俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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紅い拳

[ヒーロー殺し]

 

〈ヒーロー殺しステイン〉。

本名、赤黒 血染はオールマイトに感銘を受けヒーローを志した。

しかし、ヒーロー科高校へ入学し一年で退学。

その理由は〈教育体制から見えるヒーロー感の根本的腐敗〉。

ヒーローとは見返りを求めず、自己犠牲の果てに得る称号であるべきという思想。

 

 

故に、彼は世に蔓延する贋物を粛清し正しい社会を取り戻すために動き続けていた。

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・、挑発はもう少し上手くやると良い。・・・飛び道具で奴らを殺させないための配慮だろうが、それは的外れだ」

 

奴らはこの手で確実に息の根を止める。

社会のガンを万が一にも生き残らせてはいけない。

 

「・・・お前は殺さん。似ても似つかないが・・・しかしそれでもどこか似ている・・・」

 

〈私が来た‼〉〈俺を見ろ‼〉〈もう大丈夫だ‼〉〈最早誰の涙も流させるつもりは無い〉

コイツが放った言葉は周囲の足手まといへ俺が攻撃を加えないための挑発。

そして、周囲の者を安堵させるための言葉。

無謀だろうと、見栄だろうとヒーローは常に傷つく者の前に立ち、その姿を見せなければならない。

極限の状態で試される自己犠牲、それが

 

「っ、緑谷君‼なぜ来た‼?君には関係ないだろ!」

(贋物には出来ない。お前の出来る最善は己の舌を噛み切り、俺が居る理由を一つでも消す事だ)

 

「好きに言うと良い。・・・・元より、呼ばれたから来たという訳でもない。構うものか」

(関係があるから、友人だから、家族だから助けるだと。それこそが偽り)

 

「俺がこの場に居るのは、俺の意思だ。それに従い体が動いた以上、止まるつもりは無い」

(ヒーローは助ける。罵倒されようが、無視されようが、親の仇であろうが、助けたいと思考が肉体が飛び越える)

 

グッ、と手に持ったサバイバルナイフの刃先を僅かに動かす。

あの贋物にその刃先が向いただけで

(故に、簡単に釣れる)

 

 

少年の姿が、掻き消える。

反射的に一歩引いたところで、足元から突き上げるように放たれた黒い右腕が顔先をかすめる。

(この程度を読めないという事は・・・・先ほどの悪魔が出ていったのは本当のようだな・・・)

わざと薄皮一枚で擦らせ、一気に体を前に倒せば視界に入るのは防御の薄い腹部。

 

右手に持ったサバイバルナイフを左方向へ一閃し――――

 

「ッ・・・ハァ、まだ居るのか?」

 

こちらの手首を押さえつける少年の左腕。攻撃を誘導されたことに気付いた時には

引き戻された右肘が容赦なく側頭部へ突き刺さる。

 

 

 

ぐらり、と揺れる視界。だが、こちらも首に力を込め固めたことで脳自体への衝撃は減らしている。

 

掴まれたままの左腕の服のそでから小さなナイフを落とす。パチンッと開いたそれを少年の手首へと突き立て―――――

 

ようやく、溢れた血液。

痛みに怯んだ隙に蹴りを少年の脇腹に叩き込もうと、笑みを深め

 

 

「ッ、な・・・‼?」

痛みなど感じないかのように、硬く握られた拳がすでに眼前に迫っていた。

ナイフを突き刺した腕は、こちらを逃がさないよう万力のように強く握り絞め

 

 

 

今度こそ、脳が揺れる。

勢いよく後方へ吹き飛んだ体は、受け身を取る前に地面へと衝突し強い痛みを伝えてくる。

スパイクの付いた靴で地面を削るように、勢いを殺し姿勢を直すが揺れた視界はまだ回復にしばしかかりそうだ。

 

(・・・釣りには気付いていた。だが、隠しナイフには気付かず刺された。この違いは・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛みの刺激を送らない左腕に力を入れる。

痛みが遮断されたのみで、その他の感覚はしっかりと残っており動かすぶんには問題はなさそうだ。

というよりも。

グッ、と刺された傷口の上に残っていた血液を拭えば、すでにそこには僅かな痕しか残っていない。

(・・・流れた血が固まるより早いって、どういう事なんだろう)

自分の体の変化に改めて寒気を憶えつつ、意識を切り替える。

あのおじさんが残してくれた知識はとても役立っているが、それでも万能という訳ではない。

 

(知識だけなんだ。今は動きを見てから辞書を引いているようなもの。見えない事には対処法が出せない)

 

自分のものに出来ていないのだ。

その事に気付かれる前に、早くけりをつけなければ

 

そう考えた矢先

 

 

 

「血を出して焦らないという事は、・・・ハァ・・・悪魔が憑いていた間の記憶は朧げか・・・それか全く無いようだな」

 

ナイフに付いた血を、ヒーロー殺しが舐めとろうと口を開く。

その動作に脳内の辞書が答えを出すが、蹴り飛ばした距離が開きすぎていたために間に合わない。

それでも、足掻くように歩を進め

 

舌が血液に触れた瞬間、まさに身が凍るような寒気が全身を駆け抜けた。

 

 

四肢から、力が抜ける。

いつの間にか両膝が地面へ着き、体は緩慢な動きで前方へ倒れていく。

そこへ、ヒーロー殺しが迫る。

 

血に濡れたナイフを構え、こちらの体へ突き立てようとその腕を伸ばし―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまえは・・・なにをしている?」

 

凍えるような冷めた声。

背後から響いたその声ではなく、迫る圧倒的な熱量に反射的に横へ飛び退く。

 

すでに先ほど立っていた場所は白炎に飲み込まれ、どれほどの温度なのか周囲の壁や床は音を立てて溶け始めている。

 

声のした方向へ振り向くと同時に、視界に入った白い輝きに全力で体を捻る。

のたうつ白蛇のような炎が頬を掠め、嫌な音をたてながら焼き千切っていく。

 

「ワタシのイズクに・・・なにをした?」

 

激痛に表情をしかめながらも、ようやく視界に入れた存在に目を凝らす。

暗い路地の先が、徐々に明るさを増していた。

原因は、青白い火の粉を散らしながらこちらへ歩みを進める少女。

完全に瞳孔が開き切ったその瞳を限界まで開き、こちらを見据えるその姿に一瞬だが意識が逸れて

 

 

 

 

 

 

 

「俺を無視すんじゃねぇぞッ、長舌男‼」

上から降ってきた影が、鋭い蹴りをナイフを持っていた手へと叩きつける。

手から離れていくナイフからすぐに思考を切り替え、サバイバルナイフを構えれば

影・・・先ほど少年の陰に居た少女が、両手をすでに構えており

 

 

爆音。そして爆炎。

ステインの体を包み込むような爆発に、――――爆豪は確かな手ごたえを感じる。

それでも、手は緩めない。

後方で血を流す少年の為にも、このまま路地から吹き飛ばしてやろうとばかりに、再度爆破を放ち

 

「カツキッ、下ッ‼」

 

トカゲのように、地面に這いつくばるように身を伏せていたステインが爆破の途切れた一瞬を突いて立ち上がる。

サバイバルナイフが少女の顔面を狙い・・・ギリギリ首を傾けてかわしたその頬から鮮血が舞う。

 

 

素早くナイフに付いた血液をステインが舐めとろうと腕を動かせば

跳んできた氷弾がその手を打ち据える。

手元から離れたナイフを爆豪が蹴り飛ばし―――――炎を操っていた乱入者、轟の方へと距離を取りなおす。

横へ並び、お互いの状態を視線で確認しあいながらまず出るのは当然の質問。

 

「それで・・・イズク君がああなっているのはなぜだ?」

「ああ・・・血を舐めたら固まるんだとよ。やられる前に乱入したかったがあの野郎、まるで隙がねぇ」

 

悔し気に俯く爆豪を見つめる轟。

未だに瞳孔が開いたその瞳は虚偽は許さないと訴え

 

「・・・なら、早く奴を片付けるぞ。起きたらイズク君とちゃんと話して」

「分かった。その・・・なんだ。あり・・・がとう、な」

謝れと、そう言われないだけでなんとなく自分を理解して言ってくれた気がした。

 

誤魔化すように、片手を振り小さな爆発を起こしながらヒーロー殺しを見つめる爆豪の横顔へ、しかし視線は未だ突き刺さる。

なんだ、と眉を寄せて横を向けば

 

 

 

「よし・・・コンビネーションで行くぞ」

 

 

 

なにを言っているのだコイツはと、爆豪が目を丸くしている間に、言いたいことは言ったとばかりに駆け出す轟。

「はぁ‼?なに言ってんだテメェ、やったこともねぇのに合わせられるわけがねえだろうが‼」

訳が分からないとばかりに牙を剥きながら、その背中を一歩遅れて追いかける爆豪。

それでも、確信したように

 

 

 

 

「絶対に合う。・・・ワタシ達だからこそ」

 

 

 

 

白い炎を左手に纏わせながら、少女は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

即席のコンビネーションという言葉に、すでに興味を失いかけていたステインの瞳が暗く陰る。

先ほどまでのやり取りで、あの2人が贋物だと確信していたがその未熟さにもはや見る価値など微塵もありはしない。

強力だが、それ故に大雑把になりやすい炎。

至近距離でなければ破壊力の低い爆破。

いずれも、未熟な今なら確実に一匹ずつ刈り取れる。

 

 

 

グッ、と身を屈め駆け出す。

まずは一匹。前を行く炎の少女へ狙いを定め、その足を止めるためのナイフを放とうと懐へ手を入れ

 

 

 

白い炎の壁。

視界を、白い炎が遮断する。

そこへ楽し気に、高らかに赤白の髪の少女の声が響く。

 

 

 

 

 

 

 

「クハハハハハハハハハハッ‼我が憤怒の炎、歩みを止めぬのは我が共犯者のみ!」

 

(ッ・・・暗号か?)

 

意味の分からない単語。

しかし、それが何らかの暗号だと判断し前方に立ち昇る炎の壁へと注意を向けなおし

 

 

 

その壁から、鋭い氷の槍が突き出される。

熱に炙られ、光り輝くそれが体へ迫り

 

(・・・氷も使えるのか。・・・つまり、これが歩みを止めない共犯者)

ならば、とても下らない策だった。

注意を向けていた分、避けることは簡単。

体を回すように、その槍を十分な余裕をもってかわし――――

 

 

 

横から炎を突き破るように現れた少女の手の平が眼前に突き付けられた。

「よう。・・・・とりあえず死ね‼」

ギラギラと輝く瞳がこちらを射抜き、眼前で爆炎が巻き起こった。

焦げ付く臭いと、灼熱感が駆け巡る顔面。

だが、ギリギリで頭を引き回避は間に合った。

 

 

腹部に力を込め、左足を地面に突き立てるように踏み出し背後に倒れかけていた体を無理やり起こす。

眼前の少女はすでに爆破により姿勢を崩している。

無防備な腹へ、スパイクの付いた右の蹴りを振るい

 

 

「く・・・ぅう。く、はははははッ‼厚い壁を砕くように、我が道は破壊によって続いていくッ」

何故か羞恥を耐えるような表情の少女が小さく跳ね、奇妙な笑い声をあげ再度爆破を行う。

放った蹴りは、爆破の勢いでゴロゴロと後方へ転がっていく少女の髪を数本奪ったのみ。

姿勢を崩した今が好機と距離を詰めるが

 

 

間を遮るように、氷の壁が姿を現す。

 

恐らく、壁の向こうで既に姿勢を立て直されている事に舌打ちしながら壁を砕くためにサバイバルナイフを突き立てようとして

氷の先で、赤い輝きが明滅していることに気付き――――

 

(ッ・・・クソッ‼)

 

爆破。

砕け散った氷が、散弾のように体中へ叩きつけられる。

氷塊が砕け散る音と共に、体の内からも何かが砕けるような音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界の先、仰向けに倒れたヒーロー殺しが完全に動きを止めたことを確認し爆豪はようやく溜めに溜めていた息を吐きだす。

あのような恥ずかしい事をさせられたせいなのか、それとも戦いによる高揚感の為か赤くなった頬をパタパタと手で仰ぎながら、ジトリとした目を轟へ向けて

 

 

「・・・何か言う事はねぇか?」

満足そうに笑っているその顔に問いかける。

きょとんとした顔の轟が首を傾げてしばし考え込めば、ようやく気付いた様子で

 

「イズク君なら憤怒じゃなく、怨嗟だった。ワタシもまだまだ観察が足りないな」

やはり週6日に減らしたのが間違いだったかと眉を寄せている少女を、一度怒鳴りつけてやろうかと口を開けて

 

 

 

 

 

 

「―――――ニセモノ。・・・ハァ、・・・正しき世界を歪めたニセモノ・・・」

 

 

 

幽鬼の如く。ステインが立ち上がっていた。

その口元からは、絶え間なく血液が流れ、左肩と脇腹には氷塊の一部が突き刺さっている。

それでも――――

(・・・アレを食らってッ)

それでも、2本の足で、立っている。

 

 

あれほどの衝撃でも手放さなかったのであろうサバイバルナイフを、だらりと垂らした右手で掴みながらゆっくりと二人へ歩き出す。

 

「だが、ダメージは通ってんだ‼もう一度行くぞッ」

 

再度、爆豪が駆け出す。その背後ではサポートをするために轟が左手に炎を纏う。

爆速でステインへと迫った爆豪が、再びエドモン語を口にしようと大きく息を吸い

 

 

 

ステインが、視界に入らないよう隠していた左手を上げる。

「それ・・・はッ‼?」

先端に僅かな血の付いた小さなナイフ。

いつ拾ったのか。

先ほど爆豪の頬を切り、しかしどこかへ蹴り飛ばした筈のそれにステインが舌を這わせ

 

 

 

重い物体が、倒れる音が一つ。

 

 

「ッ、カツキッ‼」

倒れた爆豪へと、ナイフを振り下ろそうとするステインに対し、左手の白炎を焦りながら放つ轟。

 

「・・・・ハァ、・・・動揺が個性に表れているな」

先ほどまでの力が感じられない。

一気に向きを変え、轟の方向へ駆けながらであろうと精細さに欠けた炎は簡単にかわせてしまう。

 

轟が炎を止め、右足から冷気を放つまでに距離は数歩で到達するほどに狭められ

「ッ、化け物か・・・コイツっ」

 

地面から生やした氷の槍は、僅かに体をひねったステインの服の一部を持って行っただけだった。

せめてもの防御と、顔の前に腕を上げる。

その腕に、容赦なくナイフが振り下ろされ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――レシプロ・・・バーストッ‼」

 

その刀身が、駆け抜けた風により砕け散る。

強い衝撃に後退するステインと、その前に立ちはだかる少年。

「――――ッ、助かった。飯田君」

 

「・・・関係ない君たちを巻き込んだ事に比べれば、大したことでは無い」

 

その顔に浮かぶのは

後悔、怒り、罪悪感、そして焦り。

 

「もうこれ以上、君達に血を流させるわけにはいかない・・・」

 

ヒーローと呼ぶには、あまりに辛く苦渋に満ちた表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・下らん。自らを守るために傷つく姿に居た堪れなくなったか・・・?やはり、お前は贋物。・・・ハァ、・・・英雄を歪ませる社会のガンだ」

変わらない。人間の本質とは、いくら一時の感情に流されようが変わることは無い。

 

「そうだ。僕にヒーローを名乗る資格は無い」

この少年がその証明。

 

「それでも、折れるわけにはいかない。俺が折れれば、〈インゲニウム〉が死んでしまう」

どこまでも私情を理由に動く、その根本は変わらない。

 

 

 

 

「論外」

 

放った殺気に反応し、赤黒の少女が白炎を放つ。

一瞬で炎に周囲を囲まれるが、すでに退路は見えている。

 

両足に力を込め、跳躍すれば壁にスパイクを突き立て一時的な足場とする。

視界に入るのは、先ほどの加速で負荷をかけたのか動きの鈍い少年と、その足に手を当てて氷を作り出している少女。

 

恐らくは先ほどの一撃を放つために冷却しているのだろうが

そのような余裕を与えるつもりは無い。

 

左上腕に隠していたナイフを投擲し、勢いを着けて壁沿いに二人の方へ飛び掛かる。

 

狙い通り少女の右腕へ突き刺さったナイフ。

そして、痛みに身を引く少女を庇う様に立ち上がった贋物が、再度あの加速を放とうと腰を沈める。

 

その姿が加速し、回転を加えられた蹴りが、跳び降りている最中で無防備なこちらの体へ迫り

 

 

 

 

 

 

「・・・・ハァ・・」

左の壁に手を当て、ぐるりと体を前方向へ回転させる。少年の足は頭部の下を空振りし、前回りしたこちらの踵が少年の左肩へと追突する。

「ぐ、・・・ぁぁぁッ‼」

 

衝撃により踵から突き出した隠しナイフがその肩を深々と刺し、回転によって増した力は鎖骨を粉々に折り砕く。

 

すでに用は無いと。その体を地面へと蹴り落としつつ、足場とする様に跳べば――――痛みに腕を押さえる少女の背中へと着地する。

 

 

 

その重さと、痛みに声を出せず地面に縫い付けられた少女を見下ろしながら、刃の突き出した右の踵をゆっくりと振り上げる。

 

 

「・・・ハァ・・・まずはお前からだ。・・・・ヒーローとは万人を救う者。ハァ・・・贋物であるお前には分からんだろうが・・・」

 

 

抵抗するようにその半身から炎を生み出そうとする轟。

だが、スパイクのついた靴で磨り潰すように背中を踏まれれば痛みによりとても力など扱えない。

 

 

 

それでも、肘を押し付けるように体を上げ肺の中へと空気を送る。

 

 

 

 

「っ、・・・それは、〈テメェのなりたかった姿〉だろ・・・ワタシ達にっ、押し付けるな! 」

 

 

 

 

死の恐怖の前に、こぼれそうになる涙を押さえ込み口にした、振り絞るような叫びもステインには響かない。

無言で踏む力を増やし、抵抗の可能性を減らしていく。

 

「・・・・イズ・・・ク」

掠れたような、もはや吐息と変わらない声とすら呼べない音。

当然誰にも聞こえる筈はなく、

 

「死ね」

 

断頭台の刃のように、その首へと踵が振り下ろされ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ・・・ハァ、予想通りの登場だ・・・ガキ」

 

 

 

唐突に、楽し気に笑みを深めたステインが右足の向きを変える。

視界の端から、金色の雷光を撒き散らしながら迫る紅い拳。

膝を折りたたみ、こちらへ向かっていた拳を蹴り砕くように膝で受け止めた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッ、かっちゃん、・・・飯田君‼ッ、クソッ・・・反応速度、判断力が桁外れだ)

次々と倒れていく仲間の姿に、体が動かせない事に対する激しい怒りが浮かぶ。

それでも、視覚でせめて情報を得ようと目を凝らす。

 

 

見えてくるのは、やはりヒーロー殺しの強さ。

反応速度、判断力、経験から来る勘。そこに殺しの技術が噛み合い、ただ目の前の対象を無力化し殺害することに特化している。

 

 

 

 

(ッ、轟さん!! )

 

視界の先で、背中を踏みつけられる友達の姿が見えた。

全身の血が沸騰するように熱い。

荒れ狂う感情が、今すぐにでも助けにいきたいと訴える。

 

 

 

 

だが、動かない。

全力で握った筈の拳は弛緩し、すでに駆け出している筈の足は少しも動かない。

 

 

 

(助けたいッ!僕の、友達なんだ・・・足が千切れてもいい、今だけでいいッ・・・動けよッ!!)

 

視界の先で、少女の唇が動く。

声は聞こえない。だが、確かに伝わる。

自分の名を、助けを呼ぶ声。

 

その頭上へ、無慈悲に刃が振り下ろされようとして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――――『まだ間に合うぜ、奥歯噛み砕いて立ち上がれ。今にも泣きそうな女の子を笑顔にするのが、最高にゴールデンな男ってもんだろ』)

 

 

 

 

落雷。

まるで全身に電流が流されたかのように、身の内から力強い何かが溢れてくるのを感じる。

 

立ち上がるために力を入れた足は、先ほどまでの脱力感が嘘のように地を砕き、踏み締める。

 

 

 

一歩、ただ地面を蹴るだけでアスファルトが砕け散る。

体の中ではまるで膨張するように、四肢の筋が太く編み込まれていくような錯覚を感じる。

赤く、紅く熱を放つ右手が色を変えていく。

 

(でもッ、これは100%よりも出力が高い!? 制御が――――――)

 

確実に、二歩目を出す前に地面に激突する。

不馴れな制御が、ここに来て足を引っ張る。

 

 

筈なのに、二歩目はブレることなく地を踏み抜く。

異常な跳躍力はそれだけでヒーロー殺しの眼前にこの体を運び届ける。

 

 

 

脳内に声が響く。強く、そして優しい声音で男が高らかに声を張る。

 

 

 

(『英雄の資格があろうが、無かろうが関係ねぇ!! 女子供を―――』)「―――踏みつけるような悪党にッ、ためらう拳は持ち合わせて無ぇッ!!」

 

 

 

 

 

右の手の平から、雷光が溢れ出す。

飛び散りそうなそれを握り込み、歯を食い縛りながら拳を突きだす。

予想していたかのように、こちらの拳を砕こうとプロテクターのついた膝が押し当てられる。

 

だが、止まらない。止めるわけがない。

 

 

脆く、呆気なくプロテクターが砕けていく。

 

 

 

 

驚愕に目を見開くステインの膝を弾き、拳はそのまま胸へと吸い込まれるように突き進む。

 

落雷のような轟音を立て、衝突した拳がひときわ強く黄金色に輝きを放つ。

 

弾けるように、今まで握りしめていた雷撃がステインの腹部で膨れ上がり――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か先に倒れ伏したステイン。

四肢は地に投げ出され、今度こそ動く様子は無い。

 

 

 

 

その姿を確認しながら、足元で血を流していた少女を抱き起こす。

意識を失ったのか瞼を閉じ、腕や背中から血を流す少女の姿に、もっと早く助けたかったと唇を強く噛み締める。

不意に、少女の瞼がゆっくりと開く。

 

パチパチと、何度か驚いたように瞬きをして、安堵したかのようにその体から力が抜けて――――

 

 

 

 

 

 

(『おう、しっかり笑顔にしたじゃねぇか。ゴールデンだぜ、坊主』)

 

 

「助けてくれて・・・ありがとう」

守りたかった笑顔を、見せてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラントリノが駆けつけた時、最初に聞こえたのは聞いたことがない少女の悲鳴だった。

声を頼りに駆ければ、はるか視線の先でまず目に入ったのは道路脇に倒れ伏した緑谷とその体を揺らす白と赤の髪の少女。

その横で見覚えのある少女―――爆豪が、緑谷の脇に立ち目を見開きその姿を呆然と見つめていた。

 

 

「緑谷君ッ!! 」

叫ぶような声と共に、焦げた臭いの男を担いだ少年が路地裏の影から駆け出してくるのが見えて―――

 

 

 

 

 

空を切るような異音が、僅かに響いた。

ハッ、と顔を上げれば滑空するように空を飛ぶ、脳無と緑谷が呼んでいた、怪鳥のような者の姿。

 

「避けろッ、上だ!! 」

 

声を張り上げ、足の裏から空気を噴出し飛び出すが空を駆けるその速さには追い付けない。

 

呼び掛けに白と赤の髪の少女が顔を上げた瞬間、その体を翼で押し退け太い足が緑谷の体をつかみ上げる。

 

(不味い!!空に逃げられれば追う術は無い!!)

 

無情にも、大きな翼はあっさりとその巨体を持ち上げ緑谷ごとその体を空へ送り出す。

あっという間に手の届かない高さまで飛び上がるその体――――

 

 

 

 

 

その背中へ、黒い影が張り付いていた。

漸くその重みに気付いたのか、ぐるりと首を巡らせる脳無の眼球へ、半ばまで折れたサバイバルナイフが突き立てられる。

 

激痛に悶え、暴れるその首に腕を回し

目から突き出た柄を影――――ステインは掌で一気に押し込む。

ビクリ、と一瞬体を震わせた脳無の体から力が抜け、その体は下降を始めた。

 

 

 

地に落ちた脳無の体から、ゆっくりとステインが起き上がる。

すでに焦点を失い、グラグラと揺れるその瞳はしかし・・・足元に転がる緑谷の姿を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「っ、ヒーロー殺し・・・!!」

背後から駆けつけたエンデヴァーが、その姿にようやく見つけたと歓喜の声をあげる。

No.2ヒーローの姿に、周囲の者達もその動きに合わせ捕縛に移ろうと動き出し――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「贋物・・・ッ」

 

 

 

その眼光に、圧に、その場にいた全ての者の体が止まる。

呼吸は荒く浅い。目は定まらず、まともに立っていることもおかしいような、そんな重症の男を前に誰も動けない

 

 

 

「・・・正さねば。誰かが・・・血に染まらねばッ!来い・・・来てみろ贋物どもッ」

 

血を吐くような叫び。

歪んだ、しかし偽りの無い確たる信念を持って

 

「――――俺を殺していいのはオールマイトだけだ!! 」

 

意識が途切れる瞬間まで彼は世界を正そうと考え、そして世界を敵に回していた。




ボツネタ



ガヅッ‼
鈍い音を立てて、ヒーロー殺しが蹴り上げた石が眉間に激突する。
反射的に、まぶたが一瞬閉じられ


再度目を開けた時にはすでに、光を反射した刃が喉元へ迫る。
喉元が干上がるような焦りの中で、先ほどと同じようにその手を掴もうとして

「・・・・やはり、これには対応できないようだな」

腹部に、内臓を潰すような威力で相手の右膝がめり込む。
痛みは瞬時にカットされるが、肺から空気が逃げることは止められない。
焦りが増す。
せめて距離を取ろうとするが、


ピタリと、体が張り付いているかのようにヒーロー殺しの体が追従し

顔面を覆うように伸びた手により視界が塞がれ――――左わき腹へ、鋭いスバイクの付いたつま先が沈み込んだ。

















跳ね飛んでいく少年の体が壁へ衝突し、力なく崩れ落ちる瞬間を確認しステインは左腰に差していた長刀を抜き取る。
確かに、内臓を打ち抜いた感覚はあった。恐らく今は絶え間なく襲う吐き気に身動きが取れなくなっているだろう。

今の内に、意識を奪う。
その後で贋物どもを殺す。
身を丸めた少年へ近寄り、右手に持った長刀を振りかぶる。
振り下ろすのは、その柄。
命は取らない、と宣言した通りに少年の頭部へとそれを落とし―――――







硬質な音を立てて、その柄が弾かれる。
手で払ったにしては異常な音。
その原因を確かめようとしたその瞳は――――いつの間にかこちらを振り向いていた少年の右手が握る、錆びた刀でピタリと止まる。



その正体が、あの悪魔に弾き飛ばされ転がっていた自分の刀だと気付いた瞬間。
(ッ、速い―――――)

視界に入った線のような銀光。
反射的に盾として構えたサバイバルナイフが、柄を残してあり得ない程滑らかな断面を残して切り飛ばされる。
ギリギリで引いた胸元。服が一拍の間を置いて静かに裂けていく。
(また、・・・雰囲気が変わった。だが、アレではない。まるで悪の気配は感じない)
俯いていた少年が、立ち上がりながらその顔を上げる。
細められたその瞳。
刀を構えなおすその動き。
滑らかな動きだが、先ほどまでの怪力や炎、そしてあの男から感じた超常の力が一切感じられない。

あえて言うのであれば
「・・・ハァ・・・ただの剣の使える人間だ」
ヒーローでも、ヴィランでもない。

あの剣閃は目を見張る物ではあったが、不意打ちでなければ対処は可能だ。
先ほど同様、視界を遮るために腰に巻いたベルトを抜き取り鞭のようにその顔面に向かって振るい―――――










「復讐鬼、ここに参上つかまつったッ‼」
瞬きした瞬間に、ベルトは切れ端へと変わり地に落ちる。

なんとか捉えた剣筋は先ほどよりも薄くなり、もはや細い糸のようにしか見えない。
「では・・・存分に果たしあうとするか」

刀を構え直した少年へ、無言のままフェイントを混ぜながら長刀を振り抜く

が、右手で握った刀が弧を描くように動けばまるで水を切るかのように受け流される。
受け流されるまま体を回転させ、そのままの勢いで横薙ぎに長刀を振るうが

「見せ場よなぁッ‼」
ずるり、と気付けば既に長刀は半ばから断ち切られ、飛んだ刃が壁に当たり甲高い音を立てている。

流れるように身を寄せた少年が刀を振り上げ、






(また、気配が変わった・・・力強い、さっきまでの柔とは真逆の―――――)



「―――――ふッ‼」
ゴッ‼と振り下ろされた刀の風圧で、体がのけ反る。
一歩、ほんのわずかに退いていなければ切られていた。
命は狙っていない。コイツが狙っているのは。
「むっ、そこを狙うからね!」
胸元に着けていた、ナイフホルダーが叩き切られる。

足掻くように、そのホルダーから飛び出したナイフを掴み振るうが


「なんのッ‼」
刀がナイフを通り抜ければ、既に武器としての姿は残しておらず


それでも、まだ武器はある。
体を屈ませ、両足に付いたホルダーから二本のナイフを取り出し、その両肩を狙い投擲。

最後のサバイバルナイフを抜き取り、屈んだ姿勢のまま一気に駆け出す。
狙うのは、脇腹。
ナイフに対処した瞬間を狙い、確実に突き刺す。


視界の先では既に二本のナイフが少年の体へと迫り――――――









硬質な物が砕け散る音が、1度鳴り響く。
一瞬の間を置き、視界の先のナイフが2本空中で砕け散り――――


「・・・ハァ・・・・ありえん。あり得る筈が無い」

手の中のサバイバルナイフも砕け散っていた。
そして、手の中のサバイバルナイフも既に刀身を失い

「―――――秘剣『燕返し』」

涼やかな声が周囲に響く。
(一度の剣閃で3本の異なる場所の物を切るだとッ・・・・そんな事が)

一瞬空いた、驚愕によって生まれた思考の隙間。
重い何かが落ちた音に、すぐに思考が戻るが既に一歩出遅れている


刀を捨てた少年が、眼前で拳を振りかぶっている。
最早ステインに武器は無い。
それでも、拳を握る。
退くつもりはない。


少年の拳がステインの頬へ激突し、確かな頬骨の折れる音が響く。
「オ、オオオオォォォォッ‼」
だが、それでも止まらない。

地を鋭いスパイクで踏みしめ、踏み止まったステインの拳が少年の左頬に叩き付けられ――――






農民のカッコ良さがまるで出ていなくてビックリしました!
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