俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

15 / 29
俺が来た

[林間合宿3]

 

『――――それでっ、轟ちゃん続きは!?ヒーロー殺しをぶっ飛ばして緑谷の奴なんて言ったの‼?』

『たしか・・・〈俺の女を踏みつけるような悪党にためらう拳は持ち合わせてねぇ〉って言ってた』

『マジか緑谷。恥ずかしいけど、やるじゃん』

『爆豪ちゃん、どうして私たちが選んだ下着つけて来てくれなかったの?』

『あぁ‼?あんなヒラヒラの飾りがついたモン着れるわけねぇだろうが‼』

『そうなの・・・。カバンの一番下に入ってたから着るのかと思ってたわ』

『なに勝手に見てんだテメェ‼』

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハァ、この壁の向こうにアヴァロンがあるんスよ」

 

峰田君の目がすごい事になってる。

 

壁に耳をつけながら息を荒くする峰田君を横目に、みんな今日一日の疲れを追い出す為に温泉につかっていた。

あの後、何だかんだと美味しいご飯をふるまってもらってすぐに温泉に放り込まれたけど、源泉のおかげかすごく体が安らいでいくのが分かる。

 

「そう・・・事故。もうこれは事故なんスよ・・・」

 

(でも、そっか・・・2人も向こうにいるんだ)

正直、バス乗り場に来るまで少し悩んでいた。

あの特徴的な服装じゃなくなった僕に、みんなが気付いてくれるのか。

 

だけど、2人は僕が声をかける前に気付いてくれた。

(今度、どうして気付いたのか聞いてみよう)

 

「峰田君やめたまえ!君のしている行為はッ・・・・む、緑谷君顔が赤いがのぼせたんじゃないか?」

 

「え、そう?言われてみると少し熱くなってきたかも」

むしろ長湯する方だけど、温泉は少し勝手がちがうのかもしれない。

 

パタパタと顔を手で扇ぎながら湯から立ち上がって、近くの石へと腰かけようとして――――

 

 

「やかましいんスよ。壁とは超えるためにある‼Plus Ultra‼」

「速っ‼」

「校訓を穢すんじゃないよ‼」

 

 

頭のモギモギを貼り付けながら、凄い勢いで壁を上る峰田君の姿が目に入った。

声をかける間もなくてっぺん近くまで登った峰田君が・・・・

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

 

恐らく、仕切りと仕切りの間の空間から飛び出してきた小さな影に、トンッと体を押されて

 

「くそガキィィィィ‼!?」

 

怨嗟の絶叫を上げながら落ちてきた。

峰田君には悪いけど、とりあえずこれで雄英の名誉は守られて良かったよ。

 

『やっぱり峰田ちゃんサイテーね』

『ありがと洸汰くーん‼』

 

女子の方から聞こえてきた声に、影・・・洸汰君が振り向けば、次の瞬間何かに驚いたかのように小さな声をあげてバランスを崩してしまう。

 

『っ、爆豪その凶器隠しなよ‼洸汰君驚いて引っ込んだじゃん』

『なんで俺がガキ相手に隠れなきゃならねぇんだよ‼』

 

(っ、まずい――――‼)

 

腰かける予定だった岩に足をつけ、ばねの様に膝をたわめれば蹴り抜くように一気に足に力を入れる。

弾けるように飛び散る水飛沫を横目に、一瞬で洸汰君まで距離を詰めれば地面にぶつかる前に何とかその体を抱きとめる。

 

「洸汰君‼?ちょ、鼻血出てるけど大丈夫!?」

 

洸汰君の様子を確認するが完全に意識を失ってしまっている。

とりあえず脈は大丈夫だけど、だれかに見てもらった方が良いかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落下の恐怖で失神しちゃっただけだね、ありがとう」

そう微笑みながら洸汰君の頭を撫でるマンダレイさんの姿に、ようやく一安心することが出来た。

 

「よっぽど慌ててくれたんだね」

 

ホッとしたと同時にもれた息に笑うマンダレイさんだけど、落ちた時には本当に焦ったのだから少しは大目に見てほしい。

 

ソファーに寝かされた洸汰君の、年相応の寝顔はかっちゃんみたいな目つきをしている普段とはちがって落ち着いたものだ。

 

『ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ』

 

だからこそ、あの言葉が気になった。

小さいころの僕は、オールマイトに憧れていて・・・それはかっちゃんも、ほかの子だってそうだった。

 

「洸汰君は・・・ヒーローに否定的なんですね。昔から、僕と他の子たちはヒーローに憧れてましたから。この歳の子がそんな風なの珍しいな、って」

 

つい、疑問に思ってしまい聞いてしまった。

マンダレイさんは少し顔を俯かせて、それから小さく頷いて

 

「そうだね。普通に育っていれば・・・この子もヒーローに憧れてたんじゃないかな」

「普通・・・?」

 

「マンダレイのいとこ、洸汰の両親ね。ヒーローだったけど殉職しちゃったんだよ」

「え・・・?」

不意に聞こえた声とその内容に、おもわず顔が強張ったのを感じた。

声の主、ピクシーボブさんは洸汰君を起こさないように気をゆっくりとドアを閉める。

その表情は昼に見た明るい物ではなく、惜しむような少し悲し気なものだった。

 

 

「2年前・・・ヴィランから市民を守ってね。ヒーローとしてはこれ以上ないほどに立派な最後だし名誉ある死だった。でも物心ついたばかりの子供にはそんなこと分からない」

 

引き継ぐように話すマンダレイさんの言葉に、いままで僕が見ていなかったヒーローの側面を知らされた。

それと同時に、こんな小さな子がヒーローを嫌ってしまった理由が分かってしまった。

 

「『僕を置いて行ってしまった』のに世間はそれを褒めたたえ続けたのさ・・・。洸汰にとってヒーローは理解できない気持ち悪い人種なんだよ」

 

この子は、両親のこともそう思うしか無くなっているのだろうか。

それはとても悲しい事で

 

僕は夢見ていた理想の一面しかまだ知らない事を、今日知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[林間合宿4]

 

阿鼻叫喚である。

透明なボールに入れられ崖を転がらせられる麗日に、両手を釜茹でされている爆豪。

硬化させた体を頑丈な尾白の尾で叩かれる切島に、限界まで糖分を摂取させられる砂藤。

 

 

合宿2日目、個性を伸ばす特訓を開始した1-Aだが、はたから見ればただの拷問にしか見えなかった。

 

その中で、小高い崖を上る特訓をしていた雨吹がなんとか天辺まで登り切っていた。

高い所から一望すればさらに分かるこの訓練の過酷さ。

上鳴によって放たれる電気がまぶしく、思わず目を背ければ――――

 

「あら・・・緑谷ちゃん?」

 

自分と同じように高い場所で座禅を組み、目を閉じた緑谷の姿が見えた。

(あれも個性を伸ばす訓練かしら?)

炎も出さなければ、あの凄い動きもしていない。カエル少女はその姿に首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(っ、・・・繋がる。でも、狙いが合わないような、そんな感じだ)

あの日、銃で撃たれた日は全く力が使えず一時は少し焦ったけど、翌日にはパイプを繋げる感覚が戻って来て、さらに翌日には以前と同じぐらいまで力が届いたような気がした。

でも、パイプを繋げようとしてもまるで彼らの居るあの場所が存在しないかのように力が空回りする感覚だけが残っていた。

 

(探すんだ。・・・僕はまだ、あの人たちにお礼だって言えてない)

 

未だ力不足だと、そう感じているから確かに力を借りたいと思ってしまう。

でもそれ以上に彼らにお礼を言いたい。

少しでも繋がって、一言伝えられるだけでも良い。

 

(僕がこうして居られるのは、あの人たちのおかげだから)

 

 

 

日が暮れるまで力を使い続けたにもかかわらず、僕はあの人たちに声を届けることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきまーす‼」」」

特訓後の晩御飯、体を動かしたわけじゃないけどパイプを伸ばすために個性を使い続けたからか普段より空腹度がもの凄い事になっていた。

 

スプーンを止める間もなく、皆で作ったカレーをひたすら口に運ぶ。

かっちゃんがけっこう料理上手だったとか、轟さんの炎で飯盒が溶けたとかいろいろあったけどとにかく美味しい。

 

「ヤオモモがっつくねー‼」

「私の個性は脂質を様々な原子に変換して創造するので、沢山蓄えるほど沢山出せるのです」

「う〇こみてぇ」

 

瀬呂君それは・・・。

 

泣き出す八百万さんと、瀬呂君を殴り飛ばす耳郎さん。

 

「ワタシの友達を泣かせたな・・・?」

 

倒れた瀬呂君へ無表情で迫る轟さんの姿に、フォローすべきかと口を開いて・・・

 

「何が個性だ・・・本当に下らん・・・‼」

 

独り言だっただろう、小さな声が聞こえた。

振り向いた時には既に声の主である小さなその背中は遠くに行ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜか暗くても異常に夜目が利くようになったため、足跡は意外なほどすんなりと見つけられた。

少し辿れば、聴覚も子供の小さな足音まで拾ってくれる。

それらを頼りに辿り着いたのは、斜面を登った先にあるせり出した岩場。

 

木々よりも高いそこは景色は良いが、先ほどまでいた賑やかさからは離れてしまい少し寂しく感じてしまう。

 

「お腹すいたよね?これ食べなよ」

「てめェ‼なぜここが・・・!」

 

足跡追ってきましたと正直に答えながら、近くのちょうどいい岩の上にカレーを置く。

 

「いいよ、いらねえよ。俺の秘密基地から出てけ」

 

一蹴だった。

チラリと、彼の背後の岩陰に視線を向ける。

ここに来るまで、鋭敏になった聴覚は何か液体が飛び散る音と硬い物が砕けるような音を拾っていた。

 

岩陰から崖下へ落ちるように流れているのは、恐らく洸汰君が個性で出した水。

 

夫婦のヒーローであり、洸汰君ぐらいの子供がいて・・・ヴィランと交戦し殉職したときいて予想はしていたけど洸汰君が出しただろう水をみて、確信した。

 

「・・・『ウォーターホース』」

「ッ、・・・マンダレイか!?」

 

呟くように口にした言葉に、洸汰君が初めてこちらに視線を合わせる。

「違うよ。・・・でも、そうじゃないかなって。・・・残念な事件だった、憶えてる」

 

そう、憶えていたはずなのに僕はヒーローの明るい面しか見ようとしていなかった。

目の前の少年のように、心を救われなかった子が居る事なんて想像もしていなかったんだ。

 

「・・・頭イカれてるよみーんな」

 

ポツリとつぶやかれた言葉。

それが、僕にはなぜかとても悲しい事のように感じられてしまった。

 

「馬鹿みたいにヒーローとかヴィランとか言って殺しあって、個性とかひけらかしてるからそうなるんだ。バーカ」

 

 

さっきまで個性を使っていたんだ、個性が嫌いなわけじゃない。

きっと、個性によって出来たヒーローとヴィラン・・・両親を殺した社会をこんなに小さな子が憎んでしまっている。

 

 

「・・・なんだよ、もう用無いんだったら出て行けよ‼」

 

『まるで救えなかった人などいなかったかのように』。

死柄木が言っていた。

オールマイトだって、きっと助けられない人は居たんだ。

直接的にも、そして・・・間接的にも。

 

全てを笑いながら助ける僕の理想はまさに夢でしかなくて、現実は目の前で悩み苦しむ子にすら慰めの言葉をかけることも出来ない。

でも、

 

「・・・僕は、2人憧れてる人が居るんだ。一人はオールマイト、笑いながら誰でも助ける僕の理想像。・・・もう一人は、ヒーローじゃないけど僕をいつも助けてくれるヒーローみたいな自称復讐鬼」

 

きっとヒーローが嫌いな洸汰君からすればとても嫌な話だろう。

でも、なにか少しでも彼が今の苦しさから吹っ切れる手助けがしたい。

 

「僕にとっての原点はあの2人で・・・この前、僕の理想は彼らの真似だなんて言われちゃって悩んだ時があってさ」

 

贋物の理想。偽善。

誰かになりたいと、そう思うから誰かを助ける。

助けたいと、無意識に体が動く時がある。でもそれとは反対に、オールマイトなら、彼ならこうしていた筈だと考えてしまう時が僕にはある。

彼が伝えたかったのはきっとそんな僕の心のブレ。

結局僕は、僕の想像した完璧な理想になろうとしてしまう。

 

 

 

「でも、いくら考えてもそれだけは否定したくないって思ったんだ。どれだけ言われても、今の僕は原点のおかげでここに居るんだから」

「それが何だって―――――」

 

 

 

「君の原点はどこ?・・・君が苦しんでるのは、嫌いな世の中と嫌いになれない原点の間に挟まれてるからじゃないのかな」

 

嫌いになりたいヒーローと、そのヒーローであった両親、そしてきっとあった両親への憧れ。

それが

 

「―――――うるせぇ‼勝手な想像で話すなっ、出てけよ‼」

 

叫ぶように放たれた言葉。

噛み締められた唇に、何も言ってあげられない自分。

 

オールマイトなら上手く伝えられたのだろうかと、やはりそう考えて後悔してしまう弱さが未だ自分の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年たちの苦悩の夜も、ヴィランにとってはただの殺戮の前夜でしかない。

ヒーロー殺しの発したあの言葉に感化され、社会の隅で蠢くだけだった闇が暗い光に誘われるように姿を現す。

 

闇夜に紛れた影は10。

強い血の臭いをまとった影達は、遠くに光るヒーローの卵たちの居場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変心苦しいが、補習連中はこれから俺と補習授業だ」

「ウソだろ‼?」

 

林間合宿3日目、訓練と夕食も終わってこれから肝試しが始まるといったところで無慈悲な言葉が補習対象者達を強く打ち付けた。

 

とっさに逃げようとする芦戸や瀬呂だが、相澤の拘束具により簡単に拘束されてしまう。

「すまんな。日中の訓練が思ったよりも疎かになっていたのでこっちを削ることにした」

「うわああああ、堪忍してくれえ‼試させてくれ‼」

 

暴れないと判断されたのか、唯一動かない緑谷は拘束はされていない。

口元に手をあて、なにか考え込んでいるようなその姿に相澤も足を止めて

 

「緑谷、早く来ないとお前も拘束するが・・・どうする?」

「あ・・・はい。今行きます‼」

 

彼にしては歯切れの悪い答えに、眉を寄せるのも当然だろう。

その表情が、誰かを気にしているような・・・心配しているようなそんなものであればヒーローであるイレイザーヘッドが気付かない訳がない。

 

だが、ついてくることに決めたのか歩き始めた緑谷。

何かを探すように彼は遠くの小高い丘を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにが原点だ。しらねえよバーカ」

俺だけの秘密基地。

マンダレイにも、誰にも教えていない一人になれる場所。

そこで、膝を抱えて座り込みながら考えるのは緑の頭の変な奴の言葉。

 

おせっかいで、急に変な事を話し始めてカレーだけ置いて行ったアイツ。

俺の何も知らないくせに、あんなこと急に言われても俺は何とも思わないんだ。

 

2人が死んじゃった時、名前も知らない人がいろんな事を言っていた。

2人は勇敢だったとか、誇らしいとか。

素晴らしい人だとか、強かっただとか。

 

知るかよ。

どれだけ勇敢で凄くても。誰がどう褒めても、・・・俺は傍に居てほしかった。

死んでも褒められるヒーローなんてあるから、2人とも死んじゃったんだ。

 

だから、ヒーローを嫌いになろうとして・・・それでもヒーローだったパパとママは嫌いになんてなれなくて。

2人に憧れた時の気持ちが消えなくて、ここで個性を使ったりしてしまう。

 

 

「・・・もう無い。みんな、アイツが壊したんだ」

 

絶対に忘れない。

テレビで何度も見たあの――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――唐突に、地響きのような揺れと爆音が大地と空気を通し、全身に響き渡った。

まるで昼間になったかのように、洸汰の眼前の森が火に飲み込まれていく。

 

「っ、なんだよこれぇ!?」

 

幼い子供には眼前の光景はすでにひどく恐ろしい物に見えたが、事態はそれだけで収まることは無かった。

 

『皆‼ヴィラン二名襲来‼他にも複数いる可能性アリ!動けるものは直ちに施設へ‼会敵しても決して交戦せず撤退を‼』

 

「なんで、・・・ヴィランなんて、ここに居るはずないのに・・・っ」

 

両親を殺したヴィランという存在は、少年にとっては何よりも憎く何よりも恐ろしい存在であった。

震える体を何とか立ち上がらせ、それでも脳に響いたマンダレイの声に従い歩き出そうとして――――――

 

 

 

 

 

 

 

「おう・・・いたいた。まぁ待て、逃げんなよ子ども」

 

「ぇ・・・ぁ・・・」

 

遥か下方。

崖の下から、巨大な影が跳躍し洸汰の眼前へ降り立つ。

黒いマントに身を包み、顔をマスクで隠したその人物に洸汰は恐怖に表情を歪めながら後退り――――

 

『洸汰、聞いてた‼?すぐ施設に戻って!私、ごめんね知らないのあなたがいつもどこへ行ってるか・・・。ごめん洸汰!助けに行けないすぐに戻って‼』

 

後悔、焦燥をにじませたその言葉を聞く余裕も今は無い。

 

「見晴らしの良いとこを探しに来てみれば、どうも資料になかった顔だな」

 

本物のヴィラン。子供であろうと、子供だからこそ伝わる目の前の人物の異常。

 

「なァところでセンスの良い帽子だな子ども。俺のこのダセェマスクと交換してくれよ」

 

目の前のコイツは、自分を同じ人間だと思っていない。

まるでおもちゃを見ているかのような、そんな空気に

 

「う、ぁ・・・・・」

 

もつれそうになる足を動かし、背を向けてただ逃げ出す。

それしか自分が生きる方法は無いと、本能的に足が動く。

 

 

だが、既にヴィランの巨体は洸汰の眼前に回り込んでいる。

 

壁を蹴り、回り込んだ男の左手には砕けたマスクの欠片。

その左腕を覆うように、赤い何かが生き物の様に生えていく。

 

その腕をしかし、少年は見てはいなかった。

マスクが外され、露となった素顔

 

 

〈ウォーターホース・・・素晴らしいヒーローたちでした。しかし二人の輝かしい人生は一人の心無い犯罪者によって断たれてしまいました〉

 

癖のついた金色の短い髪。

 

「おまえ・・・‼」

 

〈犯人は現在も逃走を続けており警察とヒーローが行方を追っています。個性は単純な増強型で非常に危険です〉

 

腕を覆いきった赤い何か。

木の幹のように太く変化したその腕を、男は眼前の少年へ振り下ろすために背後へ振りかぶる。

 

〈この顔を見かけたらすぐに110番及びヒーローに通報を。なお、現在左目に〉

 

吊り上がった右目。その対となるはずの左目があるべき場所には牙のようなペイントの義眼が押し込まれ

 

〈ウォーターホースに受けた傷が残っていると思われ――――〉

 

――――巨大な傷が左の顔面を覆っていた。

 

 

「パパ・・・‼ママッ・・・‼」

 

振り下ろされる巨腕。

圧倒的な質量と速度を前に、少年の体に待ち受けるのは死しか存在しない。

そんな中で、彼に出来たことは一つしかなかった。

いまはもう居ない、彼のヒーローへ助けを呼ぶことだけ。

 

 

当然、彼のヒーローは来ない。

その頭部へと無慈悲にも拳が振り下ろされ――――――砕けた地面と共に鮮血が舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あ?」

振り下ろした拳の感触に傷の男――――〈血狂い〉マスキュラーは首を傾げる。

血の臭いはしたが、確実に潰した感触がその手に無いのだ。

さらに、狙った位置から大きく逸らされたようなそんな違和感がある。

 

拳撃により舞い上がった砂塵。

その中に、立つ影が2つ。

小さな影と、それを庇う様に立ついくらか背は高いがガキと言ってもいい背丈。

 

「んん?・・・お前はリストに載ってたな。面白え、いま何しやがったんだよ?」

 

砂煙が晴れ、見えた姿。

緑の髪にそばかす。恐らくマスキュラーの腕をいなした左腕は、僅かに皮が裂け出血している。

 

疑問を浮かべた声を無視しながら、荒れた心臓の鼓動をなるべく抑え緑谷は必死に考える。

眼前のヴィランの力量は、洸汰を守りながら戦えるのか――――視線は洸汰へ自然と向いてしまい、自らの考えの間違いに気付き首を振る。

 

(・・・できるかどうかじゃないッ‼やるんだ‼)

 

やるんだ

 

(言え‼安心させろ!今は真似でも良いッ、今だけは‼)

 

 

「ハッ・・・・」

「あ?なんだよ、口元笑ってんぞ。頭がおかしくなったんじゃ―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――クハハハハハハハッ‼‼ もう大丈夫、俺が来た‼」

 

眼前のヴィランなどではなく、背後の少年を安心させるために。

高らかに、けたたましく笑って見せた。




ざ・とくべつるーむ
????「ちょっとこのテレビ何にも映らないじゃないのよ‼はっ、もしかしてこれが噂の地デジへの切り替えなのかしら?」
????「チデジ?貴女はたまに妙なことをいいマスね。なんでもここからあの子への接続が切れてしまったみたいで、この部屋は落ち着いてますが一部の部屋はまさに暴動状態デース」
????「はぁ?そんな人間の都合で私の娯楽を取られてたまるもんですか!いいわ、今すぐマアンナで飛んで一発打ち込んできてあげるわ。機械なんて斜めから叩けばたいてい直るのよ‼」
????「金星投げるのはまた今度ネー。これ以上暴れると過激派に袋叩きにされてしまいマース」
????「なにソレ、誰よ女神に黙ってそんな派閥作ったのは?」
????「作った人は知りまセーン。でも一番声が大きいのはあの人デス、5人に増える女の人ネ」
????「・・・あんまり関わり合いになりたくないわね。仕方ない、ちょっとだけ待っててあげるわ」
????「ちなみに私は穏健派代表デース」
????「・・・えっ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。