俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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凶弾の先

[期末試験]

 

「で、オタクは正直体の具合はどうなのよ?さっき左手上げたのも、オレはちゃんと動かせますよーってアピールにしか見えませんでしたけど?」

狭い路地裏の中、索敵に優れた緑谷が前を走りその後に飯田が続いていた。

 

開幕同時に緑谷がオールマイトの顔面に足元の砂を蹴り上げ、目つぶしを食らわせたと同時に飯田に発破をかけて逃走。

ゴールへとひたすら距離を詰めている現状であった。

 

「その口調。やはり緑谷君ではないというのは本当らしいな」

 

眉を寄せるのも無理はない。

自分を助けに来た事で友人が魂に負荷を負い、現在も治療中と聞けば元気になったと安堵していた分申し訳なさは積もるばかりで・・・

 

 

(俺にできる事は、少しでもこの人を手伝い緑谷君の負担を減らすことだけか)

「・・・左腕は上げる分には問題ないが脱力感と痺れが強い。以前の半分程度といったところだ」

 

「そうかい。ならあのぶっとい腕と正面切って戦う訳にはいかねぇな。裏をかいて何とか機動力を落とせばワンチャンスってとこかねぇ」

 

ゴールまでは未だ距離はあるものの、上手く敵はかく乱出来ている。

彼が戦場としていた森とは違うが、

 

(この地面も、足音を殺すには不便だ。あの巨体なら、よほど慎重に歩かなけりゃ気配は殺しきれねぇ)

 

鋭敏な聴覚に足音が聞こえてこない今が、ゴールへ向かう最大のチャンスであり――――

 

 

 

 

 

 

 

ゴオッ、と巨大な何かが風を切る音が聞こえた。

 

何かが放り投げられているのかと、緑谷が顔を上げれば・・・上空に見えたのはゴマ粒のような小さな黒点。

 

 

「・・・えぇ。ホントに人間かよ、あのオッサン」

 

「HAHAHAHA‼まぎれもなく人間だよ、緑谷少年の中の人‼」

 

響き渡る声。

ほぼ同時に、着弾。

地面が砕け散り、アスファルトが周囲へと散弾のように飛び散る。

 

 

緑谷の中の人――――ロビン・フッドが飯田の頭を地面に押し付けるように引き倒せば、先ほどまでその頭部があった位置をアスファルトが通り過ぎていく。

 

「ッ・・・助かった。しかし、まさか空を飛んで来るとはさすが・・・非常識というべきか」

「いや、足音が聞こえない時点で上しか無いでしょうよ。下なんかはもっと音でるしさぁ」

 

でも、ホントにやってくる姿を見ると流石にドン引きですわぁ。と、げんなりした顔を見せるロビンに対し、オールマイトは厳しい視線を向ける。

 

「こうして緑谷少年の中の人にコンタクトが取れて嬉しいよ。・・・君達が少年をどうしようと考えているのか、是非とも聞きたくてね」

 

多岐に渡る膨大な力。それらと共に現れる口調や性格の変化。

その裏に多くの人格が居ることは予想はしていたが、しかし容易に楽観視はできない。

 

「オレに聞かれてもねぇ。他の奴らがどう考えているかは知らねぇし、知りたくもねぇ。俺はただのしがない弓兵ですから、契約通りこの体を守るだけですよ」

 

肩を竦めなら話すその姿に、嫌な気配は感じられない。

多くのヴィランと戦い続けてきたオールマイトからしても、彼から発せられている気配は邪悪な物ではないと判断できる。

 

が、

 

 

「でも、この前は君と同じ中の人が緑谷少年の体を乗っ取ったらしいじゃないか」

 

「あー・・・・」

(適当に取り入って不意打ちかまそうとしてたのに・・・あの髭、なにしてくれちゃってるんですかねぇ‼?)

 

 

言いわけできない前例が、既にあった。

頭を抱えるその姿。

その前に、白い鎧のようなヒーロースーツが立ちはだかる。

 

「何であろうと、俺は緑谷君に借りを返さなきゃいけない。まずはこの試験、彼を突破させるのが俺の使命です」

 

開始前と同じ、気負った声。

そこに、以前の彼が持っていたものがこもっていないことにオールマイトの表情が一瞬悲しげなものに変わる。

 

 

 

 

 

 

「―――――そらよっとっ‼」

その隙を逃すロビンでは無かった。

敵の隙はどのようなものでも突く信条の彼の手甲から、何かが連続で射出される。

 

 

だが、オールマイトの隙など一瞬の物であり彼にとって弓矢は瞬時に躱す事の出来る速さでしかない。

 

身を屈め、あるいは逸らし容易くかわし切る。

現在飛んできているモノも含めて確かに避け切った、そう口元に笑みを浮かべ

 

 

 

 

飛んできていたうちの一本。それが蛇行するように進路を変えながら赤い光を纏い、彼の体を狙っていた。

 

 

「そんなの有りかい!?」

 

大きさ、速度からして体に当たったとして大したダメージは受け無いはず。

(でも、なんだかそれだけじゃ無さそうなんだよねぇ、彼‼)

 

勢いよく、足を上げ次の瞬間には振り下ろし地面に足を突き刺す。

そのままボールを蹴り上げるように地面を蹴り上げれば

 

起き上がった地面に硬い何かがぶつかったような音が鳴り響き――――

 

 

 

 

オールマイトがその裏をのぞき込めば、既に彼らの姿はそこには無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがNo.1は違いますねぇ。矢も見切るとかどういう目してんだよヒーローサマは」

「個性に関しては様々な予測がされているが、答えは出ていない。だが単純な脚力でも俺より確実にオールマイトの方が上だろう」

 

先ほどと同じような路地裏に隠れ辺りを警戒するロビンに対し、苦虫を噛み潰したかのような表情で自らの足を見つめる。

 

「これでは緑谷君の足を引っ張るばかりだ。・・・彼に恩を返したいのに、それすらも出来ない。俺は・・・」

 

やはり未熟だと、そう口にする彼はヒーロー殺しの一件から未だに立ち直れてはいなかった。

兄を殺されかけ、ヒーロー殺しへ殺意を抱いてしまったこと。

助けに来てくれた友人たちへ酷いセリフを吐いてしまったこと。

 

彼への借りを返したいのに、こうしてまた力不足で足を引っ張っていること。

 

 

 

「オタクさぁ、そんなに他人のことばかり考えてて楽しいわけ?」

 

不意に、辺りを窺っていた筈の彼が自分を見ていることに飯田は気付く。

翡翠色のその瞳に射抜かれながら、しかし言われた言葉が脳に届けば、自らの想いを否定された様な気持ちに頭が熱くなる。

 

「っ、兄の仇をとるためと暴走した俺を助けようとした彼に恩を抱くのは当然だろう!」

「いや・・・良いんだけどさ。オタクは何のためにここに居るのかなぁ、って気になっただけよ」

 

「それは・・・・ッ」

 

彼への恩を返すため。

なら、この戦いで恩を返したら自分はどうするのだろうか。

 

この学校へ通う以上、ヒーローへなる。

だが自分はいまヒーローを目指しているのだろうか。

 

インゲニウムを目指すと、そう即答できていた筈なのに今は――――

 

「で、何のためよ?」

「俺は・・・」

 

あの日、彼らを見て思った事は

 

「本当のヒーローになるため。・・・そのためにも、彼への借りを残したままでは進めない。彼と、対等になってその上で競い合っていきたかった」

 

(変わらないじゃないかッ。彼を免罪符に、俺はまた自分が助かる事を・・・楽になる事しか考えていなかったッ‼)

 

「俺は・・・」

 

「なるほどな。はっきり言わねぇから貸し借りの計算する変な奴かと思っちまった。借りは返さないと確かに気持ち悪いからな、存分に手伝ってくれよ」

 

表情を朗らかな物に変えた彼が、安心したかのように肩から力を抜く。

その表情の変化に驚いたのはむしろ飯田の方で

 

「いや、俺は緑谷君への借りを言い訳にこの試験を利用して罪悪感を消そうと――――」

「別の生き物に説明してるわけじゃねぇんだ、細かく言わなくても分かるっつーの。・・・要は、真っ直ぐ誰かと向き合える器用さなんて全員が持ち合わせてるわけじゃねぇんだ」

 

 

自らを迫害した村に迫る軍を追い払う理由を、自分自身にすら様々な理屈で覆い隠しながら戦い続けた名も無い弓兵のように。

 

 

「不器用なりに一個片付けたら次に進む。生きて最後になにか残れば儲けもんじゃねぇか。自分誤魔化しても良いから、いまはやりたいことやった方が良いんじゃねぇの?」

 

理想通りに生きる選択肢がなかった弓兵。

様々な理由をつけて戦い続けた真っ直ぐな捻くれ者の彼だからこそ、いくら誤魔化したところで結局は意味がない事を知っているのかもしれない。

 

「んじゃ、オレは陰から奇襲するって事で‼・・・デカい体縮めてんじゃねぇですよ。正面からぶつかって砕けてこい、ヒーローの卵さんよ‼」

 

 

どの理由も、彼の本音であり

本当のヒーローになる。その言葉もまた彼の秘める本音の一つなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトの耳に、ガチャガチャとした足音が届いた。

ゴールまでの距離はだいぶ迫っている筈なのに、逆走するようにこちらへ走るその足音に自然と嫌な予想が浮かび眉を寄せてしまう。

 

 

果たして、道路の先に見えてきたのは白いコスチュームに身を包んだ影。

(飯田少年のみ・・・緑谷少年の姿は見えない、か)

 

嫌な予想が当たってしまった、と。

そう少し落ち込みながらも、教師としてヴィラン役としての立場を忘れるつもりは無い。

今回の失敗を次に生かしてもらうためにも、正面から向かい合ってあげなければならない。

 

「飯田少年。緑谷少年の中の人は・・・・あそこだね」

 

ゴール方向へ進む様に、がれきが落ちたような音が幾つか聞こえる。

 

「君が囮で、彼がゴールする・・・そういう考え方、私はあまり好きじゃないね」

 

鋭い眼光が、飯田の体を貫く。

叱咤されている、そう感じる前に生き物として強大な力への恐怖が先に来る。

止まりかけた足を―――――強く右の拳で殴りつけ、無理やりにでも再びオールマイトへと向け駆け出す。

 

「・・・それでも、俺は彼へと借りを返すんです‼」

「それで、君がここで捕まっても良いと?それはナンセンスだよ‼」

 

「そうしなければ前に進めない‼それが俺という人間なんです!」

 

強いその言葉に、先ほどまでの彼とは違う何かを感じる。

彼の中で何か変化があったのかもしれない。

 

だが、しかし生徒の無謀な自己犠牲を認めるわけにはいかないのもまた事実。

 

 

高まる排気音。

それと共に、飯田の動きが加速していく。

 

そして、ひと際大きく力強い音が鳴り響いた瞬間――――

 

 

 

 

 

 

「っ、・・・飯田少年。確かに、君の速さは驚異的なものだった」

 

胴体へと激突する寸前で、その体を正面からオールマイトの腕が押さえつけていた。

惜しむ様に優しい声音で、俯く飯田に声をかける。

 

「一手、足りなかった。彼がまだここに居れば今の私の不意を突いて攻撃できていただろう。ヒーローは他のヒーローやサイドキックとの共闘も求められるんだ、だから――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ほいほい、呼ばれたので来ましたよっと」

 

その喉元に、不意に現れた手甲と弓が突き付けられる。

腕、胴体、足とゆっくりと姿を現し、最後に現れた顔はしてやったりという笑みを浮かべている。

〈顔のない王〉により姿を消し、飯田の背中に張り付いていた彼の姿にオールマイトは目を見開く。

 

「・・・ゴール方向から確かに音がしたんだけど。アレは君かい?」

「トラップ作りにはそれなりに自信はあるんでね。トップヒーローも嵌められるトラップを作るとか、オレも良い自慢話が出来たもんですわ」

 

 

引きつった笑いを浮かべながらも、それでもオールマイトはこの程度で止まるつもりは無い。

「さっきの威力の矢だと私の動きは止められないよ。まだ合格条件は――――」

 

 

「オレの矢は撃った相手の毒とか病気とか増幅して爆発させるんだけど・・・オタク、なんか持病とか持ってない?動きからしてその左わき腹とか・・・」

 

 

バッ、と自らの脇腹に手を当てそうになり、飯田の視線がある事に気付き動きを止める。

宙に浮かんだ手は、ふらふらとさ迷い・・・最終的に腰へと当てられる。

 

 

 

 

 

 

「じ・・・・持病の腰痛があるかなぁ」

 

 

平和の象徴を今後も続けるため、いさぎよく両手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い後ろ姿が見えた。

彼から別れを告げられ、現実へと戻るのだと思ったけど僕はどうしてここに居るのだろう。

そして、目の前にいる彼はいったい誰なのか。

見たことが無い後ろ姿だけど、僕はその背中になぜか強く胸が締め付けられるような感じがして――――

 

 

「・・・お前はあの男に憧れてヒーローを目指した。その姿に憧れ、そうなろうとして来た。その贋物の理想を目指す姿を俺はこの目で見続けていた」

 

その言葉に、胸の奥が震える。

オールマイトへの憧れが、それを目指した自分が間違っているとそう言われた気がして

 

「贋物の理想で目指すヒーロー、これを偽善と言わず何と言う。・・・お前は誰かを救いたいと、本当に思ったことがあるのか? あの平和の象徴ならばこう動くだろうという考え。誰かを救えると信じ続ける無謀な理想を動かしていることを否定は出来んだろう」

 

 

言い返したいと、そう思った。

強い否定の言葉が口から出そうになって・・・

 

気付いた。

この人はどうして、こんなにも苦しそうに僕へ言葉を投げかけるのだろうかと。

 

「その理想は破綻している。そんな夢を抱いてしか生きられぬのであれば――――――抱いたまま溺死しろ」

 

 

突き放すようなその声に、せめてなにか一言でいいから言いたい。

唐突に、後方へ体が引っ張られていくのを感じる。

現実へと帰るのだと、そう自然と理解しながら

 

 

 

「なんでっ・・・・そんなに辛そうに、そんな事を言うんですか‼」

 

知りたいと思った。

言い返すのではなく、彼の考えを聞きたいと。

 

 

一瞬の空白の間を置き、落ち着き払ったその声は

 

「・・・贋物の理想を追い求め、正義の味方を目指した者の末路を私は知っているからだよ」

 

いつまでも、僕の耳に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[期末試験―後日談―]

 

「ってな感じでやってきました!木椰区ショッピングモール‼」

手を上げて喜びを表す芦戸の隣で、八百万に腕を引かれた轟が戸惑いながらも辺りの服屋へと視線をさ迷わせる。

 

「蛙吹ッ、俺は新しい服なんて必要ねぇんだよ‼」

「ケロ。でもせっかくの買い出しなんだから見るだけ見ましょう」

 

その隣では同じように、しかしこちらは抵抗しながら蛙吹に腕を引かれる爆豪の姿があった。

 

「にしても、緑谷も大変だったよなァ。試験のあとまた気ィ失ったんだって?」

切島に背中を叩かれ、無表情ながらどこか苦笑いのような表情を浮かべる緑谷。

 

「魂の定着のために幾ばくかの猶予が必要だったらしい。案じずとも既に俺の身に不具合は無い」

 

「あー・・・もう大丈夫っつーことだよな!良かった!」

 

彼のトレードマークである帽子と黒いスーツはいつも通り着こなされており、以前との違いは表面上では特に見当たらない。

安心したように笑う切島と、普段通りの緑谷のやり取りに体調を気にしていた周囲も一安心とばかりに安堵の息をついて。

 

 

 

 

 

 

集合時間を決めた後、自然とグループは分かれていった。

芦戸にからかわれ、緑谷を気にしながらも顔を赤らめながら付いて行く轟とそれについていく八百万と耳郎。

帰ろうとする爆豪をなだめながら、普段から気になっていたのかランジェリーショップへ連行する蛙吹と麗日。

 

それぞれが目的の場所へ散らばっていき

 

「・・・本当に、無事でよかった。あの人から聞いてはいたが、まさか試験直後に倒れるとは」

 

残るのは、実は周りの動きに着いて行けなかった緑谷と彼に伝えたいことがあった飯田の2人。

 

「試験では俺が不甲斐ないばかりに彼にも、そしてお前にも迷惑をかけた・・・」

 

本来であれば自分の力で突破すべき試験であったはずなのに、と他の皆に対しても目の前の飯田にも申し訳ないと感じていた。

 

「だからといって実技が赤点という評価は妥当ではないと思うが・・・」

 

「構わん。良い課題だ、俺の糧にするだけのこと」

 

それでも止まることなく前に進もうとする姿に、飯田は口を開き・・・しかし閉じる。

かわりに、どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべて

 

「俺もようやく課題が見つかったよ。お互いに頑張ろうじゃないか!」

 

手を上げ、人ごみの中へ消えていくその背中を見送りながら緑谷はふと、未だに記憶に残っていた赤い誰かの背中を思い出す。

 

彼はいったい誰なのか、そう思考が逸れた瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――見ぃつけたぁ」

 

背後から、手が迫る。

右方向から迫るその手に対し、見てもいないのになぜか脳が警告を発する。

 

 

「・・・チート野郎が」

 

その右手を、服ごと掴む。

瞬時に動きかけた左腕も、ポケットから出る前に同じく左腕で固定してしまえば背後の襲撃者は憎々し気に言葉を発する。

 

「死柄木か」

 

あのUSJで聞いた声。

子どものような、しかし悪意に塗れたこの声を緑谷は確かに覚えていた。

その手が、イレイザーヘッドの腕を崩した瞬間も確かに憶えている。

 

「あーあ、これじゃあそんなに話す時間はないじゃないか」

 

残念そうに口にするその声に、捕まったという悲壮感は無い。

自分が捕まることなどありえない。

ただのアクシデントが起こっただけだと考えているような余裕すら窺える。

 

「まあいいか。聞きたいんだ、お前はオールマイトをどう思う?」

 

知った事かと、取り押さえようとした手が止まる。

あの後ろ姿が再び脳裏を過ぎる。

オールマイトは―――――

 

「俺の理想であり・・・原点となった一人だ」

 

それでも、自分の始まりを偽るつもりは無い。

それだけは否定したくない、と自分に言い聞かせるように口にして背後の男を取り押さえようとその腕に力を込めて

 

 

 

「あぁ・・・やっぱりそうかぁ。お前もアイツのせいで始まったんだ」

 

悪意。背筋が凍るようなそれが、背中から伝わってくる。

取り押さえている筈の腕が、痛みを無視したように強い力で動き出す。

 

「ここにいる奴らがへらへら笑ってるのも、あのゴミがへらへら笑ってるからだよなぁッ‼」

 

ここで止めなければ、何かが起きてしまう予感が緑谷にはあった。

骨を折ってでもその動きを止める。

その為に

 

 

「救えなかった人間などいなかったかのようにッ、へらへら笑ってるから―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた音が辺りに響いた。

目を見開いていた死柄木は、自分を押さえつけていた力が消えていくのを感じ視線を目の前の少年へと落とす。

 

ゆっくりと、その体が前のめりに倒れていく。

その光景に

 

「・・・・は?」

 

思わず呆けたような声が漏れる。

音を立てて倒れ伏した少年の体から、青い光が散る。

帽子は宙へ溶け、スーツは雄英の制服へとその姿を戻す。

 

 

 

倒れた少年の下からは、ゆっくりと赤い液体が広がりはじめる。

周囲でその異常事態に気付き始めた客が悲鳴を上げ始める中で、死柄木は確かな動揺を抱えながら――――背を向けて駆け出す。

 

(アイツを撃つ?誰がそんなリスクをおかして得をするんだよ。・・・一体何がッ――――)

 

 

 

 

 

その姿は、すぐに周囲の客へ紛れ込み消えていった。




小ネタ

????「え、なにここ?座ってなにソレ。死人だらけでずいぶん賑やかで狭苦しい棺桶だけど、オレちゃんどーしてそんなトコにいるの?」
????「・・・全身爛れた皮膚の男性を確認。これより消毒を開始します」
????「おぅ。良い女‼・・・でも待てよ、どーも床に置いてワンプッシュすると大量のスパイディーちゃんとかをゴミに変えてくれるアレみたいな匂いがするぜ」
????「言語中枢にも異常を確認。頭部を吹き飛ばし治療を行います」
????「ちょい待ち‼ほらこれ、オレちゃんの大好きなチミチャンガ‼これ食べてからにしてくれないと死んでもキミがトイレに入るたびにドアをノックして―――――」
????「頭部の粉砕、確認。これで汚染が広がることは無いでしょう」




????「・・・ぶえっ、チミチャンガ直接喉に放り込まれちゃった。アレ?でもこれ意外と流行るかも―――――」

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