続きはなんとか明日にでも!
追記
やはり誤字が・・・。
修正しました、いつも本当に助かっています!
[VSヒーロー殺し-その後-]
エンデヴァーによりヒーロー殺しは捕縛され、再び平和は取り戻された。
当然それは表向きの発表であり、俺達とクソデクが応戦した事なんて一言も書かれちゃいない。
だが、そんなことはどうでも良い。
犬の顔をした刑事が俺達への被害を減らすためにそうしただとか、職場体験中に抜け出した轟がエンデヴァーに責められ逆に氷漬けにしたとかそういう話も今はあまり頭に入って来ねえ。
「ぁー・・・緑谷は今日も休みだ。見舞いに行きたい奴は放課後行ってやれ」
あの日から2日。
俺の幼馴染はまだ目を覚ましていない。
「許容量は増えて来てはいたが、それでも神霊や半神は荷が重い。全ての容量を使い、ようやく半神を受け入れられるか・・・それとも体が弾け飛ぶかの二択だな」
それは背筋がゾッとする話だった。
上も下も無い謎の白い空間で、僕にそんな話をしているのは自らを復讐鬼と名乗る彼〈巌窟王〉。
いつの間にか意識を失ったらしい僕は、気が付いたらここに居た。
「あの胡散臭い髭のアーチャーが拡張・補強したと言っていたが、余計な事をしてくれた。現状は水風船に鉄パイプを通して海の水を流し込んでいるようなものだ」
・・・とりあえず、破裂しそうなのは伝わりました。・・・あれ?でも力の調整は変わらず出来てました
目の前の彼の力を制御する感覚は変わらなかったはず。
ヒーロー殺しの時も、特に問題は感じられなかったけれど
「パイプ自体へ流れ込む力の制御が上手く出来ていた為だろう。・・・しかし、感情が乱れることで制御が外れれば、より大きな力が今回のように流れ込む事になる」
確かに、最後に聞こえた声の主は自分が呼んだ訳じゃなかった。
彼の言う通りなら、流れ込む力によって本当にはじけ飛ぶ未来が来るのかも。
・・・なら、制御の精度を上げて・・・後は容量を増やさなくちゃならないか。容量って筋トレとかで鍛えられるのか・・・それとも――――
「筋力を鍛えるのは最優先だろうな。お前の体は既に英雄を目指すに相応しい〈天性の肉体〉として最適化された。日々の鍛錬により肉体の許容量は増えるだろう」
え・・・
それは、どういう事だろうか。
というよりも、いつの間に・・・
「あのバーサーカーも半神に近い存在。その霊基の一部を受け取るには肉体が貧弱すぎたのだろう。故に、お前の体は英雄を宿すに足る形に作り変えられ・・・そして、その変化にお前の魂は耐え切れなかった」
耐え切れなかった。その言葉に、嫌な想像が脳裏を過ぎる。
そもそも、自分はどうしてここに居るのだろうか。
魂が耐え切れなかった、ということは自分はまた彼と出会ったあの日のように死にかけて―――――
「・・・故に、代役を立てお前の魂は一時的に隔離している。およそ5日程度ここで魂を癒やすが良い」
・・・・。
「どうした。なんとも間の抜けた顔をしている」
えっと・・・代役って
「あぁ・・・胡散臭いアーチャーの前例があるため不安は有るだろうが比較的信頼に足る人物の筈だ。現代の英霊として赤いアーチャーへ依頼したが・・・どうも奴はお前との接触を避けている様で、別の人物を指名された」
赤い、とかは良く分からないけど
英霊なら、・・・その変化には耐えられるの?
「無論・・・耐えられんだろうな。数日間は痛みと不快感に気絶し続けるだろう」
「――――――いやぁ、さすがにこの扱いはあんまりだと思うんですがねぇ!?」
勢いよく、上半身を起こす。
2日間、実はひっそりと気絶と覚醒を繰り返していたせいで朦朧としたアタマを振り、覚醒させればようやく周りを見渡す。
白い壁に清潔感のあるベッド。
着ているのはうす水色の病衣ということは、脳内の現代知識からしてここは病院だろうな。
飛び飛びの記憶だと医者やらナースやらがいたし、間違いないだろう。
「・・・まぁ、雇われた以上はそれなりに働かせてもらいますけどね」
一度引き受けた以上、やることはやろうじゃないの。
〈報酬は望む物を。・・・アイツが言うには期末試験と言うものが近いらしい。一週間ほどで良い、時間を稼いで欲しい〉
少年が目覚めるまで、この体を守りながらガキどもに紛れて居りゃあいい。
成りすまし、工作はお手の物ってね。
敵や一市民に成りすまし、まぎれる技術は生前からの得意分野だ。
「それにまぁ・・・毒でも奇襲でも使うオレには今でも分からねぇが」
ヒーローってのは、騎士サマとどっか似てる気がするんだよなぁ。
それを目指すガキどもを潰そうって奴らが居るのは少し、胸に引っかかる。
・・・だからどうという訳じゃないがね。
とりあえず、ナースとやらを呼ぶためにボタンを探そうと――――
「イズク・・・・」
「・・・げっ‼」
・・・ヤベェ方の嬢ちゃんが来ちまった。
少年の目から時々見ちゃいたが、この嬢ちゃんは少年の特徴を完全に捉えていやがる。
下手をすると第一声で気付かれる可能性も
「―――――じゃない。・・・誰だ、お前」
なにで判断したんですかねぇ!?
「――――どうした、メルセデス?俺の身を案じて再び我が前に」「黙れ」
なんて凍えるような目で人を見る子だろうか。
と言うより、ダメだ。完全にバレてやがる。
この嬢ちゃんを落ち着かせる為には、もう一人の嬢ちゃんの協力が必要だな。
幸い、もう一人の軽い足音が近づいて来ているからそっちに期待して、今はとりあえず目の前の危険物の対処だ。
「――――あいあい。確かに俺は少年とは別人だけどなぁ、嬢ちゃん。この体は本物っスよ?」
「それがどうし・・・・・!? そ・・・そんな、なにして」
病衣の紐を解いていく。
それだけで食い入るようにこちらを見る嬢ちゃん・・・ウブいねぇ。
「むないた・・・あんなに?腕も細いのにワイヤーみたいな筋が・・・」
鼻を押さえていても、ついでにだらだら鼻血を垂らしていても視線だけは逸らさないのな。
けどまぁ、これで30秒は稼げる。
他人の体を見せるだけで敵の足止めが出来るとは、なんて安上がりな工作だ―――――
「容量は・・・そうだな。高校へ入った頃が10今の全量が15とする。9を俺の霊基が占め、技量が2・・・残りの4にあの男の霊基のほんの一部が入った形になる」
まあ、実際はそれ以上流れ込んでいたため、今回は負荷が大きくなったのだろうと。
でもあの時、その人が力を貸してくれたからこそ僕は轟さんを助けることが出来た。
だから、せめてお礼は言いたかったな・・・。
「今回の事でパスは通った。お前が望めば、存外簡単に手を貸してくれるかもしれんな」
それなら、今度こそお礼が言えたらいいな。
ちなみに、その人はどんな人なんだろう。
名前くらいは知りたいです。
「お前の世界に居たかは分からんが、この国の生まれの筈だ。確か、坂田金時・・・だったか」
え・・・・それってきんたろ――――――
「テメェ轟ィ‼病院の前で待ち合わせって話だったろうが‼」
やっと来たかっ。
鬼のような形相だが、今は救いの女神に見えるから不思議なもんだぜ。
「メルセデスよ、メルセデスが錯乱した。取り押さえる為に――――」
赤白髪の嬢ちゃんと同じようにこちらの体を見てる隙に、協力を取り付けようかねぇ。
なるべくそれらしく表情を固めて、呼びかければ
迫る掌底。
何とかベッドから転がり落ちるように紙一重で躱したが、なんなんですかねぇこの嬢ちゃんたち!?
「ッ・・・また何か憑りつきやがったか!?おい轟、痛みは感じるらしいから限界まで痛めつけて追い出すぞ」
「ッ・・・分かった、必ず助ける。・・・とりあえず参考の為に写真は撮った。家のPCにも送ってあるから安心しろ」
「オタクら、鼻血拭いながら言う事じゃないでしょうよ」
とりあえず、これ以上痛いのは嫌ですわ。
悪いけど話を聞く気になるまでトンズラさせてもらおうかね。
「参ったね。普通さー、好きな男の顔面爆破しようとする?そらあ少年も心の中で、2人に実は嫌われてるんじゃないか・・・とか心配するのは当然ですわー」
「――――‼?」
ビクリと動きを止めた2人の隙を突き、上げた右手に青白い光が集まる。
形作られるのは、使い古されたようにくすんだ緑の外套。
それを羽織れば
「ッ、消えただと‼?轟、足元を―――――」
やっぱり勘の良い嬢ちゃんだ。この個性あふれる世界なんだから、どこかに転移したとか一瞬考えてもおかしくないんだけどなぁ。
まぁ、それでもまだ経験不足だぜ。
「ハイハイ、ここが病院だってコト忘れてない?赤白の嬢ちゃんも当然ためらうでしょうよ」
言う方は簡単だが、自分の力を知っている本人は一瞬動きを止めちまった。
病院である以上、デリケートな患者や薬もあるさ。
そこを無視できるほどその嬢ちゃんも常識が無いわけじゃない。
右手に瞬時に展開した手甲。そいつに付いた緑の弓を引き、爆発の嬢ちゃんに突き付けながらサービスで笑顔も付けてやる。
「んじゃ、少し落ち着いたところで・・・・説明会とさせてもらいますか」
イズクの中に居た影の薄そうな人の話では、来週には彼はワタシのところに戻ってきてくれるみたいだ。
いつまでも目が覚めないんじゃないかって、そう考えてしまってここ数日一睡もしなかったぐらい心配だったからそれはすごく嬉しい知らせだった。
「・・・嘘だったら、後遺症が残らない程度に爪先から凍り付かせてくけど」
「轟ちゃん、恐いわ」
つい口から出てしまったみたいだ。
独り言を言っている奴なんて不気味だから、蛙吹さんが恐がるのも当然だ。
「悪い、明日緑谷の体を氷漬けにしなきゃいけないかも知れなくて・・・そのことで頭がいっぱいだった」
「・・・それが恐いって言われてるんでしょ。だいだい緑谷は入院中なんだからむしろ見舞いくらいしてやらないと」
「いや、これが一番イズクのためになる。彼も喜ぶはずだ」
「アンタらどういう関係になってんだよっ」
耳郎さんがやけに興奮しているが、何か嫌な事でもあったのだろうか。
首を傾げながら、悩みでもあるのかと聞こうとして
「という訳で、夏休み林間合宿やるぞ」
相澤先生の声と同時に上がった歓声で、聞くタイミングを失ってしまう。
肝試しやカレーと、みんなが盛り上がる中でワタシだけが少しだけ反応が遅れてしまう。
小学校も、中学校も行事には参加できなかったし友達と肝試しとかもしたことが無い。
初めての事だから、すこしワクワクするけどそれでもみんなと同じように楽しめるのか不安になってしまう。
「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は・・・学校で補習地獄だ」
みんなが楽しんでる雰囲気を壊してしまうんじゃないか。
それが今はとても怖くて
「寝食皆と‼ワクワクしてきたぁ‼」
・・・・・寝食、いっしょ?
「・・・デクの野郎はまだ病院だけどどうすんだ?」
「今朝病院から連絡があった。昨日目が覚めてから検査して体に異常は無かったようで、明後日には退院出来るらしい。んで・・・当然だが親御さんが心配してな。テストまでは家で自主勉強する方向で話はついた」
「ケロ・・・。緑谷ちゃん、無事みたいで良かったわね轟ちゃん」
同じ屋根の下で一緒にご飯を食べてお風呂に入って布団で眠る。
それって
・・・・同棲だ。どうしようお母さん。
「ドクター、彼について他に分かった事は?」
「あの個性・・・。未だかつてあそこまで様々な力を扱う個性を先生以外に見たことが無い。もちろん、イメージを具現化する個性なんかは似たような事は出来たけど、常にイメージを固定させなきゃいけない分思考が鈍るゴミ個性だったからなぁ」
「ハハッ・・・まぁ、個性も大事だがより重要なのは彼の考え方だよ。あの個性についてはおおよそ見当はついているんだ」
「ふむ、ワシが見た中でもかなり癖の強い個性で判別は難しいはずだが・・・」
「少し、似た個性を知っていたからね。・・・だからこそ、彼には早く消えてもらわなくちゃいけない。器が完成に近付けば、そこに残り火を足そうとする者が現れるかもしれない」
「しかし、あの個性ならば先生のその傷も・・・」
「――――構わない。少しでも、次の僕の為に不安の芽は摘み取ってあげるべきだ・・・・それが先生というものだよ」
[期末試験当日]
「そう‼君らの判断力が試される‼けどこんなルール逃げの一択じゃね!?そう思っちゃいますよね」
辺りは人気のない市街地。
期末試験用に用意されたステージで、オールマイトと二人の少年が向かい合っていた。
「はい‼確かにそれが最適な方法と考えられますが、先生方がそんな抜け道を残すはずがありません!」
ビシッ‼と左手を上げて大きな声を出すのは、ヒーロースーツに身を包んだ飯田であった。
どこか以前よりも強張ったその表情に、オールマイトが目を細めるが・・・すぐに腰に手を当てて笑顔を浮かべる。
「ハッハッハッ‼さすがは飯田少年だ‼そう、この手足に付けた重りはサポート科の特注品でね。体重の半分の重さのこれを着けて試験をする。ハンデってやつさ!」
手足に付けたそれを見せながら説明すると、オールマイトは未だに喋らないもう一人の彼へと視線を向ける。
普段から口数の少ない少年だが、ここまで無口なのは少しおかしいと飯田も同じように隣の彼へと顔を向けて
「そういえば緑谷君、今日はどうしてそのような緑の・・・外套?だろうか、すまないファッションには疎くてな。とにかく、それを着ているんだい?」
首を傾げる彼に対して、話しかけられた緑谷は頬を引きつらせたように笑い・・・そしてため息をつく。
「なんでもねぇっスよ。・・・ただまぁ、少しばっかし俺も人が好過ぎるなぁと思ってたところだ」
世界のトップヒーローを前にしながら、弓兵は右手に手甲と弓を装着する。
体を守り続ける事は契約内。
契約期間は、一週間ほど・・・そう、〈ほど〉と言われた以上ここで放棄するのは契約違反に当たるだろう。
(健康そのものに見えるが・・・・とりあえず、祈りの弓を隙を見て撃ち込んでみますか)
――――――――何故か走る強烈な嫌な予感に、オールマイトは強い寒気を感じていた。
小ネタ
「戦います、僕‼」
燃え盛る教会の中で、動く影は三つ。
小柄な、しかし闘志を秘めた瞳をした大学生ほどの青年を庇う様に立つのは、コートを着た成人男性。
相対するのは、腰にボロ布を巻いた人型の影。
しかし、影の主は人ではない。まさに怪人と形容して良い容姿をしていた。
鼠色の肌に、口元には長く巨大な牙が見え隠れしておりその瞳は退化したかのように薄く、しかし鈍く光を放っている。
さらに、特徴的なのはその腕から生えた翼膜とも言うべきものである。
これを使い空を飛ぶ姿を、コートの人物『一条』は既に目撃していた。
「まだそんなことを‼君は学生だッ、俺達刑事が―――――」
守るべき相手なのだと、そう続くはずの言葉は怪人が飛び掛かってきたために中断される。
その鋭い爪が振り下ろされるのと、一条が青年『緑谷』を抱えながら横へ跳ぶのは同時であった。
身代わりのように、怪力によって砕かれた協会の椅子を目撃した緑谷は一条の腕の中で体を強張らせる。
現実離れした力に体が本能から動きを止めてしまう。
それでも――――脳裏に、浮かぶ。
近所の男性の葬式が行われているのを彼は今日見てしまった。
先日起きた、自分がまきこまれたあの事件で無くなった人の葬式だった。
幼馴染の女性の父親だった。
その時感じた感情を、彼はとても一言では表せない。
自らの内から溢れ出るとても空しく、悔しく、申し訳なく、そして助けたかったという想い。
涙を必死に耐える彼女の顔を見て、それらの感情が爆発したのが自分でもわかった。
それに爆風に押され、気付けばここへ来ていた。
だから
「っ、待つんだ‼」
一条の腕から飛び出し、立ち上がる。
視線を逸らさず、ただ真っ直ぐに怪人に相対する。
無力な人間だと、あざ笑うようにゆっくりと歩みを進め始めた怪人に対し青年は自らの腹部へと両手を添える。
「・・・どうして、ここに居るのか僕の中でもいろんな気持ちが回っていて自分でも分かりません。・・・でも、気付いたら走り出してて・・・気付いたらこうしてここに来てて、そんな僕でも今分かっている事があるんです」
白い光が、腹部から溢れ出す。
盛り上がるように腹部から浮かび上がるのは、銀の装飾と赤い玉が特徴的なベルトのような物体。
「誰にだって、笑ってた人たちから笑顔を奪う権利なんて無いんです‼こんな奴らに、僕はもう誰の笑顔も奪わせたくない‼・・・だから、見ていてください‼」
光が、強さを増していく。
「僕の―――――」
溢れる光に合わせ、
「変身‼」
右手を突き出す。
眩いばかりに膨らんだ光が、明滅し―――――緑谷の体が変化していく。赤く輝く金属のような甲殻が体幹と、手足を覆う。
頭部には金色の二本の角が生え、昆虫を思わせるような二つの巨大な赤い瞳が現れる。
その姿に、怪人が一歩後退る。
震える手で緑谷を指さしながら、口にするのは一つの単語。
「―――――クウガ・・・‼」
[青き戦士]
体を覆う甲殻を青に変え、バッタ型怪人を追い詰めながらもその拳はその体に傷一つ負わせることは出来ない。
嘲るように手を拳を振り払ったその衝撃にたじろげば、大きく飛び上がった怪人の蹴りにより大きく後方へ弾き飛ばされてしまう。
勢いよく、工事現場のコンクリートの壁に体を打ち付け倒れ落ちるクウガ。
辺りに立てかけてあった鉄パイプが無造作に倒れ、転がっていく。
そこへ追い打ちをかけるように鋭い跳び蹴りが放たれ
(ッ、速い‼)
間一髪で側方へ転がるように避ける。
轟音と共に、先ほどまで横たわっていた地面が吹き飛ばされたことに嫌な汗を背中に感じながら
(こうなったら、逃げられる前に一か八か赤い力で接近戦を――――)
強く拳を握り、敵の不意を突くため全力で飛び掛かろうと両足へ力を込める。
地面を蹴り出そうと、力を込めて――――
「緑谷君‼」
「桜子先輩!?」
聞きなれた先輩の声に顔を上げる。ここへバイクか何かで近づいて来ているのだろうその声は、遠くであろうとこの強化された体であればよく聞こえる。
「聞いて!水の心の戦士っ、長き物を手にして敵を薙ぎ払え‼あの文にはそう書かれていたのっ‼」
あの文。クウガについて書かれていた古代の碑文。
水を表すような青いこの体が、もしかすると水の心の戦士ではないか。
そして、長い物とは―――――
風を切る音と共に、眼前に怪人の姿が迫っていた。
先ほどと同様の跳び膝蹴り。
躱すにも、すでに間に合わない。
カンッ、と足元にあった鉄パイプを蹴り上げる。
宙へ浮かんだそれを右手で掴み取り、ベルトから溢れる力をその右手へ注ぎ込み――――
迫る足へと、無造作に振るう。
ただの鉄パイプ程度であれば勢いを殺す事も出来ない。
ニヤリと笑った怪人は、しかし次の瞬間には自らの体がコマの様に真横へと回転している事に遅れて気付く。
薙ぎ払われたのだと。
そう気づいた怪人の目に映るのは、血のように赤く細い一本の槍。
勢いよく地面に落ちた怪人。
その頭部を狙うように、瞬時に槍が振り下ろされる。
手で払いのけようとすれば、読んでいたかのように槍がクルリと回転しその手の甲を叩き、それだけでゴロゴロと体は地面を転がっていく。
しかし、闘争心が消えることは無い。
彼の一族は、そういった種族であった。
だからこそ
「――――あ?こんなもんかよ?・・・んじゃまぁ、終わりにするかね」
眼前の戦士が、冷めたような声でそう告げ赤い槍を右腕で振りかぶった際に怪人の体が震えはじめたのは生物として残っていた僅かな生存本能だったのだろう。
まるで一本の槍のように引き絞られた体。
その手に持った槍が赤い光を放ち始める。
「――――――その心臓貰い受ける‼『刺し穿つ死棘の槍[ゲイ・ボルク]』‼‼」
刹那、赤い閃光が走った。
なぜ、クウガが手に持っていた赤い槍が存在しないのか。
なぜ、体内で燃えていた力が今にもこの体を出ていこうとするかのように暴れているのか。
そして、なぜ自らの胸部には巨大な穴が開いているのか。
それらを、怪人が理解する間もなく―――――その体は弾け飛んだ。
青いタイツの戦士。