俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

10 / 29
いつも誤字報告ありがとうございます!
見直したつもりでも誤字減らず、本当に助かってます!


パパと呼んで

[ヒーロー名]

 

「くはははっ‼」

「ちがうよ‼くはははははははっ‼だよっ」

「違うぞ幼子よ。俺が来たと知らしめるように、口角を上げ笑うといい・・・クハハハハハハハハハハッ‼」

 

全力で防犯ブザーを鳴らされている幼馴染みの姿を朝から見つけてしまった。

どうだガキども、近くで見ると完全に不審者だろソイツ。

 

 

 

 

どうも昨日の体育祭の映像をテレビで見ていた者は多かったようだ。

たまたま・・・偶然、朝ばったりと出会ったためにコイツと歩くはめとなったが、これまで何度も声をかけられている。

だいたいはコイツに対する称賛で、次に多いのが同年代の女子による俺たちの関係性の追求だ。

こういう奴らは中学のころからいたため気にもならず、あの時の映像の事でからかってくる奴には殺気を送りつけてやる。

あれは酸欠とスタミナ切れで意識がもうろうとしたためおきた事故であって、なんの意思も絡んでいやしねぇ。

 

それに、唇が直接触れた感触も無ければテレビの映像でも触れた様子は映っていなかった。

だからあれはただの頭突きだった、ただそれだけ。

流れるデマに苛立ちながら、デクが開けた教室の扉から入り

 

 

 

 

「オイ見てみろよ! 観客がとった写真らしいがコレ完全に唇が――――」「あああああぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

何かの紙を手に持ち、クラスメイトの中心にいた上鳴の後頭部へ右膝を打ち込む。

ほどほどの怪我を負うようになんとか手加減はした。それよりも、と写真を見て―――――

 

 

瞬時に爆破ッ。

・・・端だけ。

 

再度見る。

再び少し爆破。

見つめる。

これは・・・だが、

 

「なんだよバクゴッパイ。そんなに自分のキスシーンが――――――」「あああああぁぁぁぁぁ‼」

 

聞こえた声に対し、反射的に手の中の物を爆破しちまった。あとに残ったのは消し炭と、そしてなんだか妙な悲しさ。

 

「あとお前、なんで急にスカート短くして―――――」

 

声も出なかった。鈍感なアイツはスカートに気付いていなかっただろうが、いまの言葉は確かに聞こえたに違いない。

少し高いその顔を見上げれば、スカートを見ていて慌てて上がってきた視線とぶつかって―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこんな死屍累々なの」

相澤がクラスを見渡して、最初に出た感想はそれだった。

普段であればチャイムと同時にしっかり席についているはずだが、白目をむいた上鳴は雑に椅子に座らされており、峰田は同じように雑に座らされたうえに頭部のモギモギが千切られ、断面が生えない様に焼かれ不気味に痙攣している。

その近くでは、あの爆豪が机に突っ伏しておりその周りをクラスメイトの女性陣が固めて思い思いの励ましをかけている。

そして、普段であればこの状態にたいして黙っているはずのない飯田が、まるで気付いていないかのように机を見つめていて――――

 

 

 

 

「・・・・・というわけで、今日はコードネーム『ヒーロー名の考案』をするぞ」

 

このまま始めるのかよ、と切島は思わず叫びそうになるがギリギリで踏み止まる。

改めて考えるとどう考えてもこの状況、簡単に収拾はつかないのだから自然に収まるのを待つのも得策なのかもしれないと考えなおして

 

「先日の体育祭を踏まえてプロからのドラフト指名が届いている。まあ、これは興味の段階で、もし興味が薄れたら卒業までにキャンセルも当然あり得る」

 

「で、指名が大まかにこんな感じなんだが・・・まあ派手さもあってかけっこう片寄ったな。緑谷4096、轟4017、爆豪3922、常闇1941であとはまあ三桁、二桁、一桁と」

 

「この候補の中から職場体験に行ってもらう。そのためのヒーロー名でもあり」

「同時に世間に認知されるためにとても大切なものでもあるのよ。だから皆、慎重につけること‼」

 

突如入ってきたミットナイトの気配に、まずは峰田がビクリと体を起こす。

当然、激痛に悶えはじめるが心配するものは誰もおらず。

 

「名は体を表す。将来のイメージを固めるためにもしっかり考えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

15分後。最初は大喜利のようなヒーローネームがあがっていたものの、カエル少女フロッピーのおかげで空気はなんとか修正された。

それぞれ個性的なヒーロー名が続々と出る中で、跳び起きた上鳴があわてて爆豪へ謝ったり、轟が

 

「〈ショーコ〉でいい」

「名前!!?いいの!?」

「苗字は緑谷に変わる予定だから、世間が混乱するとまずい」

「えぇー・・・」

 

ギャグなのか分からない事を言い始める一コマが有ったりしたが、残るは三人。

話しかけにくい雰囲気の飯田と、顔を伏せた爆豪。

 

「・・・爆砕鬼」

「それは誰が聞いてもヴィランの名前だと思うわね」

 

 

そして、クラスの視線が集まるのはいろいろな意味で目立つ彼。

無言で動きを止めていた彼が、ようやくゆっくりとペンを動かす。

 

「やっぱり復讐鬼とか、エドモンとかか緑谷?」

思い当たる候補を切島が聞いてみるが、本人は小さく首を振る。

 

「それは・・・俺を表す言葉では無い。彼だけのものだ」

 

先日のオールマイトの言葉で、緑谷 出久は考えていた。

この力はどうして自分に生まれたのだろうか。

そして、これからの自分の夢を表す名前は何が良いのだろうかと。

 

 

 

 

(人の歴史は受け継がれて、今に繋がる。過去に名前も知らない誰かが歴史をつないで、今ここに俺-ぼく-が居る。なら・・・)

 

 

 

 

「―――――〈コネクト〉。過去の英雄が繋いだバトンを、俺が受け継ぎ・・・そして次の世代へ繋ぐ。それが俺の今の想いだ」

 

ありきたりかもしれない。

ただの場つなぎヒーローみたいな名前だな、と取られかねないのも分かっている。でも

 

「いいな、それ‼緑谷らしいんじゃねぇか」

「そうですわね。攻撃に向いた個性ばかり注目されていますが、意外と温和な行動はクラスを繋ぐ役割も担っています」

 

(切島君っ、八百万さん・・・‼)

この鉄面皮でなければ確実に目からスプラッシュしていた。

 

そしてその後ろ。

クラスの皆が好意的に、だが少し茶化すように緑谷に話しかける中で

 

 

 

飯田だけが、じっと静かに机を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[職場体験]

 

「――――で、グラントリノって奴の事務所はここか? どう見ても廃墟じゃねぇか‼」

「オーファリアマイト神父の書いた住所が正しければここだ。何にせよ、確認しなければ真実は謎のままだ」

 

 

 

あのヒーロー名を決めた日。僕とかっちゃんはオールマイトに呼ばれた。

オールマイトが口にしたのは、相澤先生からも説明のあった職場体験、その推薦についてで。

『緑谷君の移動手段は不思議な力の噴出だよね。それなら私の担任だった方が同じような個性でね、きっと君の力の制御のためになるはずだよ。・・・かなりキツイけど』

『俺は、なんで呼ばれたんだ』

『その方が爆豪君もぜひってね。今後、誰かの隣に居たいなら教えられることがある。そう言ってらっしゃった』

なんだかオールマイトらしくない、どこか怯えた様子であったことは気になるが・・・オールマイトの先生と聞いて興奮しない訳が無い。

すぐさま頷いて了承し――――

 

 

 

 

 

 

 

改めて、廃墟のような建物に付いたドアノブを捻り、勢いよくドアを開ければ

――――視界に入るのは赤い何かとその中心に倒れる小さな人影。

思わず、一歩後ろへ後退し

 

 

 

「生きとる‼」

 

ガバリと起き上がったその老人の姿にかっちゃんの大きな舌打ちが響いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は今、その老人-グラントリノ-の足によって地面に縫い付けられていた。

100%の状態を表すように全身からは紫電が舞い散り、力もスピードも明らかにグラントリノに勝っているのに、何度足掻いても気付けばその足の下に居る。

 

「アイツから個性の特徴は聞いておる。確かに力の制御は出来ていない。その原因はいくつかあるが。まず、単純に目が追いついていない。目を閉じながら全力で走ってるようなもんだァな。数日間俺の動きに慣れれば、アレだ60%とやらは制御できるだろうさ」

 

次にちらりと視線を向けた先には、壁にもたれかかり先ほど蹴られた腹部を押さえながらグラントリノを睨むかっちゃんの姿。

 

「嬢ちゃんの方は逆だな。目も反応も良すぎてそれ以外がおろそかだ。小僧ぐらい小賢しく考えて予測した方がその反応の速さも生かせるだろうよ。コイツと俺の動きを見て、その先を予測し続けろ」

 

 

 

じゃあ、後片付けはお願いね、と笑いながら出ていったグラントリノを爆散させるために駆け出そうとするかっちゃんを羽交い締めにするのが一番大変だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日目。

俺はクソデクとスーパーに夕飯の買い出しに出ていた。

泊まるホテルは部屋は当然違うが一緒で、食事はあのジジイの家で食べるようになっている。

いつもの制服で出てきたが、隣のデクがすでに目立っているためよけいに視線を集めている気がする。

「しかし、適切な指導と言えるだろう。合理的とも言っていい。確実に体の手綱を握れてきている」

「俺はテメェ等の動きを見て、たまに参加するだけじゃねぇか。クソつまらねぇ」

だが、確かに頭に考える癖がつき始めているのも事実だ。

 

たまに入る手合わせも、見る前に手がすでに相手を捉えている事が増えている。

腹立たしいが、確実に戦いの中での選択肢が増えているのを感じている状態で。

 

「おい、そっちはスジが多い。それも脂身が多すぎるだろうが。・・・コレと、コレだ」

 

なぜか微妙な肉ばかり選ぶヤツにため息をつき、良さそうな物を選ぶ。

ついでに野菜と、明日の朝食用に卵も買ってスーパーを出る。

 

 

さりげなく、大きいほうの買い物袋を取られたため軽くにらみながら小さいほうの袋を持ちヤツの横を歩きはじめて

「家では料理をするのか、メルセデス」

「あ? うちのババァがうるせえからやってるだけだ、そんなに大したモノは作れねぇよ」

 

なにがいつか男の胃袋を掴む時が来るから、だあのクソババァ。

んな時は一生来ねぇよ。

 

「良い妻になりそうだな」

 

BOOM! と買い物袋を持つ右手と反対、左手の中で小さく爆発が起きる。

誰がテメェの妻になんかなるか、クソデク。

急に何を言い始めたかと思えば、訳わかんねぇこと言いやがって。

 

「・・・死ねッ」

 

思ったよりも声は出ず、それを掻き消すように帰り道に小さな爆発音が響き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日目。唐突に、グラントリノが僕たちにヴィラン退治に行くと告げた。

職場見学である以上、付いて行く形になるのは当然で

「で、行き先はどこだよ?」

「夜の渋谷だ。小競り合いが多くていい経験になる」

「んな楽しそうに言う話じゃねぇだろうが。・・・おいクソデク、スマホ光ってんぞ」

渋谷へ向かう新幹線の中で、二人の話を聞いていればかっちゃんに言われて初めてメッセージが来ている事に気付く。

 

相手は、麗日さん。内容は

 

(飯田君と連絡がとれない・・・?たしか、飯田君の職場見学先は――――)

そこまで考えた所で

 

 

 

 

 

 

 

破砕音と、甲高い悲鳴が辺りに響き渡る。

反射的に横に座るかっちゃんの体を支えながら、音源に目を向ければ

ヒーローと思われるコスチュームの男性が、なぎ倒された椅子にもたれるように倒れている光景が見えた。

だが、重要なのはその彼の目の前。

新幹線の側面、突き破られたかのようにぽっかりと空いた穴に手をかけているのは確かに以前見たことのある脳を剥きだしたような独特のフォルム。

 

気味が悪いほどに細い四肢など以前みた存在とは違う点はあるものの、アレは

 

「脳無ッ・・・。他にもあのような姿にされた者が居たとはな」

「知ってんのか、小僧!!? まあいい、お前らはここに居ろッ‼」

 

グッ、と膝を曲げたグラントリノが弾丸の様に脳無の体へと突き刺さり、そのまま新幹線の外へと押し戻す。

「ッ、居ろって言われて黙ってられるかよ。見てみろ、デク・・・何が起きてんだ、こりゃ」

 

あのかっちゃんが、困惑するのも分かる。

大穴から見える外の景色は、昼間なのに赤く染まり町のあちこちで火の手が上がっている。

だが、それだけじゃない。

 

「破砕音に、怒号。何者かが暴れているな。・・・メルセデスよ、俺は引っかかることが」

「・・・あぁ!!? さっきの電話が関係してんだろ。テメェだけじゃ道すらまともに聞けねえだろ不審者‼行くなら早く行くぞ‼」

 

駆けだそうとした肩を、ガシリとかっちゃんに掴まれる。

完全に動きを先読みされているのは、グラントリノの指導のおかげだろうか。

 

 

 

「・・・俊足のランサーが、兄の敵であるバーサーカーを追っている可能性が高い。この異常事態だ、無関係とは到底思えん」

「あのメガネ野郎、ヒーロー殺しを追ってやがったのか。・・・で、テメェはそれを見つけてどうすんだよ。私怨で動いてる奴なんてまともに説得に応じるとは思えねえが」

「止める。どれだけ俺を恨もうが知った事か。友が犯罪者として裁かれる方が俺にとって最上の苦痛だ」

 

絶対に、止める。

かっちゃんが、こちらの顔をまじまじと見つめて・・・すぐに大きくため息をつく。

「なら急げ。オラ、さっさとあそこから行くぞ」

 

大穴を指さし、やはりついてくるつもりのかっちゃん。

昔から決めたことを曲げたことは無いのだ。それに時間も惜しい。

 

 

「――――ああ、時は俺たちの歩みを待ってはくれない。故に」

「っ、テメェ何して・・・‼?」

 

かっちゃんを抱きかかえて、大穴から飛び出す。

背中から力を噴出し、一気にトップスピードへ乗ってしまえば急に静かになった幼馴染を気にしながら近くのビルの屋上へとまずは駆け上って

 

 

 

 

 

 

 

 

(『ん? ・・・おおっと! ようやく流していた一部がつながった! あのダンテス君の検閲を潜り抜けるために数千のダミーを流した涙ぐましい努力が実をむすんだようだネ。・・・まぁそれはさておきっ、キミに少しばかり耳寄りな提案があるのだよ』)

 

いつも嫌なタイミングであまり役に立たない情報をくれるおじさんの声が脳裏に響いた。

 

(『意外と辛口だねキミ? ・・・コホンッ、とにかく提案だ。キミが接続内の余剰スペースから技術を受け取っていた時に私は良い事を思いついてネ。技術は知識。つまり私のこの犯罪者心理学の知識や無数の犯罪データや、あとオマケに思考もキミは取り込めるのではないカナ? それがあれば君の友達を助ける事に()役立つと思うんだが』)

 

どうだろうかと、聞く声からは悪意は感じないし特にこちらにデメリットがある訳でもない。

 

確かに助かるけど、少し気になる。

そんな知識があるってことはこの人は探偵か何かなのだろうか。

 

 

 

 

 

「(はっはっは‼・・・あぁ・・・とても近くとても遠いモノだよ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒーロー殺し、ステインは足と刀で地面に縫い付けている子供への興味が急激に薄らいでいくのを感じていた。

先に一人の贋物〈ニセモノ〉にとどめを刺そうとしていた己のみを見つめ、怨嗟の言葉を吐き続ける姿はまさにヒーロー社会が偽物を生み続けているという証明でしかない。

 

「兄さんは多くの人を助け導いてきた・・立派なヒーローなんだ‼」

(故に、お前のような勘違いした贋物が生まれ続ける)

 

「僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローなんだ‼」

(お前の存在が、お前を作り出した奴の罪を浮き彫りにする。その証明が――――)

 

「殺してやるッ‼」「あいつをまず助けろよ」

(不殺。ヒーローの原則すら守れない形だけの贋物)

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな。目先の憎しみに捉われ私欲を満たそうなど、ヒーローから最も遠い行いだ・・・ハァ・・・」

(やはり、誰かが正さなければならない。この歪んだ世界を)

 

刀を抜き取り、付着した血液を舐めとる。

個性〈血液凝固〉により体の動きを奪われた足元の存在へ突き刺すため、その頭部へとゆっくりと確実に狙いを合わせる。

 

「じゃあな、正しき社会への供物」

「黙れ‼」

未だ生き汚い存在に眉をひそめ構わず刀を地面へ突き出す。

 

「・・・黙れ‼何を言ったってお前は兄を傷つけた犯罪者だ‼」

 

その頭部へ、髪へ刃先が触れて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――イヤイヤ全くその通りだよキミィ。下手なりに論点をずらしちゃいるけど、犯罪者なのは事実だよネー」

 

全身に、震えが走った。

振り下ろした筈の右手が止まり、まるで蜘蛛の糸に絡めとられたかの様に全身が硬直する。

 

「・・・何モノだ? その気配・・・ハァ・・・ヒーローではないな」

 

薄暗い路地裏の先から、カツッカツッと硬質な物で地面を突く様な音が近づいてくる。

同時に、全身に纏わりつく怖気が走るような感覚も増し――――

 

「・・・そう身構えず安心したまえ! ただのちょい悪のアラフィ・・・・ピチピチのティーンエイジャーだよ私は!」

 

見えたのは、前髪をかき上げたような髪型の眼鏡をかけた少年。

その左手には鉛色の杖を携えている。

背後に目つきの悪い女もついてきているが、この気配はあの少年で間違いない。

刀をゆっくりと上げ、足元の贋物を壁際へと蹴り飛ばす。

苦悶の声を上げるそれを人質などにするつもりは無いが、とどめを刺そうとすれば目の前のコイツが何をするか分からない。

それほどに、得体のしれない

 

 

 

「―――――ふむ、拘束系のコセイだねキミ。可哀想に、痛みに悶える人体の正常な反応すら出来てないじゃないか。それと、彼をずいぶんと嫌っていたようだが、その刀には一部血が拭き取られたような跡があるね。ケガ一つ無さそうなキミの口には血がついているし・・・嫌いな相手の血を舐めるなんておかしいナー」

 

(コイツは――――ッ)

 

短刀を放つ。

頭部ではなく確実に当てるため人体のど真ん中に1本。

同時に走り出し、3度フェイントをかけて刀を振りかぶり――――

 

「太刀筋はさらにフェイントを加えて左から右斜め上だね。躱されても返す刀で頭部を狙う・・・。イヤイヤ‼実に洗練されていて理に適いすぎているネ‼」

 

くるりと回した杖がナイフの側面を撫でるように弾き飛ばすのが見えた。

合計4度のフェイントを交えた斬撃は、杖の持ち手に引っ掛けるようにして巻き取られ、刀は少年の後方へ弾き飛ばされてしまう。

 

「あと、先輩として言いたいんだが犯行現場はもう少しひねった方がいい。路地裏での6割の犯行は本命で、残りは路地裏から意識を逸らす意図と、アピールの為に見つかりやすい場所で犯行を行う。これじゃその他の場所でヤッちゃった次は静かな路地裏でやりますと言っているようなものだよキミ。後は外で暴れてる奴らが騒いでくれてるから、それでも人が来ない場所を絞って探せばいい」

 

 

強く舌打ちし、改めて距離を取る。

意図が読めない。なぜ攻撃をしてこない。

そもそもコイツは何をしに来た。

 

「・・・解せんな。お前のような人間がこの場へ来る理由が無い」

 

「何しろ契約だからネ。ほっほっほ、だいぶ端折ったけど思考を流し込んで意思を乗っ取る代わりにキミの友達を助ける知識をあげよう、という両者合意の上のホワイトな大人の契約だ」

 

「・・・なに? それはどう―――――」

 

閃光、そして爆発音。

ヤツがまた何かをしたのかと身構え、肩に差したサバイバルナイフを抜き取り目を細め

 

 

「オイ。・・・今のはどういう意味だ? 思考をトレースしているだけじゃなかったのか・・・」

「あー・・・実際になぞってる訳だし、トレースするのが誰かなんて聞かれなかったから―――――」

 

少女の拳が、少年の頬へと叩きつけられ同時に爆炎があがる。

 

「オイオイ、キミのボーイフレンドの体じゃないか‼大事にしなきゃいけないと私は思うナー!!?」

 

バランスを崩し、壁際に背中を着けた少年が先ほどまでの気配が嘘のように顔を青ざめさせる。

それでも、無言で詰め寄った少女が容赦なく左右フック、ボディブロー、下がった頭部へと膝蹴り。跳ね上がった顔面へを爆破を加えていけば次第に体から力が抜けていき

 

「・・・返せ。・・・俺の出久を早く、返せ」

「ふむ。・・・だが契約が――――」

 

俯いていた少女が顔を上げる。

その両眼からは涙が流れ落ち、口元は強く噛み締められている。

 

が、

 

(下らん。事情は分からんが・・・あの少年の気配からして、中に居るものは生まれながらのヴィラン。情に訴えかけるなど何の意味もない)

 

虚を突かれたように目を開けた少年が、じっと少女の顔を見つめる。

まるで、すでに解いていた筈の計算の答えの間違いを知らされた時のように。

その式が、自らの全く知らない式だったかのような、そんな

 

 

 

 

「・・・少しばかり計算外だった。キミは確かに涙を溜める姿は見せていたが、人前で恥も外聞もなく涙を流すタイプには見えなかったが」

 

少年の口元が、弧を描くように少し笑ったように見えた。

 

 

 

 

「ならばキミも契約するといい。対価として彼を返そうじゃないか‼」

「っ、・・・構わねえ。悪魔みてえなテメェなら、寿命でも持っていくか・・・!!? 構わねえから、アイツを」

 

(交渉に持ち込んだか。抜け目のない奴だ、あの少女から暴利な対価をもらい結局は奴が一人勝ちをするシステム。あとは見るまでもない。油断しているうちにこの茶番を―――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では〈パパ、私の好きな人を助けて‼〉と思春期の気難しい娘が久しぶりに助けを求めてきたかのように言ってもらおう‼」

 

(なん・・・だと・・・!!?)

 

予想外過ぎて、思わず後退ってしまう。

少女もあまりに衝撃を受けたのか完全に動きを止めてしまっている。

 

「格安だよキミィ‼早く言うんだ、愛しの彼がどんどん消えていってしまうよ?」

「あ・・・・あぁぁぁッ!!?言えるかクソが‼・・・だが、あああああああ‼」

 

頭を掻き毟る少女と、ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる少年。

しかし、先に少女が覚悟を決めたかのように頭を上げ

 

「ぱ・・・・・・ぱぱっ、私のッ」

「ダメだナー。もっと可愛さが必要だ」

 

「ッ・・・・パパっ、わたしのすすすッ・・・」

「こっちは頼まれたから契約してあげるんじゃないか。心を込めてほしいものだネ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――パパっ、わたしの・・・好きな人を、助けてっ」

 

「おおおおおおおうけいいぃぃ!!!! グーだよキミ、赤い顔もいいアドリブじゃないか‼よーし、パパ張り切っちゃうぞー! 具体的には力の流れるパイプを安全な設計で拡張・補強して、ついでに網をかけて必要な情報をエドモン君が取捨選択しやすいようにもしてあげよう‼」

 

 

(気配が、消えていく。あの濃密な、吐き気をもよおすような悪がまるで霧のように霞み、薄れて――――)

 

「・・・・なぜだ!!? なぜお前のような奴があの程度で情に流された! 俺は知っている、お前のような奴は決して・・・ッ」

 

「君みたいに計算通りじゃないからさ。どれだけ取り繕っても人を殺害する、傷つけるといった結末に収束する私たちとは違う。私に無い、予想を外れた思考が、ただ単に私にとって価値があったというだけの事」

 

 

こちらを、まるで興味のない目で見つめる彼。

眼鏡と杖が不意に青い蝶の群れへと変わり、空気に溶けるように姿を薄れさせていく。

 

「・・・とくに、この体の彼は面白いぞ。予想外とはどんな形であれ胸躍るものだ」

 

静かにまぶたを閉じた少年の体から、渦を巻くように黒炎が巻き上がる。

意思を持つようにまとわりつく炎は、黒い手袋、帽子、マントと順に形を整えていき

ゆっくりと、目を開く。

その瞳は、目の前で呆然と見上げる少女をまず映し、その耳元で何かを口にする。

頷く少女の盾となるように、体の向きを変えこちらへ向き合った少年の瞳とようやくこちらの瞳が交差して

 

 

 

「ハァ・・・。なるほど、・・・確かに予想外とは面白い」

あの悪魔が宿った少年が、なぜこんな瞳をしているのか。

音を立てず、こちらへ歩きながら距離を詰めてくる少年にこちらも距離を詰めるため歩みを始める。

あと10m。

7m。

3m。

 

 

 

 

 

「――――――俺だけを見ろ。お前には最早誰の涙も流させるつもりはない」

 

口の端がまるで裂けたかのように、笑みが広がっていくのを止めることは出来なかった。




エドモン「ッ・・・〈色白の秘訣〉〈思春期との付き合い方〉・・・〈バリツとは何か〉〈世界の危険な滝100選〉なんだこのゴミは‼少なくとも何者かが意図的にダミー情報を流してこちらをかく乱しているのは確かだ」
????「(ゴミとは失礼な。どれも貴重な私の一部なのにナー)」
エドモン「そこか‼」

????「(残念、それは〈加齢臭の消し方〉だネ)」
エドモン「―――――――殺す」



「違うぞ幼子よ。俺が来たと知らしめるように、口角を上げ笑うといい・・・クハハハハハハハハハハッ‼」
(あはは、ちょっと違うかな。こう口を開けて、・・・・・クハハハハハハハハハハッ‼)

「それは・・・俺を表す言葉では無い。彼だけのものだ」
(違うんだ。それは本当はあの人を表す言葉だから)

「―――――〈コネクト〉。過去の英雄が繋いだバトンを、俺が受け継ぎ・・・そして次の世代へ繋ぐ。それが俺の今の想いだ」
(「―――――〈コネクト〉。過去のヒーローが繋いでくれたバトンを俺が受け取って・・・次のヒーロー達にも繋いであげたいんだ)

「オーファリアマイト神父の書いた住所が正しければここだ。何にせよ、確認しなければ真実は謎のままだ」
(オールマイトが書いてくれた住所はここなんだけど・・・とりあえず開けてみよう!)

「しかし、適切な指導と言えるだろう。合理的とも言っていい。確実に体の手綱を握れてきている」
(すごく的確な指導方針だよね。目を意識して慣れさせていくだけでここまで体の動きが制御しやすくなるなんて)

「家では料理をするのか、メルセデス」
(・・・かっちゃん料理できるの?)

「良い妻になりそうだな」
(良いお嫁さんになりそうだね)


「脳無ッ・・・。他にもあのような姿にされた者が居たとはな」
(脳無ッ‼?まさか他にも居たなんて・・・」

「破砕音に、怒号。何者かが暴れているな。・・・メルセデスよ、俺は引っかかることが」
(なにかが意図的に砕かれてる音と、悲鳴。誰かが暴れてるんだッ・・・かっちゃん、僕は気になる事があるからここで待って―――――)

「・・・俊足のランサーが、兄の敵であるバーサーカーを追っている可能性が高い。この異常事態だ、無関係とは到底思えん」
(・・・飯田君が、お兄さんを傷つけたヒーロー殺しを追ってるのかもしれない。あの脳無も、無関係じゃないと思う)

「止める。どれだけ俺を恨もうが知った事か。友が犯罪者として裁かれる方が俺にとって最上の苦痛だ」
(止めるよ。恨まれても良い、飯田君が犯罪者になる方が僕は嫌だ)

「――――ああ、時は俺たちの歩みを待ってはくれない。故に」
(――――そうだね。時間もないし、急ごう)

「――――イヤイヤ全くその通りだよキミィ。下手なりに論点をずらしちゃいるけど、犯罪者なのは事実だよネー」
(――――イヤイヤ全くその通りだよキミィ。下手なりに論点をずらしちゃいるけど、犯罪者なのは事実だよネー)


「――――――俺だけを見ろ。お前には最早誰の涙も流させるつもりはない」
(――――僕が相手だ。もう、お前には誰も泣かせない)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。