力は大幅に向上するだろうな。

 

「ふむ……オルコット、仲森。超音速下での訓練時間はどれぐらいだ?」

「私は約20時間ぐらいですわ」

「0だ」

「オルコットはともかく、仲森は当然か……」

 

そりゃそうですよ。

今まで縦横無尽に動いてはいたけど、それとこれとは全く別だし。

 

「だが、この状況で贅沢は言ってられないのもまた事実。仕方が無い、今回はまずオルコットと仲森に先陣を切らせて、二人を後ろから追従する形で他の連中が戦闘空域に接近する事になるか…」

 

あ…あれ?今ぐらいのタイミングで束さんがいきなり乱入してこなかったっけ?

こう……天井裏から突然……。

 

「……………」

 

来ないし。なんで?

 

「白式も機動力は高いけど、流石にパッケージ換装をした機体には劣っちゃうからね」

「それに、必要以上にスピードを上げたりしたら、それこそいざという時にエネルギー切れになって目も当てられないわよ」

「ここは大人しく後続になるとしよう」

 

原作ではこの事件の下手人は束さんだったみたいだった。

確か、箒の紅椿のお披露目をしようと企んでいたんだっけ。

でも、今回の紅椿は性能が抑えられているから、そんな事をする意味が無い。

 

(今回の事件……束さんは本当に関係無いのか…?)

 

だとしたら、一体何処のどいつがこんな事を……?

 

「オルコット。お前が先程言ったパッケージはもう量子変換(インストール)が完了しているのか?」

「いえ……まだですわ」

「どれぐらいかかる?」

「20分ぐらいあれば……」

「仲森の方はどうだ?」

「私もまだです」

「こっちも多分20分ぐらい掛かると思います。けど……」

「けど?なんだデュノア」

「他の誰かが手伝ってくれたら、もう少し時間が短縮出来ると思います」

「背に腹は代えられない…か。今いる生徒で最も整備スキルが高いのは……」

「それは勿論、ほっちゃんでしょ~!」

 

……天井から束さんの頭が逆さまの状態で生えてる。

つーか、このタイミングで来るんかい!!

 

「……山田先生。このバカを部屋の外に放り出してください」

「え…え?あ……はい」

 

ですよね。混乱しますよね。分かります。

 

「し…篠ノ之博士?まずはそこから降りて頂けると……」

「いいよ~。私だって、この状態じゃ頭に血が上っちゃうし」

 

だったら最初からそんな所に上るなよ。

 

「あらよっと」

 

クルリと一回転しながら降りてきた。……見事な着地ですこと。

何気にスカートの中が見えそうになった事は黙っておきます。

………白……か。意外とスタンダードなんだな。

 

「ちーちゃん。ここは私とほっちゃんがお手伝いしてあげるよ」

「布仏はとにかく、お前が……?」

「うん!私にかかればパッケージ換装なんてお茶の子さいさいなんだよ!」

 

お茶の子さいさいなんて言う人、久し振りに見た…。

 

「私なら20分と言わず5分で終わらせられるよ~」

 

5分とな。

随分と短縮出来るな。

束さんならそれぐらい楽勝か。

 

「それに、ほっちゃんの腕なら同じぐらいの時間で出来ると思うけど?」

「お前がそれ程にアイツを褒めるとはな…」

「言ったでしょ?彼女は充分に評価に値するって」

 

この束さんは本当にマイルドになってる…。

これも改変…なんだろうか?

 

「にしても、紅椿の全性能を発揮すれば作戦も楽になるのにな~」

「今更贅沢を言うな」

「は~い」

 

全性能……って事は、紅椿の全身に装備してある『展開装甲』も封印されているんだろう。

紅椿はアレがあって初めて真の性能を発揮出来るからな。

 

「ならば、布仏には私から言っておく。束、お前は仲森のリヴァイヴⅡを頼む。布仏にはオルコットの機体を頼むことにしよう」

「ほいほ~い。ほっちゃんには悪いけど、かおりんの機体なら全力でやっちゃうよ~!」

「くれぐれもやりすぎるなよ」

「保証はできませ~ん!」

 

いや、そこはしようよ。

 

「よし。ならば作戦は仲森とオルコットに先行して貰い、その後方から残りのメンバーが追従する形で目標を追跡、及び撃破を目的とする事とする。作戦開始時刻は今から30分後。各員は直ちに準備に掛かれ」

 

千冬さんが場を閉めるように手を叩くと、皆が立ち上がる。

 

「専用機持ちは自分の機体のチェックを怠るなよ。勿論、エネルギーは満タンにしておけ」

 

それだけを言って千冬さんは部屋を後にした。

多分、本音ちゃんを呼びに行ったんだろう。

 

「それじゃ、早速かおりんの機体の換装を始めようか。私に機体を預けてくれる?」

「分かりました」

 

ヘッドギアを収納してから、待機形態であるペンダントを渡す。

 

「すぐに終わるから待っててね~♡」

 

…スキップしながら出て行ったぞ…あの人。

 

「う~ん……んじゃ、私はどうしようか……」

「そ…それなら、私が高機動戦闘のレクチャーでもしましょうか?」

「おぉ~…お願いできます?」

「喜んで!」

 

山田先生の実力ならうってつけだ。

私は高機動戦闘の経験なんて全く無いから、ちゃんと聞いておかないと。

 

「ふ…不謹慎だと分かってはいますけど……」

「山田先生にしてやられた感じね……」

 

…なんで皆してこっちを見るの?

 

「ぼ…僕達も準備しよ?時間は余り無いし……」

「気持ちは分かるけど、今は行かないと」

「そうだな。急ぐぞ、お前達」

「う…うん……」

 

代表候補生の皆も渋々部屋を後にした。

 

「私達は……」

「姉さんの所に行くか?我々も機体の準備をしなくてはいけないだろうし」

「だね。佳織、私達も行くから。後でね」

「うん、分かった」

 

一夏と箒の二人も行ったか…。

 

「それじゃ、お願いします」

「はい。ではまず、高機動戦闘用に調整された超高感度ハイパーセンサーについて説明しますね。使用したら……」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 旅館のとある一室。 

浴衣を着た二人の少女が緑茶を飲みながら窓から見える景色を眺めていた。

 

「遂に始まりましたね。大佐」

「そうだな」

 

ズズズ……と茶を啜り、喉に流し込む。

風が吹き、彼女の金色の髪を美しく掻き乱していく。

 

「彼女達は無事に解決出来ると思うか?」

「普通なら非常に困難でしょうね」

「フフ……そうだな」

 

傍のある小さなテーブルに置かれた小皿の上から大福を一つとって口に入れる。

 

「……暴走して破壊の化身と化した哀れな機械天使に勝つことが出来るかな?仲森佳織…」

 

大福を飲み込んでから、再びお茶を飲む。

 

「苺大福と緑茶の組み合わせは最高だな……♡」

「大佐の仰る通りで」

 

意味深な発言をしながらも、無邪気に大福を頬張るその姿は、どこにでもいる普通の少女のようだった。

 

作戦開始まで、あと少し……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この世界における『赤い彗星』は仲森佳織。

だが、忘れてはならない。

宇宙世紀にはもう一人……自ら『赤い彗星』を名乗った人物がいた事を…。

佳織が『シャア』ならば、もう一人は……

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