神の意思が俺をTSさせて百合ハーレムを企んでいる 作:とんこつラーメン
今回は閑話的な話です。
波乱とも言うべき臨海学校から学園に帰ってきて、私を初めとした生徒達は疲れた様子で荷物を持ちながら学生寮へと向かっていく。
学園に到着したのは6時間目の授業が始まるぐらいの時間で、バスから降りた直後に校舎からチャイムが鳴った。
千冬さんが言うには、今日はもう寮に戻って休んでいいらしい。
その代わり、寮から出るなとは言われたけど。
まぁ……臨海学校から帰ってきたばかりとは言え、今日は平日。
ある意味、当然の事だった。
私と本音ちゃんも皆と一緒に荷物を持って寮の部屋に行こうとしたのだが、なんでか一夏と箒も一緒についてきた。
しかも、自分達の荷物とは別に私の荷物を持って。
「な…何故に?」
「織斑先生も言っていただろう。怪我人に無理はさせられんと」
「遠慮しないで、荷物は私が持ってあげるから」
「ここはお言葉に甘えた方がいいよ~」
「う~ん……」
確かにまだ体が痛いのは事実だけど、荷物を持てないぐらいじゃないんだけど……。
心配をしてくれるのは純粋に嬉しいんだけど、ちょっと過保護すぎじゃない?
「と…ところで……な…」
「どうしたの?」
「か…佳織と本音はその……もう……」
「そ…それは~……」
確かにヤったのは事実だけど、私と本音ちゃんが付き合っていると言われたら、正直疑問が生まれる。
私自身は本音ちゃんを親友以上に大切に思ってはいるけど、それ以上かと問われたら……。
「だいじょ~ぶ」
「「「え?」」」
ほ…本音ちゃん?
「私はかおりんも大好きだけど、同じぐらいに皆の事も好きだから。まだ
だ…大丈夫?何が?
「そ…そうなの…?」
「うん。だから、別に私の事は気にしなくてもいいよ?」
「わ…分かったよ」
……なんか、私の目の前で謎の協定が生まれた気がする。
「ちゃんと、後で他の皆にも言わないとね~」
「そう…だな。何も知らないままじゃ、これから先が気まずくなるだけだしな」
「しっかし……本音ちゃんは大人だな~…。私も少しは見習わないと」
「えへへ~…♡」
そりゃ~……あんな経験すれば、嫌でも精神的に大人にもなりますわな。
私から見ても、なんだか本音ちゃんが時々大人びて見えるし。
「お、着いた」
どうやら、話しながら歩いている間に部屋に着いたみたい。
「どうせなら、中まで運ぼう」
「いや、流石にそこまでは……」
「「「佳織(かおりん)?」」」
「……是非ともお願いします」
「「「よし」」」
この怪我が完治するまでは、下手に逆らわない方がいいな……。
因みに、この状態じゃお風呂には入れないから、本音ちゃんに濡れたタオルで体を拭いてもらった。
お互いに裸を見た仲ではあるけど、それでもまだ恥ずかしい事は変わらなかった。
……早く怪我を治して、一人でゆっくりとお風呂に入りたい……。
割と切実に。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
次の日。
私と本音ちゃんはいつものように起床し、途中で出会ったシャルロットとラウラの二人と一緒に食堂へと向かっていた。
「まだ痛む?」
「まぁね。でも、騒ぐほどじゃないよ。少なくとも、日常生活に支障が出るレベルじゃないから」
「けど、油断は禁物だよ。いつ傷口が開いたりするか分からないからね」
「りょーかい」
私だってそんなのは御免だ。
怪我が癒えるまでは細心の注意を払わせてもらうよ。
「昨夜はどうしたんだ?その状態では風呂には入れないだろう?」
「そう言えばそうだね。昨夜は二人とも大浴場には来なかったし。部屋のお風呂に入ったの?」
「本音ちゃんはね。でも、私はこの通りだから……」
「私が体を拭いてあげたのだ~」
「えぇっ!?」
ん?驚くような事かな?
因みに、今は保健の先生に貰っている予備の包帯を巻いている。
ずっと同じものを巻いているわけにはいかないからね。
「か…体を拭いたと言う事は…勿論……」
「シャ…シャルロット?顔が真っ赤になってるよ?」
「ふふ~♡デュノッちはエッチだねぇ~」
「ほ…本音!?いきなり何を言い出すのさ!?」
朝っぱらから元気ですねぇ~。
羨ましい限りだよ。
「下手に入浴なんかしたら却って怪我が悪化する可能性もあるしな。ナイス判断だ、本音」
「わ~い!ラウラウに褒められた~!」
多分、ラウラは純粋であるが故に何も分かってないな。
でも、こんな子ほど暴走したらどうなるか分からないんだよね~。
ブレーキが効かなくなるから、真っ直ぐに突き進むって言うか、猪突猛進って言うか。
「ま、今は少しでも沢山食べて、少しでも血を取り戻さないと」
「あはは……割と派手に出血してたしね……」
そうそう、あの福音の事件はアメリカやイスラエルの軍部がIS委員会と一緒に隠蔽工作をして、事件自体が無かったことにされている。
勿論、実際に作戦に参加した私達や先生達にも箝口令が敷かれた。
もしも話したりしたら……推して知るべしである。
「ちょ…ちょっとそこ!待つっス!」
「「「「ん?」」」」
廊下に響くいきなりの大声。
誰かと想い振り向くと、そこには息を切らせたフォルテ先輩がいた。
「お~い、フォルテ~。さっきから何を焦って……」
あ、後ろからダリル先輩も来た。
けど、彼女の声を無視するようにフォルテ先輩はこっちに近づいてきた。
「い…一年の子達が君が大怪我をしたって噂してたけど……」
「あぁ~…」
もう広まってるんだ~…。
ほんと、閉鎖社会だと情報の広まりが早いわ。
前にも同じ事を言った気がするけど。
「こ…この人は?」
「確か、2年のフォルテ・サファイア先輩だ。ギリシャの代表候補生だと聞いているが」
そっか、他の皆はまだ会ったことが無かったっけ。
「そ…その手……それに頭も……足まで……」
震える手で私の手を握りしめる。
私の手は包帯でぐるぐる巻きになっていて、まるでムエタイの選手がしているテーピングみたいになっている。
「君って子は……少しは自分を大切にするっスよ!」
「は…はい!?」
怒られた!?なんで!?
「佳織ちゃんは女の子なんスよ!?こんな風に体を痛めちゃダメじゃないっスか!ただでさえ佳織ちゃんは無理をしがちなのに、これ以上怪我をしてどうするんスか!?」
「ご…ごめんなさい…?」
「疑問形じゃダメっス!」
「は…はい!すいませんでした!」
うぅ~……なんか怖いんですけど~!?
「フォルテ、そんなに騒ぐなよ。皆が見てるじゃねぇか」
「え……?」
動きを止めて周りを見てみると、廊下にいる全ての生徒がこっちに注目している。
フォルテ先輩も恥ずかしそうにしているけど、私だって恥ずかしいんですよ!?
「み…見るなっス~!!」
フォルテ先輩の精一杯の声で、止まっていたやじ馬達は再び動き出した。
「にしても…『佳織ちゃん』ねぇ~?」
「な…何っスか。意味深に言って…」
「いやね。なんだかんだ言って、お前も佳織の事が心配だったんだな~って思って」
「わ…私は……!」
さっき以上に顔が真っ赤になったし。
「あまりからかっちゃダメですよ」
「ははは!別にいいんだよ、これぐらい」
いつもみたいに笑ってるけど、それだけ気心が知れた仲って事なのかな?
「けどな、フォルテじゃねぇけど、オレだってお前の事はかなり心配してたんだぜ?」
「え?」
ダリル先輩が私の頭を撫でながら、耳に顔を近づけた。
そして、周囲に聞こえないように小声で話しだす。
「こう見えてもオレってアメリカの代表候補生だからさ、今回の事件の顛末とかはそれなりに知らされてるんだわ」
そう言えばそうだった…。
直接事件に関わっていなくても、代表候補生ってだけで知らされるもんなのか…。
国の名を背負うって本当に大変なんだな…。
「だから、お前の怪我の原因とかも全部知ってるわけ」
「そ…そうですか…」
「……あんま無茶とかすんなよ。自分の事を苛めたって何にも得はねぇぞ?」
「……はい」
この人にも心配を掛けさせたみたい…。
急に自分が不甲斐なく感じるよ…。
私が密かに落ち込んでいると、ダリル先輩は顔を元の位置に戻した。
「何か困った事があったりしたら、いつでも来い。佳織の為なら喜んで力になってやるからよ」
「あ…ありがとうございます…」
粗暴なイメージがあるダリル先輩だけど、この人自身はすっごい美人だから、こうした微笑みってかなり絵になるんだよな…。
こんな顔を見せられたら……ちょっと照れる。
「って!なに二人していい雰囲気になってるんスか!」
「おや~?それは佳織とイチャついてるオレに嫉妬してんのか?それとも、オレと仲良くしている佳織に嫉妬してんのか?」
「そ…それは~……」
「ほれほれ、白状しちまえ」
「し…知らないっスよ!もう!」
我慢の限界に来たのか、フォルテ先輩はこの場から去って食堂に向かおうとする。
けど、なんで私の手を掴んでるの?
「ほら!佳織ちゃんも、他の子も、ダリルもさっさと来るっスよ!食べる時間が無くなっちゃうっス!」
「ちょ…ちょっと!?」
フォルテ先輩は私と手を繋いだ状態で早歩きで食堂に向かう。
「……なに?あれ……」
「分からん……」
「やっぱり…かおりんは年上キラーなんだね……」
皆~!?一緒に来ないの~!?
「あはははは!色々と文句を言いつつも、結局はフォルテも佳織の事が好きなんじゃねぇか!」
「そんな事は無いっス!」
「それ、本人の目の前で言います?」
「あっ!?別に君の事が嫌いって訳じゃなくて……」
急に焦りだす先輩。
なにこの可愛い生き物。
「ほれほれ!オレ達も行くぞ!後輩共!」
「「「は…はぁ…」」」
こうして、私達は朝食を先輩二人と一緒に食べる事になった。
いつもとは違うメンバーでの食事だったので、普段よりも新鮮な気がした。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
朝のホームルームにて期末テストの事を聞かされて教室中が阿鼻叫喚に包まれて、今日の授業が始まった。
今日はISに関する授業が一切無い、所謂『通常授業』の日だ。
このIS学園は通常の高校とは少し違う。
世間的に言えば、専門学校に近いんだと思う。
だからだろうか、こんな風な授業は本当に久し振りだ。
今までも通常授業が無かったわけじゃないけど、回数は極端に少ない。
やっぱり、ISの授業が優先される事が多いみたい。
午前の授業が終了し、昼食を食べた後に一人でトイレに行って教室に戻ろうとしていると、途中でプリントの束を持って歩いている山田先生と遭遇した。
小柄な体にかなりの量を持っていた為、なんだか大変そうに見えた。
重さに困っていると言うよりも、持ちにくさで困っているようだった。
副担任のそんな姿を見せられて、何もしない
「山田先生。一緒に持ちますよ」
「な…仲森さん?」
山田先生が持っているプリントの上半分を持って一緒に歩く。
「だ…大丈夫ですよ!これでも鍛えてますから!」
「でも、困ってましたよね?」
「うぅ……」
「最近はすっかり忘れがちですけど、私は一組のクラス代表です。困っている副担任を放置なんて出来ません」
「仲森さん……♡」
山田先生の目がウルウルし始めた。
目にゴミでも入ったかな?
「何処に持っていくんですか?」
「あ…職員室です」
「分かりました」
このプリントも授業で使うのかな?
だとしたら、見ないように気を付けないと。
「仲森さん。お怪我の具合はどうですか?」
「日常生活に支障は無いぐらいには大丈夫です」
「で…でも、無茶はダメですからね?」
「ふふ……そのセリフは皆から散々と言われました」
耳にタコが出来る…って言うんだっけ?こう言うの。
歩幅のせいで私が少しだけ前に出る。
それから私達は黙ったまま廊下を歩いて行く。
「…………佳織さん」
「え?」
今……名前で呼ばれた?
「山田先s…」
後ろを振り向こうとすると、先生が背中に頭を押し付けてきた。
「お願いですから……もう……いなくならないで……」
「先生……?」
泣いてる……の?
「貴女が撃墜されたと知った時……胸が締め付けられるように苦しくて…悲しくて……」
「…………」
この人は……本当に優しい人だな。
彼女にとって私は学園の一生徒にしか過ぎない筈なのに、その一生徒の為に涙を流せる。
それはとても素晴らしい事だと思うし、この人の最大の美徳だと思う。
「佳織さんが生きて戻って来てくれた時、凄く嬉しかったんです……」
「そう……ですか……」
先生を泣かせるなんて…私はダメな生徒だな。
これまでの戦いで、私はどれだけ、この優しい人を悲しませたんだろう。
「だから……もう……」
「はい……」
山田先生の言葉と想いが心に響いて、私はこれしか言えなかった。
「心配してくれて……ありがとうございます……真耶さん」
「佳織さん……?」
「…行きましょうか?早く行かないと昼休みが終わっちゃいます」
「ぐす……はい!」
涙を拭った後、私達は再び歩き出した。
職員室に行くまでの間、私達は色んな事を話した。
生徒と教師の何気ない会話。
だけど、今の私にはこれが何よりも楽しい時間だった。
そして、私は心の中である決意を固めていた。
もう……流されるのは御免だ。
私は……強くなる。
いや、強くなりたい。だから……
5200字ジャスト。
今回は山田先生&ダリル・フォルテ組の話でした。
じゃあ、次回は……?