皆さんの感想を支えになんとか書き上げることが出来ました!
いつも感想いただけて、本当にありがたいです・・・。
決して、本当は昨日のうちに書き上げられたはずなのに、剣豪勝負に釣られたなんて事は・・・。
追記
迅速な誤字報告ありがとうございます!
そして同時に、また誤字を見過ごしてしまい申し訳ないです。
[ヴィラン襲撃5]
「くっそ・・・!」
「勝紀ちゃん、これ使って!」
片手で口を塞いでも指の隙間からガスが入って来やがる。
隣から伸びてきた手からハンカチを受け取って口に当てたら少しはマシになったが、まだ臭いはしやがる。
丸顔女・・・麗日とペアになって中間地点を越えた辺りで妙なガスが漂い始めて、妙な臭いだなんて考えてたらすぐに意識が朦朧としてきやがった。
とっさに軽い爆破で散らしはしたが、全部消し飛ばそうにも森のど真ん中なせいで大きな爆発は起こせねぇ。
「・・・麗日、重かったら言え」
「ううん。勝紀ちゃんはヴィランの警戒をお願いっ。私の個性じゃきっと一瞬遅れちゃう」
ガスでやられたのか、ここに来る途中で拾ったB組の男を麗日が個性で浮かせて運んでいる。
この襲撃、目的は分からねぇがヴィランの数は最低2人以上。
猫ヒーローのテレパスの言うように交戦中の広場は避けて施設に向かうのが今の最善か。
「・・・みんな、大丈夫かな。エド・・・デク君、個性今は調子悪いって言ってたよね?」
「知るかよ。アイツは心配するだけ損だ。・・・後ろから来る奴らはさっきのラグ・・・なんとかっつープロに任せる。俺たちが戻ってもガスにやられて足引っ張っちまう」
「なら、森を斜めに突っ切って・・・はいけない、か。暗くて全然道が分からないもん。でもこのまま進んだら、道沿いにヴィランが待ち伏せしてるかも」
「だろうな。後ろの奴が俺達の行動範囲を狭める役ってんならこの先に居るはずだぜ」
「・・・追い立てた私たちを狙うヴィラン・・・が?」
悪い予想が当たらなけりゃな。
んな事を考えながら、歩き続けて・・・・ようやくガスが無くなった辺りで一瞬、視界の先で何かが動きやがった。
屈んで・・・いや、這ってやがるのか?
それに、あの足元――――!
「おい、俺らの前・・・誰だった?」
頭までかぶった黒い服に、棘の付いたバンドを幾つも巻いた男。
「きれいだきれいだよ ダメだ仕事だ 見とれてた ああいけない・・・」
やっと見えたのか、麗日の奴が悲鳴をこらえるみてぇに口元を押さえてやがる。
「っ・・・常闇君と、障子・・・くん」
こっちの声か、それとも寄って来てたのにもともと気付いてやがったのか、立ち上がった奴の足元には小さな血だまりが広がっている。
その中に、ボンと誰かの手が落ちてやがる。
「きれいな肉面 ああもう誘惑するなよ・・・」
障子も常闇も体育祭で見た限りじゃ、簡単にやられる奴らじゃ無かったはずだ。
あいつらのどっちかがこの短時間に腕を落とされた。
「仕事しなきゃ」
振り向いた奴の口は、服から伸びたベルトで唇がめくられて歯茎が剥きだしになっている。
その見た目もだが、空気もやべぇ。
奴に背中を見せれば、すぐにでも誰かと同じように手を落とされる、そんな予感がしやがる。
「交戦すんな、だと・・・?」
んなモン、無理だろこの状況ッ!
(あのオカマッ、虎のキャットコンバットをさばき切るなんて・・・ッ。目の前のコイツだけでも面倒なのに・・・!)
広場に響き渡るのは、虎による拳撃とそれを受け止めそして打ち返されるサングラスの男の掌底の音。
プッシーキャッツの中で近接戦闘を担当する虎が有効打を未だに与えられない現状に、マンダレイは襲撃者達の技量の高さを思い知らされる。
以前聞いた、雄英襲撃とは違う悪を成して指名手配されている本物のヴィラン。
(お願い、無事でいてよッ。みんな、洸汰・・・!!)
この広場に居るのは二人だが戦闘音は遠くから未だ聞こえてくる。
そんな、守るべき学生と小さな少年の事が・・・一瞬脳裏に浮かび――――
距離をとっていた筈のトカゲのような、爬虫類染みた顔と鱗肌のヴィランがこちらへと一息に距離を詰めてくる。
「しつこっ――――――」「――――いのはお前だッ、ニセ者!」
サバイバルナイフや鉈、およそ刃物とされるものを何十本も束ねベルトで固定した様な武器を振りかぶり爬虫類男――――スピナーは跳ぶ。
マンダレイの頭上へ、その巨大な武器が振り下ろされる。
元が小型の武器の集合体とはいえ、金属の塊と考えればその重量は人一人を潰すには十分な鈍器となる。
「とっととッ、シュクセーされちまえ―――――ッ」
幾つもの刃で空気を切り裂きながら、マンダレイの頭部に迫ったソレは――――
「―――――クハハハハハハハッ!!俺を呼んだかッ!?」
「なっ!?」
銀の光を纏った影により容易く打ち砕かれる。
飛び散る刃物の群れに、マンダレイは距離をとりながらも飛来した銀光へと目をこらす。
スピナーもそれは同様であり、睨み据えるようにその瞳を向けた。
地を削り取りながら停止したその影、黒い帽子に黒のスーツ。赤いネクタイと漆黒のマントが着地の風圧で揺れる。
「君はっ・・・・無事でよかった!でも早く施設に向かいなさいッ、ここは――――」
スピナーから庇う様に間に割り込みながら叫ぶマンダレイに応えるように、その背後で青い光が弾ける。
眼前のヴィランが嫌に静かな事に不気味さを感じながら、視線のみ背後に向ける。
「マンダレイ、洸汰君は無事に相澤先生のところに送り届けました!」
スーツから、雄英の体操着に姿が変わったことに驚く間もなく、伝えられたのは心に引っかかっていた少年の無事を伝える言葉。
思わず安堵してしまいながらも、それならばなおさら背後の消耗しているはずの少年をここに居させるわけにはいかない。
「相澤先生から伝言ですッ、テレパスで伝えてください!」
イレイザーヘッドからの伝言。
その言葉に、まさかと目を見開く。
「A組B組総員――――プロヒーロー〈イレイザーヘッド〉の名に於いてッ戦闘を許可する!!」
(イレイザーっ、本気で・・・!)
学生にヴィランを鎮圧することなんて本来は出来る筈が無い。
恐怖によって鈍った思考では下手に交戦するよりも、逃げに徹する方がまだ生存率は上がるはず。
だが、現実主義のイレイザーがそれでも彼らを信じてそれを選んだのだとしたら。
彼は信じているのだろう、雄英のヒーローの卵達がこんな逆境でもヴィランと交戦する強さを持っている、と。
(・・・いいんだね、イレイザー)
マンダレイのテレパスにより生徒達へ、戦闘許可が伝えられる。
今までヒーロー志望ゆえの法に縛られていた彼らは、その言葉に確かな信頼と期待を感じとり、そしてそれぞれの想いを元に行動する。
容易く消えたスーツに、緑谷は今までとの違いを自覚する。
パイプの接続が一度切れた感覚を憶えたためか、接続の切断が可能となっていた。
(よしっ、これで戦いの幅が広がる。いままで一番の副作用だった言葉の壁も、多分これで大丈夫なはずだし)
本来であれば、力をリセットし弱体化を挟むなど敵に付け入る隙を与えてしまうだけだ。
実際、巌窟王の霊基のみ使用できていた今までの状態ではデメリットにしかならなかったはずだ。
「――――伝言ありがとッ。でも、すぐ施設に行きな!君、血だらけじゃない!」
雄英の体操着には既に固まり黒くこびり付いたものから、未だ新鮮な鮮血までこの暗さでも視認できてしまうほどの血液が付着していた。
その姿に顔をしかめるマンダレイが、今まで沈黙していたスピナーへと鋭い蹴りを放つ。
舌打ちしながら交差した両腕でそれを受け止めながら後退するスピナーへと、マンダレイと入れ替わる様に緑谷が飛び出す。
「待ちなさ――――ッ!」
青い光を纏ったその姿。
しかし、次の瞬間には黒い軽鎧にオールバック気味に流された緑髪と先ほどのスーツ姿とはまた違う姿へと変わる。
露出されたその腕を目にしたマンダレイは、傷一つないその肌に気付き自らの目を疑う。
(返り血だった?だけど、あの服の裂け方は・・・)
ヒーローとしての経験から、傷一つないその姿に強烈な違和感を覚えてしまう。
その間にも、緑谷は動きを止めることは無い。
両手に黒白の双剣――――干将・莫耶を投影しスピナーの懐へと一気に潜り込む。
「待て、ガキ!お前に手を出すつもりは・・・!」
「申し訳ないが、戦場で敵の話を聞いてあげられるほど器用ではなくてね」
庇う様に突き出された腕を右の白剣で叩くように右へ跳ね除ければ、そのまま回る様に体勢を変え。
回転により勢いを増した左の黒剣が撫でるようにスピナーの腹部を叩く。
「かッ・・・―――――!」
的確にあばら骨の僅かに下、筋に守られているとはいえ柔らかな腹部を殴打され、倒れ込む男の体を容赦なく前方へ蹴り飛ばせば、ついでとばかりに手に持っていた二振りの剣をその眼前へ放り投げる。
「少しばかり痛いかもしれないが・・・〈ガキ〉のすることだ、大目に見てくれ」
地に伏したスピナーの眼前、地面に突き刺さった二振りの剣。
その先に立つ少年の顔が、ニコリと場違いなほど穏やかに微笑んだ瞬間。
爆ぜるように、双剣から爆炎と衝撃波が膨れ上がった。
至近距離でそれを浴びたスピナーの体と意識は容易く吹き飛ばされ、未だ拳撃を打ちあっていた二人ですらその異常な爆発音に動きを一瞬止めてしまう。
「――――レイ。・・・マンダレイ、聞いているのか?」
「っ、・・・ごめんなさい、聞こえなかったわ」
流れるような動きと、破壊力、そして意外なほど容赦のない攻めに固まっていたマンダレイは緑谷の声で我に返る。
「すまないが、もう一つ共有したい情報がある。私が交戦したヴィランの話ではリストというものが有るようだ。奴らはそのリストに載っている人物を狙い行動を起こしている可能性が高い」
「っ、ならなおさら早く合流しないと。無差別な襲撃じゃないなら、狙われてる子がもし孤立していたら・・・!」
「このタイミングでの襲撃。恐らく、そのターゲットが孤立に近い状態になるのを見越した物だろう。つまり――――」
施設と、合流地点であるここに居る自分たち以外。
肝試しのために森へ入った誰かがターゲットである可能性が高い。
「ッ、やだ・・・。この子、本ト殺しといた方がイイ!」
虎と交戦していたマグネが、振り払うように虎を突き放せば緑谷へと駆け出す。
強盗、殺人未遂、そして殺人。
その間の抜けた口調に反し、凶悪ヴィランとして名を知られた彼の内心は今焦りが大半を占めていた。
(遠くで聞こえていた爆音・・・!それに簡単に情報を漏らすなんてアイツしかいないじゃないッ・・・血狂いマスキュラーをこの小さな子が!?)
マスキュラーを無傷で倒した少年と、プロヒーロー二人を相手にしなければならないこの状況を打破するためにも、一番未熟な少年を狙う。
が――――
「焦り過ぎたな、マグネ・・・」
「ッ、邪魔をしないでヨ!」
左腕を、ミシミシと骨が軋むほどの力で何者かに強く握られる。
振り向けば太い右腕でこちらの腕を掴む虎の姿。
予想だにしない速さでのスピナーの敗北、リストの存在の漏えい、そして偏り過ぎた戦力差。
予想外の事態が続く中で、冷静さを失った結果振り払った腕は虎の姿勢を崩し切るには至っていなかった。
虎は、マグネを見据えながらその遥か向こうで倒れる影に目を細める。
強襲によりマグネにより頭部を打たれ、戦場の端で未だ血を流し倒れるピクシーボブの姿に左拳を強く握りなおす。
「――――女の幸せ踏みにじろうとした罪・・・清算してもらうよ」
引き倒すように虎が左腕に力を込めるのと、苦し紛れにマグネがその腕を振りかぶったのは同時だった。
振り下ろされるマグネの腕を虎は欠片も気にしてはいない。
――――名を売ることが優先される現在、関係性の悪化や収入面などトラブルを抱えやすい複数名義のチームは減少し続けている。
そんな中で、今も多くの人々を助け続けるプッシーキャッツの強さは、他のヒーロー達と大きく異なる。
『虎ッ、首右!迎撃、角度左上に修正!』
脳内に響く声に、思わず口元が吊り上がる。
言われるままに首を傾ければ、その僅か数センチ脇をマグネの腕が通り過ぎていく。
「っ、離れなさいヨッ、このッ!」
マグネの体を羽交い締めにするように後ろから抱き着いたマンダレイが、ニヤリと笑いながら小さく頷く。
抱き着く力をそのままに、上体を反らすようにマグネの体を無理やり反らせば、当然ボディはがら空きとなってしまう。
そこへ、吸い込まれる様に虎の巨大な拳が抉り込まれる。
下から上へ、胃から―――本来であれば肋骨に守られているはずの肺めがけて進んだ拳は、マグネの肺に収められた酸素全てを追い出していく。
ぐるり、と白目をむき全身から力の抜けたその体は、マンダレイが手を放せば重力に引かれるまま地面へと倒れ伏す。
「私たちを舐めるからよ。・・・こんな奴らに構ってる暇は無いわ。虎、こいつら拘束してピクシーボブを施設まで送り届けて」
その姿からすぐに目を逸らし、マンダレイは今後について考えを巡らせる。
「事態は一刻を争うわ。テレパスの私の方がみんなと合流しやすいし、ラグドールと会えれば現状の把握も出来るはず」
肝試しの中間地点に居たラグドールの個性、〈サーチ〉によって少なくとも生徒たちの情報は分かる。
「だから、君は虎と一緒に――――」「――――僕も行きます」
これ以上生徒を危険に巻き込むわけにはいかない。
振り向いた先には、いつの間にか体操服に戻った少年が真っ直ぐにマンダレイの瞳を見つめ返していた。
「友達を助けたいのは分かるよ。・・・でも学生の君をこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないの」
「はい。僕も、きっとヒーローとして守らなきゃいけない相手がついてくるなんて言ったらそう言うと思います」
(・・・この子)
頷くその瞳は、激情に駆られているわけではない。
ただ静かに、見つめ返すその瞳に彼女の表情が変わる。
「敵の戦力も読めない今、僕が役に立てるなんて自惚れなのは分かります。でも、助けに・・・行きたいんです。みんなが今も戦っているのに、助けに行かないなんて嘘、自分にはつけないんです」
だが、それでもプロヒーローとしてマンダレイは頷くことは出来ず―――。
「良いではないか。気絶するまで殴らなきゃ止まらないタイプの馬鹿よ、ソイツは」
「虎ッ、あなた・・・なにを言って!?」
「猫の手も借りたい状況よ。我が守れない分、頼んだぞ有精卵」
ダンッ、と肩を叩かれ予想外の重さに沈み込む緑谷の姿に、納得しきれないものはあるもののマンダレイも現状の最善かと大きくため息をつき頷く。
「なら、私について来て。離れたらすぐに声をかけて――――」
「はいッ、ありがとうございます!・・・・それで、移動手段なら僕に考えが一つあるんです」
考え?と首を傾げるマンダレイの前で、やや見慣れ始めた青い光が弾ける。
先ほども見た黒いスーツ。
その上に、見たことのない赤い外套を羽織ったその姿。
オールバックに撫でつけられた緑の髪の彼が――――
「遠くを見通す力と走力には俺も自信がある。君は大人しく俺の腕の中で念話を送り続けるがいい」
「な・・・ななっ、き、み!?」
マンダレイを抱き上げる。
横抱き・・・お姫様抱っこである。
人生初の状況と、かなり近くに寄ったその横顔に思わず取り乱す。
(さっきまでと顔の画風が全然違うじゃない!)
未だ幼さの抜け切れていなかったさっきまでとは違うその横顔。
影をもった、それでいて世の理不尽を理解したかのような大人びたその顔に気を取られ――――――光を纏い始めた自分と彼の体に気付けなかったマンダレイは、急激な加速により舌を勢いよく噛んだ。
「焦子ちゃん、あなたとっても素敵。私と同じ匂いがする・・・」
「ツユちゃんなにか縛るものってある?」
「好きな人が居ますよね」
「居るよ」
「そしてその人みたくなりたいって思ってますよね。分かるんです、乙女だもん」
「そう」
「好きな人と同じになりたいよね、当然だよね 同じ物みにつけちゃったりしちゃうよね でもだんだん満足できなくなっちゃうよね その人そのものになりたくなっちゃうよね しょうがないよね」
「かもな」
「あなたの好みはどんな人? 私はボロボロで血の香りがする人大好きです だから最後はいつも切り刻むの ねぇ焦子ちゃん 楽しいねぇ」
「ッ、轟ちゃん!その子の手、なにか持ってるわ!」
「恋バナ・・・楽しいねぇ!!」
地へ押さえつけられていた少女。
その手が、注射器のような何かを背中へ乗っていた少女の左足・・・雪のような白い肌へと突き刺した。
さ・ほごしゃるーむ
????「・・・あの突撃は少しばかりリスキー過ぎる。いくら魔力による防御を纏っていたとしても、刃物の群れの中心に何かが仕組まれていたことも考えられる筈だ」
????「それほどか?・・・爆発物が隠されていようと、大した怪我には繋がらない。迅速に敵の武器を破壊したという点で、我が共犯者は良い働きをしたといえるだろうよ」
????「あの爆破を過信しすぎだ。刃を潰さなければならない以上、当然の選択肢と言えるだろう・・・!だが、意識を刈り取った事実が得られない点は悪手と評価するしかないなッ」
????「火力は十分に足りている。近くで戦闘をしていた敵と離して起きたかっただけだろうさ。そもそも倒れた敵など不意を突く事しか考えていない・・・不用意に近付くなど民兵の考える事だろう」
????「・・・女を口説く癖の悪さと霊基との関わりは立証できぬだろう」
????「・・・ああ、彼の元々の性質だろう。霊基が影響するなど私も聞いたことが無い。・・・そもそも私も女性に縁があった訳ではないのでね」